第158話 1/6:ヨダーシル周辺~敵と味方~
~前回までのパルケ~
兄の呪いを解く為、伝説の薬エリクシルを手に入れた。
急いで国に戻る為、ヨダーシルの魔列車に乗る事に。
ヨダーシルに向かう途中、私は襲われた。助けてくれたのは、ガットルだ。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●パルケ :センレイ会、会長の妹
〇ユンゼス :列車の責任者
〇ガットル :勇者隊メンバー
〇ロストン :勇者隊メンバー
〇サニア :勇者隊メンバー
「ようこそ、ヨダーシルへ。
列車部門統括責任者のユンゼスです。
…久しぶりですね、パルケさん。」
ヨダーシル南区、駅のホームにある待合室。
そこに私は通された。
「ええ、その節はお世話になりました。
またお会いできて、嬉しいです。」
盗賊団から助けだされた私に、色々よくしてくれた人。
それが、ユンゼスさん。
あの時は南区の区長さんだったけど、今は違うらしい。
「まずは、軽く紹介を。
こちらにいるのは、勇者隊の皆さんです。」
「ガットルです。」
私を助けてくれた、赤紫髪のお兄さんが手を挙げて名乗る。
「ロストン、よろしく。」
その隣の、腕を組んだままのお兄さんも名乗る。
ガットルさんと一緒に私を助けてくれた、赤髪で眼帯の人。
「サニアよ、よろしくね。」
その隣のお姉さんは、初めて見る顔。
薄い水色の肩までくらいの髪で、ミニスカートな人。
この場にいるのは、この五人だ。
「次に、状況の説明ですね。
結論からいうと、あなたは狙われています。
正確には、あなたの持つエリクシルが。」
「…。」
ユンゼスさんは、いい人だと思う。
しかし、なぜ私がエリクシルを持っていると知っているのか?
警戒レベルが上がる。
(まさか、狙われているから手放せ、なんて言わないわよね?)
これは、兄を助けるのに必要な薬で。
だから、絶対に嫌だ。
「狙っている敵の名は、【解放の輝旗】。
11名による組織で…。」
ユンゼスさんの首が動く。
おそらく、ロストンさんを見た。
ロストンさんは頷いて、ユンゼスさんが私に向き直る。
「実は、異世界というのがありまして…。」
異世界の事。
天上の国の事。
そういうのを説明される。
信じていない訳ではないけれど。
正直、「へ~、そうなんだぁ」以上の感想は出てこない。
実感が無いというか。
事実だとしても、どうするでもない。
「天上の国の住民を天使と。
そして天上の国を離反した人の事を、堕天使と呼んでいます。」
「…。」
「堕天使は、天上の国の規律を守りません。
人外の力で好き勝手しているらしいです。
本来なら、管理者と呼ばれる上位の天使が速やかにお縄にするそうなのですが。
中には、逃げ切る猛者もいて。
その逃げ切った堕天使が徒党を組むなんて事もあって。
あなたを狙う輝旗も、そういう連中です。」
少し前に私を襲った、あの人。
確かに、天使みたいだとは思った。
堕天使と聞いて、私に向けた顔を思い出して。っぽいなぁと思う。
「ま、要するに。」
ロストンさんが、口を開ける。
「君はヤバイ連中に狙われているから、俺達が護衛につくって話だ。」
どうして?
と、聞く前に話は続く。
「勇者隊はフフゴケ商会と深い繋がりがある。
で、フフゴケ商会はセンレイ会と組みたいと考えている。
だから会長の妹を助けて、恩を売ろうとしている訳だ。」
ロストンさんが近づいて来て、私に何かを渡してくる。
「会長本人と、話はつけてある。」
手紙だ。
この人が言ったのと、同じような内容が書かれている。
なにより、これは。
間違いなく、兄の字だ。
(…。)
善意ではなく、打算あっての事。
利があるからこその、行動。
理由としては、納得できる。
「よろしくお願いします。」
立ち上がって、頭を下げる。
もとより。
列車には乗るしかなくて。
ガットルさんを信じたから、ここにいるのだ。
私の身を案じて、「薬はこっちで届けるから大人しくしていろ」と言われるのだけが嫌だった。
護衛してくれるというのなら、寧ろありがたい。
「ユンゼス、列車は?」
「準備は出来てます。いつでも行けますよ。」
「おし。じゃあ、行くか。」
勇者隊の三人が、待合室を出ていく。
「い、今からですか?」
出発は明日のはずでは?
