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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第一章 勇者レーラスの魔王討伐記

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第28話 血鬼~撤退戦~

~前回までのガットル~


西の勇者の話を聞いた。

血鬼は彼女の知り合いだった。でも倒さないといけないから、追っている。

話が終わる頃、西の勇者達が襲われて、負傷したらしい。急いで向かう。


後半戦、開始。

「カナミア!」


 到着と同時に飛び降りて、アクスが叫ぶ。


 辺りは丸ゴケだ。激しい戦闘だったのだろう。

 一応、見える範囲に敵はいない。


 そして、かろうじて無事な木の下に、二人がいた。


 やばい状態なのはギリュウの方だ。カナミアが回復魔法ヒールを使っている。 


「どこ行ってたの?それに、そいつ…。」


 睨みつけられたので、会釈をして少し下がる。


 こうなるのは分かっていた。

 だから合流はせずに協力する予定だったのだが、状況は変わったのだ。


「なあ、カナミア。素直に助力を乞おう。」


 アクスは、説得を始める。


「ギリュウがその様じゃあ、いよいよ無理だ。

 一度町まで引いて、可能な限り助力を得て、確実に奴を仕留めるようにしないと。」


「わかったわ。」


 立ち上がって振り向いたカナミアは、あっさりと聞き入れられた。


「アクス、ギリュウをお願い。ここは食い止めるわ。」


 訳ではなかった。


「全員で戻ったら、町に血鬼ブラッドオーガがついてきてしまう。殿は必要でしょう。」


 一理はあるんだが。


「おいおい、勇者を殿になんてさせられるか?やるなら俺だろ。」


 アクスの意見も、一理あるかもしれないが。


「私じゃあ、重くてギリュウを運べないもの。他の手段はないわ。」


「横からすまない。ちょっといいか?」


 仲間が大変な状況だから無理もないが、二人共、熱くなってしまっているようだ。


「まずギリュウなんだが、まだ安全とは思えない。

 移動しながらカナミアには回復魔法ヒールを続けてもらいたい。」


 カナミアがギリュウを見る。一瞬、泣きそうな表情になった。


「ギリュウを一人が運んで、カナミアが回復。

 その状態では、索敵は厳しい。ましてや、会敵なんてしたら絶望的だ。

 だからこその殿という話なんだけど。」


 アクスはもちろん、カナミアも聞いてくれている。だから、続ける。


「敵の増殖能力は異常だ。もう囲まれていると思っていい。

 殿は意味をなさない。

 全員で、町を目指そう。」

 

「でもさ、ガットル。それじゃあ町が…。」


 アクスが言いかけて、止める。

 二人がここまで町の心配をしてくれるのは、もちろん、勇者だからというのもあるかもしれない。でも、根底は負い目だろう。自分達が倒せていれば、という。


 そんな事はない。と思うが、言ったところで、だ。


「大丈夫。手はある。

 町に被害を出さず、こちらの被害を抑え、血鬼ブラッドオーガを討伐する。

 これは、十分可能な事だ。だから今は、撤退しよう。」


 不安を与えないように、胸を張り、堂々と言い放つ。


 実際、嘘ではない。

 他力本願で、格好悪いが。


 もう日は沈んだのだ。サニア問題は解決、もしくは解決見込みは立ったはず。

 

 なら、少なくとも勇者はこちらに向かうはず。

 あいつにも負い目はあるだろうし、書置きだって残してある。

 

 なかなか帰らない、つまりは苦戦している。となれば、魔力回復系のアイテムも持ってきてくれるだろう。


 それが無くとも、勇者が来てくれるなら、ギリュウが回復する。

 あいつの回復魔法ヒールの精度は抜群だから。

 自分で動けるようになれば、それだけで大分違う。


 更にディオルと合流すれば、少なくとも前線の維持は問題ない。


 後は俺が町まで飛んで戻り、フフゴケ商会や、退治屋やらに協力を求められれば…。


 (…。)


 勇者がこない可能性もある。ディオルも物量に敗れた可能性もある。

 実は敵はもう町に辿り着いている可能性だってある。


「まだ希望は、ある。」


 自分自身を鼓舞するように呟いて、移動を開始する。

 



