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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第一章 勇者レーラスの魔王討伐記

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第29話 血鬼~雷矢が奔る~

~前回までのガットル~


カナミア達と合流。ギリュウは負傷している、一度町へ戻ろう。

血鬼の本体を見つけたアクスが離脱。待っているが、戻って来ない。

方針でカナミアと揉める。そこへ、勇者がやってきた。


血鬼編、山場~。

「なるほどね。状況は分かったよ。」

 

 勇者はギリュウに回復魔法ヒールを使った。

 大分、顔色がよくなったと思う。

 

「遅くなったけど、僕も協力するよ。」

 

 サニアの母親が見つかって、親子の話し合いが始まった所で、勇者はこっちに向かったらしい。

 サニアとクレスタは来ていないが、想像の通り、回復薬は持ってきてくれた。

 

 魔力薬を飲んで、魔力増強薬をポケットにしまう。

 

「ギリュウの事はありがとう。」

 

 カナミアは、一瞬だけ優しい表情になった。が、すぐにいつもの険しい顔だ。

 

「でも、あなた一人きた所で、状況がよくなるとは思えない。

 ギリュウを連れて、町に戻ってほしい。」

 

「カナミアさんは?」


 勇者が聞いた。

 他意のない、普通の疑問。

 

 それでも緊張するのは、やはり一度揉めているからか。


「本体をやる。」


「一人で?」


「そうよ。」


「ふ~ん。」


 やばいか?勇者、大丈夫か?短いやりとりが怖すぎる。


「僕は風魔法が得意でね。音で分かるんだ。今、敵は集まっているね。

 理由は分からないけど、各個撃破しまくったから、その対策かもしれない。」


 雷矢ライトニングアローは水風混合、つまりカナミアも風魔法が使えるはず。

 煽りに聞こえないだろうか?音制御ノイズコントロールは使えないのかって。


 (いや、流石に神経質になりすぎか…?)


「状況は変わったんだ。戦力分散はもう下策。

 こちらも集結する盤面だね。

 まずはディオルと合流して、アクスさんを探して、総力戦。

 ギリュウさんとアクスさんは戦えないかもしれないけど、それでも勝てるんじゃないかな?

 一体一体は強くないし。」


「勇者様、油断していい相手じゃない。あの数は脅威だ。

 囲まれて連続で溶解弾を出されたら、危険すぎる。」


 俺と勇者とディオルの三人でも十分だ。

 そんなふうに聞こえる事を言い出したから遮る。


 普段は侮辱めいた事はいわないのに。


 (いらいらしているな。勇者同士、思うところはあるんだろうが。)


 勇者も自覚があったようだ。深呼吸している。


「ごめんよ。ほら、回復薬。

 これで仲直りして、もう意地を張るのは、お互いやめようよ。」


「うるせえな。」


 静かな声だった。でもだからこそ、しっかり聞こえてしまう。


「あいつは、私が殺すんだ。そうでなきゃいけない。」


 続く言葉も、同じトーン。悲しい声だ。


「まだ、勝負がしたいの?」


 だからかもしれない。勇者の声が優しく聞こえる。


「分かってる。

 無理だと思っているんだろ?ここまで取り逃がしてきたんだから。

 そうだよ、殺したくない。だってロンブレイなんだよ?」


 ロンブレイの事は勇者にも伝えた。仲良くしていた相手だと。


「分かっているんだよ。もう魔物だってことは。

 でも、あいつは、私を見てくるんだ。記憶があるかもしれないと思ったんだ。

 調査報告は見たよ。私の魔力を見ているんだ。

 私が一度、頭を吹き飛ばしているから。

 だから警戒して、今度こそ、確実に殺す為に機を伺っているって。」


 いっそ、泣いてしまえばいいと思う。

 でも彼女は、涙を流す事はなかった。

 ただ、言葉を続ける。


「でも、でもだよ?

 いや、わかってる。私が甘かったから、こんな事にまでなって。

 アクスは死んでしまったかもしれない。これで、町にまで被害が出たら…。」


 愚痴、というより、儀式のようなものかもしれない。

 出ている答えに、辿り着く為の。


「私はアイーホルの勇者。

 期待を背負っている。だからやらなくちゃいけない。

 あの日、ロンブレイを殺したのは、私。だから、最後まで責任を取らないと。」


 もし、彼女の瞳を覗き込んだら。

 黒い何かが、ぐるぐると渦を巻いているかもしれない。


 そうやって、気持ちを押し込めて、彼女は責任を果たすのだ。


 (でも、今回はそれが正しいのかもしれない…。)

