第169話 一方、その頃~レスガー大橋崩落事件~
~前回までのリハネ~
ゲームBに参加する事になった私達。
魔改造魔走車に乗り込んで、レーグ半島を目指す。
ゾト組、アイーホル組、マーア組。どこが一番に到着するか勝負だ。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●リハネ :ゾトの勇者
〇カナミア :アイーホルの勇者
*リハネ視点*
トスーチェ駅を出発した列車の中で、パルケが目を覚ましたり。
魔走車が故障して、ポノが祈るように空を見上げたり。
そんなのは、私が知る由もない話。
ともかく、そんな午前9時。
私達、ゾトの勇者パーティーは。
アッブドーメン共和国の、テングロンという町にいた。
レーグの魔王が現役だった頃は、小さな村だったらしい。
それがここまでの町になったのだから、大したものだと思う。
住民の努力なくして発展はない。
しかし契機となったのは、魔王の討伐だ。
勇者として。
そして今まさに、魔王を討伐しようとしている身としては感慨深いものがある。
(…。)
そんな町の酒場。
私は、いくつかある張り紙を眺めていた。
それは、魔物の討伐依頼。
町から出されているやつだ。
こいつを持って役場にいけば、依頼の受注が出来て。
討伐後に報告すれば、お金がもらえる。
そう、私は。
お金を稼がなくてはならない。
理由がある。
数時間前の話だ。
私達は、トスーチェのストレブ山を登らずに迂回。
フラスカを経由するルートを進んだ。
休まず走行し続ける事、午前3時。
アフラダイム川が見えてきた。
あの川は国境。
越えればアッブドーメン共和国のアッブドーメン大森林だ。
大森林は、12時間くらいで抜けられる計算。
なら明るくなってから、一気に抜けてしまおうという話になり。
丁度いい所に、空き家があって。
折角だから、休んでいく事にした。
それが、最大の判断ミス。
なんと空き家は、魔物だった。
長年放置されて、魔力暴走を起こし。
今では空き家を装って、近づいてきた旅人を喰らう化け物となった家。
ドタバタの末、辛くも討伐した私達だったが。
半分の荷物と全ての路銀が、奴の胃袋へ消えた。
丸二日も飲まず食わずでは、魔王と戦うどころではない。
だから私は、お金を稼がなくてはならないのだ。
(…。)
タイムリミットまで、あと53時間。
休みなく魔走車を走らせれば、40時間で到着する予定。
(3人いるから交代で寝れる。飲食も問題なし。
買い物に1時間。
国境検問所があと2つ、各1時間みとくか。
不測の事態への対応に2、いや3時間とって、残り7時間…。)
片道3時間の距離で、3人2日分の食料が買えるだけの報酬のものを探す。
(…これは。)
求めている依頼書ではない。
片道5時間くらいかかるし、報酬もこんなにいらない。
それでも目に止まったのは。
書かれた被害状況が理由だ。
(…壊滅。)
被害を受けたのは、海岸付近の町。
ほとんどの住民は隣町まで逃れられたみたいだが、食い止める為に残った兵士は全滅。
建物のほとんどは壊れ、復旧の目処は立っていない。
そして。
こんな事をした魔物は、まだ健在。
アッブドーメンの首都スターマークでは、討伐隊を編成中らしいが。
早期解決を望む複数の町が、共同で依頼をだしたようだ。
(藁にも、いや、退治屋にも縋る思いって訳か。)
魔物の名前は、『キラークラウド』。
聞いたことのない名前だ。
(…。)
町が一つ滅んだんだ。
近隣の町の住民達は、不安でたまらない事だろう。
もちろん、何とかしてあげたいという気持ちはある。
しかし今の私達は。
解放の魔王を討伐しないとならない。
奴を放置すれば、町どころか国が滅ぶかもしれない。
奴が満足するまで、この世界がめちゃくちゃにされてしまう。
それだけは阻止しなければならない。
そして、キラークラウドの討伐に向かえば間に合わなくなってしまう。
(活発に動いている訳でもなさそうだし、軍も動いている。
…魔王を倒した後、まだ残っているようなら。
その時、討伐に向かえばいい。)
私は依頼書から視線を外す。
と、同時に。
伸びて来た手が、依頼書を掴んだ。
『キラークラウドの討伐依頼』を。
「お前は…。」
依頼書を手にした人物。
それは、カナミアだった。
「お前も、この町に来てたのか。」
「ええ、まあ。そうですね。」
カナミアは依頼書をまじまじと見た後。
それを持ったまま、踵を返す。
「おい、待てよ。」
その背中に、声をかける。
「依頼を受注する気か?
