第28話 血鬼~撤退戦~
~前回までのガットル~
西の勇者の話を聞いた。
血鬼は彼女の知り合いだった。でも倒さないといけないから、追っている。
話が終わる頃、西の勇者達が襲われて、負傷したらしい。急いで向かう。
後半戦、開始。
「カナミア!」
到着と同時に飛び降りて、アクスが叫ぶ。
辺りは丸ゴケだ。激しい戦闘だったのだろう。
一応、見える範囲に敵はいない。
そして、かろうじて無事な木の下に、二人がいた。
やばい状態なのはギリュウの方だ。カナミアが回復魔法を使っている。
「どこ行ってたの?それに、そいつ…。」
睨みつけられたので、会釈をして少し下がる。
こうなるのは分かっていた。
だから合流はせずに協力する予定だったのだが、状況は変わったのだ。
「なあ、カナミア。素直に助力を乞おう。」
アクスは、説得を始める。
「ギリュウがその様じゃあ、いよいよ無理だ。
一度町まで引いて、可能な限り助力を得て、確実に奴を仕留めるようにしないと。」
「わかったわ。」
立ち上がって振り向いたカナミアは、あっさりと聞き入れられた。
「アクス、ギリュウをお願い。ここは食い止めるわ。」
訳ではなかった。
「全員で戻ったら、町に血鬼がついてきてしまう。殿は必要でしょう。」
一理はあるんだが。
「おいおい、勇者を殿になんてさせられるか?やるなら俺だろ。」
アクスの意見も、一理あるかもしれないが。
「私じゃあ、重くてギリュウを運べないもの。他の手段はないわ。」
「横からすまない。ちょっといいか?」
仲間が大変な状況だから無理もないが、二人共、熱くなってしまっているようだ。
「まずギリュウなんだが、まだ安全とは思えない。
移動しながらカナミアには回復魔法を続けてもらいたい。」
カナミアがギリュウを見る。一瞬、泣きそうな表情になった。
「ギリュウを一人が運んで、カナミアが回復。
その状態では、索敵は厳しい。ましてや、会敵なんてしたら絶望的だ。
だからこその殿という話なんだけど。」
アクスはもちろん、カナミアも聞いてくれている。だから、続ける。
「敵の増殖能力は異常だ。もう囲まれていると思っていい。
殿は意味をなさない。
全員で、町を目指そう。」
「でもさ、ガットル。それじゃあ町が…。」
アクスが言いかけて、止める。
二人がここまで町の心配をしてくれるのは、もちろん、勇者だからというのもあるかもしれない。でも、根底は負い目だろう。自分達が倒せていれば、という。
そんな事はない。と思うが、言ったところで、だ。
「大丈夫。手はある。
町に被害を出さず、こちらの被害を抑え、血鬼を討伐する。
これは、十分可能な事だ。だから今は、撤退しよう。」
不安を与えないように、胸を張り、堂々と言い放つ。
実際、嘘ではない。
他力本願で、格好悪いが。
もう日は沈んだのだ。サニア問題は解決、もしくは解決見込みは立ったはず。
なら、少なくとも勇者はこちらに向かうはず。
あいつにも負い目はあるだろうし、書置きだって残してある。
なかなか帰らない、つまりは苦戦している。となれば、魔力回復系のアイテムも持ってきてくれるだろう。
それが無くとも、勇者が来てくれるなら、ギリュウが回復する。
あいつの回復魔法の精度は抜群だから。
自分で動けるようになれば、それだけで大分違う。
更にディオルと合流すれば、少なくとも前線の維持は問題ない。
後は俺が町まで飛んで戻り、フフゴケ商会や、退治屋やらに協力を求められれば…。
(…。)
勇者がこない可能性もある。ディオルも物量に敗れた可能性もある。
実は敵はもう町に辿り着いている可能性だってある。
「まだ希望は、ある。」
自分自身を鼓舞するように呟いて、移動を開始する。
「大分きたが、まだ町は遠いな。」
決死の撤退戦は続く。ギリュウを背負う俺に、アクスが近づいてくる。
「ガットル、そろそろ変わるぞ?」
ギリュウは重いから、アクスと交代しながら運んでいる。
ちなみに、ギリュウを担いで俺が町まで飛ぶ案もあったが、距離がある事と、襲われた時のリスクを考え実行しなかった。
「まだ、大丈夫だ。それより?」
「熱検索に反応はない。そっちの勇者さんは、まだ来てないな。」
「わかった、ありがとう。」
嫌な感じだ。ディオルも、熱検索の範囲外に行ってしまったらしいし。
「アクス!」
カナミアが叫ぶ。何度目かの襲撃だ。
