第19話 金欠~言い分~
~前回までのガットル~
クレスタ達から、ゴケさんの夢の話を聞いた。
その帰り道、サニアから連絡がくる。
お尋ね者を捕まえたらしい。俺達は、サニアの所へ向かう。
「いや~頼んどいてなんだけど、見つかるとは思わなかったわ。」
「私もまさかと思ったけど、あってるよね?」
「あってると、思う。髭は伸びてるけど、特徴は一致してる。」
少し街の外れにある空き家。
俺とサニアとクレスタ。
それから、イスに拘束されている男。
拘束に使われている縄は、魔力を制御困難にする効果のある物だ。
つまり、今、男は魔法が使えない。
「た、頼む!助けてくれ!縄を解いてくれ!」
ガタガタとイスが揺れる。
絵面だけなら誘拐犯。いい気分ではない。
「大丈夫、このまま役人に引き渡すだけだから。
大人しくしていれば、怪我なんてしないわ。」
「待ってくれ!事情があるんだ!は、話を聞いてくれ!」
「話は役人にするといいわ。私達に話しても意味がない。」
「見逃してくれ!頼む!」
「私は罪人なら友達でも引き渡すわ。
何をやったかは知らないけど、ちゃんと罪を償ってから出てきなさい。」
そう言えば、初めて会った頃。
サニアは機械的な受け答えをしていたような気がする。
興味ないとか、見下している訳ではない。
警戒心があるんだ。
この人は、我々に危害を加える人物なのか、どうなのか。
そんなサニアと、今ではくだらない雑談だって出来る。少し、嬉しい。
「まあまあ。折角だし、話くらい聞いてあげましょうよ。」
クレスタが、サニアと男の間に入った。
サニアは何か言おうとした素振りを見せたが、そのまま引き下がる。
クレスタ>サニアは、仲間内で有名だ。
「あなた名前は、ダーシンよね?
私達は懸賞金目当てで、あなたを捕まえたの。
あなたが何をしたのかまでは知らないわ。
さ、何を聞いてほしいの?」
クレスタは目線を合わせるように屈む。
少し近すぎじゃないだろうか。
仮に、男が暴れると怪我をするかも。
有事の際、すぐ動けるように身構えつつ、男の後方へ怪しまれないように動く。
「ぬ、盗んだんだ。薬を。」
男はクレスタを見ていて、俺の動きには気づいていない。
刺激させるような事にならなくてよかったと思いつつ、素人だなとも思う。
「娘が病気だったんだ、買う金は無かった、仕方が無かった。
娘はよくなった。
けど、隣の家の子も、その隣の爺さんも病気だった。流行り病だった。
気付けば、村中が病人だらけ。
近隣の町に助けを求めた。けど、薬が足りなかった。
だから、今度は別の町の薬を盗みに行って、見つかって、逃げた。
お、俺は、薬を持って、村に戻らなければならない!」
男の話を聞く限りでは、アウトだ。
俺の価値観だと、これで同情は無理。
助けたいのは、分かる。しかし方法が悪すぎる。
表情を見る限り、サニアも似たような意見だろう。
クレスタは、ここからどうするつもりだとうと思っていると、彼女は手帳を取り出した。
「村の名前は?」
「テングロン。」
ページをめくる手が止まる。
書かれた文字を読んでいる。
やがてクレスタは口を開く。
「安心して。薬は確保できて、村に運ばれたわ。」
「そ、そんなの、信じられない!」
「なら、こうしましょう。明日、あなたを村につれていく。
村人全員に薬が投与されているのを確認したら、大人しく捕まってよ。」
「…。」
「ガットル君、ちょっと見張ってて。サニアちゃんは、私に付き合って~。」
有無を言わせずクレスタは出て行った。
サニアは後を追い、俺は言われた通り、うなだれた男を見張る。
そして考える。クレスタの真意を。
優しさ?同情?似たような経験がある?俺の知らない情報がある?
