第162話 2/6:トスーチェ周辺~途中下車~
~前回までのガットル~
ヨダーシルからトスーチェへ向かう列車の中、俺達は2人の堕天使に襲撃された。
外のはロストンに任せ、列車内の堕天使と対峙する俺とサニア。
目の前の堕天使はミフダと名乗り、サニアをデートに誘ってきた。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ガットル :勇者隊メンバー
〇サニア :勇者隊メンバー
〇ロストン :勇者隊メンバー
〇ユンゼス :列車の運転手
〇パルケ :センレイ会、会長の妹
〇ミフダ :堕天使
「嫌ですけど。」
サニアは即答した。
ですます調なのは動揺があったから、かもしれない。
「まあまあ、そう言わずにさ~。」
ミフダが歩き出した。
こちらに向かって。
「止まってくれ!」
止まる訳ないと思いつつも、静止の声を上げたのは。
まだ、相手に戦意がないから。
「それ以上、近づけば斬る!」
「どうぞ~。」
警告はした。
相手も理解した。
だから。
宣言通り斬る為に、俺は強く踏み込んだ。
この列車はヨダーシル製。多少揺れるだけで、穴が空いたりしない。
そして俺の剣は。
何かにぶつかる事もなく、綺麗な半円を描いた。
(!?)
その脇を。
何事もなかったようにミフダは歩く。
俺の剣は、すり抜けるように躱された。
魔法を使ったようには見えなし、高速で動いた訳でもない。
転移か、それとも別の何か。
タネが分からない以上、安全策なら距離を取るべき。
でも、そんな事はしない。
なぜなら敵の狙いは、サニアだから。
このまま、こいつを進ませたら。
きっと彼女に危害が及ぶ。
(させるか!!)
剣を横に薙ぐ、が、それは空を斬る。
そのまま剣を斜めに振り下ろす。
それは、やはり敵には当たらず。
振り下ろした状態の剣に、石の鎖が巻き付いてきた。
(!!)
直感的に。
剣から手を離し、後ろに飛ぶ。
何もない空間から、石の鎖が飛び出して。
さっきまで俺がいた位置を通過。窓ガラスを破壊した。
車両内に風が吹き込んでくる中。
火球を放つ為に突き出した右手を。
左手と一緒に、ゆっくりと上げる。
「周りがよく見えているじゃないか、偉い偉い。」
余裕そうな、ミフダの声。
彼は。
石鎖で拘束したサニアの首元に、石剣を当てている。
俺の攻撃と同じタイミングで、サニアも攻撃したのだけど。
どちらも躱され、逆に敵に捕まってしまった。
(サニアでも反応できないほど、速いのか…。)
こうなってしまっては、サニアの安全を優先したい。
(好意があるみたいだし、抵抗しなければ平気か?
いや、そうであってほしいという願望か?)
今は。
まず、相手の出方を見るしかない。
「よ~し、動くなよ~。
さあ、サニアさんはこっちだ。」
サニアを連れ、割れた窓に近づいていくミフダ。
「ガットル!」
「!!」
あっという間だった。
ミフダはサニアを抱きかかえて、躊躇いなく窓の外へ。
慌てて窓に近寄り、外を確認。
しようとした所で爆発音。同時、激しく車体が揺れた。
幸い、列車が横転したりはしていない。
止まる事なく、走り続けている。
(くそ!)
窓の外を覗いても、この暗さではサニアの姿は確認できない。
無事ではあるはずだ。
熱検索の範囲から出る直前まで、熱源に乱れはなかったから。
剣を回収して、窓から車両の上に登る。
(ロストンは!)
そこにいるであろう仲間の姿を探すと、すぐに見つかった。
仁王立ちしているし、怪我とかもないだろう。
情報共有の為、近づく。
「ロストン、サニアが…。」
「敵と下車したのは見えた。…助けに行っていいぞ。」
もしかしたらロストンは、敵だけを狙えたかもしれない。
でももし、あの状況で敵を倒してしまったら。
投げ出されたサニアは地面に激突してしまう。
だから攻撃しなかった。
そもそも何とかすべきなのは、あの場所にいた俺。
ロストンに何か言える立場ではない。
「さっき車体が揺れただろ。
悪いな、撃ち漏らした敵の攻撃が列車に当たっちまった。
ユンゼスに確認したが、何とかっていう場所が壊れたらしい。
このまま走る事は可能で、トスーチェまでは行けるだろうって話だが。
一度止まると、再出発できない可能性があるそうだ。」
俺達は、時間までにトスーチェに行かないといけない。
そうでないと、無差別攻撃が始まってしまう。
つまり。
列車を止めて、サニアを探しに行けないという事。
(ロストンは、行っていいって言ってくれた。
俺のアサルトフローなら、途中下車は可能だから。)
でもその場合。
仮にサニアを助けられたとしても。
流石に列車には追いつけない。俺とサニアはゲームAからは脱落だ。
(残りの堕天使全員を、ロストン一人で倒すって事か?)
