第17話 金欠~物置会議室~
~前回までのガットル~
テオテナムという町にやってきた。
美味しい夕食を食べて、宿屋に戻ると、クレスタからお金が無いと告げられた。
勇者パーティーは、手分けしてお金を稼ぐ事になる。
ガットルは地図を片手に、配送業務をやっています。
荷物を渡し、サインを貰う。お礼を言いながら、頭を下げる。
庭で遊ぶ子供に手を振り返し、離れた。
今のが、最後の配送物。
間もなく日が沈む。予定通りだ。
テオテナム支部に戻り、業務完了の処理と報告をした。
今日の仕事はお終い。
宿屋に戻ってよいのだが。
「すいません。クレスタさん、何処にいるか分かりますか?」
クレスタが働いているのに、先に休みたくなかった。
彼女の仕事を手伝えるとは思えなかったが、出来る事はあるかもしれない。
「確認しますね。お名前をお伺いしても?」
「ガットルです。」
訪ねた商会員の人は通信機で何処かに連絡する。
二、三回のやりとりで、こちらに向き直る。
「お待たせしました。地下の会議室にいますね。会議はしていないので、来ていいそうですよ。」
「ありがとうございます。」
会釈して、地下へ。
会議室はすぐ見つかった。ノックして入る。
「お疲れ~ガットル君。どうだった?」
会議室というより物置かと思うほど何か置いてある。
ランプに照らされた薄暗い中、声の方向に向かう。
物に触れないよう、慎重に。
「トラブルなく終わったよ。地図も正確だったし、迷わずにすんだ。」
クレスタを発見。
「流石、頼りになるわ~。
もう少しで終わるから、そこに座って待っててね~。」
彼女は一人ではなかった。隣で何かの作業をしている男がいる。
集中しているようだし、すぐ終わるなら話しかけないほうがいい。
言われた通り座るが、スペースはぎりぎりだ。
「折角だし、ガットル君の意見を聞こうかな~。」
クレスタが近づいてきて、俺の隣に座るとメモ帳を出した。
「アサルトフローの調子はどう?」
頬杖をついて足を組んで、覗き込むように聞いてきた。
目元がやや疲れている気がする。
「いい感じだよ。でも、まだまだこれからかな。
もっと使いこなせれば、その分、強くなれると思う。」
おそらく彼女は、商品開発部の主任として聞いている。
だから、具体的に伝える為に頭を回転させる。
実戦で感じた事、訓練中、心がけている事を。
「魔力の消費量とタイミングで、滞空時間、瞬間加速スピードはだいぶ変わる。
感覚的な物で、人に説明するのはまだ難しいけど、コツは掴めて来てる。
またドラゴンと対峙する事があれば、あの時の三倍は長く戦えると思う。
ただ、咄嗟の時や余裕がなくなってくると、余計な魔力を使っちゃうな。
その辺りが課題だよ。」
なるほどね~と言いながら、メモっていた彼女が俺を見た。
「アサルトフローに魔力リミッターがあると、どう?」
「どう…なるんだ?」
「必要以上の魔力が流れないようになる。
つまり、使用者は魔力制御を行わなくてよい。
何も考えずに、全力で魔力を使用しても、余計な魔力は流れないから。
具体的には、そうね。
滞空モードと、加速モードを用意する。
モードチェンジで、リミッター上限を変更すれば、瞬間加速スピードも担保できる。
なんならリミッターそのものの付け外しも可能にするわ。
ちなみに、装置自体は小型。重さ大きさに変更はない。」
「それは、凄いな。」
表情で分かる。目処が立っているのだろう。
似たような事例があったのかもしれない。
「でも、遠慮したいかな。」
クレスタは不満そうな顔をしない。寧ろ笑顔で、続きを促す。
「アサルトフローを使いだして、自分の魔力制御レベルが上がった自覚がある。
魔法の威力もあがったんだ。
俺の周りは凄い人だらけだ。ついていきたいんだよ。
フフゴケ商会の力は知ってる。きっと魔力リミッターは完璧なんだ。
保険として使う、のは分かるんだけど、きっと頼ってしまう。成長が止まってしまう。
だから俺にはまだ早い。
もっと俺が使いこなせるようになって、その時テストが必要なら、引き受けるよ。」
頷きながらメモるクレスタ。なんだか恥ずかしい。
「アサルトフローをハイブリッド…、魔力と別のエネルギーで動くようになると、どう?
基本は今まで通りの魔力。でも魔力が残り僅か、そんな時に離脱できる。」
それは、欲しいかも。
「別のエネルギーって、エレキ?あの、機械製品を動かしてるやつ。」
「…そ~~なるかな。」
あ。という表情に彼女はなった。
「なら、多分アサルトフローはデカくなる?」
彼女は、頭をかいた。
「そうね。重さは何とか出来ても、一回り大きくなる。
ついでに、衝撃に弱くなるわ。」
「それだと、残念だけど無理かな。盾としても使ってるんだ。」
「盾として使うなら、装置を守る為に更に大きくなる。
その分魔力消費は増える。エレキで補ってチャラ。
つまり大きくなるだけ。ガットル君は大きさを変えたい訳じゃない。
ごめんね、ボケてたわ。」
クレスタは、深く息をはく。
そしてイスの背もたれに寄りかかって、ぐったりと天を仰いだ。
「機械製品って、ほんとはもっと小さく出来るはずなのよ。」
サニアの家のエアコンを思い浮かべる。確かに大きいが、しょうがないのではないか?
