第157話 1/6:ヨダーシル周辺~パルケ物語~
投稿を再開します。
時間があって気が向いたら、覗いていってやってください。
*パルケ視点*
私の兄は、物語の主人公みたいな人だ。
ジドル王国、いや、ライダ大陸一の商会である、センレイ会。
その会長に、15歳という若さで就任しただけでも凄いのに。
国王の暗殺を防いだり、断海を越える事の出来る船の製造に成功したり。
しかもまだ、17歳。
きっとこれからも、伝説を作り続けていくはずだ。
それで、ゆくゆくは。
その人生が、本になったりするかもしれない。
兄を主役にした本なら、きっと妹の私も登場する。
元気があって、行動力があって、たまに周りを困らせたり?
兄の足を引っ張る我儘な妹、みたいには書かないでほしい。
これでも苦労しているのだ。
そりゃあ、兄と比べると霞んでしまうかもしれないけど。
十分、波乱万丈な人生だと思う。
それこそ、本にも出来るぐらいに。
仮に。
私の人生が、本になったとしたら。
タイトルは、【パルケ物語】。
そのプロローグは、私が生まれた直後。
父が罠にはめられて、センレイ会を追放されて。
更には命も狙われて。
父と母と兄と私。
家族がジドル王国から亡命する所から始まるはずだ。
なんとかゾト王国まで逃げのびられたけど。
逃走中に負った傷が元で、父は亡くなり。
母も、重い病にかかってしまう。
母は最期の力を振り絞り、幼い我が子を通りがかった老夫婦に託す。
とても幸運な事に。
その老夫婦は、優しい人達だったのだ。
正に、天の巡り合わせだと思う。
まるで、運命とか、そういうのが。
兄に、生きろと。
そう言っているみたいに。
パルケ物語、第一章。
それは。
ゾトで平和に暮らしていた私達、兄妹が。
ジドルへ戻り、センレイ会を取り戻すまでの物語。
父の部下だったダウェルさんが、兄を訪ねて来て。
父は、センレイ会の偉い人だったと聞かされて。
今センレイ会は、悪い大人が私腹を肥やす為だけの組織になってしまって。
だから。
一緒に戦ってほしいと言ってきた。
かつてのような、センレイ会を取り戻す為に。
当時、11歳だった私は。
とても重大な決断を迫られる。
兄についていくか、育ててくれた両親の元に残るか。
それはもう、悩んだ。
私は、生まれ育った町が。
両親が、友達が、大好きだった。
離れたくなかった。
それでも。
私にとって一番大切なのは、兄なのだ。
それを再認識する。
そこが、第一章のクライマックス。
だって、実際にジドルへ行った後は。
私が家の掃除をしている内に、全部終わってしまったから。
もちろん、ジドルで兄は大活躍したはずで。
その実績から会長になった訳で。
だから兄が主役の本ならば、こんな構成にはならない。
でも、これは私の本の話だから。
こういう感じになるはずだ。
パルケ物語、第二章。
それは。
兄がセンレイ会を立て直している一方で。
私が細かな問題を解決する為、頑張る物語。
実は。
私はセンレイ会の人間ではない。
会長の妹。それだけ。
いや、だからこそだ。
出来る事も、巻き込まれる事もある。
悩める会員を励ましたり、一緒に猫を探したり、家の掃除をしたり、デートの予行練習の相手をしたり、誘拐されそうになったり。
水面下で動いていた、ジドル王の暗殺計画。
それを兄が止めている裏で。
私は、センレイ会の皆と仲良くなっていく。
12歳の晩夏。
皆で企画したサプライズパーティー。
兄のあんな顔を見たのは、初めてで。
ジドルに来てよかったと、そう思えた。
パルケ物語、第三章。
それは。
兄の病気を治す為に、私が旅をする物語。
12歳の冬。
兄が倒れた。
呪い。
それを、かけられた。
逆恨みで。
呪いの効果で兄は、身体の一部が黒くなってしまった。
黒くなった部分は、動かせなくなってしまう。
しかもそれは徐々にだけど広がっていく、らしくて。
