第16話 金欠~問題発覚~
新しい町での、新しい話。
視点は再び、ガットルです。
*ガットル視点*
心地よい揺れで目を開ける。
馬車の中。
移動中だ。
そう俺達は、魔王を倒す為に旅をしている。
(えっと、次の行先は…、う!?)
突如、頭痛に襲われる。
(こ、これは、敵の攻撃か?なんて強力な魔法なんだ。皆は無事か!?状況を、確認しないと…。)
右手を伸ばす。何かに掴まり、立ち上がる為に。
その手が、誰かに捕まった。
「おはよう、ガットル。」
サニアだ。表情が険しい。声も。
「サ、サニア、無事か?どこか、怪我をしたか?」
彼女のダメージ次第では、緊急脱出しなければならない。
アサルトフローを探し、左手を伸ばす。
その手も捕まった。しかも軽く叩かれる。窘めるように。
「私は無事。もうすぐ着くから、大人しくしてて。」
「こ、攻撃を受けているんじゃないのか?」
だからこんなに、頭が痛いんじゃないのか?
「いい、ガットル。ゆっくりでいいの。
ゆっくり思い出して。昨日何があったのか。」
サニアの様子から、緊急時ではないと分かる。
だから言われた通り、昨日の出来事を思い出そうとする。
ゆっくりと。
(昨日は、確か、酒を飲んだ…。)
…。
もしかして、二日酔い?
(待て、なんでそんなに飲んだんだ?えーと?)
徐々に、頭が回ってくる。
カルフラタを出発した俺達は、スーフリンという町に到着した。
そこはトラブルなく、平和だった。
その次の町、トバースロン。
ここで俺は、ある人に再会した。
スーマミーサ。
誘惑やら色仕掛けの自慢話を話してきた、商会の客。
相変わらずの紐、いや、下着姿みたいな格好。
退治屋は現役らしいが、現在仲間と喧嘩中で一人らしい。
これも縁だという話になり、一緒に魔物の群れを倒しに行った。
以前の話だと、戦闘は仲間に任せるみたいな感じだったから、彼女が前線で戦うイメージはなかった。
しかし実際は、ゴリゴリの武闘派。
長い脚から放たれた蹴りの一撃で、一体の魔物は霧散した。
(俺達とは違う戦闘スタイル。学べる事もあるかもしれない。)
そう思わないでもなかったが、無理だった。
だって、直視できないから。
サニアだって、顔が真っ赤だ。
勇者とディオルとクレスタは涼しい顔をしていたが。
難なく討伐を終え、六人で夕食兼、打ち上げ。
そのタイミングで、スーマミーサの仲間がやってきた。鮮やかなほどスムーズに揉めた。
俺達にも原因があるような、ないような。
ワタワタしていると、勇者が言った。
『退治屋同士が揉めたなら、やる事は一つだと思う。』
急に始まった飲み比べ大会。
それが、昨日の夜。そして、俺の最後の記憶。
「…すまない。迷惑をかけた。」
明るさ的に真昼間。酒場から、馬車の上。文字通りのお荷物。
今すぐ穴に入りたい。
「あれは仕方ないわ。誰か悪いか、というのも難しいし。」
「そう言ってくれるなら、助かる。
ちなみに、彼女、スーマミーサは?」
「仲間と仲直り出来たわ。謝罪とお礼も受け取った。
ガットルによろしくって。」
「そうか、それはよかった。」
お別れが言えなかったのは残念だが、仲直り出来たならそれが一番。
縁があれば、また会えるかもしれない。
「ちなみになんだけど、あの飲み比べ大会って…。」
「14人中、ガットルは7位ね。大健闘だと思うわ。
スーマミーサさんが3位、ディオルが2位。」
サニアの顔が崩れる。半笑い?何か、思う所があるのか?
「優勝は、レーラスよ。」
馬車はゆっくりと、進んでいく。
暫くして、テオテナムに到着した。
アッブドーメン共和国、最後の町だ。
中々に歓迎ムードで、夕食もご馳走してくれるらしい。
街の宿屋にやってきた。
予定だと、ここに、三日間お世話になる。
頭痛も治ってきたし、時間まで武具の手入れ。
今やアサルトフローは、立派な相棒だ。
一応、予備の手配はしてくれているらしい。
だが可能ならば、こいつで魔王に挑みたいと思う。
(俺次第だ。もっと腕を磨かないとな。)
そうこうしているうちに、時間になる。
クレスタが「ごめん、先行ってて~。」と言うので四人で向かう。
料理は美味しかったし、酒は遠慮した。
(入国した頃は、波乱続きで心配だったけど、最近は襲撃もない。
実に順調じゃないか。)
このままトラブルなく行ければいい。
そう思う俺の視線は、ある空席で止まる。
結局食事が終わっても、クレスタはやってこなかった。
「お金がないの。」
宿屋に戻った俺達は、クレスタに集められ、告げられた。
「それは、大変、だね。」
慎重に、レーラスが答える。
他人事のように、聞こえないように。
正直、何のお金が、どれくらい足りないのかが分からないから、どれくらいの危機なのかが分からない。
判断材料は、クレスタの態度だけだ。
そしてそれだけで判断すれば。
勇者パーティーに俺が加入してから、史上最大の危機だろう。
「予定外の出費が多すぎたわ。
魔王討伐の旅なのは分かっている。予定は崩れて当たり前。
だから私が同行しているのよ。都度、修正する為に。」
俺達四人は行儀よくイスに座っていて、中央で立ったまま話すクレスタを見ている。
「この後は国境を越えてバクー王国。
パーレ、アトレーナ、キッドニの3か所に行き、魔王領のレーグ半島に向かうわ。
