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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第五章 11人の堕天使と2大陸縦断英雄列車

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第159話 1/6:ヨダーシル周辺~クーラン問題~

勇者隊はチヨカ村を拠点として、クーランとの交渉を続けていた。


◇登場人物◇ ※●が視点者

●ガットル   :勇者隊メンバー

〇ディオル   :レーグの魔王

〇リガーナ   :ゾトの魔王


〇ゴケさん   :本名、フフゴケ。フフゴケ商会、会長。

〇ガンダローゲ :クーランの魔王

*ガットル視点*


 ワイバン大陸東部、旧レーグ領の魔王城跡地周辺。

 ワイバン大陸西部、ラゼン山脈。


 どちらも、人が住むには過酷な環境だ。

 作物の育ちは悪く、急斜面ばかりだし、魔物だって多い。


 それでも。

 ライダ大陸北部、クーラン山脈よりはマシ。


 昔から、そう言われている。

 クーラン山脈は、旧レーグ領とラゼン山脈の悪いところを併せたような所だと。


 なら、なぜ。

 クーランにも人はいるのか?




 大昔。

 それこそ、千年以上前。


 一人の魔法使いが、この地にやってきた。


 強大な魔力を持ち、故に人々から恐れられて。

 しかし、争いを好まない性格で。

 自らが火種になる事も、誰かに利用される事も良しとせず。


 だから、人里から離れたのだ。


 魔法使いは、その卓越した魔力探知能力で、大地から溢れる魔力の泉を発見する。

 今でいう所の、龍穴だ。


 その周辺の山を切り崩し、小屋を建て、作物を植え、狩りをして。

 一人で、ひっそりと生活していたらしい。


 そうして数十年経った頃。

 変化が起きる。


 南の方で、戦争が始まったのだ。


 それ自体は、魔法使いに関係のない話。

 しかし。

 戦火を逃れ、クーラン山脈に逃げ込む人も多かった。


 そのほとんどが、魔物に殺されたりした訳だけど。

 中には、奥まで。

 魔法使いの生活圏内まで、逃げ延びられた人もいて。


 その人達を、魔法使いは助けた。


 傷の手当をして、食べ物を分け与えて。

 希望があれば麓まで送り届けたし、戦火が落ち着くまで滞在だって許した。

 中には、そのまま居着く者もいて。


 それが。

 クーラン魔法王国の始まり。


 クーラン山脈の環境で生きるには、高度な魔力制御技術が必須。

 故に人々は、魔法の鍛錬に励む。


 優れた魔法の師の元で。

 長大な龍穴の影響を受けながら。


 数十年もすれば。

 一人でクーラン山脈を踏破できるほどの者も現れた。


 そうなれば、他国で商売を始める者も出てくる。

 クーランで育てた作物を、他国で売りだしたのだ。


 クーラン山脈のどこかにある村。

 過酷な環境に適応した、超人達の集落。


 そんな噂を聞きつけ、腕に覚えのある者はクーランを目指すようになっていった。

 腕試しの為に、更なる修行の為に。


 そうしてクーランは、強い国になっていく。


 今より千年前。

 天上の国が、この世界に侵攻してきた。


 多くの国が滅んだ。


 コア王国やウーイング王国といった一部の国は、天上の国に一矢報いる事に成功。

 それでも。

 やはり甚大な被害を出してしまっている。


 そんな中。

 クーランは、ほとんど被害を出さなかった。


 偉大なる3代目魔法王と、民達の力によって。




 時は流れる。

 時代は変わる。


 見られ方も、接され方も、扱いも、様々だった。


 変わらなかったのは。

 クーランが、強い国であるという事実。


 いつしか魔法王国は、魔王国と。

 魔法王は、魔王と。

 そう呼ばれるようになっていく。




 21代目クーランの魔王、ガンダローゲ。

 129歳。


 現存する21の国で最古。

 最長の歴史を持つ国の長。

 およそ100年前、10人の勇者を葬った男。


 俺達、勇者隊は。

 マーア王国、北部のチヨカ村を拠点として。


 彼と交渉を続けていた。

 マーアとクーランを、和睦させる為に。




 そもそも、なぜ両国が対立しているのかというと。


 最初は魔物問題だった。

 クーランの魔力に適応した強力な魔物が、マーアにやってくる事があって。


 クーランは、龍穴に細工をしている。

 自分達の都合のいい魔力に変化させる為に。


 マーアは、それを止めと言ってきた。

 そんな事をしているから、魔物が強くなったのではないかと。


 対して、クーラン側は。

 魔力の質を変える前から、クーランの魔物は強力だった。

 それらに対抗する為に、魔力の質を変えたのだ。

 これは、この地で生きていく為に不可欠な事。

 だから止める気はない、と主張した。


 マーアは。

『生きていけないなら、土地を分けてやる。

 全員そこに引っ越せ。だから龍穴を解放しろ。』と言い。


 クーランは。

『ふざけるな。

 先祖が開墾した土地を手放せるか。

 そもそも俺達が魔物を討伐してやっているから、この程度の被害で済んでいるんだ。

 なぜ、そちらの言い分を聞かねばならない。』と言い返した。


 そんな感じで、こじれた結果。

 クーラン大戦が勃発した。


 クーラン大戦以降、マーアはクーランを攻めれていない。

 甚大な被害を出したから。


 クーランも、降りかかる火の粉を払っただけ。

 マーアを攻め滅ぼしてやるなんて考えていない。


 だから、大々的な武力衝突は起きていない訳だけど。


 それでも。

 マーアVSクーランは終わっていない。


 開戦宣言はしても、停戦も終戦宣言もしていない。

 そして、発端となった魔物問題も解決していない。


 睨み続けるマーアと。

 知らんぷりしているクーラン。


 そんな状態が、ずっと続いている。




 魔物問題に関して、ディオルの見解。

 『マーアは間違った事を言っていないが、クーランが正しい。』


 …どういう事かと言うと。


 龍穴に細工をしない場合。

 魔物の戦力を平均レベル50とすると、クーランの戦力平均レベルは40ほどらしい。


 細工をしている現在。

 魔物の平均レベルは60、クーランの平均レベルは70ぐらいになっているそうで。


 マーアの主張のように、細工をする事で魔物は強くなっている。


 しかし、そもそもマーアの平均レベルは20ほど。

 細工を止めた所で、魔物は相変わらず脅威のままで。


 寧ろクーランが太刀打ち出来なくなり、魔物の被害は増える可能性だってある。

 …らしい。


 もしも100年前。

 このディオルの説を立証できていれば、クーラン大戦は起きなかっただろうか?