20歳まで生きられないだろうと言われた。
つまり、余命4年をきっている。
犯人の捕縛には成功して。
でも解呪するには、特別な薬が必要で。
それが、伝説の薬エリクシル。
会員みんなで必死に探すけど、中々見つからない。
そんな時、私は聞いた。
ジドルから、ずっと南。
海を越えた先、ワイバン大陸の更に南。
ドンハという国に、エリクシルを作れる人物がいると。
皆には、止められた。
ドンハは遠い。魔物も、盗賊だって出る。
信憑性の低い怪しい話を鵜呑みにして、危険を冒す必要はないと。
それでも私は。
僅かでも可能性があるのなら、試してみるべきだと思った。
4年なんて、あっという間なんだから。
会員の皆には、それぞれ大事な仕事がある。
センレイ会を以前と同じくらい大きくして、薬の情報を集めようと頑張っているのだ。
だから。
順調でも片道、数か月の旅に付き合わせる事は出来ない。
私は一人、船に乗った。書置きを残して。
行き方は調べてある。
ジドルから船でネクーツへ。
その後は陸路で、アスゴフソア、ムアー、そしてドンハだ。
キャラバンに混ぜてもらうのが理想だけど、無理そうなら町間を移動する馬車に乗せてもらう。
場合によっては、退治屋の護衛を頼まないとで。
そうなれば、旅費が足りなくなる。
町で、短期の仕事もしないとだ。
(大丈夫、まだ時間はある。
安全に辿り着くことが、最優先。)
途中。
盗賊団に捕まって、身ぐるみ剥がされて、もう少しで売られてしまうなんて事もあったけど。
秋頃に、私はドンハに到着した。
パルケ物語、第四章。
それは。
頑固おやじを説得して、エリクシルを作ってもらう物語。
目的の人物は、ドンハでは有名人だった。
だから彼の家には、すぐに辿り着けたのだけど。
交渉が上手くいかず、中々エリクシルを作ってもらえない。
後々になって知ったのだけど。
おじさんは、エリクシルを完成させた事がなかった。
病気の我が子を助けたくて、研究に明け暮れて。
あと一歩で完成という所で、子供が亡くなってしまって。
だから、やる気がなくなってしまって。
研究仲間の元を去った。
同情する気持ちもなくはないけど。
私は、エリクシルが必要で。
だから、おじさんの説得を続けた。
事情を知らない時も、知った後も。
色々やった。
それこそ、研究仲間も連れて来た。
結局、どれが決めてになったのかは分からないけど。
おじさんは、研究を再開してくれて。
ついに、エリクシルは完成した。
私は何度もお礼を言って、頭を下げ、それを受け取る。
おじさんも、なぜか私にお礼を言った。
最初にあった頃より、いい表情になったと思う。
研究仲間と一緒に手を振るおじさんに、手を振り返し。
私は、ジドルへの帰路へつく。
14歳、夏。
現在地はムアー最北の町、ラメーヒュス。
ここから1日歩いて、ヨダーシルまで行く。
進む予定の道は、旅人や商人もよく使うから比較的安全ではある。
とはいえ魔物は、出る時は出るから。
私は魔法も、戦う事もあまり得意ではない。
だから馬車に乗ったり、護衛をつけたかったけど、今回は無し。
単純に、お金が尽きたから。
そしてそれでも急ぐのは、状況が変わったからだ。
エリクシル完成の、前日。
私は手紙を受け取った。
差出人はダウェルさん。あの日から、兄の腹心として隣にいてくれている。
伝書鳥で何度かやりとりはしているから、手紙を貰った事には驚かない。
ただ、その内容は。
私を大いに動揺させた。
兄の容態が急変して。
もって、半年。
だから、薬はもういいから帰ってこいと。
せめて最後は、傍にいてほしいと。
…本当に。
薬が完成してよかった。
やはり運命は、兄に生きろといっている。
手紙と一緒に、列車のチケットが同封されていた。
ヨダーシルが列車を完成させたのは知っている。
なんなら、ジドルにもマーア行きの線路があるし。
