第163話 2/6:トスーチェ周辺~堕天使対策~
~前回までのサニア~
列車を壊させる訳にはいかない。
だから大人しく捕まって、私とミフダは列車を降りる。
色々と話はしてみたけど、やはりこの人とは戦うしかないわね。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●サニア :勇者隊メンバー
〇ガットル :勇者隊メンバー
〇ロストン :勇者隊メンバー
〇ミフダ :堕天使
*サニア視点*前日、ヨダーシルに向かう車両内にて
「やっぱ、フィジカルだな。実力差は覆せない。」
飲み物を貰おうと食堂車に行くと、そんな声が聞こえた。
声の主はロストン。ガットルと話をしている。
「何の話?」
2人とも、同じゲームの参加者だ。
内容が気になって、声をかけてみる。
「堕天使の攻略法、というか、対策について考えてた。」
難しい顔をしつつ、ガットルが答えてくれる。
「え、混ぜて貰っていい?」
「もちろん」と言いながらガットルは場所を空けてくれた。
お礼を言いつつ、お邪魔する。
「ここまでの話を簡単にまとめると。」
ロストンはテーブルに、新しい紙を広げる。
記入しながら説明してくれるらしい。
考えをまとめる為もあるのだろうけど、ありがたい。
「堕天使は、魔法と天法を使いこなす。
レベルに個人差はあるだろうけど、どいつもこいつもエンビッケから逃げ切れるくらいの実力者だ。
とはいえ俺達も、魔法戦には自信がある。
勇者隊には全属性揃ってて、模擬戦は沢山やってきた。
だから、不安要素があるとすれば。
それは、天法。もっと言えば、転移だ。」
「…ロストンも、この世界に転移してきたのよね?」
「まあ、俺のは転移したというより、転移させてもらっただから。
使う側の気持ちは分からない。
リガーナの転生も、奴等のとは微妙に違うみたいだしな。」
薄っすらと聞いた話だと、不完全なんだっけ?
となると転移に詳しいのは、エンビッケさんだけという事になる。
ここにはいないし、連絡手段もない。
「でも今までに聞いた話をまとめると、何が出来るのかは予想できる。」
ガットルだ。
紙に書き込みながら、話し出す。
「転移を使えば、超高速で移動する事が出来るんだ。
ワープとか、瞬間移動って言うのかな。
A地点にいたと思ったら、B地点に現れる。
まるで、移動の過程をすっ飛ばしたように。
そしてこれは、かなり不味い。
奇襲にも、逃走にも便利すぎる。
対策は、無いこともないけど。
移動できる距離、回数によっては勝ち目がない。
…例えば、ニードルみたいな高性能爆弾があるだろ?
それを大量に用意して、拠点に隠しておくんだ。
そして突然現れて、ばら撒いた後に逃走、それを繰り返す。
何回かは防げるかもしれないし、その間に拠点をどうにか出来ればいい。
けど拠点が辿り着けないような場所、それこそ遠海の果てとかで。
こっちの魔力が尽きるまで続けられたら、な…。」
それは、そうかもしれない。
でもショックでもある。
ガットルの口から、勝ち目がないなんて言葉が出て。
ロストンが引き継いで、続ける。
「転移によるワープの仕組みは、世界間の移動で説明できる。
1、A世界のα地点にいたとしたら、まずB世界のα地点に行く。
2、B世界で1時間かけて、β地点まで進む。
3、B世界β地点からA世界のβ地点に戻る。で、戻る際に時間も遡る。
そうするとA世界で、α地点からβ地点まで一瞬で移動したという現象が起こる。
こういう仕組みなんだ。」
…うん。
仕組みは分かったとしても、真似る事は無理ね。
「エンビッケが捕まえられない要因はここだな。
でもだからこそ、対策がある。
それが、専用の捕縛網。
あくまでイメージの話だけど。
捕縛網は、3マス上に張られているとする。
転移をする場合。
移動する時間が長くなれば長くなるほど、比例するように高く飛ばないといけない。
3マスより上まで飛んでしまったら、網にかかる。
世界の移動も一緒で。
全然違う異世界や、現状とかけ離れた並行世界。
例えば、ガットルが勇者になってる世界とか。
そういう遠い場所に行くにも、やはり3マスより上まで飛ばないといけない。
制限のない状態なら可能だった『長時間の時間移動』及び『長距離の世界移動』は、今回は不可能って事だ。
逆に、2マスや1マス飛ぶだけで辿り着けるような、近い並行世界。
石を蹴っ飛ばすか蹴っ飛ばさないかの違いで、ごく短い時間なら。
転移は可能という事になる。
数秒間のはずだが、敵は異次元の動きをしてくるだろうな。」
えっと、網にかかると自力で逃げ出せないから私達の勝ちで…。
網を3マスより下に出来ないのは『世界への影響』を考えて、のはず。
…うん。
つまり、敵はワープしてくるけど、そこまで遠くまではワープしないって事ね。
ガットルが口を開けた。
「制限があって、最悪は回避できたけど。
戦闘において、急に相手が消えて別の所に現れるのは厄介だよ。
接近戦なら、特に。
更に相手は、時間を遡るんだ。
数秒かもだけど未来の出来事を知っている事になる。
近しい世界で起きた事だから、かなり正確だと思う。
魔眼には、詳しくないけどさ。
未来視っていうのがあるんだろ?