「大分きたが、まだ町は遠いな。」


 決死の撤退戦は続く。ギリュウを背負う俺に、アクスが近づいてくる。


「ガットル、そろそろ変わるぞ?」


 ギリュウは重いから、アクスと交代しながら運んでいる。


 ちなみに、ギリュウを担いで俺が町まで飛ぶ案もあったが、距離がある事と、襲われた時のリスクを考え実行しなかった。


「まだ、大丈夫だ。それより?」


熱検索ヒートサーチに反応はない。そっちの勇者さんは、まだ来てないな。」


「わかった、ありがとう。」


 嫌な感じだ。ディオルも、熱検索ヒートサーチの範囲外に行ってしまったらしいし。


「アクス!」


 カナミアが叫ぶ。何度目かの襲撃だ。


「任せろ!」


 アクスが、魔装具を構え突っ込む。


 鎖付き鉄球を使っていたのは、昔の話。今は、似たような形状の魔装具を振り回す。


 大きな違いは、重量。鉄球と違い、小さく軽い。

 しかし、魔力を流す事で風船のように膨れ上がる。


 その威力は、飛び掛かってきた血鬼ブラッドオーガの頭部を一撃で粉砕するほどだ。


「!?カナミア!」


 粗方片付けた後、アクスが叫ぶ。


「見つけた!奴だ!」


 そこにいたのは、一体の血鬼ブラッドオーガ


 ぱっと見は他のと変わらない。

 違いがあるとすれば、胸に石みたいのがあって、そこから隆起するように白い筋が入っている。


「あいつが、本体?」


 不気味な奴だった。

 他は姿を確認するなり襲い掛かってくるのに。

 そいつは静かに、ただ、じっと。こちらを見ている。


 まるで、観察するかのように。

 

「ここで倒す!後は、任せた!」


 アクスが、突っ込んでいく。本体は、後ろに飛ぶように距離を離していく。

 あっという間に俺の熱検索ヒートサーチの範囲の外だ。


 俺はギリュウを背負っているから、動けない。


「!…。」


 罠。

 魔物に知能はないはずだが、誘い込まれている気がする。


 とはいえ、せっかく現れた本体を放っておくことも出来ない。

 俺もカナミアもそう思い、アクスを止めなかった。


「アクスを信じよう。」


 ギリュウを降ろす。三人だと移動は危険。ここでアクスを待つしかない。


「…。」


 カナミアは何も言わず回復魔法ヒールを続け、俺は周囲の警戒を続けた。




 しばらく経った。アクスは戻らない。


「もういいわ。」


 カナミアが話しかけてきた。


「あなたは一人で町へ戻って、襲撃に備えて。」


 なぜ?とか、嫌だ。とか、言うより早く、彼女は続ける。


「ギリュウはもうダメよ。アクスも、きっとやられたわ。」


 立ち上がった彼女は、覚悟を決めた瞳をしている。


「私には秘策がある。それを使って、本体は刺し違えてでも倒す。

 ただ、申し訳ないけど増殖体は残ると思うから、それは。」


 彼女は頭を下げた。


「お願いします。」


「ダメだ。」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、こういう顔ではないだろうか。

 俺が今まで見た彼女の中で、一番コミカルな表情だ。


 そんなに、意外だっただろうか?


「まだ、諦めるな。」


「は?」


 彼女が、だんだん怒りの表情に変わっていく。

 現実を見ろ。そう言われている気がする。


「まずはここを切り抜けて、それからまた話をしよう。」


 火球ファイアーボールを投げる。それは木の上の血鬼ブラッドオーガに命中し、爆発した。


 カナミアは舌打ちして、剣を抜いた。


 ざっと10体。ギリュウを守りながらでも何とかなると思う。

 カナミアが本体に向かって走り出さないかが心配ではあるが、それはないと信じよう。


 火球ファイアーボールを投げ、一体撃破。


 カナミアの様子を見ると、彼女も一体倒していた。

 バチバチと言う音と、焦げた匂い。

 剣先を新たな血鬼ブラッドオーガに向けると、そこから稲妻が迸り、瞬く間に倒す。


 (あれが、雷矢ライトニングアローか!)


 負けないように、こちらも、もう一体倒す。


 (何か、聞こえた?)


 人の声だった気がする。


 熱検索ヒートサーチを発動。確かに、人が近くにいる。


 (アクスが戻ってきた?それとも、ディオル?)


 いや、あの声は。


 更に一体、火球ファイアーボールで倒した俺は、別の奴に盾でタックルをかます。

 そのままアサルトフローで上空に上がり、急停止。血鬼ブラッドオーガを打ち上げる。

 仕上げに火球ファイアーボールを、そいつにぶつけ、花火みたいに爆発させる。


 (俺達は、ここにいるぞ!)


 俺を追って木に登った奴を、すれ違いざまに斬り倒し着地。


 カナミアの方も終わったようで、ギリュウも無事だ。


 (五体ずつで引き分けか。別に競ってないけど。)


 彼女に近づく。眉間にシワがある。怖い。


「話を再開したいんだけど、ちょっと待ってもらえるか?」


 狙ったかのタイミングで茂みが揺れる。


 カナミアが剣を構えたので止める。


「ああ、待って待って、味方だから。」


 そんなこちらの苦労は知らず、そいつはのんきに顔だけ茂みから覗かせた。


「王国の、勇者…。」


「やあ皆、お待たせ。」


 さて、まずは状況の説明をして。

 今後の話をするとしようか。

戦闘能力。王国勇者パーティー内の認識。

ディオル ≧ レーラス > サニア ≧ ガットル > クレスタ


トラブル対応能力。王国勇者パーティー内の認識。

ディオル ≧ クレスタ > ガットル > レーラス ≧ サニア

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