第25話 血鬼~ままならない~
~前回までのガットル~
勇者と西の勇者はギスギスだ。
売り言葉に買い言葉で、どちらが先に血鬼を倒すか勝負する事に。
危険な魔物を放置できないから、倒せるのであれば、いいけどさ。
その話をした、酒場からの帰り道。
店を出て、星空の下、宿屋へ戻る。その最中。
「普通に負ける可能性はあるだろう。こっちは、名前しか知らないんだぞ?」
「だからさ。今から情報を集めようって話をしているんだよ。」
「却下だ。とりあえず、今日は休んで明日にそなえろ。」
「もう戦いは始まっているんだよ?きっと彼女達は、もう討伐に向かってる。」
「それで倒せるなら何の問題もない。
東西の勇者の共通目的は、血鬼の討伐。
勝負は俺達が介入する為の建前だ。
思い出せ、お前はそのつもりで話し出したはずだ。」
「でも、あんな態度をとられたら、勝負に勝ちたいじゃないか!?」
「それはお前の交渉が未熟だった所為だ。
勝利などくれてやれ。敗北時のデメリットは全くない。」
「…彼女達が、魔王に戦いを挑んでしまう。」
「願ってもない事じゃないか。
あいつらの戦いを観察して、魔王への対策を講じればいい。」
「ディオル、それは出来ないよ。イラッとしたし、ぎゃふんと言わせたい。
でも、彼女達に死んでほしいなんて思わない。」
「大丈夫だろ。戦う事になんてならない。
西の勇者がレーグの魔王と戦うメリットがなさすぎる。
例え、討伐が成せたとしても何もないんだ。
きっと仲間が止める。」
「二人共、西の勇者達だとレーグの魔王を倒せないって認識は一緒なんだな。」
二人が同時に振り向いて俺を見た。
いるんだから、会話に参加してもいいだろ。
「ラコボーンの戦いで戦果を挙げる事。
血鬼を追い詰めて討伐する事。
レーグの魔王を討伐する事。
これらに必要な能力は、全て違う。」
ディオルが、解説モードになった。
なんか、悪いな。
「レーグの魔王の討伐に必要なのは、力。戦闘能力だ。
強力な武具、鍛えた技、膨大な魔力、そして魔法。
西の勇者達は、フル装備じゃなかったが、一部武装していただろ。
遠目だったが、王国の物と比べると劣る物だ。」
全然気にしなかった。なるほど、そういう所で情報は拾うんだな。
「ガットルにも少なからず覚えがあるはずだ。
魔力制御が上手くなると、目の前にいる相手の魔力量が分かってくる。
達人になるとな、魔法使いとしてのレベルも分かるようになるんだ。」
「ディオルは達人だから、西の勇者達の強さが分かったって事?」
ディオルは軽く笑って、続ける。
「13代目の勇者でも倒せなかった魔王が、西の勇者達に敗れるとは思えない。」
「…強かったのか?13代目の勇者は?」
「強かった。他の勇者は伝聞でしか知らないが、歴代最強は奴だ。」
「僕の方が強いよ。」
ぼそっと、呟くような声が聞こえた。
「二人共、その勇者の知り合いなのか?」
「まあ、少し…。」
いい思い出ではないのかもしれない。さっきから、勇者の声が小さい。
「俺は遠目に見ただけだが、それでも分かるほどの実力者だった。
実際、嘘みたいな話も残っている。
100人斬りだとか、山を斬ったとか。」
はは。嘘だろ?流石に。
「その彼でも、魔王討伐は成功していない。
魔王の腕を切り落とした所で力尽きた、と俺は聞いたな。
ただ、これは諸説ある。
そもそも魔王の元まで辿り着けなかった、というのもあるな。
根拠は、遺体が故郷に戻ったから。
魔王との戦いに敗れたなら、ありえないという訳だ。
奴に仲間はいなかったから。
俺は、奴の実力なら魔王の元まで行ったと思うがな。
遺体が偽物説を推している。
とはいえ、真相は闇の中。
一人旅の悪い所は、目撃者がいない事だ。」
それで、会話は途切れた。
俺は13代目の話に思いをはせていたし、14代目はちょっと気落ちした様子だ。
だからこのまま少し歩いて。
「最初はさ。」
勇者が話始めた。
「ただ喋ってみたかっただけだったんだ。他の勇者と。」
ディオルに、西の勇者がこの町にいると聞いた時か。
「僕が勇者だと知っていて、だからこそ彼女は不機嫌だった。
王国の勇者が嫌いだったんだ。
だから、何でかな?って思って。
アイーホルの勇者はどういう存在なのか、知りたくなった。」
アクスに真っ先に聞いたな。
「そしたら、皆の憧れだっていうじゃないか。
いいじゃないか。僕まで嬉しくなったよ。
でも、とてもそうは見えなくて。だから聞いたんだ。」
