第165話 3/6:ネクーツ周辺~初めまして~
~前回までのパルケ~
ヨダーシルに到着した私は、勇者隊の人達と一緒に列車に乗った。
そしてサニアから事情を聞く。私は、あるゲームに巻き込まれたらしい。
色々と思う事はある。モヤモヤしながら、私は寝た。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●パルケ :センレイ会、会長の妹
〇ガットル :勇者隊メンバー
〇サニア :勇者隊メンバー
〇ロストン :勇者隊メンバー
〇ユンゼス :列車の運転手
*パルケ視点*
むくりと起き上がり、時計を確認。
列車の旅、二日目、午前9時。
いつもより、だいぶ遅い時間に目が覚めた。
(…。)
寝つきは悪かった気がするけど、どうやら爆睡できたようで。
頭はかなりスッキリしている。
現状把握もバッチリだ。
今、私は。
解放の輝旗なんていう、謎の集団のゲームに巻き込まれていて。
護衛してくれる勇者隊の人達と一緒に、ヨダーシルから列車に乗ってジドルを目指している。
身だしなみを整えて、食堂車へ向かう。
その扉の前で、深呼吸する。
きっと勇者隊メンバーがいるはずだ。
私はセンレイ会、会長の妹。
なのに、朝寝坊という醜態を晒してしまった。
(名誉を挽回する為に、元気な挨拶をする!)
その後は、まあ、流れで。
(サニアとは仲良くなれたから、いてくれると、ありがたいけど…。)
などと考えつつ、扉を開ける。
「おっ!?」
『おはようございます!本日もよろしくお願いします!』そう言いたかったけど、言えなかった。
食堂車が煙い。
勢いよく吸い込んでしまい、むせてしまう。
「おはようさん。」
声の主はロストンさん。
何かを焼いているようで、香ばしい匂いがする。
「…おはよう、ございます。」
(窓は、開いている。換気はしているはずなのに、なんて煙!)
何かを間違えているんじゃないだろうか?
そんな感想を抱きつつ、窓際の席に座った。
そして気づく。
レイアウトが変わっている。
それだけじゃなくて。
イスや机。なんなら床や天井の模様、窓枠なんかも昨日と違う。
(…食堂車自体が、変わっている?
いやいや、こんなスピードで走る車両を入れ換えるなんて事、いくらヨダーシルでも出来るわけが…。)
そこまで考えて。
現時刻、午前10時の意味を思い出す。
(…トスーチェ駅を、通過している。)
おそらく駅にて、車両の入れ替えがあったのだろう。
でも、一体なぜ?
ドンっと。
目の前に、お皿が置かれる。
肉汁たっぷりのステーキだ。
「どうぞ召し上がれ。」
笑顔のロストンさんが、そこにいた。
「…。」
「遠慮しないで食っていいぞ。冷めると硬くなっちまうからな。」
別に遠慮している訳ではない。
朝から食べたいと思うメニューではないが、食べられない訳ではない。
寧ろ、美味しそうだ。
それでも私が、食べられていない理由は。
ロストンさんに教えてもらった私が寝ている間の出来事に、衝撃を受けていたから。
1、二人組の堕天使に襲撃される。
2、食堂車をボロボロにされて、サニアが攫われる。
3、堕天使の一人を倒す。
4、トスーチェ駅に到着。
5、車両変更中に、堕天使を一人倒す。
6、ネクーツに向けて出発。現在、走行中。
「ちなみにトスーチェ駅にいた堕天使、セングスって名乗ってた奴なんだけど。
そいつを倒したのもガットルだ。
いや~凄い数の火球だった。
俺の水壁を信用してくれていたのは嬉しいけど、一歩間違えれば駅ごと丸焼きになる所でさ。
サニアの件、めちゃくちゃ引きずってるな、あれは。」
午前7時の話だそうだ。
流石にガットルも疲れたようで、今は休んでいる。
「…それは、心配でしょうよ…。」
捕縛網にかかった堕天使を検索できる物があるみたいで。
それによると、サニアを攫ったミフダという堕天使の捕縛には成功したらしい。
しかし、彼女の無事を証明するものではない。
相打ちという可能性だってある。
サニアは、いい人だ。
絶対に無事でいてほしいし、辛い目にもあっていてほしくない。
私ですら、こんなにも落ち着かないのだ。
昔からの仲間であるガットルなら、尚更…。
「大丈夫だと思うけどな~、だってサニアだろ。」
ポテトみたいなのを摘みながら、ロストンさんは言う。
軽薄なのか信頼からなのかは分からないけど、イラッとする態度だ。
でも。
私には何も言う資格がない。
(そんなに色々おきていたのに、爆睡していたなんて…。)
ベッドがフカフカで、防音もしっかりしていて、とか。
そういう言い訳ならあるけれど。
(勇者隊の皆は、私を守る為に戦ってくれているのに…。)
それだけじゃないという話も聞いたけど。
それでも、だ。
(それに、もしもだけど…。)
私が起きていて、皆と一緒に行動していたら。
ひょっとしたらサニアは、連れ去られたりしなかったかもしれない。
(…。)
たらればの話は、するだけでは意味がない。
次に活かさねば。
私はナイフとフォークを掴んだ。
「いただきます。」
ステーキを口に運ぶ。
…うん、美味しい。
ネクーツ駅に到着するのは、午後9時頃。
しっかりと食べて、いつでも動けるようにしていないと。
「おお、いい食いっぷりだ。」
ロストンさんに見守られながら、私は。
朝ごはんにステーキを完食する。
その後は。
ロストンとトランプで遊んだ。
起きて来たガットルも、途中から参加。
結果は、最後に全賭けしたロストンの逆転勝利。
『これだよ、これ!』と、はしゃいでいた。
時間的にお昼ご飯を飛ばしたから、少し早めの夕食にする。
作ったのは私だ。
材料は限られていたけど、時間はあったから出来るだけ凝る。
特に力を入れたのは、種類を増やす事。
統一感はなかったけど、その方が楽しそうかなと思って。
ユンゼスにも、私が持って行った。
皆に好評で、私は満足。
ちなみに火を使ったけど、あんな煙くはならなかった。
まったく。何をどうしたら、あんな事になるのやら。
そして。
あっという間に時間は過ぎた。
もうすぐ9時。ネクーツ駅に到着する。
「うん。聞いている駅員の数より、一人多い。
おそらく堕天使だと思う。」
ガットルの言葉を聞いて、組んだ両手に力が入る。
まもなく戦いが始まるのだ。
私が戦う訳じゃないけど緊張する。
「トスーチェの時は、屋根の上に仁王立ちしてたな~。
今度の奴は、どんなんかね~。
まあ、どんなのでも。俺がサクッと倒してやるよ。」
ロストンとかいう戦う予定の人は、めちゃくちゃリラックスしていた。
「…ねえ、一人ずつ戦うルールがあるの?」
ガットルとロストンの二人がいるのだ。
なら二人で戦えば、より確実に勝てるのではないだろうか?
