第153話 未来~勝利の為に~
~前回までのユンゼス~
ワッポノ君がCMDと戦っている中、俺達5人は合流を果たす。
情報共有をしていると、ロミスオッドにセイをジャックされる。
そして、ロミスオッドを名乗る女性が、ヨダーシル都市民に向けてメッセージを発信した。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__ヨダーシル・南区
●ユンゼス :南区の区長
●ワッポノ :マーアの勇者
〇クレスタ :ワッポノ捜索隊
〇ツツジ :ワッポノ捜索隊
〇ルムリート :ユンゼスの秘書
__ヨダーシル・北区
〇ロミスオッド:北区の区長
__ヨダーシル・東区
〇リハネ :ゾトの勇者
〇ラデューム :東区の区長
〇スーマミーサ:ラデュームの秘書
__ヨダーシル・西区
〇カナミア :アイーホルの勇者
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
「どういう事だ、これは?」
画面を見ながら、リハネが呟く。
「足りない魔力を集めるんでしょうね、都市民から。」
答えるのは、クレスタ。
「魔力の譲渡なんて、この距離で可能なのか?」
「セイは魔法が使えるの。通信とかも魔法だしね。
だから魔力を渡す魔法、魔力贈物が使えてもおかしくない。
そして、ヨダーシル内全てが、セイの影響下。魔力制御範囲。
渡す意思があれば、譲渡は可能よ。」
「いやでも、これで渡すやつなんているか?
胡散臭すぎるだろ。」
「胡散臭い断罪者が、西区を襲撃したのは都市民全員が知っているわ。
犯行声明が送られてきたから。
そして、その事で東区が北区に進軍したのも、知れ渡っていると思う。
なにより…。」
苦々しそうに、クレスタは続ける。
「カナミアと戦うポノ君、DFDを見た人は多いの。
深夜とはいえ大きな音だったから。
起こされて、何事かと思った人はセイを使って調べたわ。
姿を目撃した人も、記録した人もいる。
多少の変化はあっても、基本的なデザインは一緒。
あの時の黒いのだと、きっと分かる。」
ハッとする。
もし、あの戦いを最後まで見ていた人がいるなら。
ワッポノ君の姿と、ロミスオッドの姿も目撃したはずだ。
それでも。
あのロミスオッドは、このロミスオッドじゃない。
奴にしては迂闊に姿を晒したと思ったが、それはバレても問題ないからか。
「譲渡するのも、金品とかじゃなくて魔力だからね。
休めば回復するし、死ぬまで搾り取られる訳じゃないし、渡す量だって調節できる。
…ヨダーシルには、何かを成そうとして学びにきた若い子達も多いわ。
侵略者と戦うから協力してほしいなんて言われたら、喜んで協力してくれるんじゃないかしら。
添付してあるデータも、多分、しっかり作ってあるだろうし。」
「…だとしてもだ。
そもそも、このロミスオッドは誰なんだ?
誰も偽物だと気づかないのか?」
「気づかない。と、思ったから、実行したんでしょう。
この女性は、おそらくセイよ。ロミスオッドのね。
これほど自然ならバレない、というよりバレても問題ないんじゃないかしら?
ロミスオッドの正体は、オーズン肝いりのAI。
そういう落ちで、いくのかも。
…実際、区長の業務を滞りなくこなしていたのは、本当に彼女かもしれない。
仕事を彼女に丸投げして、ロミスオッドは色々と準備を進めたのよ。
そして彼女を都市長にして、今度は復讐の準備を進めるつもりなのかも。」
あり得る話だと思ってしまった。
北区でロミスオッドとして接していたのは、あのセイで。
男のロミスオッドは秘書か何かだと言えばいい。
そう、きっと。
北区に住む都市民の多くが、この認識なのだ。
だから今、彼女が伝えている事が真実だと受け入れる。
…それこそ西区襲撃を援護した工作員は、不法入国をした不正規住民達で。
既に全員国外へ逃げているかもしれない。
「セイという存在は、この国で信頼を勝ち取ったのよ。
常に傍にいて、裏切らない存在。
物知りで、公正。なくてはならない存在。
だからこそ。
自分達の暮らしがよくなるのなら、国の代表はAIでも構わない。」
「奴はそこまで考えて?」
「どうかしら。
たぶんゴールへの道筋は、いくつものパターンを考えていたのよ。
それで、今の状況ならっていう手を打ってきた。
そんな感じだと思う。」
「…私達が戻って、都市民に説明して回れば解決するんじゃないか?」
「私達は、私達が正しいという証拠を提示できないのよ。
北区を攻めたのも、証拠があったからじゃない。
証拠を掴む為に、強引に攻めたのよ。
そしてまだ、証拠は掴めていないの。
この状況で、仮にポノ君がやられてしまったら、どう?
