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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第一章 勇者レーラスの魔王討伐記

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第24話 血鬼~酒場で喧嘩~

~前回までのガットル~


え、西の勇者が酒場にいる?興味があるな、そこへ行こう。

オシャレな酒場だ。そしてあれが西の勇者、同い年の女の子か。

おいおい勇者様、一人で行くのは無謀じゃないか?俺もいくぜ。


タイトル、ネタバレ。

「やあ、美しいお嬢さん。調子はどう?ご一緒しても、いいかな?」


 向かいに座る二人の男が、勇者を睨む。

 当然の反応だ。寧ろ、よく殴らなかった。見た目で判断してすまない。


「王国の勇者が何か用?」


 一瞥すらせずに、カナミアは言った。

 仲間二人は、勇者という単語に、ギョっとした様子。


「知ってくれてるなんて光栄だね。アイーホルの勇者、カナミアさん。」


 勇者がグラスを傾ける。氷がカランと音を立てる。


「何、少しお話したいなと思っただけだよ。気軽に行き来できる距離じゃないんだ。

 またとない機会、お互い有意義に過ごそうじゃないか。」


「私はあなたに、興味がない。」


 再びカランと氷が鳴る。そしてこちらを向いた勇者と目があった。


 首を振る。そっちはダメだ、諦めよう。取り付く島もない。


「王国の勇者の仲間のガットルだ。

 アクスさんだよな?鎖付き鉄球の。

 武勇伝に興味があるんだ。一杯奢るから、話を聞かせてくれよ?」


「そうなのか。奢ってくれるなんて嬉しいじゃないか~。

 すまん、ちょっと行ってくる。」


「やったぜ。

 勇者様~こっちにきてくれ~。

 奢るって言ったけど、金持ってないんだ~。」


「全く、何をやっているんだいガットル。カナミアさん、ごめんね。」


 勇者とカナミアのやり取りを見て、アクスは表情が引きつっていた。

 苦労人ポジはこっちだと思い、話を振ったら乗ってくれた。


「うちの勇者が済まなかった。今日は一段と機嫌が悪くてな。」


「こちらこそだ。いや助かったよ。お陰で角が立たずに済む。」


 小声でやり取りをしつつ、少し離れた席に三人で座る。

 空いていてよかった。


「…。」


 勇者は笑顔だが、表情が固い。

 軽傷で済んだとは思うが、勇者の自尊心は傷ついてしまった。


 アクスの話を聞いて、気がまぎれればいいが。


「何でも聞いてくれ。俺に答えられる事なら、何でも答える。」


「僕の知識だと、勇者は魔王を討伐する為、国に認められた存在。

 魔王討伐の旅の途中、勇者の行う事は国の意思。

 勇者を攻撃する者は、国を攻撃するも同義。

 故に、責任は重く、信頼は厚い。

 王国の勇者は、そういう存在なんだ。」


 勇者が前勇者の仇を討った話を聞いた事がある。

 勇者同士の絆もあるかもしれないが、国賊だから討ったという側面が強いかもしれない。


「アイーホルの勇者は、どういう存在なの?」


 打倒する魔王がいないよね?そんな言葉が続きそうだった。

 自覚の有無は分からないが、棘はある。


「最大の栄誉として国から贈られる称号。戦士達の目標。

 それが、アイーホルの勇者だ。」


「どうしてそういう存在になったの?」


 アクスの語る勇者像は、なんとなく俺のイメージと同じである。


 そういうもの、な気がするが、勇者は食いついている。


 (そうか。彼女の目的は歴史に名を刻むこと。

 魔王討伐後に王国との交渉があるから、参考にしたいのか。他国の勇者の事情を。)


「歴史かぁ~。

 ちょっと待ってくれ。思い出す、そんで、まとめる。」


 誠実な人だ。宣言通り、疑問を挟まず答えてくれる。


「ゆっくりでいいし、好きなだけ食べてくれ。お金はちゃんとある。

 勇者も、何か頼んでいい。」


 メニュー表を広げる。注文し終わると、話が再開された。


「ありがとさん。

 200年くらい昔さ、ワイバン大陸の西側にも魔王がいたんだよ。

 そん時の勇者は、たぶん、王国と同じ感じだったと思う。

 魔王がいなくなって、でも勇者は残った。

 なぜか?

 語り継がれる伝説は、憧れの的だったんだ。

 大人気だったんだよ。

 勇者の廃止は、大きな反感を買うとされた。」


「でも、今はそんな勢いはない。

 パーレは貿易が盛んな所。情報だって飛び交っている。

 なのに、数日ここにいる僕らは、あなた達の存在に気づかなかった。

 しかも、たった三人でこんな東まで。扱いがいいとは思えない。」


「勇者様。」


 流石に失礼かと思い、口を挟む。

 幸いアクスは、気分を害したふうではないが。


「時の流れだな。

 全盛期が200年前だろ。

 ワイバン大陸の西側には、新しい魔王も現れないし。

 根無し草で放浪している魔王が、たま~に近くまでくるらしいが、見た事ないし。

 人気は落ちる一方なのさ。」


 彼は運ばれてきた酒を一気に飲んだ。

 やはり、くやしい気持ちがあるのだろう。


「魔王とやり合っていた頃はエフスィっていう一つの国だったらしいが、今は6つの国に別れちまった。

 数年前にヨダーシルに領土で抜かれて、アイーホルは世界一小さい国さ。

 そんな所の勇者の、他国の評判がいい訳ないだろ?