仕組みは違っても、似たような効果の結果は得られるはずだ。
…俺達の相手は、『魔法を使いこなして、超高速移動をする未来視持ち』って事になる。」
魔眼。
私も、現物は見た事はないけど。
特別なものが見えたり、相手に影響を与えたりも出来る、そういう特殊な眼の総称だったはず。
今更になって、ようやく私も。
敵のヤバさが分かってきた。
「で、そんな相手に如何にして勝つか、だけど。」
私とガットルは、揃ってロストンを見る。
「一番は、フィジカル、実力差。
死角からの攻撃を躱し、転移先を予測して攻撃したり、分かっていても避けられない攻撃をする。
これで勝てる。」
(…。)
いや、確かにその通りだと思うけど。
問題はどうやって実行するかよ?
「制限のある今、魔王クラスなら十分に可能だ。」
あー、なるほどね。ロストンも出来るかもね。
でも、私達は魔王じゃないのよ?
「それから、ガットル。」
え、ガットル?
「分かっていても避けられない攻撃と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは広範囲攻撃だ。
ガットルの火球の連射力は、かなり高い。
飽和攻撃と呼んだ方が近いかもしれないが、まあ、どちらでもいい。
逃げ場がないほど、ばら撒くように撃ってやれ。
対応されるかどうかは敵の力量次第。
でも、戦術としては有効だろう。」
確かに。
コズミックヘルブラスターを躱せって言われても無理だ。
あれは、出される前になんとかするしかない。
…でも、そうか。
ガットルには、敵に対する有効戦術があるのね。
(…。)
ここで。
ちょっとした静寂。
たぶん。
二人が私から視線を逸らしているのは、気の所為ではない。
「て、転移は天力が必要で、消費も多い、なんて聞いた気がする。
しかも堕天使にとって天力は命。使い切る訳にはいかない。
そうなると、実際に転移を使用できる回数は多くないんじゃないか?」
沈黙に耐えかねたように、ガットルが口を開けた。
ロストンも続く。
「そうだな。
厄介な技は使わせないのに限る。
幻惑魔法…は、天力持ちには効かないから…。
例えば、そうだな。
突破されない強い魔防壁を張るなんてどうだろう。
相手がどれだけ速く動こうと、奇襲しようと、攻撃が通らなければ意味がない。
これで天力切れを狙うんだ。
超回復も強いな。致命傷を避け、ひたすら自分に回復魔法をするんだ。
要は耐久戦。
こちらの魔力が尽きる前に、相手の天力が尽きれば勝てる。」
「いいわね。私も、硬いのや再生能力が凄い敵とはやりたくないわ。
相当なプレッシャーも与えられると思う。
回復魔法は無理だけど、魔防壁系は練習してみようかしら。」
私も続いた訳だけど。
2人の表情が固い。
「…未来視というのはな。
『数年先が見えて、この後に起こる悲劇を何とかする。』とか。
『勝てない相手だった。だから直接戦闘を避ける為に動こう。』とか、そういう使い方が強いんだ。
戦闘でも有利な場合っていうと、それこそ軍対軍。
人数が多くて、場所も広くて、とかなら有益だと思う。
敵の作戦を見破ったり、な。
でも、今回の戦いは違う。
少人数戦。しかも見れる未来は、数秒先まで。
戦闘で相手の動きをみて行動を予測するのは、大なり小なり行われているものだ。
つまりアドバンテージは、ほぼない。」
ロストンは一人納得したように、うんうん頷いた。