 ロンブレイは帰ってこないのだから。


「僕は勇者だ。」


 勇者が言う。


「理不尽な事だってある。

 そうだね。

 短気な所をよく怒られている僕は、理不尽に耐えられなくて、剣を抜くんだ。

 一度、めちゃくちゃ怒られた事もある。

 そんな僕と比べたら、耐えられている君は凄いと思う。」


 カナミアが、勇者を見る。そのぐるぐるの目で。


「バカにしてないよ。

 耐えて、役割を果たして、周りに当たる事もしなかった。

 聞いたよ。君は町にきてから、威張る事も、騒ぐことも、しなかった。

 住民にも仲間二人に対してもね。」


「そんな事するのは、ただのヤバい奴じゃん。やる訳がない。」


「いい事をしているんだからその分悪い事をしてもいいって考えの人もいる。

 変な爆発をしちゃう人も。

 上手く出来る能力があれば、略奪行為にいっちゃう人だっているんだよ。

 実際に、会った事がある。」


 すぐに顔は浮かばない。俺が仲間になる前の話だろうか。


「侵略者にならずに、勇者としてここに来てくれてありがとう。

 耐え続ける事がいいなんて言わない。でも、耐え続けた今の君は。」


 勇者はカナミアの顔を拭いた。暗くて分からなかったが、泥だらけだったようだ。


「かっこいい。

 そんな君の仲間になりたい。

 一緒にお酒を飲んで、耐えた先の未来を語りたい。」


 勇者は、やわらかく微笑んだ。俺のよく知る勇者の顔だ。


「僕達に、協力させてくれないかい?」


 勇者は右手を差し出した。握手を求めている。


 カナミアはその手をじっと見た。

 しばらくそのまま。勇者は、笑顔のまま待ち続ける。


「なんでもやってくれるって事でいい?」


 ぽつりと。呟くような声だった。

 頭ごなしに、突っぱねられなかったのは、初めてかもしれない。


「出来る範囲なら。」


 勇者の言葉が、心に届いたかは分からない。

 少なくとも、自分なりに整理した後のクールタイムを経て、冷静さは戻ったようだ。


「私に、考えがある。」


「了解だよ。アイーホルの勇者様。」


 出会ってから、丸一日近く経って。東西の勇者は、握手を交わした。

 



