第155話 未来~最後の記憶~
~前回までのユンゼス~
ワッポノ君が、CMDを破壊した。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ユンゼス :南区の区長
〇ロミスオッド:北区の区長
●オーズン :元ヨルタムアーの魔王
〇エンビッケ :ルートレスの魔王
*オーズン視点* 1年前。
陽の光で、目覚めた。
予感がある。
私は、今日で終わりだ。
(…。)
落ち着いていられるのは、全てを託し終わったからだろう。
私が死んでも、皆の生活に支障はない。
多少は、まあ、ごたつくかもしれないが、彼らなら上手くやれる。
(トーニギさん。私は、あなたに誇れるように生きれただろうか…。)
古い友人。
共に、コア王国を開放する為に戦った仲間。
彼と喧嘩別れして、200年。
色々と、あった。
残りの時間は、今までの思い出を振り返りつつ過ごせばいい。
もし、あの世なんてものがあって、トーニギさんと出会えたら。
いい土産話になるし。
いや、でも止めておいた方がいいか?
口惜しさも思い出し、穏やかに最期を迎えられないかもしれない。
思いのほか、思い出せなくてショックを受けるかもしれない。
どうしたものかと、考えていた時だ。
「お邪魔しま~す。」
来客。
今日は、予定はなかったはずだ。
「最期らしいからね。挨拶に来たよ。」
その顔は。
私の友の、エンビッケだ。
少し前。
彼はヨダーシルに、ふらっとやってきて。
今は、我が家に居候している。
しかも、自分の立場を考えず街を見て回りたいとか。
…正直、嬉しかったけども。
興味を持ってもらえて。
勝手な人なのだ。昔から。
「ふふ。」
今もそうだ。
許可を取らずに、人の寝室に入って来て。
「天使の仕事をしてくれるのかい?」
天国へ連れていく、みたいな。
「僕はそういうのじゃないさ。知っているだろ?」
彼はドカッとイスに座って。
少しの間、沈黙が流れる。
不快ではない。寧ろ、心地いい。
(私が召されるまで、ここにいてくれるのだろうか?)
そんな事を考えだした時。
彼は口を開けた。
「覚えているかな。昔、よく話した事を。」
「色々話したと思うけど、どれの事かな?」
「理想の世界についてさ。」
「ああ。もちろん、覚えてるよ。
どうすれば、争いの無い、皆が笑顔でいられる世界を造れるかってやつだね。」
「君はさ。」
あの頃を、懐かしむように。
「当時から、凄い力を持っていた。
…それでいて、繊細だった。
心配だったんだよ。
いつか、世界を滅ぼす魔王になるんじゃないかってね。」
それは知らなかった。
だから彼は、私に接触してきたのか。
「それで、理想の話?」
「そうだよ。
どんな道を歩むのか、ハラハラしていたんだよ。
場合によっては、僕が止めるつもりでもいた。
でも、そうはならなかった。
ヨダーシル。
いい町であり、いい国じゃないか。」
そう言ってもらえると、嬉しいけど。
「でも、世界を滅ぼす魔王になっていれば、君にもっと早く再会できた訳か。
なら、惜しい選択をしてしまったとも言えるね。」
「冗談はやめてよ。
天使になんて、会わないほうがいいに決まっている。」
二人で笑いあう。
そう、これは冗談。
冗談として、言えるようになったんだ。
「なあ、ビッケ。」
そして、これも。
「長生きして、わかったんだ。
恒久的な幸せなんて、どこにもない。
以前君が言ったように、洗脳しようが、夢を見続けようともね。」
あの頃は、それを認めたくなくて。
泣きながら、彼に詰め寄った事もある。
「それは、そうさ。
不幸がなければ、幸福だってない。
変化がなければ、そこには何もないんだ。」
いけしゃあしゃあと言う。
まったく、どこまで本気なんだか。
「一時の幸せを目指して。また、次の幸せを目指して。
幸せになれるように努力して…。」
願うならば、他者の幸せも考えられて。
「そういうふうに、一人一人が人生を歩めたなら。
それこそが、幸せな世界と呼べるんじゃないかと。
私は、そう思う。」
「いいじゃないか。
そもそも幸せかどうかなんて、個人が決めればいい事さ。
君は、君自身の理想に答えが出せた。
満足のいく人生が、納得のできる人生が送れた。
所謂、ハッピーエンドなんじゃないかい?」
「そうだね。
私は、幸せ者だ。」
それが私の。217年の答え。
世界をどう見るか、何を問いにするかで、変わる答え。
自分自身に、花丸をつける。
「じゃあ、そういう事で…。」
彼は、立ち上がった。
「クーランに行くんだ。
レーグと、ゾトの魔王が討伐されたのは知ってるかな?」
「もちろんだとも。
そして、ディオルもリガーナも生きている事だって知っている。」
「…うわぁ、まじで、何で知ってるのさ。
二人に会った事もないし、そもそもここから動いてないのに。」
「優秀な子がいるんだよ。」
嬉しい。
彼には一度も勝てなかったから。
だから最後に、そんな顔をさせられて。
「じゃあ知ってるかもしれないけど、第二次クーラン大戦が起こるかもしれない。
世界は、少し騒がしくなって。
その余波が、君のいなくなったヨダーシルまでやってくるかもしれない。」
もしかして彼は。
そうならない為に、クーランに行くのか?
