第21話 金欠~一騎打ち~
~前回までのガットル~
捕らえた男は、悪者だと判明。
泳がせていたら、逃げられた!
追いかけて、捕まえてやる!
あっという間に、山場。説明会が長かったから…。
後方で、物凄い音がした。
崩落したのだろう、嫌な汗が流れる。
「分帰路!右!」
背中のクレスタが叫ぶ。
(あれか!)
アサルトフローの向きを調整。一気に加速。
爆発音。反響して何処で起こったのかは分からないが、俺達は無事だ。
「安地!安地!いったん休憩!」
徐々に減速して、止まる。
汗が凄い。
最後の魔力増強薬を飲む。
もう味なんて分からないし、吐きそうだが、お陰でまだ飛べる。
「なるほど~、逃走手段は船ね。
海に出て、アーミアンまで行けば、もう私達は追えない。」
「OK、急ぐ。」
「ストップ、ストップ。」
身体が軽くなった。巻き付けていたベルトが外れる。
「もう犯人は目と鼻の先。待ち構えているわ。
観念したとは思えないから、取って置きの罠があるはずよ。
ここからは、慎重に進みましょう。」
クレスタが汗を拭いてくれる。
恥ずかしい気持ちもある。が、ここはお願いして呼吸を整える事に専念する。
決戦が近いみたいだから。
「かなりの精度で罠が発動していたわ。
敵は、なかなかの実力者ね。」
「勇者や、ディオルよりも?」
「まさか、それならこんなに早く辿り着けていない。
それか、途中で潰されてるわね。」
「なら、負ける訳にはいかないな。」
「ええ。ガットル君は負けないし、私達は勝つわ。」
腕輪の魔力と増強薬は使い切ったが、自前の魔力は残っている。
体力は残り少ないが、やる気は潤沢だ。
「いつでも、行ける。」
「よし、行くか。」
優しそうなたれ目の彼女は、にかっと笑った。
クレスタの先導に従って進む。
横穴が多い。まるで迷路みたいだ。
順調に進んでいたが、クレスタが止まる。
物陰に隠れて、声を出した。
「あなた、エインディーよね?あの詐欺集団のリーダーの。」
「…人違いだ。
俺達が訪れる町には笑顔が溢れてるからな。
詐欺集団なんかじゃない。」
「病気を蔓延させて、薬を売るんでしょう?
迷惑極まりないマッチポンプよ。」
「言いがかりだよ。そんな証拠はないだろ?」
「私達はね。でも軍は証拠を掴んだみたいよ?
問い合わせたら教えてくれたわ。」
「ハッタリだな。軍がやすやすと情報を渡すものか。」
「なら大人しく捕まってよ。そして好きなだけ弁明して。
きっとすぐ出てこれるわよ。」
「はは、生憎用事があってね。そんな暇はないんだ。」
「なら仕方ないわね。捕まえるわ。」
「なら仕方ないな。死んでくれ。」
轟く爆発音。そして崩落する天上。
「油断したな!本人が近くにいれば崩落できないと思っていたか!?
ばかが!デコイだよ、同じ手に引っかかる間抜け共め!
移動先を突き止めたか!罠の発見ができたか!
は!わざとだよ!
最後に切り札で始末する為にな!
対魔法探知用の爆弾さ!分からなかっただろ!
