第30話 血鬼~出発~
~前回までのガットル~
なんとか折り合いをつけて、東西の勇者が和解。
協力して血鬼に挑み、遂に討伐に成功した。
「勝った!」
勇者が左手を天に突き出してガッツポーズ。
見える範囲で、増殖体は全滅させられたと思う。
「思ったより少なかったか?その分、ディオル達の方にいるかもしれない。」
カナミア達と合流して、向かった方がいいだろう。
「出ていくのが早すぎて、バカ野郎が、と思ったけど。」
カナミアとギリュウだ。近づいてきてくれた。
「僕的には、完璧な仕事をしたと思っているけど?」
「任せたのは、本体の撃破でしょう?こっち来たけど?」
「ナイスコンビネーションだったね。」
にこにこの勇者を見て、カナミアはやれやれといった表情をする。
そして、そっぽを向いて、小さな声で。
「ありがとう。」
そう言った。
勇者は俺の方を見て、にやにやしている。その肩を叩く。
「増殖体を全部倒さないといけない。まずはディオル達と合流しょう。」
「大丈夫だ。」
「ディオル!」
「アクス!」
東西勇者の言う通り、二人が現れる。
アクスの方にはカナミアとギリュウが。
ディオルの方には俺と勇者が近づいていく。
「見た感じ平気そうだけど、怪我とかない?回復魔法するよ?」
「無いから不要だ。それと、一応、粗方片付けたがどうする?」
「どうするって?」
「切りが良いから、このまま町に帰る。
もしくは、ギリギリまで残党を探して倒すか、だな。
日付は変わった。今日出発だろ。
移動時間を考えると、粘っても明け方くらいまでだが。」
勇者と顔を見合わせる。二人共、同意見だ。
「探すよ。僕はまだ元気だし。」
「ここまできて、生き残った増殖体に何かされたんじゃあ悔やみきれない。
商人や動物達には、脅威な魔物なんだ。」
「当然、私達も探すわ。少なくともこの森は、全て見る。」
長時間の戦闘、流石に落ちる集中力。でも森は広い。
総合的に考えて、東勇者チームと西勇者チームの二手に別れる事にする。
軽く休憩を挟んでから、出発だ。
回復薬を飲んでいる時だった。アクスに話しかけられる。
「なあ、ガットル。」
「随分神妙な顔じゃないか。どうした?」
「あくまで、俺の感想なんだけど…。」
顔を近づけて、小声になる。いよいよどうした?
「あいつ一人で、事態を収拾できたんじゃないかって思う。」
その視線の先にいるのは、ディオルだ。
「本体を探しだして倒す事も、増殖体も全滅させる事も、一人で。」
あの後。
本体を追ったアクスは、増殖体に包囲された。やはり、罠だったのだ。
あわやという時に、ディオルに助けられたらしい。
それからは彼と行動を共にし、多くの増殖体を容易く葬る姿を見続けたのだ。
「なあ、あいつ、何者だよ?」
アクスの表情には、恐怖があった。
「仲間だよ。俺達の。」
だから心配しなくていい。
そう伝わるように、堂々と言った。
「…そうか。」
アクスは俺の言葉を噛み締めるように目を閉じて。
もう一度、そうか、と呟いた。それで、いつものアクスに戻る。
そのまま手を振って別れて、二人と一緒に森を周る。
昔、男のレーラスに魔王討伐の仲間に誘われた、凄腕の魔法使い。
勇者やサニアと会う前の、あいつについて知っているのはそれぐらい。
(いや、もう一つあったな。)
俺と同じように、天法使いとして辛い目にあった過去がある。
その時の、怒りや恨みは今も残り続けているかもしれない。
(でも、だ。)
今は。
この旅は、きっと楽しいはずだ。俺と同じように。
だって、よく笑っている所を見かけるから。
流石に、大笑いしている所は見た事ないが。
目的を同じとする仲間。それと楽しく旅が出来るなんて、最高じゃないか。
仲間達もきっと同じ意見。
あいつを怖がったり、不審に思う事はないはずだ。
と、思っていたのだが。
「ねえ、なんかディオル、怪しくない?」
森を周り終わった俺達は、皆で町へ戻った。
もう日は出ていて、出発時間が迫っている。
詳しい報告は後にして、慌ただしく準備をしている時、クレスタに言われた。
「怪しいって?」
「何であの森に行ったのかなって思って。」
あの森とは、さっきまでいた、血鬼と戦った森だろうか?
「血鬼を倒す為だけど?」
何か、不思議な事はあっただろうか?
「ああ、何であの森にいるのが分かったのかなって思って。」
徹夜して、疲れた頭が動いていないから、だろうか?クレスタの意図が分からない。
「調べたんだよ、二人で色々。それでディオルが、あの森にいそうだって。」
「それよ。どうやって調べられたの?」
「…どうって、聞き込みとか…?」
「目撃者がいたって?その人、よく無事に帰れたわね。
しかも、騒ぎにもならない。討伐依頼も調査依頼も出ていない。」
「…。」
「西の勇者達が向かう所を見た人がいた?