分かっているのは、明日は男を連れて、彼の村に向かうという事。
(そこまでする必要が、あるだろうか?)
「ここまでする必要が、あるだろうか?」
隣にいるサニアに聞いてみる。
あの後。
戻ってきたクレスタは、ダーシンの縄を外した。
変わりに彼の右腕に腕輪を嵌める。
前に言っていた、魔力抑制装置。
効果は縄と一緒で、違いは自由に動ける。
「今日はもう遅いから、ゆっくり休んで。
明日、迎えにくるから、待っていて。」
飲み物と弁当と毛布を置いて、俺達は空き家を出る。
そして、少し離れた別の空き家へ。
男を監視する為らしい。
「戻っていいって。」「戻る訳ないじゃん。」のやり取りが終わると、クレスタが考えを話してくれる。
窓から、男のいる家を覗きながらだ。
「金額がおかしいのよ。」
「金?」
「懸賞金の事?」
「二人が詳しくないのは当然よ。王国に賞金首なんて皆無だし。
あれだけの金額という事は、よほどの恨みを買ったか、それほどの脅威か、知ってはいけない事を知ってしまったか。
薬の盗みの話は嘘か、盗む過程で何かをやってしまった、とかね。」
「つまりクレスタは、何か、大きな陰謀があると思っているの?」
もしそうなら、男は逃げ出すか、男に接触する何者かがいるかもしれない。
だから、監視をしているのか?
「明後日。」
クレスタがこっちを向く。
星明りはここまで届かない。ランプの明かりも。
だから彼女の表情は、よく見えない。
「私は観光を楽しみたい。
行きたい場所も、連れて行きたい場所もある。
ここは、私の故郷みたいな所だから。
いい思い出にしたいの。」
近づいてきた彼女は、柔らかく笑っている。
「だから、間違えたくはない。
もしも彼が、大きな陰謀に巻き込まれた被害者で、私達が捕まえた事で悪者が得をする。なんて話だったら、嫌じゃない?」
「それならあの男は、素直にそう言うはず。考えすぎよ。」
「今まで信じてもらえなかったとか、自分自信、巻き込まれた事に気づいてないなんて事もあるわ。
いいのよ、サニアちゃん。
陰謀なんて全然ない。単に男が短慮なだけ。
盗みに入った薬局が凄い所だったから、懸賞金も凄くなった。
そう言う結果で構わないの。
時間も、手段もあるんだから。自分が納得できるまで調べるだけ。
いや~これも、サニアちゃんが一日で確保してくれたお陰よ。ありがとね。」
俺達は男を監視しながら、交代で休む事に。
サニア、俺、クレスタの順だ。
クレスタはすぐに寝た。疲れているのだから、当然である。
「ここまでする必要が、あるだろうか?」
不満はない。クレスタの話に納得はしている。
気になる事があり、回答が得れれるならば、知りたいのは当然だろう。
でも、何か、まだ裏がある気がして。
隣にいるサニアに聞いてみる。
「…やらかしたわ。」
「え?」
思っていた反応と違う。
サニアは膝を抱えてうずくまる。
「心当たり、あるのか?」
責めていない。なるべく、優しい声色で聞く。
頭が、少し動く。頷いたんだろう。
「見つかるなんて、思ってなかったのよ。私も、クレスタも。」
「ダーシンの事?」
「そう。
クレスタは商会の仕事を片付けつつ、資金を増やしたかった。
うちのパーティーは、何だかんだで協力するでしょう。
だから何パターンか考えていて、私達の反応で役割を決めていった。」
あの、宿屋での話か。
「本命は魔物の討伐。
きっとクレスタ以外の4人で行く可能性もあったと思う。
でもディオルは1人がいい、みたいな感じだった。
効率の為とはいえ、ディオル一人に危険な仕事をしてもらって、他は遊んでるなんて嫌じゃない。
それで、一人一仕事の流れになった。難易度に、差はあったけどね。」
そういう駆け引きみたいな感じだっただろうか?