はは!もう聞こえていないか!」
「大丈夫。聞こえてる。」
「は?」
組み伏せて、魔力制御装置を嵌める。
ダーシンだ。エインディーじゃない。
「…な、なぜ…?」
声色が戻っている。
「警戒してたからな。そういう感じの罠もあると思ってた。
人影が見えたから、通信機を置いて回り込んだんだ。」
通信機の回収は無理だろう。結構高額だと聞いていたけど、仕方ないか。
「ガットル君、どう?」
「ダーシン一人だ。エインディーは見えない。」
そのダーシンは薬でスヤスヤだ。
拘束時に使ってと渡された物だが、あまりの効果に戦慄を覚える。
「OK、こっちに来て。」
流石に放置は出来ないから、担いでいく。
クレスタと合流すると、彼女はバッグから何かを取り出す。
魔力を入れ膨らませると、クッションみたいになった。
それにダーシンを乗せ、紐で引きずる。
おもちゃの引き車を思い出した。
一度落ちそうになったが、態勢を変えたら無事安定。
舗装された道でよかった。
「お前達、何者だ?」
ダーシンから、ダーシンじゃない声がした。
クレスタが、彼から通信機を見つける。
俺達のより大きいやつだ。
「ご存じでしょう?勇者パーティーよ。」
「そういう事じゃない。なぜ、無事なのかと聞いている。」
「私も土魔法が使えるの。地探知よ。
探知系の魔法だと他属性の下位互換扱いだけど、土の中なら大活躍ね。」
「地面の変化が分かる程度の魔法だろ。
土魔法の発動や、新しい足跡は発見可能だが、地形把握なんて効果はない。
俺達の通ってない横穴から回り込んで、そいつを倒せる訳がない。」
「仲間に、やたら魔法に詳しいのがいるのよ。」
クレスタは小さく息を吐く。笑ったのだと思う、なんか楽しそうだ。
「彼曰く、魔法は用途に合わせた形状変化。
ただの火を遠くに投げたい。その為に球状に変化させる。
熱さは?大きさは?硬さは?どれくらいの魔力を込めるのが最も効果的?
先人達の試行錯誤で火球の基礎は確立されたわ。
学校じゃあ、個人差も込みで教えてくれる。
最高効率なんだから、教えてもらった通りにやればいい。
でも、そうしないといけない、何てことはない。」
嬉々として語るディオルと、それを聞くクレスタ。
簡単に想像できて、にやついてしまう。
「全然熱くなくて、ちょっと大きくて、弾力があっても構わない。
火球でドッジボールをやったっていい。
可能性は無限大。
地面の変化が分かる程度の魔法でも、アレンジを加えて地形把握が出来るようにしてもいい。効率が悪くても、自分の使いやすさを優先させていいのよ。」
ここまでが、長い前振り。本題はきっとここから。
俺に装備を選んでくれた時の、彼女を思い出す。
「とはいえ、そんな事が言えるのは相当な実力者。
普通の火球で手一杯のAさんに、ドッジボールを作れって言っても無理な話。
そんなAさんに朗報!火球拡張補助ブレスレット~。
火球が出来るなら、三種の形状登録が可能。
サッカー、バレー、バスケット、ラグビー、ゴルフ、タンブレロ、何でも出来るわ。」
知らない単語だが仕方ない。彼女は博識だから。
「火属性が使えない人用に、火球が使える指輪の同梱版だってある。
ただねえ…。
充魔式なのはいいけど、効率は良くなくて、何より高額になっちゃうのよ。
火球が使える人にも、形状登録が難しいのと、普通にボール買うわって事で不人気。
それでも可能性はある商品よ。フフゴケ商会をよろしく。」
「…。」
「ちょっとずれたわね。私が着けているのは、地探知拡張補助ブレスレット。
そもそも地探知がなんで地面の変化が分かるのかと言うと…。」
不意に、光が見えた。大きな横穴を見つける。
先は崖のようになっていて、下は海だ。
「売っている所を見た事ないな。
仮に売られていたのを見つけても、買わない。
俺は可能性を、全く感じない。」
「耳が痛いけど、参考にはするわ。
プロデュース方法は検討が必要だと思ってたの。」
離れた場所に、出航済みの船がある。
「クレスタ!あれだよな!デコイじゃないよな?」
「ええ。間違いなく、あれね。」
ライト付き額当てを外す。
アサルトフローにありったけの魔力を送り込む。
「突っ込んで、後は任せる、でいいか!」
クレスタが船を睨む。返事は直ぐに戻って来る。
「いいわ!お願い!」
飛び出す。
目標は船。飛び乗って、制圧を試みる。
「!」
近づくと、思ったよりデカい。
中型船だろうか?
