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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第五章 11人の堕天使と2大陸縦断英雄列車

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第169話 一方、その頃~レスガー大橋崩落事件~

~前回までのリハネ~


ゲームBに参加する事になった私達。

魔改造魔走車に乗り込んで、レーグ半島を目指す。

ゾト組、アイーホル組、マーア組。どこが一番に到着するか勝負だ。


◇登場人物◇ ※●が視点者

●リハネ    :ゾトの勇者

〇カナミア   :アイーホルの勇者

*リハネ視点*


 トスーチェ駅を出発した列車の中で、パルケが目を覚ましたり。

 魔走車が故障して、ポノが祈るように空を見上げたり。


 そんなのは、私が知る由もない話。


 ともかく、そんな午前9時。


 私達、ゾトの勇者パーティーは。

 アッブドーメン共和国の、テングロンという町にいた。


 レーグの魔王が現役だった頃は、小さな村だったらしい。

 それがここまでの町になったのだから、大したものだと思う。


 住民の努力なくして発展はない。

 しかし契機となったのは、魔王の討伐だ。


 勇者として。

 そして今まさに、魔王を討伐しようとしている身としては感慨深いものがある。


 (…。)


 そんな町の酒場。

 私は、いくつかある張り紙を眺めていた。


 それは、魔物の討伐依頼。

 町から出されているやつだ。


 こいつを持って役場にいけば、依頼の受注が出来て。

 討伐後に報告すれば、お金がもらえる。


 そう、私は。

 お金を稼がなくてはならない。


 理由がある。

 数時間前の話だ。




 私達は、トスーチェのストレブ山を登らずに迂回。

 フラスカを経由するルートを進んだ。


 休まず走行し続ける事、午前3時。

 アフラダイム川が見えてきた。


 あの川は国境。

 越えればアッブドーメン共和国のアッブドーメン大森林だ。


 大森林は、12時間くらいで抜けられる計算。

 なら明るくなってから、一気に抜けてしまおうという話になり。


 丁度いい所に、空き家があって。

 折角だから、休んでいく事にした。


 それが、最大の判断ミス。


 なんと空き家は、魔物だった。


 長年放置されて、魔力暴走を起こし。

 今では空き家を装って、近づいてきた旅人を喰らう化け物となった家。


 ドタバタの末、辛くも討伐した私達だったが。

 半分の荷物と全ての路銀が、奴の胃袋へ消えた。


 丸二日も飲まず食わずでは、魔王と戦うどころではない。

 だから私は、お金を稼がなくてはならないのだ。




 (…。)


 タイムリミットまで、あと53時間。

 休みなく魔走車を走らせれば、40時間で到着する予定。


 (3人いるから交代で寝れる。飲食も問題なし。

 買い物に1時間。

 国境検問所があと2つ、各1時間みとくか。

 不測の事態への対応に2、いや3時間とって、残り7時間…。)


 片道3時間の距離で、3人2日分の食料が買えるだけの報酬のものを探す。


 (…これは。)


 求めている依頼書ではない。

 片道5時間くらいかかるし、報酬もこんなにいらない。


 それでも目に止まったのは。

 書かれた被害状況が理由だ。


 (…壊滅。)


 被害を受けたのは、海岸付近の町。

 ほとんどの住民は隣町まで逃れられたみたいだが、食い止める為に残った兵士は全滅。

 建物のほとんどは壊れ、復旧の目処は立っていない。


 そして。

 こんな事をした魔物は、まだ健在。


 アッブドーメンの首都スターマークでは、討伐隊を編成中らしいが。

 早期解決を望む複数の町が、共同で依頼をだしたようだ。


 (藁にも、いや、退治屋にも縋る思いって訳か。)


 魔物の名前は、『キラークラウド』。

 聞いたことのない名前だ。


 (…。)


 町が一つ滅んだんだ。

 近隣の町の住民達は、不安でたまらない事だろう。


 もちろん、何とかしてあげたいという気持ちはある。


 しかし今の私達は。

 解放の魔王を討伐しないとならない。


 奴を放置すれば、町どころか国が滅ぶかもしれない。

 奴が満足するまで、この世界がめちゃくちゃにされてしまう。


 それだけは阻止しなければならない。

 そして、キラークラウドの討伐に向かえば間に合わなくなってしまう。


 (活発に動いている訳でもなさそうだし、軍も動いている。

 …魔王を倒した後、まだ残っているようなら。

 その時、討伐に向かえばいい。)


 私は依頼書から視線を外す。


 と、同時に。

 伸びて来た手が、依頼書を掴んだ。

 『キラークラウドの討伐依頼』を。


「お前は…。」


 依頼書を手にした人物。

 それは、カナミアだった。


「お前も、この町に来てたのか。」

「ええ、まあ。そうですね。」


 カナミアは依頼書をまじまじと見た後。

 それを持ったまま、踵を返す。


「おい、待てよ。」


 その背中に、声をかける。


「依頼を受注する気か?

