第154話 未来~マーアの勇者~
~前回までのユンゼス~
ワッポノ君がCMDを倒せれば俺達の勝利。ワッポノ君が負ければ俺達の敗北。
俺達は、ワッポノ君の援護をする為に動き出す。
ワッポノ君が超高濃度の魔力砲に呑まれてしまった時、俺達は…。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__ヨダーシル・南区
●ユンゼス :南区の区長
●ワッポノ :マーアの勇者
〇クレスタ :ワッポノ捜索隊
〇ツツジ :ワッポノ捜索隊
__ヨダーシル・北区
〇ロミスオッド:北区の区長
__ヨダーシル・東区
〇リハネ :ゾトの勇者
__ヨダーシル・西区
〇ソルテローラ:西区の区長
〇カナミア :アイーホルの勇者
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
*ユンゼス視点*
「やはり、ここに来ましたか。」
目の前に、ロミスオッドが現れる。
「…やっぱり、この場所は知ってたか。」
「当たり前ですよ、区長ですから。」
魔王城の地下。
龍穴の前で、俺達は対峙した。
「オーズンが、ヨルタムアーの魔王が。
なぜ、この場所に町を造ったのか。
それは、龍穴があるからです。
この膨大な魔力の貯蓄は、ヨダーシル発展に大きく貢献した事でしょう。」
周辺には、大層な機械が置かれている。
龍穴の濃い魔力を、扱いやすい魔力に変換している訳だ。
「なあ、ロミスオッド。
師匠もさ、一度は考えたんだよ。
魔力を捨てて、魔物のいない世界にして、機械と共に生きて行こうって。
でも、そういう世界を目指さなかったのは。
もちろん、魔法の可能性を信じたってのもあると思うけど。
…この世界に存在するものを、否定したくなかったんだよ。」
魔力と。
魔力と共に生きて来た人達、その歴史を。
「…。」
「旧コア王国王都跡地のあの場所は。
今も、魔力変換が行われているんだ。
魔物が出現しない土地は、きっと実現する。
それは、ロミスオッドが望んだから。
だから師匠が、俺が引き継いだ。
あいつの思いも、否定なんてさせない。」
あの場所は、ヨダーシルの区よりも狭い範囲だろう。
世界から見たら、本当にちっぽけだろう。
それでも確かに、存在している。
込められた、思いと共に。
「関係ありませんね。
そいつと私は別人です。
私は魔物がいてもいなくても、どうでもいい。」
カシャカシャと、機械音がして。
彼の背後から、AMDがワラワラと現れる。
「あなたの狙いは分かります。
龍穴の魔力を、変換せずワッポノさんに与えるつもりでしょう?
そうすれば、魔力量は逆転する。
ヨダーシル中の魔力をかき集めても、龍穴から溢れる魔力量には届きようがない。」
そう。
そうすればワッポノ君は、単独でCMDを破壊できて、つまり俺達の勝利。
それを可能にする為の、準備もしてきた訳だけど…。
「いや、彼には驚かされました。
まさか、この濃度に適応するなんてね。
しかし、ご覧の通りです。
龍穴は、私が押さえました。
もう、あなた達に勝利はない。」
リハネとカナミアが、近くに身を潜めている。
回復薬のお陰で、少しなら戦闘も可能だろう。
だが、敵の数が多い。
勝てる保証はない。
「さあ、地上へお戻りください。
そして、ワッポノさんを応援してあげてください。
…私としては、周りの機械を破壊してもいいんですよ?」
俺は両手を上げた。
降参のポーズだ。
「俺はお前に勝てない。
だから、ここで出来る事はない。
お前の言う通り、地上でワッポノ君を応援するよ。」
その体勢のまま。
後ろに下がる。
ロミスオッドから、視線を逸らさないようにして。
そして、あいつの姿が見えなくなった所でダッシュ。
階段を駆け上がり、無事、地上に戻ってこれた。
遠くで爆発音。
ワッポノ君の戦闘は続いている。
「おい。」
リハネだ。
カナミアもいる。
両サイドに、不機嫌な顔の勇者。
これは、怖い。
「何、簡単に引き下がってるんだ?