船の中には、エインディー以外がいるかもしれない。
「!?」
船上の人物と目が合った。
彼はこちらに手を伸ばし、石が雨のように襲ってくる。
「くっそ!」
方向転換からの急加速で、急旋回。なんとか躱す。
しかし、敵の追撃がくる。
(船の真上に行き、盾を構えて、落下するように…!)
したいのは山々だが、魔力残量的に激しい。
今、敵は牽制弾。
被弾覚悟で突っ込もうとした場合、大技が飛んでくるはず。
(それを越えて、船上に辿り着けるか?無理だ。)
失敗すれば、海に落ちる。追撃で死ぬ。
(やっぱり魔力を振り絞り、真上を取るしか…。)
覚悟を決めようとした時だ。
船が爆発した。
船体が激しく揺れ、攻撃も止まる。
(事故?いや、クレスタの援護だ。)
援護と言うには威力がありすぎる。
どう考えても、こっちが本命だ。
素人判断だが、この船は、間もなく沈む。
(超射程からの必殺の一撃…。
俺が飛ぶ必要がないような気もしないでもないが、まだ、敵の確保という重要なミッションが残っている。)
傾く甲板に降り立つ。操縦室の前辺りだ。
熱検索を発動。いるのは二人だけ。
俺と、必死に船首にしがみつく男。
さっきまで俺を攻撃していた奴だ。
「エインディーだな。一緒に陸へ戻ろう、この船はダメだ。」
石が飛んできた。盾で弾く。
「安心して一人で戻れ、俺には脱出艇がある。」
確かに。奴の左方向にそれっぽいのがある。
「実は乗せてくれると嬉しい。魔力が残り少ないんだ。」
「それはいい事を聞いた。迅速に死んでくれ。」
石の雨が襲ってくる。
緊急時だし助け合おう、とはならなかった。
沈没原因はこちらにあるから、当然といえばそうなのだが。
「!?」
揺れの所為で、バランスを崩す。
回避は諦めて、盾で防ぐ。
「泥波!」
もはや沈む船に未練はないのだろう。
船事押しつぶすような泥の壁が迫ってくる。
足の止まっている俺は、そのまま盾に隠れる事しか出来ない。
背面を海に、膝を付いて。甲板からの攻撃で致命傷は受けないように。
「ぐ…。」
一面泥だらけ。
ダメージは思ったより少ないが、粘着性のある泥だ。
動きが制限される。
「ちっ…。」
エインディーは舌打ちした。
止めを刺したかったのだろうが、俺の構えた盾は健在。
回り込めばいいのだが、傾く甲板に自らの泥で容易ではない。
有利な事には変わりないが、今は時間がない。
咄嗟のポジショニングは大成功だ。
(でも、不味いか?)
動けないのであれば、船と運命を共にするしかなく。
奴にもそれは分かっている。
ニヤニヤしながら脱出艇に向かっていった。
(イメージしろ、勝ち筋を。読み切れ、敵の手を。)
負けないと言ってくれた、クレスタを思い出して。
自身を、黒炎で包んだ。
それは泥を溶かし、船の何かに引火して、爆発する。
「自爆かよ!狂ってやがる!」
すんでのところで、エインディーは脱出に成功した。
その様子を、空から確認。
彼の脱出艇に向けて、アサルトフローは最後の加速を試みる。
「しつけえ!」
こちらに気づいたエインディーが叫ぶ。
奴と俺の間に石の壁が現れた。
こっちはガス欠だ。迂回なんて出来ない。
(ぶち破るしか、ない!)
剣を抜いた。振りかぶり、全力で叩きつける。
「っら!」
石の壁が砕ける。俺の剣も。
勢いを殺さず、激突するように脱出艇に乗った。
船体は揺れ、投げ出されそうになるエインディー。
その手を掴む。左手で。
引き寄せる。近づくその顔に、渾身の右ストレートを叩き込む。
それで、決着した。
量産型の魔物以外で、初めてガットルが単独で倒した小ボスでした。