現状予測だと、勇者パーティーへの支援水準を下げる事なく辿り着ける。
だけど。」
クレスタが俺を見た。
なるほど、問題は勇者パーティー側ではなく、商会の方か。
「フフゴケ商会が魔王討伐に協力しているのは、売名の為。
討伐後の利益を見込んで、大金を使っている。
投資みたいなものね。
でも、もし討伐に失敗したら?」
「失敗しないよ。僕達は。」
そこだけは譲れないと言うように、レーラスが口を挟んだ。
クレスタは柔らかく笑ってから続ける。
「そうね、私も信じてるわ。
でも、商会員全員が信じてくれる訳ではない。
過去13回の失敗。魔王は強いから。」
「…。」
「失敗した場合、商会を立て直すのに必要とされる額。
それを下回りそうな訳よ。」
「フフゴケ商会は、撤退を考えているのか?」
もしそうなら、俺は。
ゴケさんには悪いが、商会員を辞めても旅を続けたい。
「まさか。
王国との約束もあるから、撤退は無い。
でも、商会を見限る会員が出てくる。
彼らにも生活があるから。
そうなると、フフゴケ商会は大打撃。
魔王を討伐して有名になっても、そのチャンスを生かしきれないかもしれない。」
抜けられると困る人が、抜けそうなのか。
抜けそうな人が、多いのか。
この辺りは俺ではどうする事も…、いや、そうか。
「だから俺達で、フフゴケ商会のお金を稼ぐのか。
もしもの時の保険を用意して、商会員に安心してもらう為に。」
俺が言うと。
「なるほどね、もちろん協力するよ。
クレスタは、大事な仲間だしね。
そして僕達に話をしてくれたという事は、いい荒事があるのかな?」
レーラスが間を置かず、答えてくれた。
「ありがとう。」
複雑そうな顔で、お礼を言うクレスタ。
そのまま三枚の紙を取り出して、一枚渡してくる。
「魔物の討伐依頼か。
中々強そうな奴だが、それにしては額が多くないな。
なるほど、目撃場所が離れているからか。リスクの割に、リターンが低い売れ残りだな。
どうした?退治屋に配慮したか?」
受け取ったディオルは、興味なさそうでも、ちゃんと協力してくれる。
「一番額の高い物がそれよ。昨日、魔物の群れを討伐した影響はあるかも。」
その報奨金は、飲み比べで消えた訳か。
「これ、ほんとに遠いよ?三日じゃ、現地に到着すらしないんじゃないかい?
僕達の滞在期間が延びれば、逆に出費が増えるよね。」
覗き込んだ勇者が言う。
「やっぱり、難しいかしら。」
三日以内というのが厄介だ。
俺一人でアサルトフローで飛んで行けばあるいは…。いやでも、一人で倒せるだろうか?
「引き受けよう。美味い飯を食べさせてもらっているからな。」
「ありがとう、いい早馬を用意するわ。それから…」
「大丈夫だ。馬の金は別に回してくれ。
地形的に、山を越えたほうが早い。飛んで行く。」
「「飛ぶ!?」」
「ディオルって飛べるのかい?」
サニアとハモった。お弟子さんも知らなかったらしい。
「ん?ああ、獄炎の衝撃でな。
火属性中級魔法の破裂、というか、サニアの火をイメージしてくれるといい。
瞬間的に爆発させるんだ。それを連続で行う事で、短時間ながら空を飛べる。
ガットルのと同じような仕組みだな。」
同じと言われても、俺はアサルトフローなしじゃ飛べないよ。
「よりアサルトフローに似ている魔法だと、噴出炎がある。
足から火を出して、大ジャンプする魔法だ。これも連続発動で空が飛べる。
俺の方法より、スピードは上だな。
ただこっちは直進的な動きになりやすいから、回避がしにくい。
一長一短、と言った所だ。」
珍しくディオルが長々と喋る。
きっと、飛べると聞いた時の俺達の反応が嬉しかったんだろうな。
「ほんとに凄い事だよ。どうして今まで飛ばなかったの?
僕が見てなかっただけかい?」
「使ってないな。必要が無かった。無意味に飛ぶと怒られるだろ?」
ディオルは、ニヤニヤしながらクレスタを見た。
「空中で無防備になるのがダメなの。移動できるなら構わないわよ。」
涼しい顔で躱す。
言われたのがサニアだったら、怒っていた。その態度に。
「実に頼もしいわ。じゃあこれはディオルにお願いして~。
次は、採取依頼。キノコと山菜。」
「これ、見た事あるな。運んだ事もある。俺が行くよ。」
似た見た目の、毒持ちがあるから気をつけないと。
「あ、ごめん。ガットル君にはやってもらいたい事がある。」
「え、そうなの?」
一体、なんだ?
「なら僕が行こうかな。こう見えても、昔はよく取ってたんだよ。」
勇者がクレスタから依頼書を受け取る。
「最後の一枚は私か。どんな内容?」
「お尋ね者の捜索。
色んな町に配られてるらしいから、この町にいるとは限らないわ。」
「うへぇ。」
サニアが変な声を出すのも分かる。
いるかどうか分からない人探しは、大変な上に徒労が多い。
「全力でやるけど、見つけられなくても怒らないでね。」
「頑張れサニアちゃん。」
「…。」
「そ、それで、俺にやってもらいたい事って何だ?」
「配送よ。テオテナム支部を手伝ってほしいの。」
なるほど。久しぶりの本職だ。
「OK。王国国内配送隊の実力を見せよう。」
こうして、この町での方針が決まった。
「皆、ごめんなさい。そしてありがとう。
明日から、よろしくね。」
『金欠』の話は、一応、クレスタのメイン会のつもりです。




