第146話 ユンゼス~理想~
~前回までのユンゼス~
夜中に目を覚ました俺は、クレスタからゲームに誘われる。
クレスタが魔王で、俺が勇者。そういう、ごっこ遊び。
設定上、人類皆幸せマシーンを否定している訳だけど…。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ユンゼス :南区の区長
〇クレスタ :ワッポノ捜索隊
〇ツツジ :ワッポノ捜索隊
〇ロミスオッド:北区の区長
〇ワッポノ :マーアの勇者
「なるほど、現実への影響か…。
なら、ここで驚愕の新事実よ。
実はこの世界も、あなたの夢なの。」
その言葉の意味を、咀嚼する。
「え、じゃあ、あなたは、夢の中で夢を見させようって事?」
「そう。
既に私達は、上位存在との戦いに敗れたの。
自覚はないと思うけど、私達は脳みそだけの存在。
上位存在は、私達で色々実験しているのよ。
だから、悪夢を見させられている。
そんなの嫌でしょう?
だから私が、その制御を奪うのよ。
悪夢ではなく、幸せな夢を見られるように。」
ちょっとイメージしづらいし、可能だとは思えないけど。
でも、それが事実だと仮定すると。
…そうだな。
「それは、あなたが言ったように。
その事実を知らなければ、関係のない事で…。」
いや、これだと相手を肯定する事にもなるから…。
魔王を説得させる事なんて出来ない。
「なら、この事実を公表しましょう。」
「え?」
その提案が。
魔王側から提示されて驚く。
「ここは悪夢の中。
起きる事は出来ないわ。
もし起きれたとしても、身体の無い私達は目覚めても何も出来ない。
それを皆に伝えるの。
ある異世界だと、空をずっと上まで昇っていくと宇宙っていう空間に出て、そこから星を見ると、丸くて青いそうなのよ。
実際に見た人は、一握り。
でも、多くの人が、そう認識している。
根拠とか、証拠とか?そういうのがあれば、きっと信じてもらえるわ。
その後に、選んでもらいましょう。
悪夢の中で抗うか、幸せな夢を見続けるか、起きて死ぬか。
きっと皆は、幸せな夢を選んでくれるわ。」
「そうだね。そうしよう。」
「…。」
変な顔をされた。
意外だったろうか?
とりあえず、続ける。
「もちろん、公表の仕方には気を遣いたい。
まあ、事実は変わらないから、人によってはどう伝えようが同じかもしれない。
上位存在の掌の上で生きるなんて、嫌だと考える人がいるかもしれない。
でも、やっぱり絶望して自殺とかは選んでほしくないからさ。
2択にしたい。
今の世界か、幸せの夢の世界かの。」
「今の世界も、夢なのよ?」
「だとしてもだよ。
さっきまで俺は、この世界の話をしていたんだ。
この世界でなら起こり得る話をしたんだよ。夢の世界だったとしてもね。
上位存在は、悪夢を見せたいのかもしれない。
でも、その割には幸せだってちゃんとある。
少なからず、抗えるんだよ。」
「…。」
「あなたは、選んでもらおうと言った。
それが、一番大事だと思う。
レールが敷かれていて。
そのレール通りに進んでも、別の道を進んでもいい。
正直さ。
悪夢なんて見たくない。
楽に幸せになれるなら、最高じゃないか。
絶対いるよ。夢の世界がいいって人は。」
どうしようもない絶望を。
喪失を味わった事があるなら、尚の事。
「全員とか、強制とかじゃなくて。
この世界で頑張りたい人は、この世界で。
そして夢を見たい人は、夢の世界で。
そして、欲を言うのなら。
二つの世界を行き来したい。
休みたくなれば、夢の世界へ。
頑張りたくなったら、この世界へ。
…そういう感じで、どうだろうか?」
一度、楽を覚えると、必要性が無い限り頑張るのは難しい。
なんて話も聞くけれど。
何でも思い通りになるのも、つまらないと思う。
何も思い通りにならないのも。
「…全員を起きる事のない眠りにつかせる事って、意味があるのよ。」
クレスタの雰囲気が変わる。
真意は分からないが、おそらく決着は近い。
「脳みそだけにすれば、その分スペースが確保できるし、後はマシンと、生命活動の維持に必要なものだけで済む。
管理は全部、機械に任せて。
空いた土地全部で、エレキとか、栄養が取れる物とか、新しい機械とかを生産して。
それで、私の楽園は完成よ。
でも、人が生活するのなら、他にも色々必要になるじゃない?
