第156話 未来~そして旅は~
~前回までのユンゼス~
ロミスオッドは逃走し、俺達は戦いに勝利した。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ユンゼス :???
〇ソルテローラ:???
〇ラデューム :???
●ワッポノ :マーアの勇者
〇ツツジ :勇者隊メンバー
●リハネ :ゾトの勇者
〇カナミア :アイーホルの勇者
●クレスタ :フフゴケ商会商会員
〇ロミスオッド:ヨダーシルから逃走
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
□アニサ :クレスタがカスタマイズしたセイ
*ユンゼス視点*
「…ですので、私は誓います。
ヨダーシルを、強く、優しい国にしてみせると。」
会場は、拍手に包まれる。
こうして。
ソルテローラ新都市長の就任挨拶は、つつがなく終わった。
あの日。
北区と東区が激突して。
ワッポノ君がCMDを破壊して。
ロミスオッドがヨダーシルから去って。
その三日後、予定通り投票が行われて。
本日、無事に就任挨拶が終わった。
「ローラもデューも、怪我人なんだから。
あんまり無茶しないでよ?」
会場の外。
一人でぼんやりとしているラデュームに近づく。
「…なあ、ゼス。」
「なんだい?」
彼の隣で、同じように青空を眺める。
「もし俺が、無様を晒す事なくロミスオッドを拘束できていれば。
東区の力を、しっかりと示せていれば。
俺が選ばれていたと思うか?」
「…どうだろうね。
確かに、あの戦いの影響もあったと思うけど…。
単純に、今のヨダーシルには、ソルテローラを支持する人の方が多かった。
それだけだと思うよ。」
票は、だいたい7対3。
投票者の3割の人達は、デューの目指す街作りに賛成してくれたのだ。
投票率は悪くない。
そして世界最大都市の3割なのだから、相当な人数だ。
この人達の協力が得られたなら。
第二ヨダーシルは、きっと強い町になる。
「…まあ、なんにせよだ。
まずは、ヨダーシルの復旧が最優先。
次に、区長選か。
それらが終わったら、新しい町…。」
デューは思いきり伸びをして。
激痛が走ったのか、変顔になり体勢を崩す。
俺は、それを支えた。
「そう、やる事はたくさんあるよ。
ちゃんとついていく。
一緒に頑張ろう。」
少し、嬉しい。
彼と同じ目標で頑張れて。
それこそトリッキーシューターの運営を辞めて以降、初めてじゃないか?
同じ区長という立場になっても、区の方針の違いから別々の場所を目指していたし。
…いや、違うか。
ヨダーシルを、いい町にしようとしていたのは同じだ。
今も、昔も。
バチンと。
背中を叩かれる。
「じゃあ、北区にいくぞ~。
要塞を再建しないとだからな。」
痛い。
外傷はないけど、こっちも魔力欠乏症手前の身だ。加減してほしい。
(…しかし、まあ。)
ラデュームだし。こういうやつだし。
俺は駆け足で、先に歩き出した彼に追いついて。
その大きな背中の、隣に並んで歩いて行く。
*ワッポノ視点*
あの日から、五日。
俺はベッドの上にいる。
戦いの影響で、じゃない。
なんならツツジに回復薬を入れられたら、すぐに動けたくらいだ。
改造人間だから。
そう。
改造人間になった俺は、ヨダーシルの技術者から大人気。
連日、こうして検査というか調査というか、そういうのをされている。
もしかして、死ぬまでヨダーシルの研究対象として拘束されるのでは?
