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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第一章 勇者レーラスの魔王討伐記

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第18話 金欠~最終目標~

~前回までのガットル~


商会の手伝いで、商品の配送を行った。

折角だから、クレスタと帰りたい。

今の書類にサインをすれば、彼女の仕事は終わりのはずだけど…。


物置となっている会議室でのやり取りは続きます。

「OK~。これでよろしく。」


 さらさらとサインして、持ってきた男に渡す。

 男は、心底ほっとした表情を見せた。


「ありがとうございました!うわ!」


 勢いよくお辞儀をして、立ち去る為に振り返った時、何かが積まれた山を崩した。


「申し訳ありません!」


「ああいいわよ、ここ物多いから。片付けとく。」

「しかし!」


「積み方もあるのよ。ここは任せて、早く仲間に報告してあげてよ。」


 男は逡巡の後、頭を下げて立ち去った。

 俺は床に散らばった紙類を拾い上げていく。


「拾うから、好きなように積んでくれ。」

「ありがとう。適当でいいわ。」


 本に、冊子に、重要な書類もあるのではないだろうか。

 崩れにくいよう、重い物を下にして積んでいく。


 あらかた拾い終わったが、棚の間に挟まった何かを見つける。

 俺では取れそうにない。


「任せてくれ。」


 ソウヘーが近づいてきて、魔法を使う。

 風が吹いて、何かが出てきた。折りたたまれた大きめの紙だ。

 埃を払う。さっき落とした物じゃない、もっと昔の物だ。


 それを、ひょいっとクレスタが奪った。


「あ、これ、失くしたって言ってたやつじゃない?」


 彼女は机の上に用紙を広げた。


「これは、地図?」


 覗き込む。

 ワイバン大陸とライダ大陸。22の全ての国が載っていた。


 気になるのは、手書きの書き込み。周りの海が埋まるくらいの量だ。


「確かにな。まさか、ここに落ちてるなんて。

 やっぱり持ち出してなかったんじゃないか。」


 何かの思い出の品だろうか。

 そんな風に考えていると、声をかけられる。


「ガットル君って、叔父さんの過去って知ってる?

 どうして商会を作ったのか、とか。」


「苦労話はよく聞いたけど、どれもフフゴケ商会の話だから、そこまで昔の事は知らないかな。」


 ゴケさんは45歳。フフゴケ商会は10周年のはず。


「実はこちらのソウヘーさん。商会発足時の初期メンバー。

 どう?昔話に興味ある?」


 ソウヘーが若干照れくさそうに視線を逸らした。


 興味がない訳ではない。

 ただ、ゆっくりしていると、また仕事が舞い込んで、クレスタが帰れなくなるんじゃないかと。そこが気がかりだ。


 彼女を見る。ニッコニコだ。


「興味ある。」

 コーヒーも残っているし。


「叔父さんは、ライダ大陸出身でね。ある商会で働いていたの。

 どこだと思う?」


 ワイバン大陸についてだって詳しい訳じゃない。

 ライダ大陸なら尚更だ。

 

 そんな俺でも唯一知っているライダ大陸の商会がある。

 世界一と言われている、あそこだ。


「センレイ会。」

「正解。」


 当たってしまった。


 世界一の商会にいたって?でも今はいない訳で。

 あまりの実力差についていけなかったとか、やらかしてクビになったとか…。

 

「あ~違う、違う。暗い話じゃないわ。

 叔父さんは、夢があって独立したの。」


「夢?」


 意外だ。俺のゴケさんのイメージは、いつものほほんとしている気のいいおっさんだ。

 安定を捨てて夢を追う人だとは、思わなかった。


「断海を越える。それが、フフゴケ商会の最終目標。」


「…。」


 視線が地図に向く。

 人が住む世界というのは、ワイバン大陸とライダ大陸だけだ。

 

 昔。それこそ、1000年前。

 西にも大陸があって、行き来もあったらしい。


 しかし。

 ある時、海が割れた。

 魔力が、噴き出した。


 あまりにも高濃度なそれは、近づくだけで身体が融けると言われている。

 今も勢いは衰える事なく。

 世界を隔てる壁となっている。


 それが、断海。

 

 ちなみに、北と東には大氷山脈。

 踏破不能と言われる、氷だけの世界。


 南は、遠海。

 永遠に海だけが続く、と言われている。


「センレイ会も、断海突破を掲げている。でも実情は、もう諦めている、らしいわ。

 ライダ大陸にもっとも詳しいと言われる商会が匙を投げた。

 だから叔父さんは、ワイバン大陸にやってきたという訳よ。

 突破の鍵を求めてね。」

 

