第166話 3/6:ネクーツ周辺~内部事情~
解放の輝旗には、『ヒキリカメラヒ』という人物がいる。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ヒキリカメラヒ:解放の輝旗メンバー
〇セウオン :解放の輝旗リーダー
〇ミフダ :解放の輝旗メンバー
〇ゼユウ :フレン王国の人
*ヒキリカメラヒ視点*
『勝てば官軍、負ければ賊軍。』
要は勝てればいい。
そう言われて、嬉しかった。
単純で、分かりやすかったから。
なのに。
勝ったのに。
俺は鎖につながれていた。
「なら単純だよ。
お兄さんは負けたんだ。」
間もなく日が沈む、そんな頃。
その少年はやってきた。
赤く染まる世界の中で。
牢の外側と内側、少年と俺は話をする。
「違う、俺達は勝った。
総大将の首を取ったのは俺だ。
逃げ散る雑兵も殲滅した。
あれで、負けの訳がないだろう?」
前哨戦では勝ったけど本戦で負けた、とかではない。
あそこは最終決戦の場で。
総大将が実は影武者でした、なんて話でもない。
では、なぜ?
こんな事に?
「えっとね、お兄さんの属していた陣営は勝ったよ。
でも、お兄さん本人が勝ったんじゃない。」
「…。」
「お爺ちゃんが言っていたよ。
今回の戦い。
どっちが正しいって話になったら、それは相手側。
お兄さん達は、悪者だったんだ。」
「違う。
こちらにも、義はあった。
そして勝ったんだから、こっちが正義だ。」
「…なんだか難しいね。
ちょっと整理してみようよ。」
少年の背後が燃え上がる。
現れたのは、炎のイス。
少年はそこに腰掛けて、話を続ける。
…熱くは、ないんだろうな。
「お兄さん陣営にも…。
そうだね、1割くらいの正しさはあったかもしれない。
でも、程度の問題なんだよ。
1対9なら、正しいのは相手側。
お爺ちゃんが言っていたのは、こういう事だと思う。」
「…。」
「だからこそ、正義の名の下に人が集まったんだ。
多かったでしょう?敵は。
でも、その人数差を覆して、お兄さん陣営は勝ったんだ。
強かったんだよ、お兄さん達は。
そんなのに逆らいたくない、潰されたくないしね。
だから。
一つの戦いが、ここで終わったんだよ。
で、問題。
戦いが終わると、どうなると思う?」
「…それは、祝勝会とか、戦後処理とか…。」
目の前の少年が、気味の悪い笑みを浮かべる。
だからこんな様なんだと、嘲笑が聞こえた気がした。
「答えはね。
次の戦いが始まるんだ。
特に今回はやる事が多いね。
なんたって黒を白にしないとだから。
大義名分というのは厄介なんだ。
放っておくと、正義を振りかざす別の奴が現れて、そいつとの戦いが始まっちゃう。疲弊した所に連戦なんて嫌でしょう?
そういうのを防ぐ、武器を持たない戦いがあるって訳。
まあ白を黒にする方が楽だから、今回はそっちを頑張っているみたいだね。
お兄さんの言う、『勝った方が正義』方式。
よく聞くけどさ。
実現させるのは、口でいうほど簡単じゃないよ。
時代とか場所とか、背景にもよるんだろうけどね。」
ここまでくれば。
少なくとも、こいつの言いたい事は分かる。
心当たりが、ない訳でもないから。
「…つまり俺は。
俺が気付かない所で始まった、正義を主張する為の戦いに巻き込まれて。
俺の属する陣営が正義になる為に、何かの罪を押し付けられたって事か?」
その戦いに、俺は負けたのか?