結構な遅い時間に出て行ったみたいだけど?
いくら熱検索が広範囲だからって、町から森までは離れすぎよ。」
つまり、何がいいたいんだよ…?
「ごめんね。ガットル君をいじめたい訳じゃなかったのよ。
忘れて。ただ、気になっただけだから。」
そんな事を言われて、気にならない訳がない。
『ディオルは血鬼が現れる森を知っていた。』からって、何だって言うんだ?
知ってる事が不味いのか、知った過程が不味いと言っているのか。
分からない。分からないから。
本人に聞いてみた。
「なあディオル。どうして血鬼があの森にいるって分かったんだ?」
ディオルは怪訝そうな顔をした。どうして今更そんな事を?って顔。
でも、ちゃんと答えてくれる。
「今までの勇者達の向かった先を聞いて、そこから推理した。
勇者だと気づかれなくても目立つさ、あいつらは。
ガタイのいい男二人を侍らせた美女なんだから。」
そう言えば、俺達より長く滞在しているって話だったな。
「当たりをつけて進んで、森が見えたから、後は熱検索だな。
それを繰り返すつもりだったが、一発で西の勇者達を見つけられてよかった。
これでいいか?」
おかしい所は、ないと思う。
「ありがとう。もし、準備がまだなら手伝うけど?」
「もう終わった。時間のかかるレーラスかクレスタを手伝ってやれ。」
もう一度お礼を言って。クレスタに伝える為、彼女を探した。
サニアが母親とどんな会話をしたのかは知らない。
でも、いい顔をしているから、きっといい別れが出来たはずだ。
そんな彼女は、有事の際は任せろと張り切っている。
俺と勇者とディオルは馬車の中で安心して寝ていいそうだ。
「一杯だけやろう。」
勇者が見送りに来てくれたカナミアに、お酒を渡した。
残念ながら、スケジュールが押している。
語り合う時間はない。
カナミアは無言で、しかし今回は受け取ってくれた。
コップをぶつけて、東西の勇者は互いに一気飲み。
カナミアは、空のコップを勇者に押し付けて、言った。
「魔王討伐の成功を、祈ってる。」
「ありがとう。次、会う時は約束を果たそう。」
カナミアは軽く会釈して、足早に去っていった。
「照れてるんだぜ。可愛いだろ?。」
その様子を眺めていた、隣のアクスが笑う。
森を周った限り、増殖体はいなかった。
でも念のため、彼らはもう少し滞在し、調査するらしい。
だから安心して、出発できる。
「戻ったら泣いてるかもな。酒も入ったし。」
「マジか?想像できないな。」
「本来は、感情表現の豊なやつなんだよ。笑顔は可愛いんだぜ?」
「それは、是非見てみたい。」
「ばか言え。仲間の特権だよ。」
二人して笑いあう。
「会えてよかった、ガットル。君達の無事を祈る。」
「俺も、会えてよかったよ。これからの長旅、気をつけてな。」
グータッチして、別々の方向へ。
いつか、また会えると信じてる。
馬車は進む。
勇者とディオルはもう眠った。
俺は、ちょっと考え事をしていて寝れていない。
「ガットルく~ん。ごめんって。機嫌なおして~。」
クレスタに絡まれる。ちなみに報告済み。
『まあ、そうよね…。』なんて、意味深で素っ気ない態度だった。
「いや、クレスタに腹を立ててるとかじゃないから。」
「じゃあ、どうしたの?」
別に、隠したい訳でも、隠さないといけない事でもないか。
「考え事をしてたんだ。
あの血鬼。ロンブレイっていう元は英雄だったらしいんだよ。」
クレスタは黙って聞いてくれている。
「で、国から煙たがられていた。
怪しい研究もしていたらしいけど、詳しい経緯がわからない。
もしかしたら、国に命を狙われていると分かったから、研究を始めたのかもしれない。」
そうだとしたら、一番悪いのは…。
「なあ、クレスタ。英雄って、国の偉い人からしたら邪魔なのかな。」
自分達よりも、国民に人気のある存在。
「俺達が魔王を討伐して、王国に戻ったら厄介者になるのかな。」
しかもその場合、魔王よりも強い存在だ。
「状況次第では、あるかもねぇ。」
キャビンの窓の外の、空を見る。その先にあるだろう、王国を。
「王国とは交渉も控えてるし、その結果次第な気もするけど。」
クレスタに脇腹をつつかれた。
思わず変な声が出て、ずり落ちてしまう。
やめてくれよ。今、シリアスな空気だったろ?
「そうなったら、皆、商会に入ってもらうっていう選択肢もあるわよ。
次の事業に向けて、また旅をしましょうよ。」
見上げた彼女は、それはそれはいい笑顔で。
「大丈夫。英雄を一人で悩ませるなんて事、私達はさせない。」
その顔を見て、安心した。
安心したら眠くなって。
「おやすみなさい。」
「ええ、おやすみ。」
俺はそのまま、瞼を閉じた。
血鬼編終了~。
物語は、もう後半戦。