 というより、知名度がなさすぎて評価もされない。

 って、王国の勇者様?なんて顔をしているんだ。」


 盛者必衰は理解していても、認めたくない。そんな顔。


「そんな顔するなよ。アイーホル国内じゃ、人気あるんだぜ?

 アイーホル自体、勇者のファンが集まって出来たような国だからな。」


「もしかして、血鬼ブラッドオーガを追いかけているのは、勇者の地位向上の為だったりするのか?」


 あるいは、信じてくれている自国の民の。


「ん?ああ、そうだ。勇者の為に倒さないといけない。」


 うちの勇者の様子を見る。たぶん、考えている事は同じはずだ。


「俺達は魔王討伐の旅の途中で、明後日にはここを発つ。

 一日しかないから、どこまで役に立てるか分からないけど、協力させてくれないか?

 同じ勇者一行だし、他人事とは思えない。」


「必要ないわ。」


 大きくはないが、はっきりと聞こえた。


 西の勇者、カナミアが、そこに立っている。


「アクス。もういいでしょう。帰るわよ。」


 彼女は、俺達とは目を合わせず、それだけ言うと踵を返そうとして。


「勝算は?」


 勇者に呼び止められた。


「は?」


 カナミアが初めて勇者を見た。


「今度は倒せるのかって聞いたんだよ。」


「関係ないでしょう、あんた達に。」


「あるよ。」


 勇者が立ち上がり、彼女の前に。

 残念ながら身長は負けている。ではなく。


 一触即発のような空気が流れる。


 勇者に限ってとは思うが、いつでも止めに入る用意はする。

 アクスも、同じような感じだ。


「僕は勇者だ。危険な魔物を放置できない。」


 だから俺が協力を提案し、でも断られた。

 雰囲気は悪いが、交渉継続中、なのだと思う。


「倒せるなら、それでいいんだよ。

 でも無理そうなら、僕らを利用しなよ。」

 

 勇者が力を抜いた。空気が若干緩む。


「こうみえて、僕らはちゃんと強いよ。

 ドラゴンだって倒した事がある。

 その戦力を上手く使って、君が止めを刺せばいい。

 君達は目的を果たせて、僕達は安心して旅を続ける。

 Win-Winの関係になれると思うんだけど?」


「いらない。」


 即答で断られた。交渉する気がないようだ。


 交渉を続けるなら、彼女の譲れないものを知る必要があるだろう。

 そしてそれは、今、本人から聞き出す事は無理だ。


 (ここは一度退いて、アクスから彼女について聞いてからのほうがいい。)


 時間があれば、打つ手は色々ありそうだし、保険だって用意できそうだ。


 ただ、すでに一日延ばしてもらっている。

 これ以上は厳しいだろうし、何より、魔王討伐が遅れていくだけだ。


「なら、仕方ないね。」


 勇者が言う。


「僕らは独自に血鬼ブラッドオーガの討伐を目指すよ。」


「は?」


 再び空気が、張り詰める。


「言っただろ?放置は出来ないんだ。

 どちらが先に倒せるか、勝負しようよ。」


「落ち着け。」

「まあ、まあ、まあ。」


 俺とアクスが間に入った。

 挑発も、時には交渉の手札になるかもしれないが、この状況で火に油は怖すぎる。


「いいわ、その勝負受ける。」


 (まじか。)


「ドラゴンを倒すなんて凄いのね。

 絵本に出てくる英雄みたい。

 こっちには、そんな綺麗な英雄譚は何一つない。」


 確かに、殺気を感じた。


「侮るな。」


 今までで、一番冷たい瞳だ。


「私達は、あの戦いを。

 血の川を踏みしめて、ここまで来た。」


 ラコボーンの戦いは、人同士の戦争だ。

 甚大な被害を与えたという事は、人を沢山殺したという事だ。

 当時、14歳の少女が。


 ディオルは分からないが、少なくとも、俺と勇者とサニアとクレスタは。

 人と戦う事はあっても、人を殺したりはしなかった。

 殺さずに済ませる事の出来る戦いだった。


 魔物とは、負ければ命を落とす戦いを沢山した。

 でも魔物に命はないから。


 人と人との命の奪い合いには、何も言えない。


 (綺麗な英雄譚…か。)


「勝負内容の確認よ。

 血鬼を先に殺した方が勝ち。という事でいいわね。」


「いいよ。」


「行くわよ、アクス。」


 アクスは彼女についていく。


 すれ違いざま、彼は目をつぶり、右手を額の前にして頭を下げる。

 (すまん。)

 (こちらこそだ。)

 俺も頭を下げた。


「そうそう。」


 カナミアが足をとめ、振り返った。


「私達が勝って、どちらが上かをはっきりさせたら、レーグの魔王も私達が倒してあげる。感謝してね。」


 その捨て台詞を最後に、西の勇者一行は店から出て行った。


 (なんてこった。丸く収めたかったのに、ギザギザのとげボールになってしまった。)


 勇者は追加注文した、あげポテトを頬張っている。

 腹が立っていたのだろう、やけ食いだ。


 (明日は三人で、血鬼ブラッドオーガの討伐か。)


 情報共有の為、さっきからこちらを見ようとしないディオルの元へ近づいていく。


先に魔物を倒した方の勝ち。


勝ったら何かある、というものはありません。

プライドの戦い。

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