と、不安にもなったが。
そこは、ユンゼスが何とかしてくれたらしい。
俺はツツジ達と一緒に、マーアに帰る。
ただ出発までは調べさせてほしいと言われて、それで協力している。
色々迷惑をかけたし、世話にもなった。
これくらいお安い御用というか、寧ろ、こちらからお願いしたいというか。
マーアに戻った瞬間に、壊れて動かなくなりました。では、洒落にならないし。
(…。)
技術者達は、皆、いい人そうで。
俺の事とか。
セイの指示通りとはいえ、俺を改造したツツジの事を褒めてくれるから、不快になるような事はない。
ただ。
こうして何もせずに横になっている時間は、考えてしまう。
あの、戦いの事を。
(俺は、ロミスオッドと対等な関係で話がしたかったのに。)
その為に、戦ったのに。
CMDの破壊には成功したが、そこで力尽きてしまった。
だから結局、話をする事は出来ていない。
つまり、目的を果たせなかった訳だ。
「俺は、勝ててなかったって事か…。」
「そんな事ない。」
ビックリして。
身体が跳ねてしまう。
いつの間にか、隣にツツジがいた。
「ポノは強くなったし、ちゃんと勝ったよ。
ヨダーシルの人は、ポノに感謝してる。」
何というか。
その表情は暗い。
「はい、リンゴ。」
差し出されたのは、食べやすくカットされたリンゴ。
「…いや、俺は…。」
食べられない訳ではない。
実は味覚は残っているし、経口摂取は不可能じゃない。
ただ、いつもみたいに液体にして横腹から流し込んでくれれば、速いし楽じゃないか?
そう言おうとして。
気づいた。
ツツジは、涙目だ。
「…いただきます。」
一切れもらって、口に入れる。
普通のリンゴだ。
「うん、おいしい、おいしい。」
きっとこれは、ツツジが切ってくれたもの。
手間をかけている訳だから、愛情とか、そういうのがあって。
だから、その分おいしいはずだ。
もう一切れもらって、それもおいしいと言いながら咀嚼する。
なんというか、沈黙が怖くて。
「…ポノは、人間なの。」
凄く、小さな声だった。
「人間でいて、いいの。」
「…なんか、言われた?」
ツツジは、首を横に振った。
だが、この状況で。
何もないなんて事が、ある訳がない。
絶対、俺関係で何かあった。
(…。)
俺は、この選択に。
後悔はない。
けど、これは。
ちょっと辛い。
俺の事でツツジが泣くのは、嫌だ。
「ツツジ。」
きっと、俺の本心を。
ありがとう、と言った所で。
ツツジは、納得なんて出来ない。
だってツツジが傷ついている部分は、そこじゃないから。
今の俺に。
ツツジの心は晴らせない。
だから。
「俺はもっと強くなる。」
誓う。
心配なんてさせないように。
安心してもらえるように。
俺を改造した事を。
ツツジが、誇れるようになるように。
「だから一緒にいてほしい。
近くで、俺を見ていてくれ。」
ツツジは。
何か、顔が赤くなっていって。
口をパクパクさせて。
凄い勢いで、部屋を出て行った。
「…あれぇ…?」
俺、何か間違えたか?
*リハネ視点*
8.3秒。
それが、表示されたタイム。
あの日から、六日。
西区は、だいぶ落ち着いた。
北区の要塞の復旧も順調。
だから私達は。
当初の予定通り、明日、マーアに帰る。
その前に、最初の借りを返そうと。
トリッキーシューターでカナミアに勝負を挑んだのだが…。
「…私の負けだな。」
結構練習したんだが、8.5秒を越えられない。
これが、壁というやつか…。
「二週間弱で8秒台を出しておいて、そんな顔とは。
ムカつきますね。」
ニコニコ顔で近づいてくるカナミアが、そんな事を言ってくる。
「カナミアは、8秒台はどれくらいで出せたんだ?」
「…さぁ。ちょっと覚えてないですね。」
「お、記事あんじゃん。二か月前の西区の大会の。
優勝者は、トリッキーシューターを始めて三か月の超新星。
お前の事か、流石クイーン。」
カナミアが、私のセイを奪い取ろうとしてきたので、華麗に避ける。
「おーおー、涙が出るほど喜んじゃって~。
そうか、自己ベストで優勝か~。
7.9秒か、そうか~。」
「今は!
9秒台ですから!