 勇者の音制御ノイズコントロールで、ディオルと連絡がついた。


 彼はアクスと合流していたらしい。

 そして大軍と交戦中との事。


 心配ないとの事なので、そのまま任せる。

 彼らが引き付けてくれているチャンスを活かすべきだ。


 なにより二人の勇者がやる気に満ちている今が、好機だろう。


「作戦はシンプル。」


 カナミアの話を聞く。


血鬼ブラッドオーガは私の魔力に敏感だから、私が囮になる。

 具体的には、皆には離れてもらって、私が一人で魔法を使う。

 それで、本体はこちらに来る。」


「確実に殺せるだけの戦力がくるね。

 何体かな、100体くらい?」


 苦笑いだ。しかも、それ以上いてもおかしくない。


「私の方は、ギリュウと何とかする。」


 ギリュウの意識は戻った。

 彼は何度も謝罪して、今度こそカナミアを守ると意気込んでいる。


「だから二人に、本体を叩いてほしい。」


「了解だよ。」


 改めて、彼女の覚悟を問うような事はしない。


「分かった。任せてくれ。」


 カナミアは深く、息を吐く。


「五分後に始めるから、配置について。」




 俺達は茂みに隠れる。

 勇者が持ってきた布を被って。


 魔力遮断効果のある布だ。魔物は魔力を探知するから。

 近づくとバレるらしいが、離れていれば、隠れられる。


「なあ、少し遠すぎないか?」


 カナミアの姿が見えないほど離れている。


「これくらいがいいよ。敵がどの方向からくるか分からないからね。

 僕達は移動しないといけないんだ。」


 空が光る。稲光に似た光だ。カナミアの雷の魔法。


「…。」


 待つしかない。

 敵が動いて、それを勇者の音制御ノイズコントロールが捕らえるまで。


 やがて。


「動いた。」


 勇者が呟く。


「ちょうど反対側だ。ギリュウさんは、ゆっくりカナミアさんに近づいて。

 ガットル、僕達は回り込むよ。」


「OK。」


 頷くギリュウを残し、俺は勇者と移動を開始する。


「ねえガットル。」


 通信機から勇者の声が聞こえる。


「どうした?」


「僕は、やっぱりカナミアに決着をつけてもらいたい。」


「…。」


「今更、作戦変更は不味いかな?」


「そうだな…。」


 ディオルならこういう判断は早そうだけど、俺はそうもいかない。

 しっかり考えてから答えないと。


 俺達の目的は全員生存、且つ、血鬼ブラッドオーガの撃破。


 しっかり見た訳ではないがカナミアの雷矢ライトニングアローは、中~遠距離の射程。

 ギリュウの実力は分からないし、本調子とも思えない。

 そして勇者の戦闘スタイル、血鬼ブラッドオーガの能力。からの俺の立ち回り。


 しっかりシミュレーションして、間違いないか確かめる。


「作戦は変えない方がいい。

 でも、そこまできっちりした作戦でもない。 

 そういう流れになったら、彼女は臨機応変に動いてくれると思う。

 俺は全力で、サポートするよ。」


 勝算はある。やろう。


「ありがとう。僕も、気合を入れるよ。」


 そして、移動中の団体さんを見つける。


 まだ早い。本体の姿を確認しないと。


「…いた。」


「どれだい?」


「あの、胸に石があって白い筋の奴。」


「OK。」


 この作戦の肝は、囮に増殖体を向かわせて、本体の守りを甘くする事。


 だから囮はできるだけ派手に戦って、こちらは本体をやれると思う数になるまで、減るのを待つ感じとなる。


 早すぎれば本体に届かず逃げられてしまうし、遅すぎれば囮がやられる可能性もある。


 タイミングの見極めが重要となる戦い。

 本来はそうなのだけど。


「僕はレーラス!14代目の王国の勇者!」


 名乗りを上げ、勇者が斬りこむ。


 すでに何体かは囮に向かっているが、明らかに早いタイミング。

 まだ、数えきれない敵がいる。


「この地に住まう人達と、遠い西国の友の為、君達を、斬る!」


 迷いなく踏み出した一歩は、地を揺らす。

 弾丸のように突っ込んで、三体の血鬼ブラッドオーガをまとめて薙ぎ払う。

 

 奇声とともに、反撃がくる。しかし、密集し過ぎた弊害が出る。


 振り上げた腕や、吐き出した溶解弾は、別の個体に当たっていく。


 (思った通り、細かい連携は取れていない。張り付くような接近戦の効果は抜群だ。)


 それでも物量というのは脅威だ。しかも、相手は捨て駒上等な増殖体。

 周囲から覆いかぶさるようにこられては、文字通り押しつぶされてしまう。


 (…きたか。)


 奇襲の動揺が回復し、勇者を包囲するように動き出す。

 おそらく、俺はあれに耐えられない。


 (だが、うちの勇者は近距離戦のエキスパートだ。)


 一蹴。勇者の剛剣が振るわれて、数体の血鬼ブラッドオーガが宙を舞い消える。


 前の町で、剣と剣をぶつけ合い、引き分け。みたいな事があった。


 そもそも勝負ではなかったが、あいつの事だ。思い切り振り下ろしただろう。腕力もあるほうだと思うし。

 でも、あの踏み込みはなかった。


 あの、身体全体を使って剣を自在に扱う戦い方こそ、勇者の強み。

 敵の動きに合わせるように、剛剣の連撃が放たれる。


 剣を持ったあいつなら、どんなに数がいても、血鬼ブラッドオーガに近接戦で遅れをとるとは思わなかった。

 素手同士ならともかく、サニアでも一度も勝てていない。


 もちろん彼女も無敵ではない。体力が低下すれば、あの動きは出来ない。


 だからあいつと模擬戦をする時は、中距離から火球ファイアーボールを投げまくって、体力を削るようにしている。それでも、勝てた事はないが。


 体の使い方が上手いから体力消費を抑えられるし、実際、体力もある。

 ましてや、今は気合も十分。


 おそらく、遠距離攻撃を続ければ倒せるかもしれない。

 うちのメンバーで出来るのはディオルだ。


 『仮に勝てたとしよう。そうするとどうなる?リベンジを果たすまで、つきまとわれる。それは、ごめんだ。』そう言って、彼は勝負をしないが。

 

 意識を戻す。

 また数体の血鬼ブラッドオーガが宙を舞い消えた。


 本体が、一歩後ろに下がる。

 流石に目の前の存在が、今の自分達では歯が立たない奴、だと分かっただろう。


 血鬼ブラッドオーガ本体は逃走する事の出来る魔物だ。

 逃走して、次に備える。それを繰り返して、ここまでになった。


 だから今回も、逃げる。

 その為に、増殖体を壁のように配置した。


 勇者の間合いなら、あいつは負けない。でも、逃げる奴を追うだけの余裕はない。

 勇者一人なら、討伐に至れない。


 だから、俺がいる。

 被っていた布を投げ捨てて、今まさに逃げようと、振り向いた奴の、退路を塞ぐように立つ。


「悪いな、ここは通せない。」


 奇声と共に、二体の増殖体が飛び掛かってくるが、火球ファイアーボールで倒す。

 散々やった、慣れたものだ。


「!?」


 本体に焦りが見える。その足元に、火球ファイアーボールを思いきり叩きつけてやった。


 本体が駆け出す。数体の増殖体を引き連れて。


 右方向は俺が塞ぎ、左方向には勇者がいる。

 

 (だから今の退路は、そっちしかないよな。)


 長い旅だったろう。きっと俺達の旅よりも。


 辛い旅だったはずだ。苦しくて、不安な夜だった事だろう。


 (戦闘中だが、今だけは。)

 想いを馳せる。いつか、遠い西の国で笑いあった、一人の英雄と、勇者達に。


 これで、報われるのだろうか?

 そうであればいいと、祈る。


 決着は、一瞬。


 雷光が奔って。

 それで、終わった。

増殖にも魔力を消費していて、だから本体は弱体化していました。

とはいえ、物量は脅威のはずで、実際、かなり追い詰められていた状況です。

それを覆すのが、勇者。という話。

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