第159話 1/6:ヨダーシル周辺~クーラン問題~
勇者隊はチヨカ村を拠点として、クーランとの交渉を続けていた。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ガットル :勇者隊メンバー
〇ディオル :レーグの魔王
〇リガーナ :ゾトの魔王
〇ゴケさん :本名、フフゴケ。フフゴケ商会、会長。
〇ガンダローゲ :クーランの魔王
*ガットル視点*
ワイバン大陸東部、旧レーグ領の魔王城跡地周辺。
ワイバン大陸西部、ラゼン山脈。
どちらも、人が住むには過酷な環境だ。
作物の育ちは悪く、急斜面ばかりだし、魔物だって多い。
それでも。
ライダ大陸北部、クーラン山脈よりはマシ。
昔から、そう言われている。
クーラン山脈は、旧レーグ領とラゼン山脈の悪いところを併せたような所だと。
なら、なぜ。
クーランにも人はいるのか?
大昔。
それこそ、千年以上前。
一人の魔法使いが、この地にやってきた。
強大な魔力を持ち、故に人々から恐れられて。
しかし、争いを好まない性格で。
自らが火種になる事も、誰かに利用される事も良しとせず。
だから、人里から離れたのだ。
魔法使いは、その卓越した魔力探知能力で、大地から溢れる魔力の泉を発見する。
今でいう所の、龍穴だ。
その周辺の山を切り崩し、小屋を建て、作物を植え、狩りをして。
一人で、ひっそりと生活していたらしい。
そうして数十年経った頃。
変化が起きる。
南の方で、戦争が始まったのだ。
それ自体は、魔法使いに関係のない話。
しかし。
戦火を逃れ、クーラン山脈に逃げ込む人も多かった。
そのほとんどが、魔物に殺されたりした訳だけど。
中には、奥まで。
魔法使いの生活圏内まで、逃げ延びられた人もいて。
その人達を、魔法使いは助けた。
傷の手当をして、食べ物を分け与えて。
希望があれば麓まで送り届けたし、戦火が落ち着くまで滞在だって許した。
中には、そのまま居着く者もいて。
それが。
クーラン魔法王国の始まり。
クーラン山脈の環境で生きるには、高度な魔力制御技術が必須。
故に人々は、魔法の鍛錬に励む。
優れた魔法の師の元で。
長大な龍穴の影響を受けながら。
数十年もすれば。
一人でクーラン山脈を踏破できるほどの者も現れた。
そうなれば、他国で商売を始める者も出てくる。
クーランで育てた作物を、他国で売りだしたのだ。
クーラン山脈のどこかにある村。
過酷な環境に適応した、超人達の集落。
そんな噂を聞きつけ、腕に覚えのある者はクーランを目指すようになっていった。
腕試しの為に、更なる修行の為に。
そうしてクーランは、強い国になっていく。
今より千年前。
天上の国が、この世界に侵攻してきた。
多くの国が滅んだ。
コア王国やウーイング王国といった一部の国は、天上の国に一矢報いる事に成功。
それでも。
やはり甚大な被害を出してしまっている。
そんな中。
クーランは、ほとんど被害を出さなかった。
偉大なる3代目魔法王と、民達の力によって。
時は流れる。
時代は変わる。
見られ方も、接され方も、扱いも、様々だった。
変わらなかったのは。
クーランが、強い国であるという事実。
いつしか魔法王国は、魔王国と。
魔法王は、魔王と。
そう呼ばれるようになっていく。
21代目クーランの魔王、ガンダローゲ。
129歳。
現存する21の国で最古。
最長の歴史を持つ国の長。
およそ100年前、10人の勇者を葬った男。
俺達、勇者隊は。
マーア王国、北部のチヨカ村を拠点として。
彼と交渉を続けていた。
マーアとクーランを、和睦させる為に。
そもそも、なぜ両国が対立しているのかというと。
最初は魔物問題だった。
クーランの魔力に適応した強力な魔物が、マーアにやってくる事があって。
クーランは、龍穴に細工をしている。
自分達の都合のいい魔力に変化させる為に。
マーアは、それを止めと言ってきた。
そんな事をしているから、魔物が強くなったのではないかと。
対して、クーラン側は。
魔力の質を変える前から、クーランの魔物は強力だった。
それらに対抗する為に、魔力の質を変えたのだ。
これは、この地で生きていく為に不可欠な事。
だから止める気はない、と主張した。
マーアは。
『生きていけないなら、土地を分けてやる。
全員そこに引っ越せ。だから龍穴を解放しろ。』と言い。
クーランは。
『ふざけるな。
先祖が開墾した土地を手放せるか。
そもそも俺達が魔物を討伐してやっているから、この程度の被害で済んでいるんだ。
なぜ、そちらの言い分を聞かねばならない。』と言い返した。
そんな感じで、こじれた結果。
クーラン大戦が勃発した。
クーラン大戦以降、マーアはクーランを攻めれていない。
甚大な被害を出したから。
クーランも、降りかかる火の粉を払っただけ。
マーアを攻め滅ぼしてやるなんて考えていない。
だから、大々的な武力衝突は起きていない訳だけど。
それでも。
マーアVSクーランは終わっていない。
開戦宣言はしても、停戦も終戦宣言もしていない。
そして、発端となった魔物問題も解決していない。
睨み続けるマーアと。
知らんぷりしているクーラン。
そんな状態が、ずっと続いている。
魔物問題に関して、ディオルの見解。
『マーアは間違った事を言っていないが、クーランが正しい。』
…どういう事かと言うと。
龍穴に細工をしない場合。
魔物の戦力を平均レベル50とすると、クーランの戦力平均レベルは40ほどらしい。
細工をしている現在。
魔物の平均レベルは60、クーランの平均レベルは70ぐらいになっているそうで。
マーアの主張のように、細工をする事で魔物は強くなっている。
しかし、そもそもマーアの平均レベルは20ほど。
細工を止めた所で、魔物は相変わらず脅威のままで。
寧ろクーランが太刀打ち出来なくなり、魔物の被害は増える可能性だってある。
…らしい。
もしも100年前。
このディオルの説を立証できていれば、クーラン大戦は起きなかっただろうか?