現時点で、私が上ですから!!」
そこから、鬼ごっこが始まって。
正直、楽しかった。
久々に、笑った気がする。
「そう言えば。」
鬼ごっこが終わって。
トリッキーシューターの球を投げながら、カナミアが言い出す。
勝負じゃなくて、ただの練習。
背中合わせに球を投げながら、それを聞く。
「あなたは、どうしてヨダーシルに来たんですか?」
「いや、どうしてって、クレスタ達の護衛だけど?」
「クレスタさんから聞きました。
あなたは、自ら希望して護衛になったのだと。」
「あぁ、それか。」
別に、隠すような事でもない。
「私は一応、勇者隊のリーダーみたいな立ち位置でな。
実際は違うんだが、まあ勇者だし。
そういうの拘らない集団だから、対外的にはそうなってるんだよ。」
変な方向へ球が飛んでいってしまう。
キングの、ドーナツを練習しているんだが、これは難しい。
「で、だ。
王様直々に、ポノの事をよろしくって頼まれた。
それで実際に戦ってみて。
そこまで強くなかったけど、内に秘める闘志みたいな、いい素質を持ってたんだよ。
だから私は思ったよ。こいつはきっと、強くなるって。」
カナミアも、ドーナツの練習を始めた。
明後日の方向に飛んで行き、ムッとしている。
「数か月、経ってさ。
ようやく気付いたよ。
私、それから勇者隊のメンバーは。
人に教えるのが下手過ぎる。」
ほぼ全員が我流。
自分なりの方法で強くなった奴ばかりだった。
そのやり方が、相手にも合っているならばいい。
ただ、そうでない場合。
そのやり方で、強くなれなかった場合。
どうすれば強くなれるのかは、答えられない。
「それでもさ。
確実に強くはなっていたんだ。
その証拠に、追いつけなかったけど離されもしなかった。
周りも同じように強くなっていったから、実感はなかったんだと思う。
で、ポノが家出したらしいって話を聞いた。
笑えないだろ?
ポノをどうやって強くさせようかは考えていたけど、あいつ自身の気持ちとかは考えていなかったんだ。
流石に責任を感じたよ。
…まあ中には、そういうのも自力で乗り越えるべきだって思ってて、知ってて放っておいた奴もいたけどな。」
「つまり、責任感でついてきたと?」
「そうだよ。
言ってやりたかったんだ。
焦らなくてもお前は強くなれるし、結果も出始めているって。
…まあ、今なら。
この言葉はあいつに届かなかったと分かるけどな。」
六回転。新記録だ。
まあ、最後は制御を外れて飛んで行ってしまったからトリッキーシューターなら0点だけど。
「来てよかったよ、ヨダーシルに。」
あいつも、私も。
色々あったけど、そう思えた。
「それは、よかったですね。」
カナミアの投げた球が円を描く。ドーナツのように。
その球は、七回転してどっかへ飛んで行った。
「…。」
「…♪」
カナミアは、勝ち誇った顔で私を見た。
(…こいつ。)
そうして始まる、何度目かの勝負。
ああ、もう本当に。
こいつには、負けたくない。
*クレスタ視点*
あの日から、七日。
二週間の滞在を終え、私達はマーアへ帰る。
私と、リハネと、ツツジちゃんと、ポノ君。
全員で。
「…アニサちゃん…。」
『はいはい、そんな顔しないで。
またヨダーシルに来れば会えるから。』
ユンゼスさんを見る。
「会えるよ。
住民や旅行者には個人IDがあるからね。
再訪した際、希望があればセイのデータは引き継げる。」
「アニサちゃん!」
『クレスタと過ごせて楽しかったわ。
それじゃあ、元気で。』
名残惜しいけれど。
ユンゼスさんにセイを返却した。
ここは駅のホームで、私達の乗る列車は到着済み。
ポノ君やツツジちゃんは既に乗り込んでいて、リハネは向こうでカナミアと話している。
発車まで、まだ少しだけ時間があった。
「ねえ、ユンゼスさん。」
だから、声をかける。
「何かな。」
「ロミスオッドさんのセイは、あれからどう?」
