第22話 金欠~黒陽剣~
~前回までのガットル~
悪者を追いかけて~
戦って~
勝った!!
「おかえりガットル君。操縦うまいじゃない。」
「説明が上手だったからな。お陰で何とかなった。」
奪った脱出艇をぶつけるように接岸。俺はクレスタとハイタッチ。
気絶したエインディーも縛り上げる。
「遠くまで届く通信機で助かった。
勇者も欲しいって言ってたし、どうだろう?
いい商品あるか?大きくても構わない。」
「そうねえ…。」
クレスタはエインディー達が持っていた通信機を、眺めながら言う。
「これ、ヨダーシル製なのよ。
中継地点なしであの距離の通信が可能、しかも手で持てるサイズ。
残念だけど、うちには、これ以上の物はない。
いくら大きくてもいいと言っても、タンスくらいの大きさじゃ嫌でしょう?」
「確かに。持ち運べないと嫌だな。」
「同種の物の取り寄せは出来ると思う。
けど時間はかかるから、最悪、間に合わない。」
「ないならいいさ。俺達はフフゴケ商会の商品を使って、魔王を討伐するんだから。
あれば便利だけど、必須じゃない。
今回はレアケースだったんだ。普段の戦闘中は、これの方がよっぽどいい。」
首元の通信機を見せる。お世辞ではなく、利用者の本音だ。
「これは、こいつらと一緒に軍に渡そう。」
クレスタの持っている通信機を取り上げる。
俺の持っていた物と併せて、二人の近くに置いた。
「それで、これからどうするんだ?来た道は崩落で通れないだろ?」
「軍の船が来てくれるから、待っていればいいわ。」
「マジ?」
「ほらこれ、発信機。もしもの時はって、サニアちゃんに頼んであるのよ。
海が近い場合は、船で来てねって。」
「へ~。」
クレスタが適当な所に腰を下ろしたから、俺も座る。
「軍はマークしてたみたい。
手配書はあぶり出す作戦の一環で、私達が動かなくても、どうにか出来たと思う。」
「それでも張り切ったのは?」
「サニアちゃんが頑張ってくれたのと、うちの勇者様がコケにされたからね。」
やっぱりクレスタは、俺の思った通りの人だった。
「クレスタのシナリオ通りの結果になった?」
「買い被りよ、私はシナリオなんて書いてない。
ずっとライブ感で動いてたわ。その時、言った事が全て。
遅い時間だったから、軍に確認するのは日が登ってからにしようと思ったし。
確認前だから慎重だったし。腹が立ったから、ガットル君と追いかけたし。」
「逃げられそうだから、船を爆破した?」
「私の切り札、その名も、火桜。
ガットル君なら何とか出来ると思って、迷わず撃ったわ。」
(事前に言ってくれればと思わなくもないけど、そんな時間はなかったか。)
ゴソっと音が聞こえて、振り向く。
ダーシンが寝返りを打ったようだ。
「何でこいつら、詐欺なんてやったんだろうな。」
仕方のない事を、聞いてしまった。
波音が、あまりに静かだったから。
「聞いてみる?起こす?」
意地悪な顔で聞いてくれる。
「やめとくよ。許す事も、同情も、共感も出来ない。」
「そうね~。早く魔王を倒さないとね。」
「…。」
俺達に出来る事はそれだから、出来る事をしろ、という事だろうか。
「理由は聞かないけど請求はしたいから、その為に起こすのは、ありかもな。」
焦げたアサルトフローを撫でて、砕けた剣を抜いた。
「あ、折れちゃったんだ。」
「…。」
そうなのだ、この剣は。
クレスタが、一日かけて選んでくれた物だ。
ドラゴンの翼の付け根に突き刺したり、ニージュ商会の刺客を返り討ちにしたり。
何より、多くの魔物を倒してきた。
「どうだった?今までの使用感。」
「凄くよかった。」
思い入れはある。出来れば直して使いたいほど。
でも、ここまでになってしまったら、新しいのを買ったほうが絶対安い。
「同じ種類のやつ、用意してもらえるかな?」
「気に入ってもらえて嬉しいわ。