それこそドンハまでどうやって行こうか考えている時、ジドルからヨダーシルまで数日で着くみたいな嘘みたいな話も聞いた。
まだテストを開始したばかりで、一般客の乗車は不可能だったけど。
センレイ会の力を使えば、乗せてもらえたかもしれない。
ただ当時は、いい噂を聞かなくて。
列車は線路の上を走るらしいのだけど、その線路の部品を盗賊が狙っていて。
仮に部品が盗まれてしまうと、列車は脱線。
大事故を起こし、乗組員は全員死亡するとか。
だから、乗りたくなかった。
正直、列車に乗るのは怖い。
しかし、乗らないという選択肢はない。
行きは、ジドルからドンハまで九か月くらいかかったのだ。
…私の所為な所も、少しはあるけれど。
とにかく、そんなに時間をかけられない。
それにヨダーシルには、例の盗賊団の時にお世話になった。
チケットをくれたダウェルさんの事も、信用している。
だから。
私は立ち上がる。
鏡の前で、軽く確認。
ジドルの海のように青い髪を、高い位置で二つに結った。
ふんわりしたツインテール、私のお気に入り。
ひらひら付きの、ゆったりとした桜色ベースの上着と、同色のノースリーブのミニジャケット、ロンググローブにニーハイ。
薄水色のショートパンツ、同色のロングブーツ。
長時間歩くような格好じゃないかもしれない。
けど、かわいい方が気合も入る。
チケットに書かれている列車の発車日時は、明日。
つまり、今日中にヨダーシルに辿り着ければ問題ない。
「行くか!」
魔物除けグッズと、お弁当を入れたリュックサックを担いで。
気合を入れて、扉を開けた。
太陽が沈む頃。
遠くの方に、ヨダーシルの外壁が見えた。
(…。)
順調である。
なんなら予定より早い。
が。
(…まだ、あんなにある…。)
座り込んでしまう。
もう限界だ。
わかってる。
まだ、安全地帯ではない。
休むなら、ヨダーシルに到着してからだ。
でも動けない。
脚が痛くて、イライラしてきた。
だから。
30分くらい休憩する事にする。
ヨダーシル周辺は明るい。日が完全に沈んでも迷う事なんてない。
それに結局、魔物だって現れなかった。
「こんばんは、お嬢さん。」
ビックリした。
まさか、声をかけられるなんて思ってなかったから。
「え、ええ。こんばんは。」
そこにいたのは、見知らぬ、おじさん。
荷物が無いから商人ではない。
旅人だと思うけど、どこの人だろう。
白を基調に黒の差し色が入った、それこそ貴族の人が着るような格好。
この辺りの服装ではないと思うけど。
などと。
私は呑気だった。
(…ん?)
おじさんの右手には、剣があった。
鞘から出した、抜き身の。
(…あ。)
周りには。
少なくとも、見える範囲には誰もいなかった。
(あ!)
以前、私は。
盗賊に捕まったのに。
なのに、こんなにも無防備で…。
(でもあの時は、こんな感じじゃなかった!)
そんな空しい言い訳を並べても、状況が好転する訳もなく。
無慈悲に、男の剣が振り下ろされる。
(あ、これ、人攫いじゃなくて、追い剥ぎだ…。)
そんな、どこか他人事みたいに。
迫る剣先を、ただ見つめる。
それしか、出来なかったから。
「ふぎゃっ!」
その間抜けな声は、私だ。
突然、目の前が爆発して。
その衝撃で、ひっくり返った。
でも。
頭をぶつけるような事は、なくて。
「ごめん、ちょっとここで隠れてて。」
浮遊感がして、その声が聞こえた。
何事かと、身体を起こす。
「…何、あれ…。」
そんな呟きが、口から出る。
光だ。
白く輝く光が、見える。
地面から、輝く何かが突き出ているみたいで。
(いや、人だ。)
先程の。
私に剣を振り下ろした、おじさん。
彼自身が、発光している。
身体の一部が、ではなく全身が。
そして。
そのおじさんの前に、誰かいる。
逆光で、姿はよくみえないが。
(!!)