…勝負はどうするんだよ?」
別に。
そこまで勝負に、こだわってはいない。
もちろん手は抜いていない。真剣だし、勝つつもりだ。
それでも。
私は優先順位を間違えたりしない。
勝負は二の次で、一番は魔王討伐。
勝負という言い方にしたのは、魔王という単語を出す訳にはいかなかったから。
酒場内は人が多い。
騒がしいとはいえ、聞こえるかもしれないから。
そう、この質問は。
魔王よりも、魔物退治を優先するのかという問い。
そしてカナミアは。
質問を正しく理解して、答える。
「到着まで、42時間。
11時間も余裕があります。
魔物を倒し、その後に目的地にいけばいい。」
「いや、それ。
見込み甘くないか?」
カナミアが振り返り、私を見る。
真剣な表情だった。
「私は、別に報酬が目当てではありません。
その為、報酬を受け取りに戻って来る必要がないんです。
討伐報告なら、近くの町の伝書鳥で出来ますので。
しかも魔物がいるであろうポイントは、やや遠回りですが通り道です。
準備も万全。十分、間に合うと思いますよ。」
ここでカナミアは、音制御を使う。
周りの人に、聞こえないように。
「私は、被害を出さない為に魔王を倒しに行くんです。
これほどの被害を出して、更に被害を広げる可能性のある魔物を、放置なんてしません。」
最後に、私を睨みつけて。
カナミアは酒場を出て行った。
(…。)
私があいつを認めているように。
あいつも私を認めている。
なんであいつが、ここにいたのかは分からない。
けど、分かる事はある。
あいつは勇者として、多くの魔物を討伐してきた。
そこに住む人々の為に。
それが、あいつの誇り。
だから、こんな危険な魔物がいれば。
討伐するのは当たり前の事。
なのに。
自分が認めている相手が。
私が、依頼書を見たにもかかわらず目を逸らしたから。
腹が立ったのだろう。
それで、あんな挑発的な態度をした訳だ。
「お前には無理だろうな、でも私なら出来る。」と。
(まったく。私達は負ける訳にはいかないんだぞ…。)
明らかにカナミアは熱くなってしまっている。
だから。
私は冷静に考えて。
カナミアの後を追いかけた。
「悪かったよ、カナミア。」
カナミアに追いついた私は、一番に謝罪した。
ヨダーシルで一週間くらい行動を共にして。
ガットルから話も聞いて。
だから知っている。
頭に血が上ったこの女は、再現なくムキになる。
話を進めるには、下手に出たほうが速い。
「キラークラウドは強敵だ。
しかもこの後に、大仕事が待っている。
魔力も体力も、温存したかった。
いや、言い訳だな。
この規模の魔物とは戦った事はない。
だから、私達だけで倒せるかどうか分からなかったんだ。」
まあ、勝つけど。
戦った事がないのは本当だし、温存は無理そうだしな。
「でも、お前達となら。
アイーホルの勇者パーティーと協力できれば負ける気がしない。
キラークラウド討伐に、私達も連れていってくれないか?