「そういう事。
お兄さんは間もなく処刑されるよ。
訳が分からない内にね。
当然、何の準備もしていないお兄さんには打つ手がない。
詰み、だね。」
「…お前は、俺を笑う為に来たのか?」
「まさか。
提案をしにきたんだよ。
俺は、お兄さんの力に興味がある。
あの戦場を単騎で駆け、大軍を蹴散らし、総大将の首を取ったその力に。」
少年は、イスから立ち上がる。
そして俺に、手を伸ばす。
「仲間になってよ。
そしたら、ここから出してあげる。」
一目見た時から。
その尋常じゃない魔力に、気づいていた。
こいつは俺より強い。だから、こいつには逆らえない。
そう思ったから、馬鹿正直に受け答えをした。
拒否権があるとは思えなかったから。
しかし。
どうやら最後に、選択権があるらしい。
こいつと共に行くか、それともこのまま死ぬか。
「一つ、教えてくれ。」
「何?」
「お前は、何をしようとしているんだ?
この『つまらない』世界で。」
少年は、笑う。
楽しそうに。
「世界に『楽しい』も、『つまらない』も、ないよ。
『楽しむ』か、どうかさ。
だから遊ぼう。気の向くままに。」
鎖を引き千切る。
立ち上がり、鉄格子の所まで歩く。
魔法的防御が施されているであろう、それを掴む。
左右に引き、曲げる。通れるだけの隙間を作る。
「♪~流石。」
自力で脱獄した俺は、少年の前に跪く。
「俺を、お前の仲間に入れてくれ。」
遊びたかった訳じゃない。
楽しみたかった訳じゃない。
俺よりも強く。
故に、俺以上に世界がつまらないであろう少年が、笑ったのだ。
その笑顔が、いつまで続くのか。
その事に、少しだけ興味が沸いた。
それだけの話。
そしてこれが。
後に解放の輝旗のリーダーとなる、セウオンと言う名の少年との出会いだった。
「久しぶり~、ヒーヒは元気だった?」
「その呼び方を許可した覚えはない。人の名前を変な略し方するな。」
「でもさ~ヒーヒ。ヒキリカメラヒって、言いにくいよ。」
「相変わらず無礼な奴め。いちゃもんをつけるな、人の名前に。」
言いにくいとは、自分でも思うが。
「で、何の用だ。
俺の知る限り、ミフダという男は用もないのに男に話しかけない。」
「その通りさ。
…今回のゲーム、どう思う?」
ミフダにしては真面目な声。
何かあるのかと勘ぐるが、あいにく駆け引きが出来る頭も情報も持っていない。
だから、普通に答える。
「どうも何も、いつものセウオンの思いつきだろ?
中々な規模の遊びだが、エンビッケとケリをつける気になったのなら納得だ。
おかしい所はない。」
「あの二人に関しては?」
バルドラッシュと、ザリキルダの事か。
「相手はあのエンビッケ。
ソウルブレイカーは必要だし、戦力は多いに越したことはない。
一時的な共闘は、当然だと考えるが?」
「…そうか~、まあ、そうか。」
何なんだ、一体。
不明瞭すぎてイラついてきたな…。追っ払うか?
「いや、悪い!深い意味はないんだよ。
ただ、いきなりやってきてデカい顔してるから、最古参のヒーヒ的にどうなのかなって思って…。」
イラついたのが伝わったのか、ミフダはペコペコ頭を下げる。
「本題前の、軽い世間話のつもりだったんだ~。
本題は、これから~。」
「なら、さっさと話せ。」
「ゲームAに、俺も参加したい。」
意外だった。こいつがナンパ以外に意欲を出すなんて。
しかし。
「無理だな。」
「ええ!何でさ!」
「あの配置は適当に決めたんじゃない。
新人のペアンワとアツペーを抜いて、後は能力の低い順に敵と当たるようになっている。
強い奴が最初に配置されたら、そこでゲームが終わってしまうだろ?
なるべく多くのメンバーが暴れられるようにした結果だ。
もう周知もしてあるし、メンバーは移動を開始している。今更、変えられん。」
まあ、もちろん。
最初のセングスで終わる可能性もある。
と、いうより。セングスで終わると思っている。
だが、セングスに全滅させられるような相手なら、上位陣は満足のいく戦いなど不可能。
どちらにせよ、という話だ。
「俺がいないんだけど?」
「お前はやる気がないだろう?だから外したんだよ。」
本気を出せば。
マーアの駅のシフダよりも強いだろうに。
「参加したいんだって、俺も!」
「急にどうした?どんな理由があるんだ?」
ミフダは、今まで以上に真面目な顔で。
俺を真っすぐに見つめて、言い放つ。
「ゲームAに参加するサニアって子、すげー可愛いんだよ!