適当に決まったイメージだったが、でも、クレスタなら考えていてもおかしくない、のか?
「私のお尋ね者の捜索って、発見の成功、失敗の前に、町にいる、いないだから。
努力どうこうじゃないのよ。
だから期待値が低く、失敗時のリスクも低い。
罰ゲームで一発芸くらいやらされるかもだけど、それくらいね。
要領よく、いない事の確認をすれば、後はサボり放題。
なんなら、レーラスの手伝いに行ってもいい。」
途中から彼女は、ぷるぷると震えていた。
「だからこそ、絶対見つけてやろうと思ったわ!」
勢いよく顔を上げ、吠える。
なるほど。負けず嫌い魂が燃えちゃったか。
「それで見つけるんだから凄いよ。ぜんぜんやらかしてない。」
「やらかしたのは、捕まえた後。
役所に引きずっていけばいいのか分からなかった、てのもあるけど、自慢したかったのよ。クレスタに。
それで、あのやり取りがあって、ようやく気付いた。
クレスタに、いらない負荷をかけてしまった。」
どんどん元気がなくなっていく。
「見つかるはずないから、クレスタは録に調べなかったのよ。あの人の事を。
でも私が見つけてしまったから。
きちんとした調査が必要になった。
捕まえた私が、後々になって傷つかないように。
善意だと分かっていながら、つまらない意地を出してしまった。
素直にレーラスを手伝っておけばよかった。
それか、さっさと突き出してしまえばよかった。
それが、やらかし。」
「違うよ。」
「…。」
「見つけられて困るなら、最初から用意しない。
適当な採取依頼をもう一枚もってきたはずだよ。
クレスタも気になる事があったから、頼んだんだ。
サニアが期待に応えてくれたから、クレスタは張り切ってるんだ。」
サニアに言いながら、俺自身、合点がいく。
元々気になる件だったのだろう。でも、犯人に会えないから諦めていた。
それを、見つけてもらえた。
だから、気合が入ったんだな。
「知らないって言ったのは、ブラフ。相手の出方を伺ったんだ。
きっと今後の動きのプランはある。
それにさ。サニアが頑張って探しだした事も、最初にクレスタに連絡したのも間違いじゃない。
彼が善人なら、助けてあげられる。
彼が悪人なら、のさばらせたままに出来ない。
いい働きだったよ、流石サニアだ。」
俺の疑問も解けたし。
サニアはそっぽを向く。でも言葉はくれた。
「ごめん、ガットル。クレスタを侮ったわ。
話を聞いてくれて、ありがとう。」
「二人共、仲間を思いやれる人だ。
俺もその仲間で嬉しいし、恥じない活躍をしたいと思ったよ。」
「そんなに仲間想いなのに、どうして僕をハブるんだい?」
勇者だ。いつの間に。
驚き過ぎて、反応できなかった。
「私とクレスタが宿屋に戻った時、いなかったからよ。
書置きを残したじゃない。」
「いる場所を、書いておいてほしかったよ。
やっぱり町用の通信機を用意してもらおうよ。
大きくなってもいいから、広範囲なやつ。」
「その状況で、勇者はどうやって辿り着いたんだ?」
「風魔法の音制御で頑張ったんだよ。二人が喋っていてくれて助かった。」
つまり、無関係な町民の会話を盗聴しまくったという事?
勇者として、それはどうなんだ?
「ともかく、面白そうだから僕も混ぜてよ。
張り込みってやつだよね。
僕の好きな本にも、こういうシチュエーションがある。
あんぱんは、ちゃんと持ってきた。それと、」
勇者がおもむろに、窓を指さした。いや、窓の外か?
「誰か来たよ?」
考えすぎ。
しかし、人を思いやっての行為だし、本人が辛くないのであれば~
みたいなお話。