私も、勇者なんだ。」
正直。
解放の魔王との戦いでは、カナミアの力が必要だと思う。
そしてカナミアは、キラークラウドの討伐を諦めたりしない。
彼女の仲間も、きっと止めたりはしない。
アイーホルの勇者パーティーだけでも、討伐は可能だと思う。
でも消耗は避けられないだろうし、最悪は魔王戦に間に合わない。
で、あるならば。
私達も同行した方がいい。
その方が速く片付くはずで、そうすれば間に合わないなんて事もない。
消耗を抑えられれば、到着までの間に回復も見込める。
(…キラークラウドを倒したいと思う気持ちも、本当だしな。)
だから。
私はカナミアに手を伸ばす。
握手を求める。
カナミアは。
少し、その手を見ながら考えて。
「分かりました、手を組みましょう。」
私の手を握り返す。
まあ、元々、解放の魔王討伐で共闘中のはずだったんだけど。
私が勝負しようとか言い出したから、ちょっとややこしくなってしまった。
後悔はしてないが、悪いとは思ってる。
「で、悪いんだけどさ。お金貸してくれない?」
本当に、悪いとは思っているよ?
キラークラウド討伐の為に共闘する事になった私達。
あれから1時間経つが、まだテングロンの町にいる。
正確には、町外れに駐めてある魔走車の中だ。
「…。」
ミュナとトドゥンは、借りた金で買い出しに行った。
ギリュウは仮眠。ここまで彼の運転だったらしい。
そしてカナミアとアクスの二人は、本を読んでいる。
いや、調べている。キラークラウドについて。
(…。)
別に、私だって本くらい読む。
情報を軽んじたりはしない。
事前準備の大切さは理解しているつもりだ。
だけれども。
どちらかと言えば私は、まずぶつかってみるタイプだ。
逃走手段の確保みたいな、保険を用意した上で。
『百聞は一見に如かず。』
同じ名前の魔物だとしても、同じ魔物ではない。個体差はある。
必ずしも情報通りではないのだ。
ならば、実際に戦ってみるといい。
増える情報も多いし、正確性もある。
それにだ。
速攻という手は、意外とハマる事が多いから。
まず当たる。それから考える。
それが、ゾトの勇者パーティーのやり方なのだ。
(文句はない。
今回は向こうが主体で、こちらが協力する立場だし。
違うやり方を見るのも、新鮮だし経験になるだろう。
…とはいえ。)
カナミアが読んでいるのは、魔物について色々書かれている物だ。
とにかく小さい字が、びっしりとあった。
頭がくらくらするくらい。
一冊が、かなりの厚さで、しかも六冊もある。
私物との事だが、常に持ち歩いているのだろうか?
そして毎回調べてから、戦っているのだろうか?
ちょっと参考にならないかもしれない。
私には無理そうだ。
「キラークラウドは。」
視線は本のまま、カナミアが口を開ける。
「少ないですが、目撃情報のある魔物です。
400年間で11件。前回は、52年前ですね。
名前の通り雲の魔物で、風と水の魔法を使うみたいです。
海上に発生するらしく、今回同様、海の近くの町が被害に遭う事が多いです。
でも海から動かない訳ではなく、上陸した記録もあります。
一番の被害は270年前。
首都が壊滅して、滅んでしまった国もあったみたいです。」
今でも、魔物の被害で滅ぶ村や町は存在する。
備えを十分に出来なかったり、不運にも魔物の大軍に襲われたりで。
それでも昔と比べれば。
魔物の被害は減少しつつあるのだ。
理由1、継承された魔法がある。
編み出した強力な魔法を教え広める事で、個々のレベルが上がった。
理由2、継承された知識がある。
魔物に対する知識を持つ事で、遭遇率を下げて。
出会ってしまっても適切な対応をする事で、逃走や討伐が可能となった。
理由3、継承された技術がある。
魔装具や魔道具。建物や町自体に、魔物対策がされている場合だってある。
これらの継承が上手く言っているほど。
長い歴史を持つ国ほど。
特に、魔物相手には強い。
(270年前とはいえ、1体で国を滅ぼした魔物か…。)
「特にヤバイのが、目撃数が二桁なのに討伐数がゼロという点です。」
一瞬、倒せていないのに何でこんなに目撃数があるのか?
という話かと思ったが違う。
別に、『出会ったら最期、命はない』みたいな化け物ではないのだ。
今回も、多くの人が逃げ出せている。
(あの家の魔物のように、命を奪う事が目的ではない?
ただ、そこにいるだけで被害を出す…。
自然現象みたいな奴なのかもな。)
それこそ台風に近いイメージ。
風と水だし。
「そこはヤバイ点なのか?