追求してたもんな。
「反論してほしかったんだ。
実はこれこれこういう理由があって、実際はこうで。
だから、今でも人気があるんだよって言ってほしかったんだ。
でも、悲しい理由だった。
多くの人はもう興味もないんだ。」
「一部には今でも大人気だって言っていた。なら、それは凄い事だと思うよ。」
彼女にとってはそうじゃない、という話なのは分かっていたけど。
言いたかった。悲しそうに喋るから。
「僕達が、この後魔王を倒して。
王国が盛大に祝ってくれたとして。
でも200年も経てば、人々の関心はそこにはない。
寂しいな、と思ったんだよ。」
そういうので、いいじゃないか。
魔王打倒は偉業であり、王国は利益を得るだろう。
救われる人もちゃんといる。
でも、不利益が出たり、不幸になる人もいる。ニージュ商会のように。
魔王はその筆頭だ。意思があるかは分からないが。
薄れるのは、悪い事ばかりじゃない。
残り続ける傷なんて、いい事だと思わない。
ましてや俺達が死んだ、数百年単位だなんて。
(俺だって、果たした功績なら、ずっと覚えていてほしいと思わない事もない。
勇者の気持ちも分かる。
そしてこれは、今すぐ整理しないといけない気持ちではないはずだ。
魔王と戦うまでは、まだあるはずだし、いっぱい寝て、いっぱい食べて…。)
「永遠に残る物なんてないし、問題もない。」
ディオル?
「目的がずれているぞ。
勇者レーラスが魔王を打倒した。
この一文を歴史の教科書に載せるのがお前の目的のはずだ。
それを見た奴の感想は考慮していない。
好きな奴は好きだし、興味のない奴はない。」
疑問が浮かんだ。
歴史に名を残したい。それが目的なのは聞いた。
なぜ残したいのかは、知らない。
『いつか話すよ』と言われたが、まだ聞いていないから。
それでもなんとなく、覚えていてもらいたいから。そういう感じだと思っていた。
だとすると、一文を歴史の教科書に載せるだけで、よいのだろうか?
「…そうだった。」
だから、疑問が深まる。
「何で僕は寂しいと思ったんだろう?」
本当に分からない。そんなふうに、呟いた。
「それは、」
旅をして、仲間の事は詳しくなったと思ってる。
でも、まだ知らない事は多いようで。
(あたり前か。まだ、数か月しか一緒にいない。)
それでもこれは、間違っていない。
「俺達との旅が、楽しかったからだろ?」
それがずっと続かないのは、寂しい。
「ガットル。」
勇者は。
「それだよ。」
笑う。
「そうか、僕は欲張りだなあ。」
疑問が解けて、スッキリしたとでもいうかのように。
(俺の疑問は、残ったままなんだが。)
いつか、話してくれるそうだから、待つけどさ。
「魔王を倒して王国に名を残しても、その王国がすぐ滅んだら嫌だ。
フフゴケ商会は、王国の発展に協力してくれるんだよね?」
「それはそうだ。本拠地を捨てて他国進出なんてしない。
王国と一緒に大きくなる予定だよ。」
「よかった。本当に、フフゴケ商会に出会えて。
ありがとね、ディオル。」
「そもそも繋がりがあったのはサニアだ。親身になってくれたのはクレスタ。
俺は大した事はしていない。」
「またまた~。いい仲間達をもったよ僕は。
ガットルも、いつも助けてくれてありがとう。」
近づいてきて、見上げるように。笑顔で言ってくれる。
他の人には男に見えるってマジ?
「とんでもござあません。」
動揺して、変になった。ふざけたつもりはない。
いや、照れて、ふざけたのか?どうなんだ、俺は?
「さあ二人共、明日は強敵の討伐だ。
ゆっくり休んで、備えようじゃないか!」
最終的に、ご機嫌になったようでなにより。
明日の事は、明日考えよう。
そうして迎えた翌日。
「サニアのお母さんがいなくなった!
事件性はないと思う。書置きがあったんだ。
娘に会うのが怖くて逃げたんだ!」
寝起きのぼんやりした頭の俺は、バタバタしながら説明してくれる勇者を眺める。
「クレスタは商会総出で探してくれている。
ごめん、僕はサニアを追わないと。勝負は君達二人に託したよ!」
扉を勢いよく開けた勇者と目が合った。
「勝利を、信じてる!」
サムズアップして、勇者は去っていった。
ゆっくり起き上がり、とりあえずコーヒーを淹れた。
「ままならないな。」
ディオルも隣でコーヒーを飲んだ。
「本日は、よろしくお願いします。」
こうして、血鬼討伐は始まった。
裏で色々起きてますが、ガットル視点で続きます。