あるいは、可能かもしれない。
ロストンの強さは、トワやディオル、リガーナと同格だ。
でも敵だって、堕天使なんていう得体の知れない連中なのだ。
さっきの、ミフダと同じように。
もしロストンが負けたら。
ユンゼスもパルケも殺される。
そして時間も守れないから、無差別攻撃だって始まる。
「いや、俺は残るよ。サニアなら、大丈夫だ。」
窓から出る直前。
サニアは俺の名を呼んだ。
その顔は。その瞳は。
なんとかすると。大丈夫だと。
そういう、闘志に燃えていた。
「…そうだな。」
ロストンは、それだけ言って納得する。
そして風の刃を飛ばして、向かってきた岩を破壊する。
「あの堕天使は、測量をしていたんだ。
仲間が列車内に転移できるように。
で、その仕事が終わったから、好き勝手に暴れているみたいだな。」
ミフダが来るまでは、距離を取って並走していた堕天使。
今は、だいぶ列車の近くを飛んでいた。
飛び回る岩に乗り、時折、魔法を撃ってくる。
その動きは挑発的で、こちらを小馬鹿にしているような気すらする。
「俺がやるよ。」
折角、残るという選択をしたのだから。
と、いうのもあるけど。
白状する。
俺は今、イラついている。
(ちょっと前に。守るって、言ったのに。)
守れなかった。攫われてしまった。
しかもだ。
ミフダは、サニアに興味があって。
だから、攫うのが目的だった。
でも。
もしも。
命を奪う事が目的だったら?
(あんなに簡単に拘束できたんだ。だから、やろうと思えば簡単に…。)
列車内だったから?車両を壊す訳にはいかなかったから?
そんな言い訳なんて。
サニアが死んでしまった後では、何の意味もない。
(なんて様だ。)
腹が立って仕方がない。
自分自身に。
その怒りのまま。
目の前に、火の球を作る。
威力も大きさも、いつも通り。
何の変哲もない火球。
その隣に、また作る。
一つ出来たら、また一つ作っていって。
自身の魔力制御範囲内を、火球で埋め尽くす。
今、この場は。
星々の明かりをかき消すほど、赤い。
(躱せるものなら、躱しきってみせろ!!)
それらを順次、発射する。
撃ち出して空いたスペースには次弾を作り、それも撃つ。
赤の弾幕は途切れない。
敵を倒すか、俺の魔力が尽きるまで。
やがて。
敵の姿が見えなくなった。
火球を作るのを止めて、熱検索で熱源を探りつつ、エンビッケに渡された機械を操作。
捕縛網にかかった堕天使を検索できる物だ。
それによると。
どうやら堕天使アツペーの捕獲に成功したらしい。
「スッキリしたか?」
ロストンの問いに、首を振る。
「旅に出る前の事を思い出した。
あの時も俺は、自分の不甲斐なさにイラついて。
目の前の敵に、火球を投げまくった。
…自己嫌悪だよ。
あの頃と、何も変われていない。」
強くはなった。
あの頃の俺はアツペーを倒せない。
でも。
今、必要な強さに届いていない。
「慰めたりしないぞ、俺は。」
「分かってるよ。」
自分が、何をするべきなのか。
その後、俺は。
ロストンを上に残し、回復薬を飲んで、食堂車の片付けを行った。
(パルケ、起きなかったな。)
揺れたし音もした訳だけど。
列車の防音が凄いのか、よほど疲れていたのだろう。
(…。)
サニアがどうなったか。正直、気になって仕方がない。
彼女なら何とか出来る。そう、信じたいけれど。
あのミフダの。
得体の知れなさが、俺を不安にさせる。
(…そんなに心配なら行けばよかっただろう?