放っておいてもどこかに行ったって事だろ?
逆よりは何倍もいい。
まあ、今回は倒すけどさ。」
「ヤバイ点は二つです。
一つ目。
期間が長いという事。
400年という長い年月の中には、伝説となっている英雄達がいます。
アイーホルの歴代の勇者達、名を残している退治屋達、コア王国の英雄、現役時代のヨルタムアーの魔王。
彼らがいる中、これほどの被害を出し、なのに討伐されなかった。」
「いや、でもそれはさ。
タイミングとかもあるだろう?」
私達は、たまたまこの町を訪れたから。
だからキラークラウドを討伐しようという話になったけど。
堕天使にゲームに巻き込まれなければ。
このまま奴が海に消えれば。
目撃数12、討伐数0。なんて事になっていたはずだ。
「もう一つは。」
カナミアは、持っていた本を見せてくる。
昔の交戦記録だ。
キラークラウドとの。
その年。
海上に確認されたキラークラウドは、上陸の兆しを見せていた。
上陸されれば、甚大な被害が出るかもしれない。
危惧した領主の呼びかけにより、大規模な討伐隊が結成された。
集まった中には、アイーホルの勇者。
そして、私でも名前を知っている退治屋が何人も参加して…。
(これ、橋が落ちたやつじゃねーか!?)
『レスガー大橋崩落事件』
かつて。
ライダ大陸とワイバン大陸を繋ぐ橋があった。
いくつもの問題をクリアして。
莫大な金をかけて。
何十年もかけて建築した、史上最大の建造物。
それが、52年前。
崩落してしまった。
原因は魔物の襲撃、とされている。
討伐隊は全滅し、魔物は取り逃がし、橋は落ちたと。
しかし、人々は。
悲しむより前に、訝しんだ。
本当にそんな事が起きるだろうか、と。
討伐隊メンバーは、実力、知名度、人気、影響力、全てが高かった。
だからこそ、この件は。
陰謀論で溢れかえる事となる。
1、架空の魔物をでっち上げる。
2、邪魔になった彼らを、その正義感を利用して橋に集める。
3、橋を破壊。
4、爆発と崩落に巻き込み、一気に殺害。
5、橋をも壊すパワーを持つ魔物が相手だったから、彼らでも勝てなかったのだと言い訳をする。
ほとんどの陰謀論は、黒幕が変わるだけで大体この流れだったと思う。
橋と、討伐隊以外の被害がなかった。
魔物の死体が残っている訳でもない。
そういった状況も、こういう説を助長させた。
きっと彼ら、討伐隊メンバーが。
命を賭したにも関わらず。
守りたい物を守れず、倒したい物を倒せず。
そんな無駄死にみたいな事になってしまったという事を、多くの人は認めたくなかったのだ。
…クーラン大戦と、少し似ている。
ともかく。
魔物の発見から、戦いの後の大混乱。
この一連の流れが。
事故ではなく、襲撃事件でもなく、崩落事件と呼ばれるようになった理由。
と、聞いた事がある。
(事件の事は知っているけど、魔物の名前は憶えてなかったな…。)
こんな有名エピソードに出てくる魔物だったなんて。
「一度も討伐されていないという事は、同一個体の可能性があります。」
事件に思いをはせていた私は、カナミアの言葉を理解するのに時間がかかった。
「400年。
現クーランの魔王の3倍。レーグの魔王よりも長い歴史。
国を滅ぼし、多くの英雄を葬った、不敗の怪物。
それが。
私達の相手かもしれません。」
あくまで可能性の話で。
憶測の話だけど。
(なんか昨日、言った気がするな…。
ある場合、ない場合、二つの可能性がある時は、ある場合で考えるべき、みたいな事…。)
魔王という大ボスの前の、中ボス戦。
そんな感覚だったけど。
大ボスより上の、裏ボスと先に戦う事になるかもしれない。
「OK。
ヤバイ奴だという事は理解した。
気を引き締めて、挑もうか。」
次回、キラークラウド戦。




