第149話 激突~友へ~
~前回までのユンゼス~
決戦の舞台は、北門の大要塞。
そこにリハネが突っ込んで。
その隙に俺は、要塞に侵入した。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__ヨダーシル・南区
●ユンゼス :南区の区長
__ヨダーシル・東区
〇リハネ :ゾトの勇者
〇ラデューム :東区の区長
__ヨダーシル・北区
〇ロミスオッド:北区の区長
〇カナミア :アイーホルの勇者。洗脳状態
*ユンゼス視点*
ICDを起動して。
薄い水色の鎧を身に纏い。
一人、魔王城内を歩く。
気を付ける点と言えば。
リハネとは別の方向に進んでいる。
彼女達の戦いには、実力的に割り込めない。
だから、邪魔にならないように。
それだけ。
(…。)
俺達の目標が、ロミスオッドの捕縛なら。
敵の目標は、東区区長であるラデュームの排除。
そうすれば。
新都市長候補はいなくなり、ロミスオッドが新都市長だ。
得意の情報統制で、異議を唱える者も抑え込むつもりだろう。
それでも。
まだ反抗してくる者がいるとすれば。
それは、俺だ。
元、都市長候補の一人であり、まだ南区の区長。
情勢の変化により、再び都市長候補として名乗りを上げてもおかしくない。
ついでにICDなんて、厄介な兵器も持っている。
この戦いで、カナミアが敗れれば。
その戦闘力は脅威になるはず。
是が非でも、潰しておきたい相手。
そして、それが出来るのは。
ICD。つまり、ロミスオッド本人だ。
だからこうして、待っている。
奴の高い探知能力で、俺を見つけてくれるのを。
そして、その目論見は。
成功する。
「ここは、気軽に散歩していい場所ではないですよ。」
白い鎧が現れる。
「護衛もつけずに、ふらふらと。
どんな罠かと思えば、それもなく。
一応、聞きましょうか?
何しに来たんです?」
「お前と、話をしにきたんだよ。ロミスオッド。」
クレスタにも言われたし。
俺も、話をしたいから。
「…。」
「昨日も言ったろ?
力になれるかも知れない。そして、力になれるなら。
そう、したいんだ。」
「私の目的は復讐、ある人物を殺す事です。
そいつは強い、だから力を求めます。
ヨダーシルという力を。」
本人ではないけれど。
鎧で表情も見えないけれど。
雰囲気が、やっぱり同じだから。
今でも忘れられない、大事な友達に似てるから。
だから、その言葉が本心だと、わかる。
「復讐かぁ…。それは…。」
「まさか、何も生まないとか。
そういう、ありふれていて、もはや誰のセリフかも分からないような言葉で。
説得できるなんて思っていませんよね?」
「…。」
「復讐は何も生まない。
私もそう思います。
目的があって、手段として復讐する場合は違いますが。
復讐そのものが目的の場合。
何かを得ようとしていないんですよ。
得ていたモノを、得られるはずのモノを、代えがたいモノを。
失ったから。奪われたから。もう二度と、この手に掴めないから。
だから復讐をするんです。
元凶にね。」
まるで。
彼の怒りに周囲の空気が、魔力が呼応するかのように。
ぼたぼたと。
黒く濁った泥みたいなのが、落ちてくる。
それは、徐々に勢いを増していき。
空は晴れているのに、ここら一帯だけ雨が降っているみたいになって。
周辺の建造物も、床も、俺達の鎧も、汚していく。
(…魔力の、質の変化。)
MDFに備わっている機能で。
機能のベースは、龍穴から出る魔力を変化させる装置。
ロミスオッドが再現した物だ。
だから彼ならば。
こんなふうに機能を拡張させ、周辺魔力を変化させるなんて事が出来てもおかしくない。
つまり、これは攻撃。もしくは攻撃の為の準備。
「だってそうでしょう?
私は失ってしまったのに。絶望したというのに。
そいつは、のうのうと生きているんです。
許せる訳がない。
人はいつか死ぬ?私が殺さなくても、どうせ死ぬ?