西区、南区、東区がどうにもできなかった敵を、北区が倒した絵が完成する。
後は、信用勝負。
今までのユンゼスさん達の行いと、今回の一連の出来事のね。
この状況での選挙は、相当分が悪いと思う。」
「…西区を襲撃して、東区を返り討ちにして、その罪をポノに全部押し付けて、最後にポノを倒して支持率を上げる?
なんだそのマッチポンプ…。」
地鳴りがする。
きっと、CMDの変形が再開したんだ。
魔力が、供給されている。
「ポノと連絡はつかないのか?」
これは、俺が答える。
「つかない。
こちらからの通信を受けとってもらえない。
彼自身電源を切ったか、戦っている内に壊されてしまったんだと思う。」
「なら、仕方ないな。」
リハネが出て行こうとして、カナミアに止められた。
「ポノを下がらせないといけない。
敵の魔力が上昇しているなら、これ以上は危険だ。」
「それには賛成だけど、ガス欠のあなたはワッポノさんの元まで辿り着けないわ。
無謀な戦いをさせられない。」
「やってみなければわからない。」
そこに、クレスタが混ざる。
「ポノ君は、諦めていないわ。」
映像の中で、ワッポノ君が腕を振り、迫る石柱を砕いた。
そのまま前進する。
「彼が諦めていないなら、私達のする事は彼を勝たせる事よ。
例えば、魔力供給を断つとかね。
状況は変わってしまった。
ポノ君の敗北が、向こうの勝利。
そして、ポノ君の勝利が、私達の勝ちよ。」
クレスタが、俺を見た。
「もちろん逃げる選択肢は残しておくべき。
全滅なんて嫌だもの。
でも、出来れば、ね。
勝って喜びたいじゃない、皆で。
ワッポノ君も、ラデュームさんも一緒に。」
ロミスオッドも。
そう、言われた気がした。
その時、兵舎の扉が勢いよく開く。
「お待たせ!」
我が南区が誇る優秀な秘書、ルムリートだ。
「色々もってきたぜ~。」
背負っていたリュックを降ろす。
ズシリとした重量が頼もしい。
「クレスタ!」
奥から飛び出してくる人影。
それが、クレスタに体当たりした。
「ミーサ!」
「クレスタ…リハネも…ごめんネ。
私、ラデュームを守れなかっタ…。」
スーマミーサさんが、クレスタとリハネに慰められている中。
俺は秘書から報告を受ける。
「東区本隊の被害は、ラデュームが連れ去られたのと、竜機兵が全滅したくらいだな。
怪我人は多いが、死者はゼロ。
あいつは軽傷で、本陣でいじけてたから護衛を頼んだんだよ。
連れて来てよかった。こんな状況でも、まだAMDがうろついててさ。」
その頭を撫でる。
こちらから頼んだ事とはいえ、よく来てくれた。
これでまだ、出来る事がある。
「皆、聞いてほしい。
作戦があるんだ。」
*ワッポノ視点*
ここに来て、敵の魔力が跳ねあがった。
足場が、次々と奴に取り込まれていき、飛んでくる魔力弾の頻度も上昇。
押していたのに、押し返されて。
あっという間に劣勢だ。
『ここまでですね。逃げましょう。』
頭の中で、声がする。
「嫌だね。」
口に出して、反論する。
『死にますよ?このままだと。』
声の正体は、俺に組み込まれたセイだ。
MDF起動状態なら、こうして話しかけてくる。
ネットワークには繋げられないみたいで、情報取得は不可。
しかし演算能力はそのままで、同じく組み込んだDFDの機能は使える。
どういう事かというと、敵の魔力量とこちらの魔力量から戦闘シミュレーションして、結果の予測が可能らしい。
ただ、今回は。
言われるまでもなく、わかる。
このまま続けても、俺は勝てない。
『一度退いて、再戦すればいいんです。
死なない限り、あなたの敗北ではないでしょう?』
「…俺はさ。」
転がっている鉄柱を振り回し、飛んできた魔力弾を弾く。
「聞かれたんだよ、勇者に。」
鉄柱が砕けたから移動。建物の影に隠れる。
「『勇者って、何だと思う?』って。」
建物が穴だらけになってきたから、再び移動だ。
