第168話 一方、その頃~魔王城を目指して~
少しだけ時間が戻って、ゲームB参加者達の話。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ワッポノ :マーアの勇者
〇リハネ :ゾトの勇者
〇カナミア :アイーホルの勇者
□セイ :ヨダーシルが開発した人工知能(AI)。諸事情でワッポノにも組み込まれている
*ワッポノ視点*
午後3時。
予定通り、ヨダーシルに到着。
協力してくれる事になったカナミア達と合流。
ゲームAの参加者と別れて、噂の魔改造魔走車の所まで行く。
時刻は、午後4時。
あと、およそ71時間後。
解放の魔王が、無差別攻撃を開始する。
俺達ゲームBの参加者は、それを阻止しにいく。
「4台あるんだな。」
魔走車を見ながら、リハネが呟く。
俺も意外だった。
魔改造魔走車なんて、いかにも法に触れてそうな名前だから。
てっきり、超巨大な1台だけを隠し持っているんだと想像していた。
マーアには魔走車なんてないけど、俺は魔走車を知っている。
前に、ヨダーシルに来た時に乗せてもらったから。
大きさも見た目も、こんな感じだったと思う。
(逆にいうと、見た目が同じだから複数台所持できたのか。)
一人で納得していると、リハネが言った。
「なあ、勝負しようぜ。」
淡々とした声で。
「ゾト組、マーア組、アイーホル組で、どの組が一番早く到着できるか。」
カナミアが答える。
氷のように冷たい声で。
「人命がかかっているという事を理解していますか?
ふざけている場合ではないですよ。」
「ふざけてなんか、いねーよ。」
一触即発みたいな空気。
二人のやりとりを初めて見る側は、固唾をのんで見守り。
見慣れた側は、またかと思った。
「いいか?
ゲームBは、堕天使を纏めるボスが相手だ。
それはもう、強敵なんだろう。
だが、真の強敵は時間制限。
辿り着けるかが、問題なんだ。」
約3年前。
ウーイングの勇者達は、レーグの魔王を討伐するのに半年かかった。
フフゴケ商会の宣伝も兼ねていたから、というのはある。
ウーイングからレーグへ行くより、ヨダーシルからレーグへ行く方が、距離的に少し近いというのもある。
しかしそれでも。
3日で辿り着けというのは、ふざけた話だ。
「この魔改造魔走車は、理論上51時間で到達できる。
20時間も余裕があるから夜は寝れるし、決戦前に十分な休息だってとれる。
流石はヨダーシルの技術力、脱帽だ。
しかし、そう上手くいくと思うか?」
「どういう事です?」
「私達が進むのは、平坦な道じゃないって事だ。
まずはトスーチェのストレブ山を越えないといけない。
フラスカまで迂回してもいいが、どちらにしてもアッブドーメン大森林は突っ切る必要があるだろう。
そこを無事、越えられたとして。
次のバクーは比較的平地が多いらしいが、最終地点はレーグ半島。
魔王城周辺がやばすぎて、そこばかり話題になるそうだがそうじゃない。
実際にいったガットルとかの話だと、アッブドーメン大森林なんて比較にならないそうだ。
人の手が入っているかどうかの違いだな。
そこを最奥の魔王城まで、進まないといけないんだ。
自然を舐めてはいけない、なんて。
言うまでもないだろう?
カナミア達は、ラゼン山脈。
そして私達は、クーランの近くにいたんだから。」
「なら尚の事、一緒にいた方がいいのではないですか?
一台に9人は窮屈でしょうから、複数台で行くのは賛成です。
しかし、固まって動くべきです。
その方が、不測の事態に協力し合えますから。」
「問題が、それだけならな。」
「何を、警戒しているんですか?」
「所在が不明な堕天使がいる。3人ほどな。」
「妨害が、あるとでも?」
「ある保障はないが、ない保証もない。
なら、あった時の事を考えるべきだ。
一番やられて致命的なのは、なんだ?
私が考えるに、それは。
奇襲による一網打尽だ。」
「だからバラバラに進むというのですか?