まるで理解していない。
そいつが、今も生きていて、人生を謳歌しているのが許せない。
一秒でも早く消し去りたい。
でも、それには準備が必要で。
我慢して我慢して我慢して準備を進めるんです。
確実に。
復讐を遂げる為に。」
この、一面に飛び散る泥のような魔力は。
ロミスオッドの制御下にあるこの魔力は。
徐々に。
濃度が上がっていく。
濃すぎる魔力は、毒だ。
断海の魔力のように。
断海まで濃くする必要はない。
龍穴の魔力ぐらいか、それぐらいで。
俺は行動不能になるだろう。
そして、ICDに耐性を付与しておけば。
今、泥の舞うこの空間は。
奴だけが動く事の出来るフィールドとなる。
「私の目的は話しました。
さあ、あなたは。
何が出来ますか?」
この状況で。
俺に、出来る事。
(…。)
俺の友の、ロミスオッド。
目の前にいる、ロミスオッド。
俺のICD。
そして、俺達の理想の世界の事を考えて。
「俺は、お前の復讐には協力できない。」
そう、言い放つ。
「理由は、二つ。」
空気が、変わった。
「一つ目。
俺の理想の世界は、皆が笑顔になれる世界。
その為には、自分の世界と、異なる価値観の世界を尊重する必要がある。
殺す、壊す、消し去る。
どれも、真逆の考えだ。
だから協力できない。」
計測器の数値が、勢いよく上がっていく。
予想通り。
敵の狙いは、濃度上昇による行動不能。
こうして喋っていられるのも、あと数分。
「もう一つは。
復讐の先に何もないからだ。
手伝った所で、お前が笑顔になれないなら、意味がない。」
ロミスオッドが、一気に距離を詰めて来てた。
放たれる奴の右ストレートを、右腕で逸らす。
「何が尊重する、ですか?
尊重するというのなら、私の目的を肯定してくださいよ。」
「肯定は出来ない。
俺が尊重すべきは、お前が笑顔になれる世界だから。
でも、だから妥協案なら出せる。
相手の命を奪わずに、例えば謝罪させるとか。
そういうのなら、協力できるかもしれない。
詳しい話を、聞かせてくれないか?」
蹴りが飛んできたので、後ろに下がって避けた。
動く度に痛みを感じるのは、ICDの反動の所為だけじゃない。
少しずつ、魔力変化の影響も出て来ている。
「結構です。
謝罪など求めません。
第一、向こうは、私の事を認知しているかさえ怪しい。
上っ面だけの謝罪など、気持ち悪いだけです。
そして、奴の罪を裁く法もありません。
色々と、複雑なんですよ。
理解も、共感も、納得もいらない。
言ったでしょう?
何も求めていないんです。
ただ、奴が死んでくれれば、それでいい。」
ロミスオッドが、剣を抜いた。
鎧と同じ、真っ白な剣身。
しかしそれも、舞う泥の所為で汚れてしまう。
「そんな破滅願望を、叶えさせてたまるか!」
やはりまずは、無力化させないと。
そう思い、一歩を踏み出す。
身体が軋むのを感じながら、渾身の右ストレート。
それを剣身で受け止められる。
丈夫な剣だ。
「あなたは、自分の価値観を他人に押し付けているんですよ!
それは侵略行為では?
常に笑顔でないといけないんですか?
苦しくても、我慢して、笑い続けろと?」
その状態のまま、押される。
伸ばした肘が、曲がってくる。
「違う!
俺は、何も奪わない!
悲しい時は、悲しんでいいし、怒りたい時は怒っていい。
状況的に、それが出来ない時もある。
耐えないといけない時はある。
でも、全部を我慢するのは、ダメだ。
無理して笑って、誤魔化し続けたら。
本当に嬉しい時、心から笑えない!」
右腕に、魔力を込めて。
両脚、踏ん張って。
右腕を伸ばす。
剣を、押し返す。
「耐えるのは、耐えた先の世界に、希望があるからだ!」
伸ばした右腕を、再び曲げて。
バランスを崩したロミスオッドに、再びパンチを叩き込む。
「目指すべきなんだよ!自分の、理想の世界を!」
その、俺の拳に。
思い切り剣が振り下ろされる。
今度は剣身ではなく、刃が向けられて。
拳と剣が、激しくぶつかる。
ICDでなかったら、きっと拳が真っ二つになっていた。
「その、目指していたものが、既に無いと言っている!!」
衝撃で、二人共、弾かれて。
少し、距離ができて。
ロミスオッドが、剣を構えて。
俺は、彼に。
言葉を投げる。
「お前が、酷く傷ついたのは、分かった。
その苦悩が、俺には到底理解できないほど深い事も、分かった。
でもさ。
なあ、ロミスオッド。
俺達は、生きているんだよ。」
彼の悲痛な叫びが。
俺の戦意を奪うから。
「掛け替えのないものを、失ったんだよな。
変わりなんて、ある訳ないんだよな。
それでも。
それでもだよ。
俺達は、こうして、会話をしているんだぜ?
