第14話 後悔~ヒーローは、遅れて…~
~前回までのサニア~
まずは、トバと会って話をする。そこから始める。
トバと話した。トバは仲間のロストンと話す為、彼の家に。私もついていった。
ロストンは魔物になった。私が倒した。そして…。
カルフラタの町は、魔物だらけ。
街中に魔物。
昼下がりのカルフラタは、大パニックだ。
ニージュ商会の人が、避難誘導をしている。
マッチポンプ…いや、全員が加担しているとは限らない。
人だかりに突っ込もうとしている魔物を、すれ違いざまに粉砕した。
ガットルとは別れた。魔物一体一体は強くない。数が多いのだ。
おそらく事前に運んでおいたのだろう。
匂いを消した死体を、商品と偽装して。
でも、中には、新たに犠牲になった町の人も、いるのだろう。
「ウッラア!」
掛け声とともに、二体同時に倒す。
ここは、昨日通った道だ。
道沿いに色とりどりの花が咲き、オシャレな人々が笑顔で歩いたその道は、花は枯れ、道沿いに怪我人が蹲り、魔物が徘徊する道となっていた。
私は魔物を蹴散らして、怪我人に肩を貸しニージュ商会の建物を目指すのだった。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
どれだけ魔物を葬って、どれだけ時が経っただろう。
体力も、魔力も残り少なく、精神的にもきつい。
終わりが見えない。
目の端に魔物の姿を捉える。獣型だ。
魔物はこちらに向かってきた。
来てくれるならありがたい。体力を温存できる。
カウンターで叩き潰そう。
最小限の動きで倒すため、ぎりぎりまで動かない。
目視で距離を測る。
あと十歩、…六歩、四歩、
「サニアアア!」
声が聞こえて。
私と魔物の間に、誰か。
咄嗟に動けなくて。
赤いのが、噴き出した。
私の渾身の右ストレートで、魔物は吹っ飛んで行った。
後先考えずに殴ったから、多分骨を痛めた。折れたかもしれない。
でもそんな事はどうでもいい。
「トバ!トバ!っねえ!トバ!」
私を庇って倒れたトバは、全く反応しなかった。
目は閉じられ、大きな爪傷から、ドクドク血が流れている。
(血を止めないと!)
私も私の持ち物も、汚れていて、清潔とは思えない。
周りを見るが、使えそうなものはない、店も人家も少し遠い。
先程の魔物が起き上がって近づいてくるのが見える。
殴っただけでは流石に倒せない。
でもちょっと待って、今トバが大変なの。死んじゃうかもしれないの。
何か、何か何か無い?血を止めたいの。急いでいるの。
もう私はパニックだ。
こうしてトバを抱え、キョロキョロしているだけだ。
魔物をさっさと倒して、トバを店か人家に連れていき、応急手当でもすればいいのに。
これはダメだ。
と、他人事のように冷静に、感想を呟く私が、どこか遠くにいる気がして。
魔物が爪をたて、襲い掛かってくるのを、ぼんやりと眺めていた。
「大丈夫だサニア。」
その声で我に返る。
「ガットル?」
ガットルは迫っていた魔物を切り伏せて、
「勇者が来た。」
私に振り向き笑顔を見せる。
雨は、もう止んでいた。
足元が、光出す。
光は広がり、道全てが輝き、いや、町全体が、光に包まれる。
右手の痛みが消えていた。
トバも、目は覚まさないが出血は止まっている。
「回復魔法?」
レーラスの、水と風の混合魔法、癒しの風。
それを遥かに凌駕する範囲と効果だ。
(こんな広範囲に、しかも強力な回復魔法なんて…。)
ふと思い出した。
王国が打ち出す勇者のキャッチコピーに、【光の道を歩む者】というのがある。
絶対、それっぽい語呂だけで考えただろうと、茶化した事がある。
レーラスは真面目な感じで答えてくれた。
自分は過去に一度だけ、光り輝く魔法を使った事がある。
そしてそれこそが、自分がレーラスを、勇者を引き継いだ証明であると。
更なる研鑽を積み、いつか自在に使えるようにする、と。
その名は確か、
「白輝回復…。」
暖かく、優しい魔法だ。
「サニア!」
ガットルはトバを背負い、右手を突き出した。
「もう少しだ!頑張れ!俺も、頑張る!」
「…頑張る!」
ガットルとグータッチして、駆け出した。
陽が落ちる頃、魔物は町からいなくなった。
「サニアちゃん!会いたかったわ!」
避難所の一つになった酒場で、クレスタと再会した。
クレスタは、汚れていたが、怪我とかはなさそうで。
両手を広げ、ハグの態勢で近づいてくる。
なんだかんだでクレスタの事は好きだ。
昨日の私なら、寧ろ私から抱きついたかもしれない。
しかし、今日は避ける。
「あれれ?どうしたの、反抗期?」
「クレスタ。」
クレスタは寂しそうだが、特に心が痛んだりはしない。
「私は、泣き叫んだり、しない。」
クレスタが固まる。そして、数歩私から離れる。
「ガットルく~ん!いる~?お姉さん、お話がありまーす!」
猛スピードで何処かへ行った。
「即席の自警団を結成して、要救助者及び、魔物の残党探しをしている。
瓦礫の撤去や、本格的な復興作業は明日以降だな。」
当然のように横にいて、状況を簡単に説明してくるディオル。
少しずつ、今まで通りが戻ってきたと安堵した。
したのだが、
「緊急事態だ。頼む。」
ディオルに差し出された紙を掴み、駆け出した。
あの、ディオルが緊急事態という事は、もう、ヤバいくらい緊急事態だろう。
(第二波が来たとか、いや、そんな生易しい物ではないのかも…?)