「そいつは、信念のある奴だって言ってた。
…あいつは、立派な勇者だよ。だから、間違いじゃないんだろう。
でも、自分で言ってたんだよ。
『あくまで、私の勇者像』って。」
跳ねて。避けて。転がるように走りながら。
言葉を重ねる。
「なら、俺の勇者像ってなんだろうって。
考えてた。
あの頃。
自分が勇者だと、誇りを持っていた頃。
俺が思い描いていた、未来の自分は…。」
迫ってきた瓦礫を、グーパンで砕く。
脚は止めない。
少しずつでも、敵へと近づいていく。
「当然、魔王を打倒する自分だ。
つまり勇者とは、魔王を倒す者だ。
でも。」
右手が。
迫ってきた。
跳んで避けるにはデカすぎる。
覚悟を決めて、体当たり。
流石に無謀だった。
圧倒的質量にあっけなく敗北。
俺は飛ばされて、建物に激突。
縮めた距離が、また離された。
「俺は、カナミアも、立派な勇者だと思う。
あいつは魔王を倒していない。それでもだ。
と、いう事は。
今の俺の勇者像は、魔王を倒す者じゃない。」
追撃で飛んできた魔力弾を転がって避けて。
立ち上がる。
「勇者とは、ここぞという時に、勝てる奴の事だ。」
駆け出す。
「勇者の勘、いや、違うな。
たぶん、DFDRの起動状態なら、お前の演算能力を、俺も少し使えるんだと思う。
今までのロミスオッドの、そしてユンゼス達の行動。
わかるんだ。
きっとこれが、ヨダーシルでの最後の戦いで。
ここで俺が退いたら、俺達は負けるんだ。
俺の望んだ世界に行けない。」
俺の望む世界。
ヨダーシルをユンゼス達に任せて。
俺はロミスオッドの復讐を…。
いや、まずは話を聞きたい。
どんな事をされて復讐を考えているのか?
復讐相手は誰なのか?
『話す事で、楽になる事もある。』
あの浜辺で。
ユンゼスに言われた事を思い出す。
あの時、俺は。
『あれより強くしてくれ。』と。
その一言を、言えたから。
俺の物語は、動き出した。
その、物語の最後に。
「俺は、勇者になりたい。」
結局、俺は。
一度も勝てていない。
追い詰める所までいけても、勝ち切る事が出来なかった。
だから、ここだ。
この場面で。ここぞという時に。
勝利しなければならない。
そうして誇れる勇者となって。
その姿を、ロミスオッドに見せつけて。
それで、今度こそ。
対等な関係で話をするんだ。
『…。』
セイは、もう逃げろと言わない。
勝利の為の方法を、必死に演算してくれている。
クレスタやツツジは、俺を改造した事を悔やんでいた。
でも、今の所。
いい事しかない。
(後で、ちゃんとお礼を言わないとな。)
改めて。
地面を強く踏み込んで。
俺は飛ぼうとした。
そう。
飛ぼうとしたけど、飛べなかった。
地面が割れて、体勢を崩したから。
「!?」
俺は何かに脚を掴まれて、思い切り上空へと放り投げられてしまう。
『皆さん!ありがとう!!』
響き渡る、聞いた事の無い女の声。
『お陰で、断罪者を倒せるだけの、魔力が溜まりました!!』
敵の。
CMDの口が開いた。
『御覧ください!!
これで、私達の、勝利です!!!』
『避けて下さい!
大きいのが来ます!』
ドラゴンの口から放たれたのは、超高濃度の魔力砲。
演算するまでもない。
あんなのに呑まれたら、死ぬ。
「…嫌だ。」
奴は、これで勝利だと言った。
それはダメだ。
だって。
「勝つのは、俺達だ!!!」
噴出炎。
空中で、何とか体勢を立て直す。
そして俺は。
迫る魔力の塊に。
渾身の拳を叩き込む。
ユンゼスの考えの補足。
西区を襲撃した後、ワッポノに色々言っていた人達は、北区の人ではありませんでした。
国外で雇われて連れてこられた傭兵みたいな人達です。
ちなみに、お金を貰って帰りました。
西区の襲撃の時も、今回の東区との戦いにも、北区の人は参加していません。
ロミスオッド(セイ)から、話し合いで解決するので待機していて下さい。みたいな事を言われたので。