何かを。
新しい、何かを、一緒に探さないか?
その事なら、いくらでも協力するよ。」
二度も。
俺に、ロミスオッドを失わせないでくれよ。
「ふ、ふふふ…。」
笑い声は、ロミスオッドから。
「まったく、薄々気づいているでしょうに。
はっきり言いましょうか?
あなたの友達の、ロミスオッド。
殺したのは、私ですよ。」
気づいていたとも。
しかしそれでも。
突き落とされたような感覚なのは。
違うといいと、思っていたからか。
「理由は簡単。
彼と入れ替わり、後々ヨダーシルを乗っ取る為です。
本当は、もっと早く、そして穏便に済む話でした。
彼を唆し異世界へ転移させ、私が彼に成り代わる。
しかし、あの男に。オーズンにバレてしまった。
あなた方に阻止され、彼は投獄。
一度、それで諦めて、世界を周ってみたんですが。
やはりヨダーシルが都合いいんですよ。
という事で再挑戦。
彼を出所させて、殺害し、今度こそ成り代わる予定でした。
そしたら今度は、奴がしぶとい。
あなたの元まで、逃げられてしまった。
そこからは大変ですよ。
潜伏しながら、証拠の隠蔽。
オーズンなんて化け物と戦うなんて、ごめんですからね。
そうこうしているうちに、オーズンが死んで。
それで、ようやく成り代われたという訳です。」
そう、だろうよ。
犯人がこいつなら、そういう事だろう。
「憎いでしょう、私が。
復讐したいでしょう?
ほら、仇が目の前にいますよ!」
俺の造ったものを凄いと言ってくれて。
俺が、これから造るものを楽しみだと言ってくれて。
俺と一緒に、理想の世界を造るはずだった男を。
こいつは殺した。
ガクンと。
力が抜け、思わず膝を地面につく。
魔力変質の影響がいよいよ厳しくなってきた。
俺は屈んだまま、ロミスオッドの方を向いて。
答える。
「それでもだ。
一緒に、生きる理由を見つけよう。」
鎧が。マスクがあって、よかった。
「…は?」
並行世界の自分を殺してまで、復讐したいと考えている男が。
その果てが、自滅と知りながらも復讐を望む男が。
なんとも間抜けな声を出す。
「結局。
あなたの友達への思いは、その程度という事です。」
「違うよ。
大事だから。
共に夢見た世界を、何より優先したいんじゃないか。」
だから、目の前の。
こいつも笑える世界を、目指したい。
両脚に力を入れ、再び立ち上がる。
大丈夫。まだ、戦える。
「なるほど。
あなたの理想の世界とは。
他者を尊重する世界というのは。
個人的な負の感情を押し殺し、諦める事で実現する。
怒ってもいいし、悲しんでもいい。
しかしそれを、他人に見せてはいけない。
なんとも、まあ。
窮屈な世界だ!」
ロミスオッドが、動く。
鋭い突きを繰り出してくる。
「そんな世界に、なんの魅力も感じない!
お前の助けはいらない!
お前はいらない!
さっさとくたばって、ヨダーシルを渡せ!」
俺はそれを、掴もうとして。
失敗し。
右肩を、貫かれた。
鎧の強度が、落ちている。
「…違う、と言いたい所だけど。
そうだな。
そういう一面も、あるかもしれない。
全員が、少しずつ、我慢すれば。
近づけるかもしれない。他者を尊重する世界に。」
でも。
そんなに単純な話じゃない。
少しの我慢とは、何だ?
ある人には苦ではなくても、別の人には、とんでもなく苦行かもしれない。
偏りは、不満を生む。
不平等で損をするのは、他者を思いやれる人だ。
それは。
やはり俺の理想ではない。
「でも、難しいよな。
パンが一つあって、自分の他にもう一人いて。
半分にするという選択肢もあるけれど。
それだと、家で待つ子供がお腹いっぱいにならなくて。
だからパンを掴んで、全力で駆け出す。
それが、悪い事だとは、俺には思えないよ。」
左手で、掴み損ねた剣身を掴む。
「そこに、パンが三つあったら、どうだろう?
パンを取りに来た二人と、家で待つ子供の分だ。
それなら、皆、笑顔になるんじゃないか?
だから俺達は、パンを三つ用意するんだ。」
ロミスオッドが、剣を引こうとする。
が、動かせない。
動かせないように、力を込める。
「でも、そんなに単純じゃない。
パンが三つあれば、三つともほしい。
だって、明日の分もほしいから。
なら、一体いくつ必要なのか?
