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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第五章 11人の堕天使と2大陸縦断英雄列車

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第162話 2/6:トスーチェ周辺~途中下車~

~前回までのガットル~


ヨダーシルからトスーチェへ向かう列車の中、俺達は2人の堕天使に襲撃された。

外のはロストンに任せ、列車内の堕天使と対峙する俺とサニア。

目の前の堕天使はミフダと名乗り、サニアをデートに誘ってきた。


◇登場人物◇ ※●が視点者

●ガットル   :勇者隊メンバー

〇サニア    :勇者隊メンバー

〇ロストン   :勇者隊メンバー

〇ユンゼス   :列車の運転手

〇パルケ    :センレイ会、会長の妹


〇ミフダ    :堕天使

「嫌ですけど。」


 サニアは即答した。

 ですます調なのは動揺があったから、かもしれない。


「まあまあ、そう言わずにさ~。」


 ミフダが歩き出した。

 こちらに向かって。


「止まってくれ!」


 止まる訳ないと思いつつも、静止の声を上げたのは。

 まだ、相手に戦意がないから。


「それ以上、近づけば斬る!」

「どうぞ~。」


 警告はした。

 相手も理解した。


 だから。


 宣言通り斬る為に、俺は強く踏み込んだ。

 この列車はヨダーシル製。多少揺れるだけで、穴が空いたりしない。


 そして俺の剣は。

 何かにぶつかる事もなく、綺麗な半円を描いた。


 (!?)


 その脇を。

 何事もなかったようにミフダは歩く。


 俺の剣は、すり抜けるように躱された。

 魔法を使ったようには見えなし、高速で動いた訳でもない。


 転移か、それとも別の何か。

 タネが分からない以上、安全策なら距離を取るべき。


 でも、そんな事はしない。

 なぜなら敵の狙いは、サニアだから。


 このまま、こいつを進ませたら。

 きっと彼女に危害が及ぶ。


 (させるか!!)


 剣を横に薙ぐ、が、それは空を斬る。

 そのまま剣を斜めに振り下ろす。


 それは、やはり敵には当たらず。

 振り下ろした状態の剣に、石の鎖が巻き付いてきた。


 (!!)


 直感的に。

 剣から手を離し、後ろに飛ぶ。


 何もない空間から、石の鎖が飛び出して。

 さっきまで俺がいた位置を通過。窓ガラスを破壊した。


 車両内に風が吹き込んでくる中。


 火球ファイアーボールを放つ為に突き出した右手を。

 左手と一緒に、ゆっくりと上げる。


「周りがよく見えているじゃないか、偉い偉い。」


 余裕そうな、ミフダの声。


 彼は。

 石鎖ストーンチェーンで拘束したサニアの首元に、石剣ストーンソードを当てている。


 俺の攻撃と同じタイミングで、サニアも攻撃したのだけど。

 どちらも躱され、逆に敵に捕まってしまった。


 (サニアでも反応できないほど、速いのか…。)


 こうなってしまっては、サニアの安全を優先したい。


 (好意があるみたいだし、抵抗しなければ平気か?

 いや、そうであってほしいという願望か?)


 今は。

 まず、相手の出方を見るしかない。


「よ~し、動くなよ~。

 さあ、サニアさんはこっちだ。」


 サニアを連れ、割れた窓に近づいていくミフダ。


「ガットル!」

「!!」


 あっという間だった。

 ミフダはサニアを抱きかかえて、躊躇いなく窓の外へ。


 慌てて窓に近寄り、外を確認。

 しようとした所で爆発音。同時、激しく車体が揺れた。


 幸い、列車が横転したりはしていない。

 止まる事なく、走り続けている。


 (くそ!)


 窓の外を覗いても、この暗さではサニアの姿は確認できない。


 無事ではあるはずだ。

 熱検索ヒートサーチの範囲から出る直前まで、熱源に乱れはなかったから。


 剣を回収して、窓から車両の上に登る。


 (ロストンは!)