「バッテリーがどうしてもね。
送る線を用意できればいいんだけど。」
俺に言うという事は、愚痴だ。
気が晴れるのであればいい。いくらでも聞こうじゃないか。
「王国は中途半端にヨダーシルを参考にしているから、こうなるのよ。
参考にするなら、しっかりやればいい。
あそこは機械と魔法両方で栄えた都市なんだから。」
城塞都市ヨダーシル。アッブドーメンより西、ワイバン大陸中央の国だ。
「結局、王国は魔法廃止なんて考えてないのよ。だって最大の発電方法は、魔力発電なのよ。
魔王を討伐すると魔力が減る。
どのくらいの影響か分からないから、魔力なんてなくても平気と言って討伐デメリットを隠しているの。国民から不満が出ないように。
乗っかってるのはこっちだし、あんまり言いたくないけどね。
取り繕う気があるなら、せめて協力しなさいよ。どれだけこっちが苦労してると思ってるの。」
エスカレートしてきた。
どうせなら、お酒を入れたい。
でもまだ帰れない。
主任は、男性の作業が終わるのを待っているはずだから。
そう思っていると、丁度男性が近づいてきた。
「はい、お待ちどおさま。
チェック終了、問題なし。このまま納品できる。」
「ありがとう~お疲れ様~。」
男とクレスタがハイタッチする。
彼の事はもちろん知らない。ガタイのいい中年男性。作業着で無精ひげが目立つ。
「ああ、こちらソウヘーさん。テオテナム支部の商品開発部トップの人よ。
ガットル君の鉢巻きシリーズは、この人の作品。」
「え、ああ、いつもお世話になってます。」
ソウヘーと握手する。ポカポカの手だった。
最初の魔力運用効率上昇効果、次の冷却効果、そして今の魔力回復量上昇効果。
機械が入っていると言っても、硬かったりしないし、変な音も聞こえない。
かなりの技術者なのだと思う。
「ガットルさん、主任を頼むよ。この人寝てないから、下手したら路上で寝る。」
(聞いた事のある前科だ。)
「任されました。ちゃんと送り届けます。」
(酒場に行くんじゃなくて、宿屋で酒を出そう。)
「や~ね~寝ないわよ~。」
笑いながら立ち上がろうとした時、彼女の通信機が鳴った。
「はい主任。…うん、うん。オッケー。は~い、よろしく~。」
クレスタは左手を横に、右手を縦にする。両手でTの字を作った。
タイム、かな?
「サイン欲しいんだって。今急いで戻ってるらしいから、ちょっとゆっくりしましょう。」
「コーヒーを淹れよう。」
ソウヘーが奥に消えていく。
「ガットル君、先、帰ってもいいよ?」
「まさか。主任をちゃんと送り届ける任務が残ってる。」
これじゃあ、いつ帰れるか分からないし。
「真面目ね~。でも、ありがと。
そうそう、ガットル君のお陰で遅れは取り戻せたらしいから、配送は今日でお終い。
明日はサニアちゃんか、レーラスを手伝って。私も合流できると思う。」
「そうなのか。俺はもちろん構わない。けどクレスタは、商会が大丈夫なら休んでくれ。
人探しと採取なら、大丈夫だから。」
「いや~、ほんとにそこまで疲れてないのよ。
昨日の作業量を聞いた時は、やべーと思ったけど、皆が何とかしてくれたからね。
明日で片づけて、明後日は皆で観光しましょうよ。ディオルには悪いけど。」
脱力した笑顔で手をひらひらさせている。
大丈夫、な気もしてくるな。
明後日休めるなら、いいか。
「そういえば、ソウヘーさんがチェックしてた物って配送しなくていいのか?
納品できるんだろ?俺が運ぼうか?」
「あと同じものを二つ作るんだ。そして納品先はパーレ。
王国の勇者様一行に運んでもらう予定だよ。」
ソウヘーが戻ってきた。コーヒーを渡される。有難くいただく。
そうか、俺達が運ぶのか。
「ふと思ったんだけど、ウーイング王国の事、みんな王国って呼ぶよな。
なんでだ?パーレの町があるのも、バクー王国だろ?」
二人は顔を見合わせる。
クレスタが、やや困り顔で話してくれた。
「諸説あるんだけどね~。どれもいい意味じゃないの。
国境はあるわ。領土も、納税も、法律も、国軍も。
けどね?同じ国内でも、町と町の間には、魔物も盗賊も出る。
自然と町の独立性は高くなる。
いわば、町一つが小さな国みたいになるのよ。
だから、旅人も商人も、退治屋もかな。基本、町の名で呼ぶの。」
「そういえば、実際に独立して国になった町もあるって、ゴケさんに聞いた事あるな。」
クレスタは頷いて、続ける。
「ウーイング王国は、広大な領土に、王都のみ。
人々の行き来も、物流も少ない。
そこから、王国呼びの理由を考えると。
パターン1、近寄りがたい雰囲気から、王国と呼ばれ敬遠されている。
パターン2、閉鎖的なお国柄から、ハブられている。
パターン3、関わりがなさすぎて名前を憶えられていない。
そんな感じ。」
「…そうなんだ。」
なんというか。
ディオルが、王国は貿易したいって言ってたけど。
見方、変わってくるな…。
王国は、寂しいんじゃないか?
「すいません!お待たせしました!」
誰かが入ってきた。男性だ。書類みたいのを持ってる。
「はいはい、見せてね~。
ん、ん、ん~。」
コーヒーを飲みながら、様子を見守る。
問題なければいい。そう思いながら。
クレスタは眠いです。
だから、いっぱい喋って、寝ないようにしているような状況です。




