第27話 血鬼~同情~
~前回までのガットル~
血鬼の捜索を開始、遭遇、交戦、そして勝利した。
しかし倒したのは、増殖体の1体に過ぎず、20体ぐらいに囲まれた。
ディオルと合流し、一時避難。そこに、アクスが現れて…。
西の勇者達の過去の話。
日が落ちて、洞窟内は暗くなる。
俺とディオルとアクスは焚き火を囲んで座った。
「アイーホルで勇者は特別な存在だ。」
アクスはゆっくりと話始める。
「街中に勇者の銅像があるし、勇者の家の跡地っていう綺麗な公園もある。
観光の目玉は、馬鹿でかい勇者館。
歴代勇者の功績が書かれてたり、関連品の展示、関連本なんかが置いてある。
他国の勇者コーナーに、王国の三代目勇者の紹介もあるんだぜ。
住民全員、勇者が好きは分からないが、大事にはしている。
あの町に住んで、勇者の悪口を言う奴がいたら、ある意味で勇気ある者だな。
自己中の極みみたいな蛮勇だが。」
うちの勇者は喜びそうだな。
慰霊碑撤去の話でブチ切れるほど、勇者という存在に思い入れがありそうだし。
(でも、あいつの口から、アイーホルの話題が出た事はないな。)
俺と同じであんまり他国の情報に詳しくないし、存在を知らない可能性もあるか?
でも昨日、クーラン大戦の10人の勇者は知っていた。
知ってはいたが、詳しくはなかった。
興味があれば、調べたりするのではないか?クレスタやディオルに聞いてもいい。
そう考えると。
あいつの思い入れの対象は、勇者という括りではなく、王国の勇者という括りかもしれない。
「そんな感じで、町中で勇者を賛美している訳だ。
だからあの町の子供は、男女問わず一度は勇者を志す、なんて言われてもいる。
カナミアも、その一人だった。
幼馴染のギリュウと一緒に養成学校に行って、実力を伸ばした。
あいつ、あれで混合魔法が使えるんだぜ?
水風混合、必殺の雷矢だ。」
「それは、凄いな。」
本心からだ。
混合魔法を扱えるのは、こっちのパーティーだとディオルと勇者だけ。
二属性の魔法が使えるのも二人だけだ。
天法は四属性魔法じゃないし、混合魔法とは違う気がする。
「13歳の時、勇者試験を受けた彼女は、受験者16名を蹴散らして見事合格。
晴れて勇者となった。」
「試験で決まるんだ?」
「ああ。三年に一度あるんだ。勇者は原則一名だから。」
という事は、続投中か。何もなければ、あと二年は勇者。
「誰でも受けられる?」
「五年以上アイーホルに住んでないとダメだな。その間、悪い事をしているとダメ。
数年離れていて久しぶりに帰ってきました~てのもダメ。
誇り高き国の代表だから、受験資格をとる為の審査がある。」
それはそうか。
王国の勇者でありアイーホルの勇者みたいな、ワイバン大陸の勇者は無理そうだ。
「勇者になったカナミアの、主な仕事は魔物退治だ。
俺とあいつらの縁も、きっかけは魔物退治。
勇者と言っても、国公認の退治屋みたいなもんだから。
俺とカナミアとギリュウ。
国にいいようにこき使われたよ。他にも退治屋がいるだろうに、なんで勇者を向かわせるのか。敵は強くない奴ばかり。どうせ金の問題だ。俺は不満だったんだ。
でもカナミアは楽しそうだった。憧れの勇者に成れたんだから。
そんなあいつを見ていたら、別にいいかと思えたよ。」
声色で分かる。楽しい思い出だ。
仲間と一緒に魔物を倒して酒場で乾杯。活躍を称え合う。
経験がある。あれは楽しい。
そのカナミアが、あんなに拒絶するような感じになった訳だから、きっと悲しい事があったのだろう。俺の同情はすでに引けている。
「状況が変わったのは一年後。
元は同じエフスィだった国で、現同盟国のアスゴフソア。
そこと、その隣国のネクーツの関係が悪化。
あっという間に開戦だ。」
なんどか話のでる、ラコボーンの戦いか。
「俺達からみたら事故みたいだった。
どうにか収拾させたいと思ったし、だから増援の命令を素直に受けた。
アスゴフソアの英雄と言われる、ロンブレイって言うおっさんと一緒に事態の収拾に動いた。」