 そこにいるであろう仲間の姿を探すと、すぐに見つかった。

 仁王立ちしているし、怪我とかもないだろう。


 情報共有の為、近づく。


「ロストン、サニアが…。」

「敵と下車したのは見えた。…助けに行っていいぞ。」


 もしかしたらロストンは、敵だけを狙えたかもしれない。


 でももし、あの状況で敵を倒してしまったら。

 投げ出されたサニアは地面に激突してしまう。


 だから攻撃しなかった。


 そもそも何とかすべきなのは、あの場所にいた俺。

 ロストンに何か言える立場ではない。


「さっき車体が揺れただろ。

 悪いな、撃ち漏らした敵の攻撃が列車に当たっちまった。

 ユンゼスに確認したが、何とかっていう場所が壊れたらしい。

 このまま走る事は可能で、トスーチェまでは行けるだろうって話だが。

 一度止まると、再出発できない可能性があるそうだ。」


 俺達は、時間までにトスーチェに行かないといけない。

 そうでないと、無差別攻撃が始まってしまう。


 つまり。

 列車を止めて、サニアを探しに行けないという事。


 (ロストンは、行っていいって言ってくれた。

 俺のアサルトフローなら、途中下車は可能だから。)


 でもその場合。

 仮にサニアを助けられたとしても。


 流石に列車には追いつけない。俺とサニアはゲームAからは脱落だ。


 (残りの堕天使全員を、ロストン一人で倒すって事か?)


 あるいは、可能かもしれない。

 ロストンの強さは、トワやディオル、リガーナと同格だ。


 でも敵だって、堕天使なんていう得体の知れない連中なのだ。

 さっきの、ミフダと同じように。


 もしロストンが負けたら。

 ユンゼスもパルケも殺される。

 そして時間も守れないから、無差別攻撃だって始まる。


「いや、俺は残るよ。サニアなら、大丈夫だ。」


 窓から出る直前。

 サニアは俺の名を呼んだ。


 その顔は。その瞳は。

 なんとかすると。大丈夫だと。

 そういう、闘志に燃えていた。


「…そうだな。」


 ロストンは、それだけ言って納得する。

 そして風の刃を飛ばして、向かってきた岩を破壊する。


「あの堕天使は、測量をしていたんだ。

 仲間が列車内に転移できるように。

 で、その仕事が終わったから、好き勝手に暴れているみたいだな。」


 ミフダが来るまでは、距離を取って並走していた堕天使。

 今は、だいぶ列車の近くを飛んでいた。


 飛び回る岩に乗り、時折、魔法を撃ってくる。

 その動きは挑発的で、こちらを小馬鹿にしているような気すらする。


「俺がやるよ。」


 折角、残るという選択をしたのだから。

 と、いうのもあるけど。


 白状する。

 俺は今、イラついている。


 (ちょっと前に。守るって、言ったのに。)


 守れなかった。攫われてしまった。


 しかもだ。


 ミフダは、サニアに興味があって。

 だから、攫うのが目的だった。


 でも。

 もしも。


 命を奪う事が目的だったら?


 (あんなに簡単に拘束できたんだ。だから、やろうと思えば簡単に…。)


 列車内だったから?車両を壊す訳にはいかなかったから?


 そんな言い訳なんて。

 サニアが死んでしまった後では、何の意味もない。


 (なんて様だ。)


 腹が立って仕方がない。

 自分自身に。


 その怒りのまま。

 目の前に、火の球を作る。


 威力も大きさも、いつも通り。

 何の変哲もない火球ファイアーボール


 その隣に、また作る。

 一つ出来たら、また一つ作っていって。


 自身の魔力制御範囲内を、火球ファイアーボールで埋め尽くす。


 今、この場は。

 星々の明かりをかき消すほど、赤い。


 (躱せるものなら、躱しきってみせろ!!)


 それらを順次、発射する。

 撃ち出して空いたスペースには次弾を作り、それも撃つ。


 赤の弾幕は途切れない。

 敵を倒すか、俺の魔力が尽きるまで。




 やがて。

 敵の姿が見えなくなった。


 火球ファイアーボールを作るのを止めて、熱検索ヒートサーチで熱源を探りつつ、エンビッケに渡された機械を操作。

 捕縛網にかかった堕天使を検索できる物だ。


 それによると。

 どうやら堕天使アツペーの捕獲に成功したらしい。


「スッキリしたか?」


 ロストンの問いに、首を振る。


「旅に出る前の事を思い出した。

 あの時も俺は、自分の不甲斐なさにイラついて。

 目の前の敵に、火球ファイアーボールを投げまくった。

 …自己嫌悪だよ。

 あの頃と、何も変われていない。」


 強くはなった。

 あの頃の俺はアツペーを倒せない。


 でも。

 今、必要な強さに届いていない。


「慰めたりしないぞ、俺は。」

「分かってるよ。」


 自分が、何をするべきなのか。




 その後、俺は。

 ロストンを上に残し、回復薬を飲んで、食堂車の片付けを行った。


 (パルケ、起きなかったな。)


 揺れたし音もした訳だけど。

 列車の防音が凄いのか、よほど疲れていたのだろう。


 (…。)


 サニアがどうなったか。正直、気になって仕方がない。

 彼女なら何とか出来る。そう、信じたいけれど。


 あのミフダの。

 得体の知れなさが、俺を不安にさせる。


 (…そんなに心配なら行けばよかっただろう?