サニアから、ロストンは連携が得意と聞いていたし。
「ルールはないよ。
今回ロストンが戦って、俺が休みなのは、温存の為かな。
この後、だいたい14時間後にはフラスカの駅だし。
後は、警戒の為でもあるかな。
二人で戦って、追い詰めたとする。
したら敵が、破れかぶれになって列車を狙わないとも限らない。
列車が壊されて走行不能とかになったら、俺達の負けだ。」
負け。
それは。
兄は助からず、無差別攻撃が始まるという事。
そんなのは、嫌だ。
「ロストン、頑張って!」
「OK~。」
その緩い返事と共に。
列車はホームに停車する。
「屋根の上にはいなかったな~。」
「…あそこにいる。」
私も、見つけた。
食堂車の窓から見える位置。
一人。
明らかに纏う空気が違う人がいる。
真っ白な髪。
夏だというのに、真っ赤なマフラーと黒色のロングコート。
足が悪いのか、杖をついている。
たぶん、男性。
何かを待っているかのように、その場に佇んでいる。
「おっし。じゃあ、行ってくる。
…あれ、バッグどこ置いたっけ?」
「ちょっと!」
締まらない。
流石に緩みすぎじゃないだろうか。
「…ちょっと!!」
大声を出してしまったのは驚いたから。
白髪の男が動きだしたのだ。
この列車に向かって。
更には、プシューっという音まで聞こえるではないか。
(扉が、開いた!?)
隣のガットルを見る。彼も驚いた表情だ。
ロストンは、まだバッグを探している。
そうこうしている内に、食堂車の扉が開いて。
白髪の男が入ってくる。
「あ、どうも、こんばんは。」
男は私達に一礼すると、杖をつきながら食堂車の奥の方へ。
そして適当な所に座った。
…思ったより、だいぶ若そう。
「誰だ?あれ。」
後ろにいたロストンが言う。
もっと小さい声で!と思ったが、気づく。
音制御が使われている。私達の会話は、あの白髪の男には聞こえない。
「堕天使じゃないの?」
そういう話じゃなかったっけ?
「だと思ったんだけど、違うかもしれない。
この距離なら分かるけど、堕天使にしては天力が少ないんだ。
…だとすると、誰だろう?」
堕天使ではなくて、ロストンもガットルも知らない男。
え?本当に、誰?
(敵?味方?まさか無関係の乗客なんて事は無いわよね?)
私達が遠巻きに警戒していると、前方の扉が開く。
ユンゼスだ。
「遠いところすみません。
お越しいただき、ありがとうございます。
ようこそ、魔列車バーチカル・ギャロップへ。」
ユンゼスは白髪の男に一礼。
白髪の男も、ぺこぺこしている。
と、いうことは。
とりあえず敵ではないかな?
「ユンゼス~。そいつ誰だ~?
連絡体制がなってないんじゃねーの~?
こっちにトラブルがなかったら、もうぶっ放してたぞ?」
トラブルとは、バッグが見当たらなかった事か。
発見できたみたいで、今は彼の腰についている。
「その通りです。
本当に、申し訳ありません。」
ユンゼスが深々と頭を下げた。
それに慌てたのは、白髪の男。
「い、いや、悪いのはエンビッケって奴で。
あいつが、連絡をサボったんだ。
そう、悪いのは全部あいつ。」
「へぇ~、天使の知り合いか。」
空気が、ピリッとした。
緩んでいたロストンが、真面目なトーンの声を出したから。
エンビッケという名の天使がいる、というのは分かったけど。
事情に詳しくない私は、静観する。
白髪の男は。
ロストンを見て、それから私の事を見て。
咳ばらいを一つして、言った。
「初めまして。俺は、ゼユウ。
エンビッケの仲間だ。
あいつから手紙を貰って、パルケさんを護衛する為にフレン王国からやってきた。」
ゼユウ編、開始~。