アスゴフソアの英雄は、どんな人でどんな事をしたのか気になったが、さっきから話の腰を折りまくっている気がして自重する。後でディオルにでも聞いてみよう。
「俺達はロンブレイと仲良くしてたなぁ。
だって英雄だぜ?カナミアが好きにならない訳がない。
故郷が好きで、だから一刻も早く戦いを終わらせないといけない。
そう言う彼の力になりたかった。
小競り合いを止めながら、解決の糸口にならないかと、情報収集やら調査もした。」
楽しそうだったアクスの雰囲気が変わる。
「その結果、俺達は知った。
この戦争は、計画的なものだった。
アスゴフソアはロンブレイを持て余していた。邪魔だったんだ。
彼は国内で人気だったから、下手に排除すると反感が凄い。
だからこそ、名誉の戦死。国を守って死んでもらう為の戦争さ。
ネクーツも乗った。他国にもロンブレイは脅威だったから。
アイーホルも、この事を知っていた。」
気分が悪い。
国の判断は実は正解だったかもしれない。大多数を守る為、やむなく個を切り捨てたのかもしれない。当時の状況は分からないから、何も言えない。
それでも、好きではない。
「真相を知った俺達は、決断しなければならなかった。
アイーホルから撤退命令を受けたし、ロンブレイは孤立していた。
最終段階さ。ロンブレイが死ねば、戦争は終わる。終戦準備も整っていた。
逆にロンブレイが生還するような事があれば、話が違うとネクーツが本格的に攻めてくるかもしれない。戦争は激化する。
迷った結果、カナミアは救援に向かった。
俺達はロンブレイを包囲するネクーツ軍に奇襲をしかけた。
それが、ラコボーン平原の南だ。」
「どう、なったんだ?」
カナミアの決断の結末は?
ロンブレイは助けだせたのか?
「俺達が暴れたら、ロンブレイも打って出てきた。
ネクーツ軍は挟撃される形になり瓦解。
今後の事を考えると頭が痛いけど、一先ずは大勝利。
…だと、思ったんだがな。」
「…。」
「ロンブレイの様子がおかしかった。
裏切られた訳だから、怒るのは分かる。
でも、それでも常軌を逸していた。
まるで別人みたいで、俺達に襲い掛かってきた。」
「なるほど。血鬼はそいつか。」
突然ディオルが口をはさんだ。
「ちょ、早いってお兄さん。
そうなんだけど、もう少しあるから、ちょっと待って。
まあ、あれだ。
ロンブレイもさ、清廉潔白という訳ではなかったんだ。
防衛の為らしいが、変な薬の開発をしてたんだ。肉体や魔力の強化薬。
そういうのも、国に睨まれた原因かもしれないな。
彼はそれを、自分に使ったんだ。」
強化薬で魔物になったという事は。
「薬は、失敗だったのか?」
「後の調べで、成功品は見つかった。
副作用が強いから、成功と言えるかは微妙らしいが。
それと、副作用が強すぎて魔物化するだろうものもあった。
分からないんだ。
間違ってそちらを使い、魔物になってしまったのか。
それとも、自らの望みで魔物になったのか。
何せ、彼の最後の言葉は、『復讐してやる!』だったから。」
「何に対しての、復讐?」
「全部だろ。
裏切った国、加担した二つの国、俺達。
俺とギリュウで何とか、半魔物になったロンブレイを取り押さえたんだ。
でも、カナミアに止めはさせなかった。
最後の言葉と共に、咆哮し完全に魔物化。
俺達二人は吹き飛ばされ、奴は逃走。というか、ネクーツ軍を追撃した。
ラコボーン平原の北までな。」
「ラコボーンの戦いは続くのか?」
「そうだとも。
ラコボーン平原の北には、ネクーツ軍の本体が陣取っていたんだ。
その魔力総量に、反応したと思われる。
完全な魔物となった彼にとって、良質な餌場に見えたのかもな。」
「全てに復讐する為に、力を蓄えて強くなる為にって事か…。」
「言うまでもないと思うが、魔物に知能はない。
復讐相手の事なんて覚えてない。
最後の願いとなった、増強の為だけに動く存在となった。
そんなのは、放置できないだろ?