「大丈夫さ。私の弟子達は、皆、強い。」
だからビッケも。
やりたいように、してくれていい。
「そうだ。
私の目になってくれている子で、君の、ルートレスの魔王のファンがいるんだ。
連れて行ってほしい。」
机の上の紙をとり、名前と連絡方法を記す。
ビッケは渋い顔をするが、私の最期の頼みなら断れないだろう。
大丈夫。
君の、表には出ない武勇伝に感銘を受けた子だ。きっと役に立ってくれる。
さて。
あと、言いたいことは…。
「今更だけど…。」
どうせなら、聞いておこうか。
「外見は同じだけど、君は、私の友達のエンビッケなのかい?」
なんたって。
君と会うのは、200年ぶりだからね。
「秘密だよ。全ての謎が解けたら、それはそれで面白くない。
あの世で考えるといいさ。ゆっくりとね。」
彼は私とお揃いの、深緑色の深めの帽子を被る。
「楽しかったよ。
バイバイ。またね。」
「ああ、私もだよ。
…いつか、どこかで。」
扉から出て行く彼を見送って。
意識が、遠くなるのを感じて。
最後に。
弟子達の顔が浮かんだ。
(…。)
これからも。
色々と、大変なのだろう。
失敗してもいい。後悔してもいい。
それでも最後には、自分を許せるように。
「君達の事を、応援している。」
*ユンゼス視点*
「了解。
…皆、お疲れ様。」
少し前、ワッポノ君がCMDの破壊に成功した。
そして今の報告は、スーマミーサさんがラデュームの救出に成功したという事。
つまり。
北区と東区の戦いは、東区の勝利だ。
後、残す所は…。
「あなたも、本当にしつこい方だ。」
その声に振り向く。
ロミスオッドが、そこにいる。
「CMDが破壊された今、お前はヨダーシルから逃走する。
あの龍穴の場所から、地上へ上がるルートは3つ。
それぞれを、俺とリハネとカナミアが見張ってたんだ。」
確率は、1/3。
だから。
俺の所に現れたのは。
師匠が。
最後のチャンスをくれたのかもしれない。
「ロミスオッド。」
彼の前に立つ。
その道を、遮るように。
「先の無い復讐なんて、やめよう。」
あの時。
断られた提案を、もう一度。
「俺を手伝ってくれないか?
一人で出来ないような、難しい事でもさ。
仲間となら実現できたりするんだよ。」
仲間がいたから、俺達はお前に勝ったんだ。
「お前が協力してくれるなら、こんなに頼もしい事はない。
一緒に、新たなヨダーシルを造ろう。
列車も、今度はワイバン大陸を横断させよう。
魔物の現れない土地で、新しい町も造ろう。
やる事は沢山あるんだ。」
実現できれば。
それは。
きっと、嬉しい事だ。
立ちふさがる壁だって、笑顔で乗り越えてみせる。
「色々やってみてさ。
その中でさ。
もしやりたい事が出来たなら。
今度はそれを、俺に手伝わせてくれ。」
お前という存在を否定したくない。破滅に向かわせたくない。
だから。
手を、伸ばす。
この手を、掴んでほしくて。
「私は、あなたの友の仇ですよ。」
「それで、あいつの。俺達の夢が叶うなら。」
あいつは。
俺の造る未来を、楽しみにしてくれている。
ロミスオッドが。
手を伸ばす。
そして、その手が。
重なりそうになった時。
ひんやりとした感触があった。
俺が掴んだのは。
ロミスオッドの、セイだ。
「お断りです。」
轟音がして。
突風にバランスを崩し転ぶ。
顔を上げると、そこにいたのは竜騎兵。
そして竜騎兵の手に乗る、ロミスオッドだ。
「私の負けを認めましょう。
ヨダーシルの町からは、完全に手を引きます。
もう害は、加えません。」
丁度、逆光になっていて。
その表情は見えなかった。
「だから、もう。
追ってきたりはしないで下さい。」
でも、その声に。
俺への、気遣いみたいのが感じられて。
それからは、あっという間。
竜騎兵が浮かび上がり、掌から光弾を発射して。
北門の城壁を破壊し、そこから外へと飛び立った。
その様子を。
俺は尻もちをついたまま、茫然と見送って。
バタンと大の字に寝転んだ。
(あ~、最後にやってしまったなぁ…。)
真面目なやつだから。
本当にヨダーシルへは攻撃してこないのだろう。
このセイの中に、改竄の証拠や、他国との交渉材料やらも全部入っているのだろう。
それでも。
敵の首謀者を、みすみす逃す事にはなってしまって。
勝ちはしたが、完全勝利とは言えなくて。
(あ~、皆になんて言おう…。)
まあ、竜騎兵を持ち出された訳だし。
なんならAMDだって残っているし。
MDFを起動できる魔力が残っていない俺には、どうしようもなかった訳だけど。
「まったく。
本当に、頑固な奴だ…。」
最後に。
空に向かって悪態をついて。
俺は、目を閉じた。
一章、二章、三章と、作中時間で半年~1年過ぎています。
そんな中、第四章はワッポノ失踪から数えても一か月以内の話でした。
次回で終わりです。