 決断したのだから切り替えろ。

 ゲームAは、始まったばかりなんだぞ…。)


 すでに堕天使は二人倒した。でもそれは、イレギュラーな事で。

 本来の相手である、五人の堕天使は無傷だ。


 地平線の向こう。

 薄っすらと明るくなり始める中。


 俺達の乗る列車は、走り続ける。




*サニア視点*


 私を抱えて、ミフダは列車から飛び出した。

 土魔法のストーンで足元に岩を作り、それを器用に動かして地面へと降りる。


 あの場面での最悪は。

 列車が破壊される事。


 私とガットルの攻撃を、難なく避けるような男だ。

 あのまま続けて、戦闘がエスカレートしたらやばかったと思う。


 私、いえ、仲間が狙われて、ガットルも熱くなってたし。


 だから、私に飛んできた魔法が拘束系なのを確認して。

 自力で脱せるように、『魔法切りナイフ』を隠し持ったうえで。


 あえて、捕まった。

 そして狙い通り、ミフダは列車から離れたのだ。


 悔しそうな顔のガットルには声をかけた。

 心配いらないと。これは作戦だからと、安心させる為に。


 察しのよい彼の事だ。きっと伝わっただろう。


 本格的に始まる前に、ゲームから降りてしまった訳だけど。

 ガットルとロストンなら、きっと何とかしてくれる。


 パルケさんには悪い事をしたと思うけど。

 あの二人も、ユンゼスさんも。いい人だから、大丈夫でしょう。


 (…さて。)


 列車からは離れて、星明りで見える範囲には何もない広い場所。

 思い切り戦うには、適しているだろう。


 知らない場所だけど、日が昇れば方角が分かる。

 西に向かって線路沿いに歩けば、ヨダーシルまでは帰れるはずだ。


 石鎖ストーンチェーンをナイフで切れば。

 すぐにでも戦闘を再開できる。


 そう、問題は。

 この男に勝てるかどうか、だけ。


「は~~~…。」


 ミフダが、盛大に溜息をついた。


 ちょっと、腹が立つ。


 確かにデートは断ったけど。

 めっちゃ好みとか言って、こんな所に連れてきて、二人きりになったのに。


 なんだ、その態度は。


「君、ちょっと血気盛ん過ぎない?

 戦う以外にも、やる事あるでしょうよ。」


 しかも、ダメ出しまで…。


 いや。

 気にする所は違うか。


 まだ、そんな事を言われる行動を起こしていない。


「越えてきたの?世界を、時を?」

「…へ~、頭は回るんだ。」


 にやりと、ミフダは笑う。

 何と言うか、人を見下したような顔だ。


「でもそれもよくないね。

 見た目は可愛いのに、可愛げがないよ。」


 言いながら右手を上げ、指を鳴らす。

 すると地面の一部が、飛び出した。


 続けざまに左指を鳴らすと、飛び出した土が形を変えて。

 僅か数秒で、等身大のミフダ土像が完成した。


「こういう時、『キャー!すごーい!』って言ってくれる子が好きなんだよ。

 『なんで作ったの?』とか『何か意味ある?』とか言っちゃう子は、苦手なんだ。」


「趣味嗜好は自由よ。

 そして土像は見事だと思う。

 魔法技術の高さを示して、相手の戦意を挫ければ、戦いを避けられるかもしれない。

 真意までは分からないけど、意味の無い行動とも思えないわ。」


 石鎖ストーンチェーンは、まだ切らない。

 言葉を投げて、様子を見る。


 私は負けず嫌いとは言われるし、自分でもそうだと思うけど。


 戦いが大好きという訳ではない。

 戦いを避けられるなら、その方がいい。


 目の前の人も、暴れるのとか好きじゃないと言っていたから。

 もしかしたら、その可能性があるかもしれないと思って。


「…真面目だねぇ。」


 ミフダが、そう呟いた後に。


「賢くて真面目で、いい子で、気の強い子だ。」


 私は石の鎖を切った。

 殺気を感じて。


 地面を蹴って、距離を取る。


「俺は、俺の事を褒めてくれる可愛い子と遊びたくてね。

 そういう子の笑顔が好きなんだ。」


 今まで見た事のない、醜悪で楽しそうな顔。


「君みたいな女は。

 実力で潰して、命乞いを聞きたくなる。」


「…残念ね。」


 私の。

 堕天使との真剣勝負は、こうして始まった。

サニア編、開始!

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