起きたりもするなら、身体が必要で。
それを維持するエネルギーも必要になるし。
それじゃあ、エネルギーが足りない。維持できないわ。
それに、そう!
動いている人間がいるのは危険よ。
悪意をもって、私の楽園を壊そうとするかもしれない。
その気がなくても、事故が起こるかもしれない。
だから、あなたの提案は受けれない。」
えぇ…。選択させようって言ったのに?
あれか。全員夢の世界を選ぶ計算だったとか?
でも、俺は。
選択できる未来がいい。
そうだとも。
あの日。トリッキーシューターの運営を辞めた時。
すみ分ける事で、相手の世界を尊重できるのだと、解ったんだ。
「俺は、あなたの楽園を壊したくない。」
「…。」
「そうだな。
物理的な距離は必要かもしれない。
この世界で言うなら、ライダ大陸とワイバン大陸で分けるとか。
そうすれば事故は起きないし、あなたの楽園への入園管理を徹底すれば、悪意に対処するのは不可能じゃない。
ヨダーシルが防衛協力をするよ。
それに、維持する為の諸々にも、ヨダーシルは協力する。
ヨダーシルは、その為にある。」
皆が、幸せな世界。それを目指す為に。
そっちだって、後出し情報があるんだ。
この世界にヨダーシルがあってもいい。
「…なるほどねぇ…。」
クレスタは、身体を反らして星空を見る。
「ヨダーシルなら、出来そうなのが怖いわ。」
そして、笑った。
「私は、幸せな夢の国の代表。
そしてあなたは、現実で頑張る国の代表。
世界を二つに分けて。
その半分を、あなたに上げる。
そういう事でいいかしら?」
クレスタが、右手を差し出してきた。
国の名前はともかく。
俺の提案が受け入れられたなら、嬉しい。
「半分もくれるなんて、太っ腹じゃないか。」
その手を、握る。
交渉成立。
これは、和解できたという事で、ゲームクリアかな?
「お疲れ様、ユンゼスさん。
これでゲームは、おしまい。」
クレスタがニヤついている。
「でもこれ、バッドエンドよ。」
「え?
いや、俺的には最高のエンドだけど?」
「世界の半分って実は…。
いえ、止めましょう、この話は。」
「???」
「でも、そうか~。
ユンゼスさんの目指す世界は、そういう感じか~。」
クレスタは大きく伸びをした。
中々楽しめたから、お礼を言おうと思ったけど。
変な感じになってしまい、タイミングを逃してしまう。
「セイが記録した戦闘映像を見たわ。
ユンゼスさんは、迷っているのね。
敵の、ロミスオッドさんを倒す事に。」
「え?いや、それは…。」
切り替えが早くて。
とまどってしまう。
「確定ではないけれど、彼は、ユンゼスさんの友達だったロミスオッドさんの仇だと思う。
ユンゼスさんもそう思っているはず。
でも、実際に会って、会話をして。
友達の面影を見出してしまった。
パラレルワールドとはいえ、本人だし。」
「…。」
「『あなたの楽園を壊したくない。』
さっきのゲームで、ユンゼスさんが言ったわ。
きっとそれが、ユンゼスさんの基本方針。
対立する魔王に言うんですもの。
あなたは自分の敵にも、そう思っているのよ。」
「でもそれは、魔王役だったとしてもクレスタだったし。
憎むべき敵だと思えなかったというか…。」
「なら、友達の面影がある相手に関しては、そう思ってしまうでしょう?」
「…。」
「でも同時に、仇でもあるから。
情けをかけようものなら、友達のロミスオッドさんはどう思うか。
そんな事を考えて、迷ってしまっている。
どうすればいいのか、分からなくなってる。」
ずいっと、クレスタが近づいてくる。
その表情は、真剣だ。
「そんな状態で勝てるほど、敵は弱くないわ。」
ああ、そうか。
そこを心配してたのか。
「ICDが、最強のMDFだとして、その性能を一番引き出せるのがユンゼスさんだとしても。