でも、ちょっと時間を貰えるかしら。
ほんとにちょっとよ、剣がないのは問題だし。」
「もちろん構わない。用意してもらう側なんだから。」
船が見えた。救助に来てくれた軍船だろう。
これでようやく、一段落。
太陽はとっくに登っていて、なんならお昼を過ぎたかもしれない。
薬をがぶ飲みした所為で食欲はないが、流石に眠い。
今日はゆっくり寝て。明日は観光か。
(ディオルはどんな感じかなぁ。)
ぼんやりと、近づく船を眺めていた。
翌日。
出発は明日の明け方。
つまり、今日はフリーである。
「ディオルと連絡が取れたみたい。無事討伐は完了、夜には戻って来れるって。」
サニアの説明を、俺と勇者が聞いている。
仕事は無事終了。予定だと観光のはずだったのだが。
「軍は、エインディーの残りの仲間の捕縛に成功。
それで今頃、沈んだ船のサルベージ中。」
「クレスタが、沈めちゃったんだよね…。」
「機材は提供したし、状況判断は間違ってないって事になったから問題ないわって、言ってたわ。」
ここは、フフゴケ商会テオテナム支部の鍛刀場。
俺とサニアと勇者は売り場にいる。クレスタは奥の作業場だ。
「一通り見た事だし、二人共、別の所に行って大丈夫だからな。」
ここも立派な観光対象だと思うけど、もう長い事いる。
折れた剣に変わる、新しい剣を用意してもらっている感じだ。
俺は当事者だから残るけど、二人には好きな所へ行ってもらいたい。
本当は、クレスタにも行ってほしい。
だって、楽しみにしてたから。
『私の分野なんだから、面倒みさせてよ。趣味みたいなもんだし。』
笑顔で言われたら、断れないじゃないか。
「いや、ここがいいんだよ。見なよ、変形機構のある武器だって。
折りたためる長大な斧とか、よくない?」
「最近、遠距離攻撃手段が全くないのはよくないと感じるの。
短刀やめて、投げナイフを考えているわ。
投擲のコントロールには、自信があるのよ。」
「なるほどね。飲み物買ってくるけど、何かいる?」
本心かもしれないが、気遣いもあるだろう。
クレスタがここで働いているようなものだから。
なら、せめて楽しく。
幸い他に人もいないし、ペチャクチャ喋っていても迷惑にならない。
こんなふうに三人でくつろいでいると、呼ばれた。
準備が出来たんだ。
二人もついてくる。もちろん拒んだりしない。寧ろ、見てほしい。
「ガットル君自身も言っていたわね。
魔力制御レベルが上がったって。私も同意見。だから、剣も魔装具にしたわ。」
クレスタから、剣を受け取る。
長さや重さは以前と変わらないと思う。
しかし、見た目の印象はまるで違う。
先端が丸い。剣身の幅は広く、厚みが薄い。
試しに、三回振ってみる。
違和感はあるが、問題ないと思う。
剣先数ミリの戦いをする達人ではないのだ。
素振りを続ければ、馴染んでくるだろう。
「遠慮なく、やっちゃってよ。」
そう言えば魔装具だった。
アサルトフローと同じように、魔力を込めていく。
剣身が、黒く薄く輝く。
「いいね。綺麗で、頼もしい。」
勇者が近づいてきて、剣を抜いた。
彼女の白い剣も、薄く輝く。
「強度チェックといこうじゃないか。」
「え、ここで?」
「流石にやめて。」
苦笑いしながら、クレスタが手招きしてくる。
あ、チェック自体は止めないんだな。
案内された奥に進むと、広いスペースに出る。
ソウヘーが一服していた。この剣の調整をしてくれたのは彼。
一礼すると、軽く手を振ってくれた。
「手合わせはよくするけど、訓練用の木刀以外ではやった事ないよな。」
だから今、真剣を持って対峙する現状に冷や汗が出る。
「今回は手合わせじゃないしね。ほら、構えて。」
(そうか、強度チェックって言ってたな。)
勇者に対して横向きになり、魔力を込めて突き出した。
勇者が叩きやすいように。
「ガットル、違うよ。」