納得できません。
奇襲された時も、人数がいた方が有利のはずです。」
「洗脳中で覚えていないかもしれないが、私にはインフェルノフォールっていう魔法がある。
まあ、あれ自体は、私のオリジナルなんだけど。
要は、魔法を使えば。
周囲への被害なんて考えなければ。
地面に、でっかい穴を空けるなんて事は容易いんだよ。」
普通なら。
出来たとしても、やったりしない。
法があるし、倫理観があるから。
よっぽどな理由とか、やむを得ない事情とか、そういうのがあって。
それでも、やるかやらないかを悩むレベル。
でも、相手は堕天使だ。
法なんてないし、奴等にとって俺達は対等な人間ではない。
となれば。
可能性は、寧ろ高いのか?
「いきなり現れる、めちゃくちゃデカい落とし穴。
躱せると思うか?私達は魔走車の運転に慣れていないんだぞ?
固まっていたら、間違いなく3台とも穴に落ちる。
私達は無事かもしれない。
でもそれで、魔走車が壊れたら?
詰みだよ、それは。
それが、私の考える最悪だ。」
「…確かに、一理ありますね…。」
カナミアが頷いた。
(確かに一理はあるかもしれないけど、リハネはカナミアと勝負がしたいだけなんだよなぁ。)
リハネは。
自分の意見を通す為に、もっともらしい事を言うのが得意な奴だ。
自信満々に言うから、それもそうかぁって思ってしまう。
そしてカナミアは真面目だから、こういうのに騙されやすい。
とはいえ。
この考えを、口に出したりはしない。
出したところで、ではあるし、なにより。
俺も、勝負はしたい。
(模擬戦では相変わらず、リハネに勝てていない。)
魔装具の使用が禁止だから、なんて言い訳はしない。
MDFを使えないのも、愛用の剣を使えないのもお互い様だから。
(戦いで勝てないから、戦い以外で勝ちたい、なんて、つまらない事は言わない。
戦いでも勝てるようになるし、戦い以外でだって負けたくないんだ。)
リハネが、カナミアしか見ていなかったとしても。
俺は、二人の勇者をライバルだと思っているから。
「いいでしょう、勝負に乗ります。
そして別々のルートで進み、魔王城前で集合です。」
「制限時間の1時間前。3日後の午後2時がリミットだ。
それまでに集合場所に来なかったら置いていく。
っていうルールでいいよな?」
リハネとカナミアが、拳と拳を合わせる。
そこに。
俺も拳をつけた。
カナミアを見る。
頷いてくれたから、頷き返す。
リハネを見る。
ニヤニヤしてやがるから、睨みつけてやる。
(絶対、勝ってやる…。)
「…話がまとまったようなので、操縦の説明をしますね。」
運転は、基本的にカソローがするはず。
だから説明を聞くのは彼に任せる。
俺は、少し離れて地図を広げた。
この戦い、どう進むかが勝利の鍵だ。
「基本はこの、スーパージェットモードで走行して下さい。
ただ、こちらのセンサーに反応があった場合はモードを解除して減速を。
行商人や旅人を、跳ね飛ばす事のないようにお願いします。」
見慣れない地図を眺めていても、サッパリ分からない。
しかし、俺には奥の手がある。
ちょっとだけ魔力を込めて。
MDFを少しだけ起動。
少しというのは、だいたい…。
姿が変わる直前で、一部の機能が使えるくらいだ。
一部の機能というのは、セイの事である。
(演算してほしい事がある。)
『…なんですか?』
周りに気づかれないように、所謂、脳内での会話になるんだけど。
セイは、なぜか不機嫌だ。
(この地図を見てくれ。
ヨダーシルからレーグ半島まで行きたいんだ。
魔改造魔走車っていう、とんでもないスピードが出る魔走車で行くんだけど。
もっとも効率のいいルートを検索してくれ。)
『ヨダーシル、トスーチェ、アッブドーメン、バクー、レーグの順です。』
(いや、それは知ってる。もっと詳細な情報が欲しい。)
『この大雑把過ぎる地図から読み取れる情報は以上です。
詳細な情報が欲しいなら、詳細なデータを下さい。』
それは、まあ。
…そうだよな。
「これは、ハイパーダッシュボタン。
一時的に、超加速が出来ます。
ただ燃料を多く消費しますから、ここぞという場面以外では使わないで下さい。
使い過ぎると燃料が足りなくて、目的地前に止まってしまう可能性があります。
あくまで、緊急時の脱出用だと思っておいて下さい。」
『あ、待ってください。ここは、ヨダーシルですか?』
(そうだけど?)