俺達は、満身創痍ながら追いかけた。」
「勇者、なんだな。」
「幸いと言っていいのかは分からないが、ネクーツ軍との戦いで魔物も消耗していた。
ネクーツ軍は、簡単には魔力を渡してくれるような相手じゃなかったのさ。
漁夫の利に近かったが、今度はちゃんとカナミアが仕留めた。
ま、ご存じの通り実は仕留められていなくて、こんな事になっているんだが。」
その時のカナミアを、俺は責められない。
国に背いてまで助けたかった相手だ。
仕留めようと攻撃できただけでも、凄いと思う。
「大変だったんよ。命令違反がきいてな。
勇者剝奪の危機だった。
なんとか回避できたのは、ロンブレイを仕留めたとの、ネクーツが騒がなかったからだな。
ネクーツ軍を攻撃したが、その後ネクーツ軍を助けた形になったし。
表向きには、戦争で、密約なんてないはずだし。
軍の本体が損傷して、戦闘継続困難だったのもあるだろうしな。」
明るく言っているが、本当に大変だっただろう。
特にカナミアは。
国の黒い部分を見るはめになり、助けたかった英雄も自ら倒す事になり。
その英雄も、怪しげな研究を、人を魔物にするようなものを作っていた訳だし。
信じる正義が、壊れてしまったに違いない。
「魔物化したロンブレイの目撃情報を聞いた時は、驚いたぜ。
死んだはずじゃあ!?ってな。
手心を加えた疑いまで浮上して、再び勇者剥奪の危機だ。
追い出されるように国を出た訳さ。
それで、戦ったり逃げられたりして、ここまで来た。」
アクスがカバンから何かを取り出す。
用紙だ。何か、書かれている。
「ロンブレイの薬と一緒に、彼がなった魔物の研究もされたんだ。
形状の類似点の多さから、血鬼であると認められたが、相違点もある。
顕著なのは、魔力探知能力の高さと、再生能力と増殖能力。
これがその研究結果。
より強い魔力を求める傾向があり、今の対象は魔王だ。
奴を求めて、東を目指している。
コアを破壊しないと再生するみたいだな。
前回は頭を吹き飛ばした。
だから、胴体か、手か、まあ、全身吹き飛ばせばいいと思う。」
なるほど。
1、研究で再生能力が分かった。
2、という事は復活している?調査してみよう。
3、ほんとに復活しているじゃないか!
4、勇者達、このことを知っていて、わざとコアを壊さなかったのか?
5、違うなら、今度こそ倒してこい!
って感じか。
「魔王と戦えば、負けて消滅するかもしれない。
でも、道すがら人も動物も襲うから、放置できない。
何より、あの増殖能力。
無くはなかったんだが、あれほどになったのは、ここ最近だ。
あの数なら、町だって余裕で滅ぶ。下手したら、国も。
しかも、まだ魔王は遠いからな。
これ以上近づいたら、どんな化け物になるか想像できない。
それに、無いとは思うが、もし、魔王を取り込む事に成功でもしたら。
ただただ命を奪い続ける化け物の誕生さ。
終わりだよ、ネクーツも、アスゴフソアも、アイーホルも。
通り道にある町や国も、全部。図らずとも、復讐達成となるわけだ。」
もしもそうなったら、最後には二大陸の、世界の終わり、か。
ディオルを見る。『もういいよな、報酬の事は。』そんな目で。
彼は、やれやれと言った感じだが、頷いてくれる。
「俺の話は以上だ。
長々と悪かったな。
…それで、俺のお願いなんだが。」
「もちろん構わない。協力しよう。
勝利も手柄も、そっちのものでいい。」
それで、彼女の気が少しでも晴れるなら。
「ありがとう。」
アクスは、また深々と頭を下げた。
「おい。」
ディオルが立ち上がっている。
「不味いんじゃないか?」
何が、と聞くより早く。
「マジか!?」
アクスが叫んだ。
「カナミアか、ギリュウがやられた!熱源が、弱く…。」
「飛ぶ!掴まってくれ!」
アサルトフローを構える。大丈夫、魔力は回復している。
「先に行け。後から行く。」
ディオルは森を睨んでいる。
あれだけ倒したのに、もう次がくるのか。
「わかった!」
アクスが腰に手を回した。
「あっちだ!頼む!」
「了解!」
闇夜を切り裂くように、アサルトフローの残火が伸びる。
アクスの話は主観が入っていますが、本人は盛っているつもりはないです。
理由を並べていますが、単純に聞いてもらいたかっただけな所が強いから。