紙には住所が書いてあり、そこは、
(フフゴケ商会の、宿舎!?)
壊されたりはしていない。被害を受けなかったのは喜ばしいが、逆に不気味だ。
私は慎重に建物内に入る。
静かだ。人の気配は、ない。
(一階は、異常なし…。)
そのまま二階へ。
そして私の警戒レベルが上がった。
手が見える。更に、
(手招き、している!?)
だがここで、一つの可能性に気が付いた。
私はまだ、再会できていない仲間がいるのだ。
警戒しつつも、手の方へ行く。
「サニア。ごめんね。」
レーラスだ。
女の子のレーラスだ。
「大丈夫!?どうしたの?」
駆け寄る。レーラスはふらふらだ。
「魔力が、なくなっちゃった。」
これは、確かに緊急事態だ。誰にも見られる訳にはいかない。
私はレーラスをベッドに寝かせ、簡単なトラップ、いや警報装置を、内外に置きまくった。
そして暖かい飲み物を用意し、レーラスの元へ行く。
「サニア、僕、やったんだ。使えたんだ。あれを…」
レーラスがうわ言のように呟いた。
「うん。助かったし、すごく綺麗だった。」
「よかったぁ。」
レーラスはそのまま眠った。もちろん私は起きるまで待機だ。
レーラスの頭をそっと撫で、
「お疲れ様。」
それだけ言って部屋を出る。
暖かいシチューを作って待っていよう。
「サニアのシチューは、いつも美味しいね。」
三時間くらいでレーラスは起きた。
正直もっと寝ていると思ったから、煮込み時間が想定より大分短い。
(まぁ、好評だから、いいけど。)
笑顔でシチューのお替りをするレーラスに、私はある話をしようと考えていた。
クレスタに正体を打ち明けてみてはどうか、という提案だ。
ふざけている時も多いが、こういう時のクレスタは、頼りになると思う。
また、同じような状況になった時、力を借りられたら、心強い。
とはいえ。
「レーラスは、どうして私に打ち明けてくれたの?その、正体を。」
直球で聞いたら、まるで今の状況を私が不満に思っているみたいじゃないか。
断っておくが、レーラスは大好きな友達だ。迷惑なんて思っていない。
だから、少し遠回しにいく。
「…。」
レーラスは食べる手を止めた。
私と目が合い、少しの間見つめ合った。
やがてレーラスは照れくさそうに笑いながら、
「嘘をつき続けるのが、辛くなったんだ。サニアに。」
「それは、」
私を憐れんで?と繋げる前に、
「サニアは僕のライバルで、大好きな友達だったから。
嘘をつきたくないなって、思ったんだよ。」
一瞬頭が白くなり。
そして私は俯いた。おそらく顔が赤いだろう。
(どうしよう。めちゃくちゃ嬉しい。)
しかし、沈黙していては、誤解を招く。ここは、クールに。
「わ、私も、ライバルだし、す、好きだし!」
声は裏返り噛みまくった。これはひどい。
レーラスの笑顔が、ニヤニヤした感じに変わった気がする。なんて事だ。
「クレスタには、打ち明けないの!?」
聞きたかった本題だが、照れ隠しに話題を変えたみたいじゃないか。
段取りめちゃくちゃだよ。
レーラスの顔が少し暗くなる。
まさか、明確な理由があるの?打ち明けられない重大な訳が…?
「クレスタは…。」
思わず唾を呑む。
「クレスタは、ちょっと怖い…。」
私は笑った。久しぶりに、お腹をかかえて。
サニアの話、カルフラタの町での話は、次回で終わります。