 それは分からない。


 魔物問題が、表向きの理由だったのは間違いないけど。

 他にも思惑があってもおかしくないから。


 ウーイングと、レーグのように。


 言えるのは。

 クーラン大戦は起きてしまって。


 ディオルの説が正しいと理解できたとしても。

 マーアが矛を収めるのは簡単ではないという事。


 10人の勇者を。

 絶大な人気を誇る彼らを殺されておきながら。

 クーラン大戦はこちらが悪かったです、なんて認めたら。

 暴動が起きて、国が割れかねないから。




 『壁を造るのはどうでしょうか?』


 そう提案してきたのは。

 今では列車部門統括責任者となった、ヨダーシルのユンゼスだ。


 まずは魔物問題を解決するべきだと。

 少なくともマーアの国民は、魔物問題で戦いが始まったと認識している訳だから。


 逃げた、とか。屈した、とか。諦めた、とかではなく。

 目的を果たしたから、戦いは終わった。


 それが一番、納得しやすいだろうと。


 マーアとクーランの国境に、長大な壁を。

 人や荷物は通すけど、魔物だけは通さない。

 そういう、門を造る。


 フフゴケ商会と、ヨダーシルの技術の粋を結集。

 技術的には、可能だろうという話。


 問題は、お金。


 建造には莫大な費用が必要で、まだ目処は立っていない。

 クレスタ達が頑張ってくれている最中である。


 そういう事情も込みで。

 マーア王国に話を持っていくと、条件を出された。


 それは現クーランの魔王、ガンダローゲの勇退。

 流石に、勇者達を葬った張本人と和解は無理という話だ。


 ガンダローゲが退いて、壁が完成して魔物問題も解決したら。

 マーアは、クーランと和睦してもいいらしい。


 このマーア側の態度に、腹を立てた隊員もいた。


 それでも俺達は。


 殺し合わなくてもいいなら、その道を選びたい。

 失うという辛さを知っているから。


 だから和睦に向けて前進した事を喜んだし。

 この後が大変だという事も分かっていた。


 なぜなら、クーランは。

 マーアとの和睦に、何の利点も感じていない。


 『来るなら、来いよ。買うよ?喧嘩。』

 それが魔法強者、かつ自給率100%のこの国のスタイル。


 彼らは現状で、何も困っていないのだ。


 フフゴケ商会やヨダーシルの魔道具に、興味を持つ事はあっても。

 珍しい玩具ぐらいにしか思っていない。


 『和睦すれば、貿易でそれらが手に入りますよ~。』

 なんて話も、魅力に欠ける。


 それなのに、和睦の条件は魔王の勇退。


 デカい壁なんて造られたら景観が悪くなるし、閉じ込められたみたいで圧迫感を感じる。

 なんて話も聞いた。




 困っているのはマーアに住む人々だ。


 クーランから、太刀打ち出来ない魔物がやってくるかもしれないという恐怖。

 10人の勇者達の戦いを、無駄にしたくないという想い。

 戦争が激化して、それに巻き込まれるのではという不安。


 純粋に、彼らを助けたいという気持ちはある。

 出来る事があるのなら、力になりたいと。


 でも、それだけじゃなくて。

 打算もある。


 レーグの魔王の討伐の件で。

 ワイバン大陸東部では、フフゴケ商会の知名度はかなりのものだ。


 しかしライダ大陸では違う。

 勇者隊の事は知っていても、フフゴケ商会の名は知らない人が大多数。


 マーアとクーランが和睦して。

 その立役者が勇者隊およびフフゴケ商会という事になれば。


 その名声は、ライダ大陸中に知れ渡るだろう。


 そうすれば。

 ライダ大陸一のセンレイ会とも、交渉のテーブルにつけるはず。


 『断海を越える。』

 ゴケさんの夢に、近づける訳だ。


 ゴケさんは、俺の父親みたいな人だ。

 恩しかない。喜んで協力する。


 それにだ。

 個人的に、思う。


 100年こじれた国家間の問題。

 それを解決させるなんて、並大抵のことではないのだろうけども。


 魔王が2人。

 勇者が2、いや、3人。

 その仲間達。

 フフゴケ商会に、あのヨダーシルの協力まで得られている。


 これだけの人が集まって。

 それでもどうにもならないなんて。


 そんなの、悲しいじゃないか。


 だからこそ。

 俺達は。