しかも、そのにやけ面はなんだ?」
リハネに、頬っぺたをつままれ引っ張られた。
普通に痛い。
「いや、昔、似たようなシチュエーションがあってさ。
それを思い出しちゃって…。」
開放された俺は、頬っぺたをさすりながら言い訳をする。
龍穴前で、ロミスオッドと対峙。
前回は無様に拘束されてしまった。
今回は無事に逃げられた訳だから、確かな成長を感じた訳だけど。
尻尾を巻いて逃げだした情けない男に見られてしまったようだ。
「ロミスオッドは俺を見逃した。
戦闘を避けたんだ。
リハネ達が近くにいる事も分かってて、勝てる保証がなかったから。
あいつも、ワッポノ君との戦いのダメージが残っているんだ。」
リハネ達がどれくらい回復したかなんて分からないし。
AMDだけでなんとかなるかも分からない。
だから、あの対応。
退くならよし。
向かってくるなら、AMDが蹴散らされるようなら、その時は。
「ロミスオッドは今、勝利目前で、敗北寸前の状態だ。
龍穴を守れれば勝ちで、奪われたら負け。
俺達が、奪おうと戦いを挑んだら。
負ける可能性のある勝負を挑まれたら。
それにはきっと付き合わない。
あいつは変換機を破壊し、その隙に逃走するつもりだったんだと思う。
だから、これで正解だよ。」
この戦いはあいつにとって、手段を揃える為の戦い。
死力を尽くすほどではないんだ。
ならば勝ちたいけど。
捕まるくらいなら逃走する。ヨダーシルに打撃をあたえて。
前に、クレスタが言ったように。
「だがこれだと、あいつの思う壺だろ?
このままだと、ポノは勝てない。
ポノが負けたら、私達の負けだ。」
リハネが、震えている。
魔力が足りなくて。
ワッポノ君の援護も出来ず、ロミスオッドも倒せないのが悔しくて。
そんな彼女に伝える。
「ロミスオッドは、龍穴にいる。
その事が確認できた。
そしてリハネ達のお陰で、無事もどってこれたんだよ。」
現状でも、助けられていると。
だから、そんな顔をしなくていいと。
「ロミスオッドは、あそこを動けない。俺達がまた来るかもしれないから。
ワッポノ君の戦いが決着するまで、あいつは釘付け状態なんだ。
そして、あんなに龍穴の近くにいるという事は、セイにだって影響が出る。
一部の機能の精度は落ちるよ。」
異変があっても。
対応が後手になる。
「俺は、ロミスオッドに勝てなかった。
でも、ヨダーシルは負けない。」
あいつは時間をかけ準備をする事で、ここまで手強い相手となった。
俺達にかけられる時間はない。
けれど俺達には。
仲間がいる。
*ワッポノ視点*
俺を呑みこんだ魔力の奔流。
それが収まった時。
俺はまだ、生きていた。
意識もあった。
しかし。
(…これは…無理か…?)
DFDRが、砕けていく。
力が入らない。
完全な、魔力切れ。
何の抵抗も出来ず、ただ落ちる。
この高さだ。
きっとバラバラになる。
いくら改造人間だとしても。
そうなったら、死ぬだろう。
せめてもの抵抗で、頭を庇う。
頭が無事ならボディは新しく造れる。
なんて話でもないんだが、頭が潰れたら身体が無事でも終わりだろう。
(あれ?ひょっとして、頭が潰れても身体が無事ならAIで動いたりするのか?)
なんてバカな事を考えながら、俺は地面にぶつかった。
しかし、想像した衝撃はない。
バシューっという空気の抜ける音が聞こえて、視界が塞がれて、身体が沈んで…。
(なにが…?)
俺は。
手を引かれ、引っ張り出される。
涙をこらえた、必死の表情のツツジに。
(…。)
どうしてここに?とか。
ここは危険だ。とか。
何か、言おうとしたけど。
ツツジは真剣な様子で。
だから、邪魔したら悪いかな。なんて思って。
俺は暫く、様子を見る事にした。
横にされて。
横腹を開けられて。
(!?)