それは分からない。
魔物問題が、表向きの理由だったのは間違いないけど。
他にも思惑があってもおかしくないから。
ウーイングと、レーグのように。
言えるのは。
クーラン大戦は起きてしまって。
ディオルの説が正しいと理解できたとしても。
マーアが矛を収めるのは簡単ではないという事。
10人の勇者を。
絶大な人気を誇る彼らを殺されておきながら。
クーラン大戦はこちらが悪かったです、なんて認めたら。
暴動が起きて、国が割れかねないから。
『壁を造るのはどうでしょうか?』
そう提案してきたのは。
今では列車部門統括責任者となった、ヨダーシルのユンゼスだ。
まずは魔物問題を解決するべきだと。
少なくともマーアの国民は、魔物問題で戦いが始まったと認識している訳だから。
逃げた、とか。屈した、とか。諦めた、とかではなく。
目的を果たしたから、戦いは終わった。
それが一番、納得しやすいだろうと。
マーアとクーランの国境に、長大な壁を。
人や荷物は通すけど、魔物だけは通さない。
そういう、門を造る。
フフゴケ商会と、ヨダーシルの技術の粋を結集。
技術的には、可能だろうという話。
問題は、お金。
建造には莫大な費用が必要で、まだ目処は立っていない。
クレスタ達が頑張ってくれている最中である。
そういう事情も込みで。
マーア王国に話を持っていくと、条件を出された。
それは現クーランの魔王、ガンダローゲの勇退。
流石に、勇者達を葬った張本人と和解は無理という話だ。
ガンダローゲが退いて、壁が完成して魔物問題も解決したら。
マーアは、クーランと和睦してもいいらしい。
このマーア側の態度に、腹を立てた隊員もいた。
それでも俺達は。
殺し合わなくてもいいなら、その道を選びたい。
失うという辛さを知っているから。
だから和睦に向けて前進した事を喜んだし。
この後が大変だという事も分かっていた。
なぜなら、クーランは。
マーアとの和睦に、何の利点も感じていない。
『来るなら、来いよ。買うよ?喧嘩。』
それが魔法強者、かつ自給率100%のこの国のスタイル。
彼らは現状で、何も困っていないのだ。
フフゴケ商会やヨダーシルの魔道具に、興味を持つ事はあっても。
珍しい玩具ぐらいにしか思っていない。
『和睦すれば、貿易でそれらが手に入りますよ~。』
なんて話も、魅力に欠ける。
それなのに、和睦の条件は魔王の勇退。
デカい壁なんて造られたら景観が悪くなるし、閉じ込められたみたいで圧迫感を感じる。
なんて話も聞いた。
困っているのはマーアに住む人々だ。
クーランから、太刀打ち出来ない魔物がやってくるかもしれないという恐怖。
10人の勇者達の戦いを、無駄にしたくないという想い。
戦争が激化して、それに巻き込まれるのではという不安。
純粋に、彼らを助けたいという気持ちはある。
出来る事があるのなら、力になりたいと。
でも、それだけじゃなくて。
打算もある。
レーグの魔王の討伐の件で。
ワイバン大陸東部では、フフゴケ商会の知名度はかなりのものだ。
しかしライダ大陸では違う。
勇者隊の事は知っていても、フフゴケ商会の名は知らない人が大多数。
マーアとクーランが和睦して。
その立役者が勇者隊およびフフゴケ商会という事になれば。
その名声は、ライダ大陸中に知れ渡るだろう。
そうすれば。
ライダ大陸一のセンレイ会とも、交渉のテーブルにつけるはず。
『断海を越える。』
ゴケさんの夢に、近づける訳だ。
ゴケさんは、俺の父親みたいな人だ。
恩しかない。喜んで協力する。
それにだ。
個人的に、思う。
100年こじれた国家間の問題。
それを解決させるなんて、並大抵のことではないのだろうけども。
魔王が2人。
勇者が2、いや、3人。
その仲間達。
フフゴケ商会に、あのヨダーシルの協力まで得られている。
これだけの人が集まって。
それでもどうにもならないなんて。