おじさんが、その人物に斬りかかる。
離れていても、その豪快な風切り音が聞こえる。
何度も、何度も。
(何度も剣を振っているって事は、あの人は攻撃を避けている?)
おじさんと敵対しているという事は、あの人は味方の可能性がある。
なんなら、さっきの声の主かもしれないけれど現状確認する術はない。
「え!?」
おじさんに、変化があった。
翼が生えたのだ。そして頭の上に、光輪。
まるで。
絵本で見た、天使のような姿。
…まあ私の知っている天使は、おじさんではなかったけど。
「っ!!」
また、変化があった。
今度はおじさんじゃない。
おじさんの、相手をしている人物の方。
炎が。
黒い、炎が噴き出して。
その黒が、瞬く間に広がって。
おじさんの、白い光を飲み込んでいく。
天使を飲み込む黒い闇、なんて。
この世の終わりみたいな状況だけど。
不快じゃない。
見ていると、落ち着くような。
そんな、静かな炎だった。
だから、私はリラックスして。
またしても反応が遅れる。
「い!?」
おじさんが。
その闇から逃げるように飛び出してきた、私の方へ。
彼と、目が合う。
血走っていた。悪意に満ちた顔だ。
天使というよりは、悪魔のような。
おじさんの翼が羽ばたいて。
剣を振り上げ、文字通り私に飛び掛かってくる。
そして。
私とおじさんの間に、誰かが飛び込んできた。
最初に見えたのは、白。
大きな盾みたいな物が、おじさんの剣を防いでいる。
次は紫、服の色。
赤紫色、髪の色。
そして、彼と目があった。
私の無事を確認して。
彼は、優しく微笑んだ。
ブンっという風切り音がして。
おじさんが逃げていく。
反対方向へ飛んで行く。
けど、その途中で。
おじさんは、爆発した。
(…。)
木っ端微塵。
命を狙ってきた相手だけど。
それでもショッキングな最期だ。
「おっし、捕獲完了だ。」
声がして、振り向くと。
また知らない人物がいる。
赤髪で眼帯の人だ。
(…あの。相手の方、粉々になりましたけど…。)
捕獲とは?
その疑問は口には出さない。
まだ、味方と決まった訳ではないのだから。
「輝旗であってるよな?」
「ああ、あの服装は間違いない。
ただ、下っ端だろうな。転移も使えなかったみたいだし。」
謎の会話を繰り広げる、赤紫髪の人と赤髪の人。
どうやら知り合いみたいだけど…。
「パルケさんだよね?」
名乗った覚えのない名前を呼ばれて、警戒心が上がる。
助けてくれたけど、それでも味方とは限らないから。
そんな私の様子を見て。
赤紫髪の人は、また微笑む。
たぶん、私を安心させる為に。
「俺は、ガットル。
大丈夫。俺達は、君の味方だ。」
手が、差し伸べられた。
現状、何もわからず、ただ混乱するだけの私の前に。
(…。)
私は。
波乱万丈な人生を。
それこそ、第四章まで越えて来た。
多くの人と、関わってきた。
いい人も、悪い人も。
善意も悪意も、経験してきたのだ。
だから私は。
その手を、掴む。
爆発と、眩しい光と、静かな黒と、新しい出会い。
それが。
パルケ物語、第五章の始まりだ。
前章までのキャラ達に触れて、今回登場したパルケが成長していく。
みたいのが、物語としては綺麗かなと思いましたが。
たぶん成長は特になく、他キャラの活躍を見守る側になります。
第五章のテーマは、合流。
色々と乗り越えてきたキャラが、同じく色々乗り越えてきたキャラと出会っていく感じの物語。
ヒロインはパルケ。主人公は、当番制みたいな感じです。