「え、違った?」
「そんな体勢じゃ、防げるものも防げない。」
勇者が俺の正面に立った。
「お互い思いきり振りぬいて、剣身をぶつけるんだよ。」
「…それ、失敗すると、怪我じゃ済まないと思うんだが?」
「僕達なら出来るよ。」
勇者が構えた。
サニアもクレスタもソウヘーも、思い思いの表情で見守っている。
止める気は、ないようだ。
俺は覚悟を決める。
勇者の剛剣は知っている。
骸骨を容易くバラバラにし、ドラゴンの一撃を弾いた。
だから訓練の時も、いかに躱すかを考えて、受けようとした事は一度もない。
(どこまで、近づけただろうか。)
あの夕焼けから。
特に、合図はなかった。
勇者が、一歩足を下げたから。
俺は思いきり、一歩を踏み込んだ。
勇者は、真一文字に剣を振り下ろす。
当然そうだと思ったから、俺は右から横に薙ぐように。
白と黒の輝きが、十字を描く。
俺の剣は地面に突き刺さり、勇者の剣は左に振り抜けた。
「~~~。」
痛すぎて、言葉にならない。
腕の骨が折れたかと思い確認するが、無事なようで。
剣身が折れたかと思い確認するが、こっちも無事だ。
「叩き折る気でやったんだけどなぁ。」
勇者はちゃんと悔しそうだった。でも、余裕そうなのも間違いなく。
まだまだ、全然勝てない。それでも。
軌道を変える事には成功した。
(少しは、近づけている、か。)
「やるな~ガットルさん。」
ソウヘーが近づいてきた。
「ありがとうございます。お陰で、まだ生きてます。」
「いやいや、ガットルさんの実力あってこそさ。
これからも期待している。そいつをよろしくな。」
自分的にも満足のいく仕事が出来た。
そんな表情で通常業務へ戻っていく彼に、改めて頭を下げる。
それから、勇者の元へ向かう。サニアとクレスタもいた。
「凄いわクレスタ、レーラスの一撃で刃こぼれ一つないなんて。
なんて名前の剣なの?」
「黒陽剣。
由来は黒い太陽。ガットル君の黒炎の事よ。
まあ、ナスっぽいなと思った事は否定しないけど。」
最後のはよく分からないが、そうか、太陽か。
「剣に笑われないように、励まないとな。」
「いいね。このまま練習試合といこうか。
クレスタ、木刀ある?
ガットル、白黒着けよう。」
「いや、まだ手が痺れてて…。」
「なら先に私とやりましょうか、レーラス。
今日こそは、勝たせてもらうから。」
「OK~三人のリーグ戦ね。はいレーラス、木刀よ。」
こうして俺達は観光へ行かず、叩き殴り合った。
負けず嫌いなお嬢さん方は満足そうで。
クレスタも楽しそうだったから、これはこれでいいかと。
サニアと一緒に大の字になりながら、しみじみと思った。
夜。ディオルが帰ってきた。
最大の功労者は、顔の腫れた俺達を見て呆れていた。
ともかく、今は感謝のバーベキュー大会だ。
街から離れた川辺にいる。
「労ってくれるのは嬉しいが、外でバーベキューはないんじゃないか?
普通に、寒いんだが。」
走り回る事が多くて忘れがちだが、今は冬だ。
「見せたい物があるみたいね。
あ、本人きた。」
サニアの言う通り、クレスタがやってくる。
「改めて、ディオルありがとう。お陰で財政は潤ったわ。
でも流石よね、三日で完了させちゃうんだから。
ほんと、凄い魔法使いよ。」
「…。」
笑顔が胡散臭さ過ぎる。何を企んでいるのだろう。
「勝負を決めた魔法は、何だったかしら?」
「獄炎だ。消し飛ばしてやった。」
「う~ん、素敵。ちょっと見せてよ。」
クレスタが上空を指さした。何か、浮いている。
小型の気球のようなやつだ。星とは違う明かりが見える。
「撃ち落とせという事か?」
「そゆこと。」
「いいだろう。」
「あ、カウントするね。ちょっと待って。」
興味があるようで、ディオルは乗り気だ。
「はい、行くよ~。10、9、8…。」
(あの、獄炎だろ?大丈夫なのか、クレスタ?)