そんなの、悲しいじゃないか。
だからこそ。
俺達は。
クーラン問題を、円満に解決してみせる。
季節は、夏。
勇者隊がマーアに来て、1年半くらい。
勇者隊によるクーランとの交渉は続いている。
俺、個人としては。
訓練したり、お金を稼いだり、魔物を討伐したりの毎日だ。
春に、『マーアの勇者行方不明事件』なんてのがあったみたいだけど。
比較的、ゆったりとした日々だったと思う。
そんな中。
そいつは突然、現れた。
大きな音が、戦闘音が聞こえて。
だから、急いで駆けつける。
ディオルが、何者かと対峙していた。
「人も集まってきたので、改めて自己紹介を。
私の名前は、バルドラッシュ。
私と、私の所属する組織、解放の輝旗は。
あなた方、勇者隊に。
宣戦布告をします。」
紫色のローブを纏い、その素顔はよく見えなかったけど。
声からして、たぶん男。
勇者隊がいるチヨカ村に、単身で乗り込んできて。
しかも、接近にディオルしか気づけなかったなんて。
(こいつ、強い…。)
宣戦布告というのも、戯言ではなさそうだ。
「とはいえ、この場でやり合うつもりはありません。
今回は挨拶と、これを渡しにきたんです。」
バルドラッシュと名乗った男が何かを投げる。
ディオルが掴んだそれは、封筒のようだった。
「勇者隊の皆さんには、とあるゲームに参加してもらいます。
日時やルールは、そちらをご覧ください。」
地面から、槍が飛び出して。
あっという間に、バルドラッシュを囲む檻が完成する。
しかし。
「それでは皆さん。
また会える時を、楽しみにしています。」
別の位置から声が聞こえて。
そちらを向くと、宙に浮かぶバルドラッシュが。
「!?」
ディオルの獄炎槍が躱されたのには驚いたけど。
それよりも、空を覆うような土の壁に圧倒される。
リガーナの魔法だ。
侵入者を逃すつもりはないらしい。
土砂崩れのような嫌な音と共に、土の壁が形を変えていく。
音が止むと、そこにあるのは土の塊。
「どうだ?」
「ダメね、逃げられたわ。」
ディオルとリガーナの短い会話が、現状を教えてくれる。
(魔王二人の攻撃から逃れただって?)
凄いのが現れたな、と思うと同時。
自分なら、と考える。
アサルトフローの全力で飛べば、ギリギリだけど避けられると思う。
でも、来ると分かっている場合だ。
対峙しているディオルの方は何とかなるとしても、リガーナの接近に俺は気づけなかった。
(リガーナの接近に気づけるほどの探知能力がある。もしくは不意打ちに対応できるほどの反応速度…。)
どちらにしろ、俺より上。
その相手に、どうやって勝つ?
当然ながら。
力が劣っているから勝てない、なんて事はない。
魔力が上だから勝てないなんて事も、自分に出来ない事が出来る相手だから勝てないなんて事もない。
圧倒的な実力差がある場合でも、やりようはある。
いや、やらなければならない。
なぜなら。
宣戦布告をしてきたという事は、彼は敵で。
俺は、仲間を守りたいのだから。
俺が勝てなくても、俺達は勝たないといけないから。
だから戦術を考える。勝つための。
「あ~、どうもどうも、こんにちは~。」
ビックリした。
同時に猛反省。
さっき侵入者が出たばかりだというのに。
警戒を怠って、また知らない男の接近に気づかなかった。
「いや~、そんな怖い顔しないでよ。
さっきのとは違って、僕は君達と協力したいと思っているんだからさ。」
その、十代後半に見える男は。
明るめな茶髪に、深緑色の深めの帽子を被り。
同色の厚手のローブを着込んでいた。
「僕は、エンビッケ。ルートレスの魔王さ。
ついでに天上の国からやってきた天使で、管理者と呼ばれる役職持ちだよ。」
軽く混乱する。
情報量が多くて。
こいつは今、天上の国と言ったのか?
「とりあえず、僕の話を聞いてくれ。」
夏だけど、ビッケは厚手のローブ(笑)
体温調整はバッチリだから。