 クーラン問題を、円満に解決してみせる。




 季節は、夏。

 勇者隊がマーアに来て、1年半くらい。


 勇者隊によるクーランとの交渉は続いている。


 俺、個人としては。

 訓練したり、お金を稼いだり、魔物を討伐したりの毎日だ。


 春に、『マーアの勇者行方不明事件』なんてのがあったみたいだけど。

 比較的、ゆったりとした日々だったと思う。


 そんな中。

 そいつは突然、現れた。




 大きな音が、戦闘音が聞こえて。

 だから、急いで駆けつける。


 ディオルが、何者かと対峙していた。


「人も集まってきたので、改めて自己紹介を。

 私の名前は、バルドラッシュ。

 私と、私の所属する組織、解放の輝旗は。

 あなた方、勇者隊に。

 宣戦布告をします。」


 紫色のローブを纏い、その素顔はよく見えなかったけど。

 声からして、たぶん男。


 勇者隊がいるチヨカ村に、単身で乗り込んできて。

 しかも、接近にディオルしか気づけなかったなんて。


 (こいつ、強い…。)


 宣戦布告というのも、戯言ではなさそうだ。


「とはいえ、この場でやり合うつもりはありません。

 今回は挨拶と、これを渡しにきたんです。」


 バルドラッシュと名乗った男が何かを投げる。

 ディオルが掴んだそれは、封筒のようだった。


「勇者隊の皆さんには、とあるゲームに参加してもらいます。

 日時やルールは、そちらをご覧ください。」


 地面から、槍が飛び出して。

 あっという間に、バルドラッシュを囲む檻が完成する。


 しかし。


「それでは皆さん。

 また会える時を、楽しみにしています。」


 別の位置から声が聞こえて。

 そちらを向くと、宙に浮かぶバルドラッシュが。


「!?」


 ディオルの獄炎槍ヘルフレイムランスが躱されたのには驚いたけど。

 それよりも、空を覆うような土の壁に圧倒される。


 リガーナの魔法だ。

 侵入者を逃すつもりはないらしい。


 土砂崩れのような嫌な音と共に、土の壁が形を変えていく。

 音が止むと、そこにあるのは土の塊。


「どうだ?」

「ダメね、逃げられたわ。」


 ディオルとリガーナの短い会話が、現状を教えてくれる。


 (魔王二人の攻撃から逃れただって?)


 凄いのが現れたな、と思うと同時。

 自分なら、と考える。


 アサルトフローの全力で飛べば、ギリギリだけど避けられると思う。

 でも、来ると分かっている場合だ。


 対峙しているディオルの方は何とかなるとしても、リガーナの接近に俺は気づけなかった。


 (リガーナの接近に気づけるほどの探知能力がある。もしくは不意打ちに対応できるほどの反応速度…。)


 どちらにしろ、俺より上。

 その相手に、どうやって勝つ?


 当然ながら。

 力が劣っているから勝てない、なんて事はない。


 魔力が上だから勝てないなんて事も、自分に出来ない事が出来る相手だから勝てないなんて事もない。


 圧倒的な実力差がある場合でも、やりようはある。

 いや、やらなければならない。


 なぜなら。

 宣戦布告をしてきたという事は、彼は敵で。

 俺は、仲間を守りたいのだから。


 俺が勝てなくても、俺達は勝たないといけないから。


 だから戦術を考える。勝つための。


「あ~、どうもどうも、こんにちは~。」


 ビックリした。


 同時に猛反省。


 さっき侵入者が出たばかりだというのに。

 警戒を怠って、また知らない男の接近に気づかなかった。


「いや~、そんな怖い顔しないでよ。

 さっきのとは違って、僕は君達と協力したいと思っているんだからさ。」


 その、十代後半に見える男は。


 明るめな茶髪に、深緑色の深めの帽子を被り。

 同色の厚手のローブを着込んでいた。


「僕は、エンビッケ。ルートレスの魔王さ。

 ついでに天上の国からやってきた天使で、管理者と呼ばれる役職持ちだよ。」


 軽く混乱する。

 情報量が多くて。


 こいつは今、天上の国と言ったのか?


「とりあえず、僕の話を聞いてくれ。」

夏だけど、ビッケは厚手のローブ(笑)

体温調整はバッチリだから。

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