 …勝負はどうするんだよ?」


 別に。

 そこまで勝負に、こだわってはいない。


 もちろん手は抜いていない。真剣だし、勝つつもりだ。

 それでも。

 私は優先順位を間違えたりしない。

 勝負は二の次で、一番は魔王討伐。


 勝負という言い方にしたのは、魔王という単語を出す訳にはいかなかったから。

 酒場内は人が多い。

 騒がしいとはいえ、聞こえるかもしれないから。


 そう、この質問は。

 魔王よりも、魔物退治を優先するのかという問い。


 そしてカナミアは。

 質問を正しく理解して、答える。


「到着まで、42時間。

 11時間も余裕があります。

 魔物を倒し、その後に目的地にいけばいい。」


「いや、それ。

 見込み甘くないか?」


 カナミアが振り返り、私を見る。

 真剣な表情だった。


「私は、別に報酬が目当てではありません。

 その為、報酬を受け取りに戻って来る必要がないんです。

 討伐報告なら、近くの町の伝書鳥で出来ますので。

 しかも魔物がいるであろうポイントは、やや遠回りですが通り道です。

 準備も万全。十分、間に合うと思いますよ。」


 ここでカナミアは、音制御ノイズコントロールを使う。

 周りの人に、聞こえないように。


「私は、被害を出さない為に魔王を倒しに行くんです。

 これほどの被害を出して、更に被害を広げる可能性のある魔物を、放置なんてしません。」


 最後に、私を睨みつけて。

 カナミアは酒場を出て行った。


 (…。)


 私があいつを認めているように。

 あいつも私を認めている。


 なんであいつが、ここにいたのかは分からない。

 けど、分かる事はある。


 あいつは勇者として、多くの魔物を討伐してきた。

 そこに住む人々の為に。


 それが、あいつの誇り。


 だから、こんな危険な魔物がいれば。

 討伐するのは当たり前の事。


 なのに。

 自分が認めている相手が。


 私が、依頼書を見たにもかかわらず目を逸らしたから。


 腹が立ったのだろう。


 それで、あんな挑発的な態度をした訳だ。

 「お前には無理だろうな、でも私なら出来る。」と。


 (まったく。私達は負ける訳にはいかないんだぞ…。)


 明らかにカナミアは熱くなってしまっている。


 だから。

 私は冷静に考えて。


 カナミアの後を追いかけた。




「悪かったよ、カナミア。」


 カナミアに追いついた私は、一番に謝罪した。


 ヨダーシルで一週間くらい行動を共にして。

 ガットルから話も聞いて。


 だから知っている。

 頭に血が上ったこの女は、再現なくムキになる。


 話を進めるには、下手に出たほうが速い。


「キラークラウドは強敵だ。

 しかもこの後に、大仕事が待っている。

 魔力も体力も、温存したかった。

 いや、言い訳だな。

 この規模の魔物とは戦った事はない。

 だから、私達だけで倒せるかどうか分からなかったんだ。」


 まあ、勝つけど。

 戦った事がないのは本当だし、温存は無理そうだしな。


「でも、お前達となら。

 アイーホルの勇者パーティーと協力できれば負ける気がしない。

 キラークラウド討伐に、私達も連れていってくれないか?