「協力的だよ。
ただ、犯人は断罪者だと言って譲らない。
断罪者とロミスオッドが同一人物だとは、絶対に認めないんだ。
その事だけは、徹底的に隠してる。」
それは。
ロミスオッドの指示なのか、それともセイの意思なのか。
そして。
誰を、守っているのか。
「流石ね。
ユンゼスさんは、作れたのよ。
個人に寄り添い、その人を絶対に裏切らないパートナーを。」
「いや~、それで犯罪の手助けをされる訳にはいきませんよ…。
プログラムを見直さないと。
う~ん…どうやって変えようかな…。」
そうよね。
どんな時でも、どんな状況でも、どんな人にも、正しい行動なんて。
そんなのは、無いだろうし。
「ロミスオッドさん、全国指名手配になったのよね。」
放っておくと、ずっと悩んでそうだったから話題を変える。
「ええ。
あいつは、やる事はやってましたから。
捕まえて、罪を償わせて、それから話をしますよ。もう一度。」
ユンゼスさんは、多分、私と同じ感想だと思う。
だから、口には出さないけど。
ロミスオッドは、根っからの悪人ではない。
ユンゼスさんの友人を殺し、ポノ君を唆し、西区を襲撃し、ヨダーシルを混乱させて、また人を殺そうとしている男だけども。
それでも彼は最後、ユンゼスさんを殺さなかった。
自身の計画を潰した人物に、復讐をしなかったのだ。
それこそロミスオッドがその気なら、ユンゼスさんは簡単に殺られてしまったし。
その後、ネクーツにヨダーシルの機密情報を売り渡し、ヨダーシルを潰す事も出来た。
表面上ヨダーシルから手を引いたように見せて、ポノ君に復讐を手伝わせる事だって出来た。
でも。
そういう事はしなかったのだ。
(しなかった理由は、想像の範疇を出ないし。
罪人で、危険人物には変わらないんだけど…。)
ユンゼスさんとロミスオッド。
二人が、もう一度。
話せたらいいな、とは思う。
「今回、俺はあいつに復讐をやめさせる事は無理だった。
でも、あいつに言った言葉に嘘はないし、もう一度、同じような状況になったら、チャンスがもらえたら、きっと同じことをすると思う。
結果は残念で仕方ないけど、行動は、間違えたとは思わない。
…もちろん、説得力は高めたいけどね。今度は成功させたいし。」
色んな感情があるけれど。
ユンゼスさんは。
笑った。
「個人的な意見だけど、ユンゼスさんは、そうであってほしいわ。」
そういう人が、いてもいい。
「そうそう、リハネが言っていたんだけど、本当にMDFって持って行っていいの?」
「ええ。どちらかと言えば、データが欲しいんですよ。
それこそ、ワッポノ君の為にも。」
ポノ君は、それこそ定期的にヨダーシルに来る事になっている。
検査の為だ。
(クーランの件が片付けば、ポノ君はヨダーシルに住んだ方がいいのかも…。
いえ、それは彼が決める事だし、私は彼のやりたい事をサポートしないと。)
私にも、責任があるのだから。
そうこうしているうちに、出発時間。
私とリハネは列車に乗り込み、ポノ君達と合流。
窓からホームを見ると、結構な人数がそこにいた。
南区の、ユンゼスさん、ルムリートちゃん。
東区の、ラデュームさん、ミーサとティルム。
西区の、ソルテローラさん、カナミアと、アクスとギリュウ。
皆に手を振って。
列車が動き出す。
こうして、私達のヨダーシルでの冒険は終わった。
解決した問題と、解決していない問題。
ずっと続いて行く、問題があって。
未来がどうなるか、まだ分からないけれど。
それでも。
私達の旅は、続いて行く。
第四章完結です。
お付き合いしていただけた方、本当にありがとうございます。
第一章は真面目に作って、第二章はノリで作って、第三章は頑張って作って、第四章は吐き出して…
第五章は、今までの集大成その①
ドッカンバッタンできたらいいなと思います。
1月中には投降開始予定です。
よいお年を!