俺、彼女とデートしたい!」
頭が痛くなった。
ゆっくり深呼吸して、目を合わせないようにして言う。
「で、何?俺に話を振ったという事は、俺と変わってほしいって事?」
「いや、ヒーヒにそんな事いわないよ~。
でもリーダーに意見できるのは、ヒーヒくらいだろ?頼むよ~。
俺をゲームAに参加させてくれ~。」
面倒くさくなった俺は。
そもそもお前の実力だと後ろの方だから、それまでサニアとやらが生き残っている保障はない。
なら、このままゲームに参加せずに列車を襲撃し、サニアを攫ってしまえばいい。
ルール的に禁止はされていない。
そう丸め込んで、ミフダと別れた。
それが、一昨日の事。
「まさか、お前が敗れるとはな。ミフダ…。」
天力で分かる。
ペアンワ、アツペー、ミフダ、セングスの4名の堕天使が倒された。
(勇者隊…。少し、舐めていたか?)
解放の輝旗は、11名。
しかし、その内の二人はバルドラッシュとザリキルダ。
一時的な協力者で、正規メンバーではない。
本来の輝旗は、セウオンと彼の8名の部下で構成されている。
つまり、半数がやられたという訳だ。
「…。」
問題はない。
俺を含めて、まだ4人もいる。
ゲームAで俺達が敗北するなど、ありえない。
しかし。
想定外のミフダの敗北が、嫌な空気を感じさせる。
まだ遠い。それでも。
敗北の二文字が、ちらついている。
(いつ以来だ?こんな気持ちになるのは。)
解放の輝旗を名乗るようになって。
苦戦を感じた事は、一度も無かった。
エンビッケが相手の時もだ。
しつこくてウンザリするな、とは思っても。勝てない相手だと思った事はない。
常勝。
完璧な勝利を重ねてきたのだ。
それが、崩れた。
被害を出した今、完全勝利は無い。
だからこそ。
忘れていたものが、込み上げてくる。
(徐々にだが、浮かんでくる景色があるな。)
それは。
あの時の、戦場。
圧倒的な戦力差、戦う前から敗北必至と言われた、絶望的な戦。
そして。
それを覆した時の、あの高揚感。
今更になって気づく。
あの時は、楽しかったのだと。
そう、俺は求めていた。
負けるかもしれない戦い。そしてそれを、俺が覆す瞬間を!
(速く来い…。早く、俺と戦おう…!)
「あのー。」
今、俺は。
ネクーツの駅が見える位置、少し離れた場所で待機している。
まだ、日が沈みそうな時間だから。
列車が到着する時間は、日が沈んだ後だから。
下手に近づいて、騒がれるのもウザイから。
(そんな俺に、話しかけてくる奴だと?
いや、そもそも。何で俺は、こいつの接近に気づかなかった?)
音制御を、使っているのに。
「何してるんですか?こんな所で?」
白髪で杖をついているが、おそらく若い男。
相当な魔力と、僅かに天力を感じる。
勇者隊ではない。が、ただの一般人であるはずがない。
俺は風刃を放つ。
もちろん、殺すつもりで。
そしてそれは。
男の風刃に弾かれた。
男は俺を睨みながら、低い声で言う。
「勇者隊を、いや、パルケさんを狙う堕天使…で、合ってるよな?」
俺は。
堪えきれずに笑いだす。
本当に、丁度いい所に来てくれた。
戦いたくて、仕方がなかったんだ。
ウォーミングアップに、付き合ってくれ。
「解放の輝旗、ヒキリカメラヒ。
誰だか知らないが敵みたいだから、ここで殺す。」
「フレン王国、王女護衛隊隊長(休隊中)、ゼユウ。
危ない奴だと分かったから、ここで倒す。」
どんな事情があるかは知らないが。
戦う理由は、これくらい単純でいい。
ゼユウ編だけど、ゼユウ視点はありません。
そして次回でゼユウ編は終わります。
ヒキリカメラヒ。
言いづらいというか、イントネーションが不明(笑)