俺は興味より、不安が大きい。
「2、1、0!」
ドラゴンを飲み込むほどの、黒い炎の奔流が天に伸びる。
(ん?)
別方向から、同じく天に伸びる光源を見つける。
と、同時。
それは弾けた。
花火だ。夜空に大輪の花が咲く。
「わ~、綺麗な…」
感想の途中で、勇者が凄い勢いで走り去って行った。
何事かと、サニアが追いかけていく。
「これは、凄いな。」
状況がつかめない俺に、ディオルが近づいてきた。
「一体、何が?」
俺の質問に、ディオルは上空を指さした。
小型の気球のようなやつが、浮いている。
「え?獄炎は?」
外した?そんな、まさか。
「ふっふっふ。」
クレスタがドヤ顔でやってくる。
「これこそが新商品。その名も、魔力分散砲。
魔法を消すわ。効果は、見ての通り。」
「獄炎を、消したのか?それは、凄い…。」
「魔力制御装置と違って、魔力を吹き飛ばす訳か。
しかも、吹き飛ばした魔力の代わりに、反魔力をばらまいている。
考えたな。」
ディオルが掌の上に火を出すが、すぐに消える。
試しに俺も出してみるが、そもそも火が出せない。
「反魔力って?」
聞きなれない単語だ。
「魔力には質や相性がある。反魔力は簡単にいうと、物凄く質の悪い魔力だ。
ばらまかれて大量にあるから、いつものように魔法を使うと、この反魔力を使った魔法になる。物凄く質の悪い魔法だ。」
「そんな事して平気なのか!?」
環境テロになるんじゃあ?
「大丈夫よ。有害ではないし、数分で魔力の質は戻る。
でもその数分で勝負は決まる。規模によるけどね。」
なるほど、魔法を封じて敵味方純粋な肉弾戦…。
「だが、デメリットもデカいな。
こちらも魔法が使えないなら、使いどころを間違えると、全滅もあり得る。」
「そうね。だからこれは対空用。
ガットル君やディオルは飛べるでしょう?
魔王だって魔法で空を飛ぶかもしれない。
なら、落とさないと。レーラスの攻撃が届く所まで。」
「なるほど、お披露目とテストを兼ねた訳か。」
「そういう事。今回は地上まで範囲が及んでいるから、もっと高く打ち上げないとね。
それから風の影響も考えないと。」
そうか、だから勇者は逃げたのか。魔法が解けそうだったから。
「魔王ってどんな奴か、イマイチ分からないじゃない。
翼で飛ぶドラゴンみたいのだったら、効果は今一つだけど。
でも魔の王だから、きっと魔法は使ってくるでしょう?
そこでこちらの、魔力分散弾。
魔力分散砲の小型版よ。
ピンポイントで魔王の魔法をぶち抜いてやるわ。
効果範囲が狭いから、完全に消せないかもだけど、その分、味方に被害は出ないわ。」
あの長距離射撃で船に穴をあけたクレスタだ。
期待しても、いいかもしれない。
「なあ、ガットル。」
神妙な面持ちで、ディオルに声をかけられる。
「何か、気になる事でも?」
「こういうのを作っているから、金が足りないんじゃないか?」
「え、でも、それは…、え?」
凄いと思うし、勇者パーティーの一人として、有益そうな物を作ってくれたのだ。
しかし、こちらが注文した訳ではなく、作る前の相談は一切なかった。
「…。」
果たして今回はちゃんと黒字になったのか。
黒陽剣の件だってある。まあ、あれは俺の借金だが。
もっとこう出来る、あれがあるといいかも、こういうのも作りたい。
キラキラした瞳で語るクレスタを眺めながら。
焼けた肉を口に入れた。
熱くて、美味しかった。
三つ目のお話はこれで終わり。
次から、また別の話。