そう言えば、「ヨダーシルからレーグ半島へ」とは言ったけど。
現在地がヨダーシルとは伝えてなかったか。
『なら話は別です。セイのネットワークに入り、情報を取得できますから。』
(え、確か、出来ないって話じゃなかったっけ?CMDの時。)
『あの戦いの後、ヨダーシルの技術者が色々やっていたでしょう?
私はパワーアップしたんです。』
(なら、頼むよ。)
ちょっと、モヤモヤするけど。
出来るならよかった。
少しして。
俺の頭に、情報が流れてくる。
「ちなみに燃料は、こちらの魔鉱石。
このメーターが減ってきたら、ここの穴に入れて下さい。
あと、燃料の隣に車輪の換えもあります。
使わないに越したことはないですが、もしもの時は使って下さい。」
(こ、これは!?)
凄い。
レーグ半島なんかに行った事は一度もないのに。
まるで馴染んだ帰り道のように。
くっきりとルートが頭に浮かぶ。
(付近の町の工事状況や、土砂崩れの情報まで分かる。
一体ヨダーシルは、どうやってデータを集めているんだ!?)
情報は力だ。
それを俺達は、こんなにも独占できている!
共有すべき?
いや、これは勝負だから。
別々のルートで行くのは作戦だから。
ずるい?
そんな事はない。
DFDRは俺の力。
当然、組み込まれているセイの演算能力も俺の力。
(勝てる、勝てるぞ!俺は!!)
「ああ、これですね。
ウルトラジャンプボタンです。
こちらは、使用禁止でお願いします。
調整不足というか、未完成なんですよ。
完成していれば、海の上を走れてアッブドーメンからレーグ半島にいけたかもしれませんが…。
あ、ハイパーダッシュボタンと間違えないように注意して下さい。
謝って押すと、たぶん、爆発します。」
不穏な単語が聞こえて。
思わず振り返ってしまう。
え、爆発するの?
「最後に、これが各国の入国許可証です。
それでは皆さん、検討を祈ります。」
少しだけ、不穏を残しつつ。
俺達は魔王城を目指して、出発した。
約17時間後。
翌日、午前9時。
俺達の旅路は順調だった。
時間的には、アッブドーメンに入れていれば安全圏。
そこを俺達は。
小休憩をはさみつつも、アッブドーメン大森林を半分以上進んだ。
普通なら休憩なしで走り続けないと、ここまで進めないだろう。
でも俺達は。
人の通らない道を、スピードの出せる平らな道を、迷う事なく選ぶ事が出来るのだ。
だからこそのハイペース。
まさに情報の大勝利。
の、はずだった。
「…どうして、こんな事に…。」
俺達の乗る魔走車は、止まってしまった。
燃料切れではない。
車輪が、何かに絡まっているとかでもない。
原因不明。
魔改造魔走車は、違法物だけあってデータが無かった。
だからセイにも分からない。
今、カソローが。
一生懸命説明書を読んでいる。
「ポノー、早く行くよー!」
ツツジが呼んでいる。
カソローが魔走車を直せなかった時の為の、セカンドプラン。
それを実行する為に、俺とツツジは近くの町を目指すのだ。
「…。」
魔改造魔走車の存在を知るユンゼスは、今頃、列車を運転しているはずで。
連絡を取る事が難しい。
きっと、あの魔走車は。
もう動かないのだ。
(この際、リハネ達に負けるのは仕方ない。
でも、魔王との戦いに間に合わないのは、嫌だ…。)
俺は、勇者だから。
祈るように空を見て。
ツツジの後を追いかけた。
ポノ編終了(笑)
まあ、最後の方に活躍が残っているはずなので、一旦は。
次回より、リハネ&カナミア編~