これは、あれだ。
話題を反らしている。
「2人とも、ごめんね。気を遣わせちゃって。」
きっと私達は、同じタイミングで気づいた。
そう、私は。
堕天使戦において、とにかく相性が悪い。
私のバトルスタイルは、高速で動いて、相手を翻弄しつつ、高火力を叩き込むというもの。
対して、敵は。
1、転移により、私より速く動く。
2、未来視により翻弄されない。
3、転移・未来視により、私の攻撃は当たらない。
避ける事を重視している私の防御力は高くない。
広範囲攻撃も、回復能力もない。
攻撃を避けられ、重い一撃でも貰ってしまったら終わりだ。
(だから私より速い敵と戦う時は、サポートに回っていたのよね…。)
私の仲間は強いから。
明らかな格上の敵と1対1で戦わないといけない状況なんて、今まで無かった。
(リハネも、あれで器用だから。
ガットルと同じように飽和攻撃も出来るだろうし、魔防壁系の耐久戦もいけそう。
前からの仲間である、ミュナとトドゥンの援護もある。
ワッポノも。
DFDRの装甲は厚い。
それから、薬による魔力回復効率が凄く良い。耐久戦適正◎だ。
戦闘面以外ではツツジのサポートがあるし、しっかりした大人のカソローさんもついている。)
けれど、私は。
敵に対する有効戦術が、ない。
(参加するゲームを間違えたなんて思わない。
ゲームCは人数的にギリギリだし、ゲームBはレーグ半島。
きっと魔物も大量に現れるから人数が必要だし、連携の取れる人を集めたほうがいいのだから。)
これでも勇者隊ランキング戦で5位なのに。
確かな戦力として、数えられているはずなのに。
このままでは、私は脚を引っ張ってしまう。
「…まあ、あれだな。
別に、1対1なんてルールはない。
ガットル1人だと厳しい相手が現れた時、サニアと連携すれば状況を打破できるって場面もあるだろう。
それに、護衛対象のパルケは女の子。
年上の異性ばかりよりは、同性がいた方がいいはずだ。
色々と、頼むよ。」
ロストンの言葉に、私は頷く。
きっと表情は固かった。
思い通りにいかない事なんて、ザラにある。
もしも。
私1人で、堕天使と戦わないといけない状況になったなら。
(私は、どうすれば勝てるかな…?)
*サニア視点*現在
右斜め後ろ。
死角から飛んできた石の鎖を、前方に駆け出して躱す。
私は奇襲に強い。
着ている服に、魔法の発動を察知する効果があるから。
一直線に敵に向かいつつ、勢いを殺さずナイフを投擲。
相手の反応速度を調べる為だ。
当たったり、かすったり。
避けるのがギリギリなら、このまま攻撃を仕掛ける。
止めたり、弾いたり。
躱し方に余裕があるならば、ここは攻めない。無難に方向転換。
初めて戦う相手に使う、私のいつもの初手の動き。
いつもと違うのは、相手が堕天使であるという事。
(使ってくる?転移を。)
列車内でガットルの攻撃をすり抜けるように躱したカラクリは、おそらく転移。
攻撃が当たる瞬間、彼はこの世界にいなかった。
反復横跳びのように、二つの世界を移動したのだろう。
続くガットルに合わせた、私の攻撃の時も同じ。
あれは同時だったから、躱されてしまった。
(当てるには、同時ではダメだ。時間差でないと。)
左足で、地面を蹴って。右足が、地面につく直前。
全神経を集中させ、ナイフと、敵の動きを注視する。
私の投げたナイフが。
ミフダに当たる、瞬間。
(消えた!!)