俺は改造人間。普通の人間ではない。
聞いてはいたし、理解はしているつもりだったけど。
動揺してしまう。
(そんな所、あくんだ…。)
しかも何か、液体を流し込まれている。
冗談みたいな光景。
しかし、これが俺の選んだ道だ。
後悔なんてない。
(!?)
急に吐き気がして。
上体を起こす。
そして、激しく咳き込んでしまう。
「調子、どう?」
「…最高だな。」
もちろん味なんてわからなかったけど。
これは身体が覚えている。
勇者隊での訓練の時。
しこたま飲んだ、回復薬だ。
効果は抜群。
少しではあるが、確かに魔力が回復している。
お礼を言おうとして。
ツツジの方を向いた時。
視線の隅に、それを見つけた。
信じられないくらいデカいクッション。
きっと、フフゴケ商会の商品だろう。
あれのお陰で、助かったという訳か。
「ポノ。」
慌ててツツジの方を向く。
しかし許してほしい。
あんなのがあったら、誰だって気になってしまうと思う。
「これ。」
差し出されたのは、剣。
俺の、臨界黒王牙。
そういえばリハネとの戦いで使って、そのまま放置だった。
(…いや、改造に魔道具を使ったっていってたから、これも部品になったかと思ってたんだよ。)
誰に対してかも分からない言い訳をしながら、剣を受け取る。
重かった。
当たり前だ。
DFD状態で使う事を前提に強化したんだ。
それをツツジは。
ここまで運んでくれたのか。
「ありがとう、ツツジ。」
今は。
それだけ言う。
まだ戦いは、終わっていないから。
「MDF、起動。」
俺は立ち上がり、魔力を、絞り出す。
しかし俺は。
DFDRになれない。
魔力が足りないから。
ただし。
まったく変化がない訳でもない。
額と、首と、胸と、両腕、両脚。
そこに、魔力の集まりを感じる。
『完全な状態になるには、魔力が足りません。』
セイの声が聞こえて、俺は目を閉じる。
『中途半端になるよりは、ピンポイントに強化しました。』
浮かび上がる自身の姿。
角の生えた額当て。
炎のように揺らめくマフラー。
腕の太さと比べて、大きすぎる小手。
同じく両脚のロングブーツ。
DFDと同じ、黒色の装備品。
(…。)
個人的には全身鎧の方が好きだ。これは不格好だし。
ただ、贅沢は言っていられない。
『名称は、DFDBです。』
…確かに、壊れている。
『見ため通り、装甲は厚くありません。
お腹にくらうと死にますから、避けてください。』
DFDは装甲が売りだったのに…。
…まあ、攻撃力は落とせないか。
「ポノ。」
名を呼ばれ、目を開ける。
「…負けないで。勝ってきて。」
酷い顔だ。
感情を必死に耐えて。
本当は別の事を言いたかったのを、押し殺して。
こんな表情にさせてしまったのは俺で。
だから、変えたいと思った。
笑顔に。
「任せろ。」
駆ける。
そして噴出炎で、飛ぶ。
敵は動いていなかった。
あれほどの魔力砲を撃った反動だろう。
そして、今。
応急措置は終わったようだ。俺と同じように。
挨拶代わりに、魔力弾が飛んでくる。
(回避を…。)
『いえ、突っ込んでください。』
いままでの、あれこれで。
こいつの言う事は、理由が分からなくても信用できる。
だから、突っ込む。
目の前で、魔力弾が爆散した。
『誘導します。指示通り動いてください。』
「了解。」
赤い線みたいのが見えて、それに沿って進行する。
『ツツジのお陰で、状況を把握できました。』
どうやらツツジは、俺に回復薬を注ぐ以外にも何かやってくれていたらしい。
そう一人で納得していると、いくつもの魔力弾が飛んできた。
しかしその全てが、俺に届く前に爆発。
花火みたいだった。
『あなたが生きていた理由は、二つ。
一つは、あれです。』
俺の魔力探知が、一人の人物を捕える。
『勇者隊メンバー、クレスタ。
彼女の放った魔力分散砲が、CMDの超高濃度魔力砲の威力を減らしました。』
また一つ。
クレスタの放った魔法弾が、飛んできた魔力弾を爆散させた。
流石は元勇者パーティー。とんでもない射撃精度だ。
『もう一つは、西区。』
西区?