 私も、勇者なんだ。」


 正直。

 解放の魔王との戦いでは、カナミアの力が必要だと思う。


 そしてカナミアは、キラークラウドの討伐を諦めたりしない。

 彼女の仲間も、きっと止めたりはしない。


 アイーホルの勇者パーティーだけでも、討伐は可能だと思う。

 でも消耗は避けられないだろうし、最悪は魔王戦に間に合わない。


 で、あるならば。

 私達も同行した方がいい。


 その方が速く片付くはずで、そうすれば間に合わないなんて事もない。

 消耗を抑えられれば、到着までの間に回復も見込める。


 (…キラークラウドを倒したいと思う気持ちも、本当だしな。)


 だから。

 私はカナミアに手を伸ばす。


 握手を求める。


 カナミアは。

 少し、その手を見ながら考えて。


「分かりました、手を組みましょう。」


 私の手を握り返す。


 まあ、元々、解放の魔王討伐で共闘中のはずだったんだけど。

 私が勝負しようとか言い出したから、ちょっとややこしくなってしまった。


 後悔はしてないが、悪いとは思ってる。


「で、悪いんだけどさ。お金貸してくれない?」


 本当に、悪いとは思っているよ?




 キラークラウド討伐の為に共闘する事になった私達。


 あれから1時間経つが、まだテングロンの町にいる。

 正確には、町外れに駐めてある魔走車の中だ。


「…。」


 ミュナとトドゥンは、借りた金で買い出しに行った。


 ギリュウは仮眠。ここまで彼の運転だったらしい。


 そしてカナミアとアクスの二人は、本を読んでいる。

 いや、調べている。キラークラウドについて。


 (…。)


 別に、私だって本くらい読む。


 情報を軽んじたりはしない。

 事前準備の大切さは理解しているつもりだ。


 だけれども。


 どちらかと言えば私は、まずぶつかってみるタイプだ。

 逃走手段の確保みたいな、保険を用意した上で。


 『百聞は一見に如かず。』


 同じ名前の魔物だとしても、同じ魔物ではない。個体差はある。

 必ずしも情報通りではないのだ。


 ならば、実際に戦ってみるといい。

 増える情報も多いし、正確性もある。


 それにだ。

 速攻という手は、意外とハマる事が多いから。


 まず当たる。それから考える。

 それが、ゾトの勇者パーティーのやり方なのだ。


 (文句はない。

 今回は向こうが主体で、こちらが協力する立場だし。

 違うやり方を見るのも、新鮮だし経験になるだろう。

 …とはいえ。)


 カナミアが読んでいるのは、魔物について色々書かれている物だ。

 とにかく小さい字が、びっしりとあった。

 頭がくらくらするくらい。


 一冊が、かなりの厚さで、しかも六冊もある。


 私物との事だが、常に持ち歩いているのだろうか?

 そして毎回調べてから、戦っているのだろうか?


 ちょっと参考にならないかもしれない。

 私には無理そうだ。


「キラークラウドは。」


 視線は本のまま、カナミアが口を開ける。


「少ないですが、目撃情報のある魔物です。

 400年間で11件。前回は、52年前ですね。

 名前の通り雲の魔物で、風と水の魔法を使うみたいです。

 海上に発生するらしく、今回同様、海の近くの町が被害に遭う事が多いです。

 でも海から動かない訳ではなく、上陸した記録もあります。

 一番の被害は270年前。

 首都が壊滅して、滅んでしまった国もあったみたいです。」


 今でも、魔物の被害で滅ぶ村や町は存在する。

 備えを十分に出来なかったり、不運にも魔物の大軍に襲われたりで。


 それでも昔と比べれば。

 魔物の被害は減少しつつあるのだ。


 理由1、継承された魔法がある。

 編み出した強力な魔法を教え広める事で、個々のレベルが上がった。


 理由2、継承された知識がある。

 魔物に対する知識を持つ事で、遭遇率を下げて。

 出会ってしまっても適切な対応をする事で、逃走や討伐が可能となった。


 理由3、継承された技術がある。

 魔装具や魔道具。建物や町自体に、魔物対策がされている場合だってある。


 これらの継承が上手く言っているほど。

 長い歴史を持つ国ほど。


 特に、魔物相手には強い。


 (270年前とはいえ、1体で国を滅ぼした魔物か…。)


「特にヤバイのが、目撃数が二桁なのに討伐数がゼロという点です。」


 一瞬、倒せていないのに何でこんなに目撃数があるのか?

 という話かと思ったが違う。


 別に、『出会ったら最期、命はない』みたいな化け物ではないのだ。

 今回も、多くの人が逃げ出せている。


 (あの家の魔物のように、命を奪う事が目的ではない?