 クレスタがソウヘーを見る。

 彼が引き継ぐ形で、喋り出す。


「当時のアッブドーメンは荒れていた。

 魔王崇拝者のデカい組織があったんだ。

 実力のある魔法使いが多くて、盗賊行為を繰り返す厄介な連中さ。

 10年くらい前、王国の勇者が魔王討伐の旅の途中に立ち寄って、それを潰した。」


「ちなみにその勇者は、12代目。レーラスのお父さんね。」


「俺とフフゴケが出会ったのはその頃。

 フフゴケは小さい子供を連れて、ふらふらしていた。

 見かねて声をかけたんだ。

 俺はそこそこ人気の家具屋で、家だって持ってたからな。」


「は~い。当時の小さい子供です。」


「今でこそ愛嬌のある子になったが、当時は凄かった。

 一言もしゃべらず、ひたすら睨みつけてくるもんだから、フフゴケは人攫いなんじゃないかと疑った事もある。」


「いや~、あの頃は私も若くて~。

 勇者に助けられる前は、魔王崇拝者の所にいたもんで~。

 大目に見てもらえるとうれしいわ~。」


 彼女は、いつも通りに喋る。

 俺は、初めて聞く、衝撃的な内容に反応できない。

 

「一週間くらい居座った後、フフゴケが協力してほしいと言い出してきた。

 大金を持ってな。

 俺は別に金がほしくて、部屋を貸している訳じゃない。

 俺も昔、ある人に助けてもらった事があるからだ。

 だからそう言って断った。

 でもあいつは、熱心に夢を語った。この地図を広げて、楽しそうに。」


 彼は地図を、いや、書かれた文字をなぞる。優しい表情だ。


「協力できる事なんてないって言ってるのに、止めないんだ。

 断海を越える事に関しては、正直今でもよく分からん。

 でもその為のあいつの商会。

 応援してもらいたい、応援したいと思える商会を作りたい。

 その気持ちは、分からんでもない。その事ならば、応援したくなった。

 そして、このテオテナムにてフフゴケ商会が誕生した。

 とはいえ、最初はほんとに場所の提供だけだったんだ。

 あいつがこの辺りで活動する為の拠点。

 それが今じゃ、家具じゃなくて、機械の部品を作ってる。」


 ソウヘーが笑う。


「ソウヘーさん。魔王を打倒したら行き来もしやすくなる。

 きっと叔父さんはここにくる。

 その時は、また長話に付き合ってね。」


 クレスタが立ち上がる。


「そろそろ帰ろうか、ガットル君。」


 俺は頷いて、まだ少し熱いコーヒーを飲み干した。




 帰り道。

 星空は綺麗だったけど、ランタンは着けた。


「遠海や大氷山脈への探検隊って定期的に出るじゃない?」


「そうなのか?知らなかった。」


 これだから王国民は。

 そんな嘲笑が頭に浮かんで、引きつってしまう。


 被害妄想だ。分かっているけど。

 王国呼びの理由を聞いたから。


「そうなのよ。新天地を求めてと言うよりは、自然に挑むみたいなイメージかしら。

 生きて帰ってこれれば成功で、小さな発見でもあれば大喜び。」


 前を歩くクレスタに、さっきの俺の表情は見えていない。


「もちろん凄い事よ。

 船酔いする私からしたら、船に長時間乗っているだけで尊敬するわ。

 この探検に可能性を信じている人も、ちゃんといる。

 でも、どうしても。

 妥協している感がある。無理やり満足しているような。」


 俺からも、彼女の表情は見えない。


「断海の先には、人がいるの。

 2大陸を足した物より大きな大陸が、いくつもあったらしいから、1000年で絶滅したとは思えない。分からないけどね。」


「でも、向こう側からやってきた人も、いない。」


「その通り。だから確かめたいと思っている。

 探検家や技術屋は、断海を越える船を、魔法を求めている。

 課題はまだまだ多いの。

 でも、魔王がいなくなれば。

 そして、フフゴケ商会をもっと支援してもらえれば。」


「売名以外にも、目的あったんだな。」


「まずは商会を大きくする。

 その大きくなった商会で船を造る。

 その船で、断海を渡る。

 まだまだ、フェーズ1。先は長いわね~。」


「クレスタは、ゴケさんの夢に付き合うのか?」


 彼女は足を止めた。

 少しの逡巡。


 振り向いた顔は、笑顔だった。


「もちろん。今の私の夢よ。」


 ススス、と近づいてきて、小声で続ける。


「秘密なんだけど、魔王の魔力の研究をすれば研究が進むんじゃないかって話があるの。

 可能なら、魔王は生け捕りにしたいのよ。」


「え!?」


 その発想はなかったから、思いのほか大声を出してしまう。

 その様子をみて、ケラケラ笑われる。


「冗談よ。魔王がどんなのかは知らないけど、安全優先。

 レーグ半島の調査だけでも、十分だわ。」


 そんなこんなで、宿屋が見えてきた。

 クレスタは大分笑顔だし、酒はいらないかな、とか考えた時だ。


 彼女の通信機が鳴った。


 (まさか、仕事?)


「うん、うん。え、マジ?」


 もし彼女が戻ると言えば?

 

「OK。今から行くわ。」


「OK。俺も行く。」


 通信機を切りながら、クレスタは吹きだした。

 真剣だぞ?


「サニアちゃんからだったわ。」


 意外な人物からだった。


「お尋ね者、捕まえたって。」

設定説明会は、これでお終い。

次話から、動きがあります。

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