『現在、区長のソルテローラが演説中です。
北区の主張の間違いを。
都市民は、何が正しいか分からず動揺が広がっていて。
結果、予定より魔力が集まらなかったのでしょう。』
…どうやら、俺の知らない所でも戦いがあったらしい。
その辺は、よく分からないけど。
でも。
西区の区長が無事だったみたいで、よかった。
襲撃犯の一人ではあるけど、いや、だからこそ、そう思う。
(!)
飛んできた魔力弾を、剣で叩き落す。
敵も必死だ。
攻撃頻度が上がり、クレスタの援護だけでは捌けなくなってくる。
『大丈夫、問題ありません。』
クレスタとは別の方向から魔法が飛んでくる。
一つや二つではない。
それらが、敵の魔力弾を撃ち落としていく。
『東区本隊、あなたの味方です。』
東区。味方。
そう聞いて。
後ろめたさを感じる。
俺は北区として。彼らと戦ってきて。
今は北区の兵器を壊そうとしていて。
つまり俺は、裏切り者で…。
「行ってくれ!ヨダーシルの為に!」
その言葉に。
強く。
背中を押される。
そうだ、俺は。
そう思ったから、ロミスオッドと戦うと決めたんだ。
足に魔力を。
この距離ならば、噴出炎一発で詰められる。
俺は飛ぶ。
声援を受けながら。
(…なんだよ、まったく。)
皆に応援されながら、強敵に挑む。
(これじゃあ。
勇者みたいじゃないか。)
振り下ろされる敵の巨腕が、爆発するのを目の端で捉えつつ。
機械の竜の顔面を思いきり斬りつける。
そのまま鼻の上に立ち、剣を振り下ろす。
目みたいのを破壊する。
攻撃は止めない。
こいつが動きを止めるまで。
「うおおお!!!」
渾身の払いで、頭の半分を斬り落とす。
それでも動いている。魔力弾が放たれている。
だから剣を振り回し、破壊行為を続けていく。
「ああああ!!!」
首を。
胸を。
胴を。
力の限り、剣を振るう。
もうどこを斬っているのか分からない。
無心で、剣を振り続ける。
遠い昔を、幻視する。
小さい頃の、俺がいる。
そいつは何も考えずに、ただ剣を振り回す。
楽しそうに。
(…。)
今更、あんな風に剣を振る事は出来ない。
世界を、己の無力を知ったから。
でも、だからこそ。
振る事の出来る剣がある。
俺は、そいつの隣にいき、素振りを始める。
力も体力も俺が上。基礎だって俺は出来ている。
でも俺は。
そいつがもっていた一番の武器を失ってしまった。
こいつは7歳で、俺は14歳。
あれから、倍の年月が経った訳だけど。
たぶん。
思い描いていた姿に比べれば。
なんて貧相な姿だろうか。
…なんならもう、人ですらないし。
いつしかそいつは剣を振り回すのをやめて。
俺の事を注視する。
はたして俺は。
この無敵の存在に、どう映るのだろうか?
やはり、失望されてしまうのだろうか?
俺は素振りを続ける。
疲れて、姿勢が崩れてきた。
剣が重い。
振り上げる高さも低くなって、スピードも落ちてくる。
それでも。
俺は剣を振り続けた。
体力が尽きて、動けなくなるまで。
そうして俺は、無様に倒れる。
大の字に寝転んで、荒い呼吸を繰り返す。
ゆっくりと。
そいつは、俺に近づいてきて。
俺を見降ろす、そいつの顔は。
満足そうに、笑っていた。
目を、開けた。
大の字の俺は、指一本動かせない。
状況を聞こうにも、セイの声は聞こえない。
魔力切れで、MDFを起動できないから。
それでも。
周りの歓声が。
俺に状況を教えてくれる。
そう、俺は。
勇者になって。
生まれて初めて。
戦いに、勝利した。
ワッポノの戦い、そしてヨダーシルの戦いは、ほぼ、終了。
後は、あの男…。