「急ぐ理由があるだろ?…お互いに。」
振り向かず、手をヒラヒラさせながらロストンさんが言う。
まあ、確かに。
準備が出来たなら、さっさと出発した方がいい。
明確に、狙われているみたいだし。
星の綺麗な夜だった。
それでも。
その巨体を全て照らす事は出来ない。
魔列車。
闇の中に佇む、その黒い物体は魔物にも見えて。
だから脚が止まってしまう。怖くて。
「すみません、暗いですよね。
城壁周辺は明かりがあるから大丈夫かと思ったんですが。
何分、夜間に出発した事がなくて。
…この辺にも明かりをつけないとダメだなぁ。」
ユンゼスさんが、隣に来てくれる。
「さあ、どうぞ。足元にお気をつけください。」
促され、乗車を試みる。
片足を乗せた瞬間、車体が揺れた気がしてユンゼスさんを見た。
彼はニコニコで、手を差し出してくれて。
その手に掴まり、無事、車体の中へ。
「…。」
人生、初列車。
特に感想はない。
…まだ、動き出してもいないし。
「ようこそ、魔列車バーチカル・ギャロップへ。
四日間、よろしくお願いします。」
ユンゼスさんが、帽子を取ってお辞儀をした。
つられて私も、頭を下げる。
「何かあれば、遠慮なく仰ってください。」
「あれ、ユンゼスさんも一緒ですか?」
嫌とかではなくて。
勇者隊の人達と行くのだと思ったから。
「ええ、運転手ですから。」
ユンゼスさんは帽子を被りながら、笑顔で言った。
魔列車バーチカル・ギャロップは、五両編成だ。
一両目は、運転席や運行に必要なあれこれがあるらしい。
ユンゼスさんがいる所で、不必要な立ち入りは禁止。
二両目は、食堂車。ご飯を食べる所。
広くて開放的。
基本は、ここにいたいかも。
三両目は、それぞれの個室。
丁度、五部屋ある。
ただユンゼスさんは、ずっと一両目にいるらしい。
自動運行も可能らしいけど、有事の際を考えて離れないそうだ。
つまり、一つは空き部屋。
四両目は、倉庫。
持ってきた道具が置いてある。
五両目は、シャワー室とか、洗濯機とか、トイレとか。
そういう感じ。
「ここ、座ってもいいかしら?」
食堂車。
列車が出発して、少しした頃。
窓の外の星空を見ていた私は、サニアさんに声をかけられた。
私が頷くと、彼女は向かいの席に座る。
「どう?初めての列車は。」
「馬より速いって聞いたので、どれくらい揺れるのかと思いましたが。
私が乗った船より揺れません。」
「あ、それはユンゼスさんにも言ってあげるといいわ。
昔、自分が酷い船酔いをしたらしくてね。
凄く拘ったみたいだから。」
「後は…、暗くてよく分かりませんが、とりあえず星は綺麗です。」
「確かに。
ヨダーシル周辺は工場の煙で星なんて見えない、なんてどこかで聞いたけど、そんな事はないわ。
とはいえ私も初めて見るから、たまたま今日が綺麗なだけかもだけど。」
サニアさんはニコニコだ。
多分、私を気遣って話しかけてくれたのだろう。
きっと、いい人なのだ。
(…。)
折角、話をしにきてくれたのだから。
聞いてもいいのかもしれない。
「解放の輝旗、でしたっけ。
どうして、エリクシルを狙うんでしょう?」
確かに、伝説とまで言われる希少物だ。
でもそれは、過去の話になる。
ドンハのおじさん達によって、作り方は確立したのだから。
多くの魔力とか、特殊な材料も必要らしくて、ポンポンは作れないそうだけど。
今後はドンハの国を挙げての国事となる。
そう遠くない未来。
人類は、呪いを克服できる。
その事を知らない?
それは、ない。
だって、私がエリクシルを持っているという情報を掴めるぐらいなのだから。
それでも、私のエリクシルを狙うという事は。
完成品が、今すぐ必要という事で。
つまり。
兄のように苦しんでいる人が、他にもいるという事なのではないか?
私の第一優先は、兄だ。
だから薬を譲ろうなんて、露ほども思わない訳だけど。
それでも。
兄も、その人も、両方助かる道があるならば。
それを、目指したいとは思う。
「聞いた話にはなってしまうんだけどね。」
サニアさんは、最初に付け加えて話す。
「薬が必要だから、狙っている訳ではないみたい。」
だとしたら、何故?
「ゲームなのよ、これは。彼らにとっての。」
意味を理解する前に、話は続く。
「メンバーの一人が、エリクシルに興味があるみたいで。
だから、誰が最初にエリクシルを入手できるかっていう、ゲーム。」
「えっと…、え?」
「ルールもあるのよ。
この旅は、三泊四日。
その間に、トスーチェ、ネクーツ、フラスカ、マーア、そしてジドルの駅に停車する。
それぞれの国の駅に、一度だけ止まる感じね。
その駅に。
輝旗の選抜メンバーが、一人いて。
それを倒すと、私達は次の駅に進める。」
「ちょっと、待ってください。」
サニアさんに当たるのは、筋違いだとわかっている。
それでも、言わずにはいられない。
「兄の命がかかっているんですよ?
なのに、ゲームって何ですか?」
エリクシルに興味があって?
それで手に入れたい?
手に入れて、どうしたいの?
「暴れたいだけ、と聞いているわ。」
訳が、わからない。
「そんなの、…おかしいですよ。」
だから、それしか言えない。
「その通りよ。
どんなに辛い事があったとしても、苦しんだとしても。
こんな事は、間違っている。」
それを言う時だけ。
サニアさんは、私から視線を逸らす。
そして、再び私を見て。
「ごめんなさい。」
頭を下げた。
「多分、私達が。
勇者隊がいたから、輝旗はこの世界にやってきた。
あなた達は、巻き込まれてしまっただけなのよ。」
顔を上げたサニアさんは。
力強い、瞳をしていた。
「だから、守るわ。
あなたは、私達が。」
私は。
何も言えなかった。
その後は、話題を変えて。
楽しくお喋りをした。
私は兄の事や、今までの自分の武勇伝を語る。
サニアは仲間達の事や、魔王討伐の旅の話をしてくれた。
そうして、暫くして。
私達は寝る為に解散する。
シャワーを借りて、自室へ向かい、寝る準備をして、ベッドに横になる。
(…。)
目を閉じるが、眠れない。
疲れているはずなのに。
どうしても、考えてしまう。
敵の事を。
(…どうして、私が狙われないといけないの?)
暴れたい。
そんな理由で。
(…。)
布団を頭から被って、別の事を考える。
今までの旅で、楽しかった事。
サニアから聞いた、面白い話。
明日は何をしようか。
兄に会ったら、どんな話をしようか。
色んな事を思い浮かべて。
別の事で、頭をいっぱいにして。
なんとか、怒りを忘れようとして。
そうして私は。
いつの間にか、眠った。
列車は出発しましたが。
次回から、勇者隊サイドの事情説明…。