ミフダの姿が。
転移による回避だ。
なら、狙うは。
並行世界に逃げたミフダが、戻ってくるタイミング。
右足元に込めた魔力を、爆発させる。
私は弾丸のように速く、距離を詰めて。
右腕を振りぬく。
爆発音と、確かな手応え。
そして。
数メートル吹き飛んで地面に落下する、丸焦げになったミフダ。
(当たった…?)
当てにいったし、当たるように頭も使った。
元の位置に現れるのは賭けだったが、それも当たった。
でも。
こんなにあっさり、勝てるものなのか?
「…!!」
衝撃を受けて、私は飛ばされた。
なんとか地に足を着ける事は出来たが、激痛により屈んでしまう。
どうやら蹴られたらしい。
ニヤついているミフダがいる。
「俺の好きな本に、忍者っていう存在がいるんだ。」
何の話かは知らないが、追撃されなくて助かった。
思ったより、ダメージが大きい。
「忍者の使う忍術は、いいよ。
俺が特に好きなのは、忍法『変わり身の術』。
敵を真っ二つに斬ったと思ったら、それは丸太なんだ。
凄いだろ?どんな仕組みなのか、まるでわからない。
まあ、俺の読んだ本はフィクションで実際はもっと地味だったとか、つまらない事を言う奴もいるけど。
いいんだよ、カッコいいんだから。」
呼吸を整えて、魔力の制御に集中する。
傷が治るわけではないが、とりあえず動けるようにはならないと。
このままでは、殺されるだけだ。
「俺は忍法が使えない。仕組みもさっぱり分からない。
でも天法を使えば、真似事なら出来る。
天法『変わり身の術』って訳さ。」
視線を、黒焦げになったと思ったミフダに向ける。
なるほど。
あれは、さっき彼が作った土像だ。
(転移を何回か使って『変わり身の術』っていうのを再現したのは分かる。
でも、なんていうスピードと精度よ…。)
身体が動くようになった私は、立ち上がり構える。
震える身体を、自覚しながら。
そんな私の事を見て。
ミフダは醜悪に笑う。
そして魔法で攻撃してくる。
降り注ぐ石を。
飛んでくる岩を。
転がるように駆けながら、躱していく。
「!!」
突如、目の前に現れたミフダの蹴りがきた。
身体を捻って躱したが、追撃で放たれた岩が背中に直撃。
呼吸が止まり、意識も飛びかける。
なんとか転倒を避け距離も離せたが、地面に手が着いてしまう。
まるでミフダに、跪いているみたいに。
その様が、気に入ったのか。
ミフダは上機嫌だ。
「分身の術。あれも好きなんだ。
転移を使って、それっぽくなるように練習したよ。
でも今は、忌々しい捕縛網があるからね。
十分な威力にならないんだ。
いや~、見せたかったよ。
完璧な、天法『分身の術』。
全方位から飛んでくる石の雨に、皆、とてもいい顔をする。
『鳩が豆鉄砲を食ったよう』な、ね。」
なるほど。
変わり身の術が好きなのも、相手の反応が面白いからか。
(…悪趣味ね。)
趣味趣向は自由だと言ったのは、嘘ではない。
が、好き嫌いはある。私は、嫌いだ。
こんな奴に負けたくない、と奮起して。
両脚に力を入れ、立ち上がる。
「あれ、立っちゃうの?
折角、丁度いい体勢だったんだからさ。
そのまま命乞いをしてみてよ。
面白かったら、考えてあげるよ?」
「…。」
何か、気の利いた一言を発したい所だけど。
浮かばなかった。
(…この人は、強い。)
きっと。
最初から全力で、私の命を奪いにきていたら。
私はもう殺されている。
(でも、私は。まだ、生きている。)
ダメージは大きい。
身体を動かすのも、痛いし辛い。
それでも。
(生きている限り、闘志を燃やせ…!)
私は、勇者隊の一員で。
トワやガットルとの約束だってある。
こんな所で、負けられない。
それに。
まだ、やれる事もある。
次回、サニア編、決着!
だいたい3、4話くらいで次にいく予定です。