 ただ、そこにいるだけで被害を出す…。

 自然現象みたいな奴なのかもな。)


 それこそ台風に近いイメージ。

 風と水だし。


「そこはヤバイ点なのか?

 放っておいてもどこかに行ったって事だろ?

 逆よりは何倍もいい。

 まあ、今回は倒すけどさ。」


「ヤバイ点は二つです。

 一つ目。

 期間が長いという事。

 400年という長い年月の中には、伝説となっている英雄達がいます。

 アイーホルの歴代の勇者達、名を残している退治屋達、コア王国の英雄、現役時代のヨルタムアーの魔王。

 彼らがいる中、これほどの被害を出し、なのに討伐されなかった。」


「いや、でもそれはさ。

 タイミングとかもあるだろう?」


 私達は、たまたまこの町を訪れたから。

 だからキラークラウドを討伐しようという話になったけど。


 堕天使にゲームに巻き込まれなければ。

 このまま奴が海に消えれば。


 目撃数12、討伐数0。なんて事になっていたはずだ。


「もう一つは。」


 カナミアは、持っていた本を見せてくる。


 昔の交戦記録だ。

 キラークラウドとの。


 その年。

 海上に確認されたキラークラウドは、上陸の兆しを見せていた。


 上陸されれば、甚大な被害が出るかもしれない。

 危惧した領主の呼びかけにより、大規模な討伐隊が結成された。


 集まった中には、アイーホルの勇者。

 そして、私でも名前を知っている退治屋が何人も参加して…。


 (これ、橋が落ちたやつじゃねーか!?)


『レスガー大橋崩落事件』


 かつて。

 ライダ大陸とワイバン大陸を繋ぐ橋があった。


 いくつもの問題をクリアして。

 莫大な金をかけて。


 何十年もかけて建築した、史上最大の建造物。


 それが、52年前。

 崩落してしまった。


 原因は魔物の襲撃、とされている。

 討伐隊は全滅し、魔物は取り逃がし、橋は落ちたと。


 しかし、人々は。

 悲しむより前に、訝しんだ。

 本当にそんな事が起きるだろうか、と。


 討伐隊メンバーは、実力、知名度、人気、影響力、全てが高かった。

 だからこそ、この件は。


 陰謀論で溢れかえる事となる。


 1、架空の魔物をでっち上げる。

 2、邪魔になった彼らを、その正義感を利用して橋に集める。

 3、橋を破壊。

 4、爆発と崩落に巻き込み、一気に殺害。

 5、橋をも壊すパワーを持つ魔物が相手だったから、彼らでも勝てなかったのだと言い訳をする。


 ほとんどの陰謀論は、黒幕が変わるだけで大体この流れだったと思う。


 橋と、討伐隊以外の被害がなかった。

 魔物の死体が残っている訳でもない。

 そういった状況も、こういう説を助長させた。


 きっと彼ら、討伐隊メンバーが。

 命を賭したにも関わらず。


 守りたい物を守れず、倒したい物を倒せず。

 そんな無駄死にみたいな事になってしまったという事を、多くの人は認めたくなかったのだ。

 …クーラン大戦と、少し似ている。


 ともかく。

 魔物の発見から、戦いの後の大混乱。

 この一連の流れが。


 事故ではなく、襲撃事件でもなく、崩落事件と呼ばれるようになった理由。

 と、聞いた事がある。


 (事件の事は知っているけど、魔物の名前は憶えてなかったな…。)


 こんな有名エピソードに出てくる魔物だったなんて。


「一度も討伐されていないという事は、同一個体の可能性があります。」


 事件に思いをはせていた私は、カナミアの言葉を理解するのに時間がかかった。


「400年。

 現クーランの魔王の3倍。レーグの魔王よりも長い歴史。

 国を滅ぼし、多くの英雄を葬った、不敗の怪物。

 それが。

 私達の相手かもしれません。」


 あくまで可能性の話で。

 憶測の話だけど。


 (なんか昨日、言った気がするな…。

 ある場合、ない場合、二つの可能性がある時は、ある場合で考えるべき、みたいな事…。)


 魔王という大ボスの前の、中ボス戦。

 そんな感覚だったけど。


 大ボスより上の、裏ボスと先に戦う事になるかもしれない。


「OK。

 ヤバイ奴だという事は理解した。

 気を引き締めて、挑もうか。」

次回、キラークラウド戦。

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