それを、答えられる人がいなくて。
パンも無限にある訳じゃない。
一生懸命、俺達はパンを作るけど。
足りないんだよ、どうしても。」
きっと。
旅をしたロミスオッドは。
そういう現実に直面して。
あいつは真面目なやつだから。
どうしても解決しないと、いけないと思って。
でも、解決できなくて。
絶望した。
「配って終わりじゃないんだ。
解決なんてしない。
これは、生きている限り、続いて行く話なんだ。
俺と、ロミスオッドだけで何とかできる話じゃない。
だから、ヨダーシルが必要なんだよ。
いくら作っても足りないからって諦めない。
作り続けるんだ。ずっと!」
『NMM起動。』
ようやく、解析が終わった。
「お前に、ヨダーシルは渡せない。」
黒い泥に混じり、水玉が舞う。
正体は、俺が変質させた魔力だ。
瞬く間に量を増やし、泥を、洗い流していく。
「これは!?」
「あいつが考えた、皆が笑える世界の為の力だ!」
新魔力。
魔物が生まれないように。そして生活の質を落とさないように。
NMMとは。
周辺の魔力を、新魔力へ変換させる。
根本は、相手と同じだ。
どちらも、魔力の質に干渉する力。
今回は、相手が先に魔力の質を変化させてしまったから。
それを更に変化させる為、解析が必要だった。
新魔力は、濃度の低い魔力。
つまり、本当に新魔力に変化させられれば、俺達のMDFは、魔力不足により停止する。
まだ、そこまでは至れていない。
そう、これは未完成。
精々、魔力濃度を下げる事しか出来ない。
でも今は。
ICDの力で魔力濃度が上昇しているから。
行動に支障が出るほど、濃くなっているから。
それを下げる事で。
ICDが、本来の力を取り戻す。
左手で、右肩に刺さった剣を引き抜く。
勢いのままロミスオッドから奪いとり、そのまま天高く掲げて破壊する。
左脚を、前に。
右腕を、振りかぶった。
右肩が痛いけど。
だからこそ、気合が入る。
事態の急変に、硬直していたロミスオッドが、ようやく動きだす。
でも、遅い。
俺の右拳が、奴の腹に突き刺さる。
よろよろと。
ロミスオッドが数歩、下がった。
奴の鎧を砕けるだけの魔力は込めた。
それでも砕けないのは。
奴の執念。
それから。
ダメージの蓄積で、俺が期待値の力を出なかったからか。
(お互い、あと一発って感じか…。)
ゆっくりと、円を描くように歩き出す。
向こうも似たような感じだ。
息を整えつつ、間合いを計っている。
「俺達はパンを作り続ける。
でも、やっぱり足りなくて、きっと我慢してもらう事もあると思う。
しかも、パンがあるだけで、幸せになれる訳じゃない。」
「…。」
「それでも、無駄だとは思わないよ。
俺の理想とする世界が、どこにも無いとも思わない。
だってさ。
あの時の、あの場所に。
俺と、ラデュームと、ロミスオッドの三人で、トリッキーシューターをしている時に。
あの瞬間に。
確かに、あったんだから。」
二人、同時に動いた。
右腕は、もう上がらない。
だから振りかぶるのは、左腕。
ダンっと、思い切り地面を踏みつけて。
あいつは右腕を、俺は左腕をあいつに伸ばす。
それぞれの腕が交差して、お互いの顔面を殴り合う。
脳が揺れて。
幻覚を見た。
あの頃の俺達の姿。
三人共。
いい笑顔だ。
「なあ、ロミスオッド。」
殴られた状態のまま。
空を向いたまま。
「復讐、やめよう?」
それが、限界。
ICDが、砕ける。
俺は脱力して、その場に倒れた。
バシャンと、水が跳ねる音がする。
「復讐は、やめません。」
その声は、上から。
辛うじて見てる奴の脚は、鎧のまま。
どうやら、負けてしまったらしい。
音から察するに、石剣でも作っているのだろう。
俺に止めを刺す為に。
(…まだだ。)
あれだけ色々言っておいて、あっさり諦めるなんて出来ない。
まだ意識があるのだから、最後まで抗うべきだ。
迫る石剣を、掴んだり避けたりを試みないと。
だから、とりあえず仰向けに。
そして。
俺は見た。
ロミスオッドの他に、誰かいる。
それは…。
~戦況まとめ~
リハネ :カナミアと交戦
クレスタ・ツツジ:ワッポノと合流…
ユンゼス :ロミスオッドと交戦
ラデューム :要塞に直接攻撃