「任せろ!」
アクスが、魔装具を構え突っ込む。
鎖付き鉄球を使っていたのは、昔の話。今は、似たような形状の魔装具を振り回す。
大きな違いは、重量。鉄球と違い、小さく軽い。
しかし、魔力を流す事で風船のように膨れ上がる。
その威力は、飛び掛かってきた血鬼の頭部を一撃で粉砕するほどだ。
「!?カナミア!」
粗方片付けた後、アクスが叫ぶ。
「見つけた!奴だ!」
そこにいたのは、一体の血鬼。
ぱっと見は他のと変わらない。
違いがあるとすれば、胸に石みたいのがあって、そこから隆起するように白い筋が入っている。
「あいつが、本体?」
不気味な奴だった。
他は姿を確認するなり襲い掛かってくるのに。
そいつは静かに、ただ、じっと。こちらを見ている。
まるで、観察するかのように。
「ここで倒す!後は、任せた!」
アクスが、突っ込んでいく。本体は、後ろに飛ぶように距離を離していく。
あっという間に俺の熱検索の範囲の外だ。
俺はギリュウを背負っているから、動けない。
「!…。」
罠。
魔物に知能はないはずだが、誘い込まれている気がする。
とはいえ、せっかく現れた本体を放っておくことも出来ない。
俺もカナミアもそう思い、アクスを止めなかった。
「アクスを信じよう。」
ギリュウを降ろす。三人だと移動は危険。ここでアクスを待つしかない。
「…。」
カナミアは何も言わず回復魔法を続け、俺は周囲の警戒を続けた。
しばらく経った。アクスは戻らない。
「もういいわ。」
カナミアが話しかけてきた。
「あなたは一人で町へ戻って、襲撃に備えて。」
なぜ?とか、嫌だ。とか、言うより早く、彼女は続ける。
「ギリュウはもうダメよ。アクスも、きっとやられたわ。」
立ち上がった彼女は、覚悟を決めた瞳をしている。
「私には秘策がある。それを使って、本体は刺し違えてでも倒す。
ただ、申し訳ないけど増殖体は残ると思うから、それは。」
彼女は頭を下げた。
「お願いします。」
「ダメだ。」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、こういう顔ではないだろうか。
俺が今まで見た彼女の中で、一番コミカルな表情だ。
そんなに、意外だっただろうか?
「まだ、諦めるな。」
「は?」
彼女が、だんだん怒りの表情に変わっていく。
現実を見ろ。そう言われている気がする。
「まずはここを切り抜けて、それからまた話をしよう。」
火球を投げる。それは木の上の血鬼に命中し、爆発した。
カナミアは舌打ちして、剣を抜いた。
ざっと10体。ギリュウを守りながらでも何とかなると思う。
カナミアが本体に向かって走り出さないかが心配ではあるが、それはないと信じよう。
火球を投げ、一体撃破。
カナミアの様子を見ると、彼女も一体倒していた。
バチバチと言う音と、焦げた匂い。
剣先を新たな血鬼に向けると、そこから稲妻が迸り、瞬く間に倒す。
(あれが、雷矢か!)
負けないように、こちらも、もう一体倒す。
(何か、聞こえた?)
人の声だった気がする。
熱検索を発動。確かに、人が近くにいる。
(アクスが戻ってきた?それとも、ディオル?)
いや、あの声は。
更に一体、火球で倒した俺は、別の奴に盾でタックルをかます。
そのままアサルトフローで上空に上がり、急停止。血鬼を打ち上げる。
仕上げに火球を、そいつにぶつけ、花火みたいに爆発させる。
(俺達は、ここにいるぞ!)
俺を追って木に登った奴を、すれ違いざまに斬り倒し着地。
カナミアの方も終わったようで、ギリュウも無事だ。
(五体ずつで引き分けか。別に競ってないけど。)
彼女に近づく。眉間にシワがある。怖い。
「話を再開したいんだけど、ちょっと待ってもらえるか?」
狙ったかのタイミングで茂みが揺れる。
カナミアが剣を構えたので止める。
「ああ、待って待って、味方だから。」
そんなこちらの苦労は知らず、そいつはのんきに顔だけ茂みから覗かせた。
「王国の、勇者…。」
「やあ皆、お待たせ。」
さて、まずは状況の説明をして。
今後の話をするとしようか。
戦闘能力。王国勇者パーティー内の認識。
ディオル ≧ レーラス > サニア ≧ ガットル > クレスタ
トラブル対応能力。王国勇者パーティー内の認識。
ディオル ≧ クレスタ > ガットル > レーラス ≧ サニア