決断したのだから切り替えろ。
ゲームAは、始まったばかりなんだぞ…。)
すでに堕天使は二人倒した。でもそれは、イレギュラーな事で。
本来の相手である、五人の堕天使は無傷だ。
地平線の向こう。
薄っすらと明るくなり始める中。
俺達の乗る列車は、走り続ける。
*サニア視点*
私を抱えて、ミフダは列車から飛び出した。
土魔法の石で足元に岩を作り、それを器用に動かして地面へと降りる。
あの場面での最悪は。
列車が破壊される事。
私とガットルの攻撃を、難なく避けるような男だ。
あのまま続けて、戦闘がエスカレートしたらやばかったと思う。
私、いえ、仲間が狙われて、ガットルも熱くなってたし。
だから、私に飛んできた魔法が拘束系なのを確認して。
自力で脱せるように、『魔法切りナイフ』を隠し持ったうえで。
あえて、捕まった。
そして狙い通り、ミフダは列車から離れたのだ。
悔しそうな顔のガットルには声をかけた。
心配いらないと。これは作戦だからと、安心させる為に。
察しのよい彼の事だ。きっと伝わっただろう。
本格的に始まる前に、ゲームから降りてしまった訳だけど。
ガットルとロストンなら、きっと何とかしてくれる。
パルケさんには悪い事をしたと思うけど。
あの二人も、ユンゼスさんも。いい人だから、大丈夫でしょう。
(…さて。)
列車からは離れて、星明りで見える範囲には何もない広い場所。
思い切り戦うには、適しているだろう。
知らない場所だけど、日が昇れば方角が分かる。
西に向かって線路沿いに歩けば、ヨダーシルまでは帰れるはずだ。
石鎖をナイフで切れば。
すぐにでも戦闘を再開できる。
そう、問題は。
この男に勝てるかどうか、だけ。
「は~~~…。」
ミフダが、盛大に溜息をついた。
ちょっと、腹が立つ。
確かにデートは断ったけど。
めっちゃ好みとか言って、こんな所に連れてきて、二人きりになったのに。
なんだ、その態度は。
「君、ちょっと血気盛ん過ぎない?
戦う以外にも、やる事あるでしょうよ。」
しかも、ダメ出しまで…。
いや。
気にする所は違うか。
まだ、そんな事を言われる行動を起こしていない。
「越えてきたの?世界を、時を?」
「…へ~、頭は回るんだ。」
にやりと、ミフダは笑う。
何と言うか、人を見下したような顔だ。
「でもそれもよくないね。
見た目は可愛いのに、可愛げがないよ。」
言いながら右手を上げ、指を鳴らす。
すると地面の一部が、飛び出した。
続けざまに左指を鳴らすと、飛び出した土が形を変えて。
僅か数秒で、等身大のミフダ土像が完成した。
「こういう時、『キャー!すごーい!』って言ってくれる子が好きなんだよ。
『なんで作ったの?』とか『何か意味ある?』とか言っちゃう子は、苦手なんだ。」
「趣味嗜好は自由よ。
そして土像は見事だと思う。
魔法技術の高さを示して、相手の戦意を挫ければ、戦いを避けられるかもしれない。
真意までは分からないけど、意味の無い行動とも思えないわ。」
石鎖は、まだ切らない。
言葉を投げて、様子を見る。
私は負けず嫌いとは言われるし、自分でもそうだと思うけど。
戦いが大好きという訳ではない。
戦いを避けられるなら、その方がいい。
目の前の人も、暴れるのとか好きじゃないと言っていたから。
もしかしたら、その可能性があるかもしれないと思って。
「…真面目だねぇ。」
ミフダが、そう呟いた後に。
「賢くて真面目で、いい子で、気の強い子だ。」
私は石の鎖を切った。
殺気を感じて。
地面を蹴って、距離を取る。
「俺は、俺の事を褒めてくれる可愛い子と遊びたくてね。
そういう子の笑顔が好きなんだ。」
今まで見た事のない、醜悪で楽しそうな顔。
「君みたいな女は。
実力で潰して、命乞いを聞きたくなる。」
「…残念ね。」
私の。
堕天使との真剣勝負は、こうして始まった。
サニア編、開始!