それだけでは勝てない。
元々の戦闘能力が高いカナミアと戦えば、あっさり負けてしまうわ。
勇者達は、自分より力が強くて、速くて、固い魔物達と戦って、勝ってきたの。
だからカナミアの相手は、リハネしか出来ない。
彼女に任せるしかない。
必然的に。
ユンゼスさんが、ロミスオッドさんの相手をする事になるわ。」
「わかってる。
俺は迷ってない。
この戦いに勝つには、俺が奴を倒すしかないんだ。」
「倒すの、やめましょう。」
…いや、相手をする事になるって、クレスタも言ったじゃないか。
「あなたの友達のロミスオッドさん。
きっと、自分の仇を討つ事より、共に夢見た世界の実現を優先してほしいはず。
話を聞く限り、間違いない。
だから、敵のロミスオッドさんと対峙したら。
まず、話をするのよ。
話が出来そうもなかったら、捕縛。生け捕り。
絶対に、命は奪わないで。」
「いや、それは、倒すよりも難しい事では?」
「技術的にはそうね。
でも、ユンゼスさんは技術で戦っていない。
ICDの性能でゴリ押しているのよ。
この場合、色々考えて戦うより、何も考えずに拳を振りぬいたほうが、速いし強いわ。
しかも、マシンの計測能力が高くて、出力の調整まで出来る。
いいパンチだったわよ。ポノ君への腹パン。
MDFだけを破壊してくれたんでしょう?
そんな感じでお願いするわ。」
「ロミスオッドは、可能なら止めを刺した方がいい。
生きている限り、敵が奪還しようとしてくるかもしれない。
戦いは終わらない。
それに、CMDなんてのとは、戦わずにすめばそれが一番なんだ。
だから。」
「断言するわ。
命を絶つ為に拳を振るった場合、ユンゼスさんは躊躇する。
どんなに決意を固めても、土壇場で止まってしまう。
それは素晴らしい美徳。
でも、戦いにおいては致命的。
その隙で、逃げられたり、負けて、死んでしまうかもしれない。
ユンゼスさんのいうように、切り替えって大事よ。
仕事とプライベートとか。
やりたくない事だってやらないといけない。
でも、同じ人だから。
完全に切り離して考えるなんて、難しいんだから。
ましてや、亡き友と一緒に目指した理想と、真逆の事をするのよ?
無理。
諦めましょう。」
納得、というか。
勢いに、圧倒される。
流されそうになる。
きっと、流されたいのだ。魅力的な提案だから。
それでも流される訳にはいかないのは。
俺とロミスオッドの戦いの勝敗が、全体の勝敗に直結すると思うから。
「確かに、俺がロミスオッドを説得できれば一番だと思う。
でも、それは不可能だとも思う。
少なくとも俺の知ってるロミスオッドは頑固だから。
俺の言葉であいつが行動を変えた事なんて…。」
『そうだったよ。俺も、トリッキーシューターは好きだった。』
そう言えば、一度だけ。あったっけ。
「で、でも。
俺とロミスオッドの戦いが長引くのはよくない。
リハネがカナミアに勝てる保証はないし、CMDが動き出すかもしれない。
そんな中、悠長に話なんて…。」
「そこは。
私達を信じてよ。」
力強さのある、言葉。
「私達は、東区本隊の皆は負けない。
リハネも、ミーサも、ティルムも、ラデュームさんも、私も。」
そして、優しい声だった。
「それにね。
ユンゼスさんが休む前に、私に教えてくれた戦況予想があるじゃない?
1点、指摘させてもらうわ。
きっとポノ君は、戦場に出てくる。」
俺の見立てだと、一日じゃあ回復できないはずだけど?
「ちょっと不貞腐れちゃったけど、彼も根は負けず嫌い。
戦闘映像や、ツツジちゃんから聞いた話だと、間違いないわ。
このまま大人しく寝ているなんて事はない。
だからね。
私とツツジちゃんで説得するわ。
彼をこっちに、寝返らせてみせる。」
「…えっと、戦場で、って事?」
危険だし、無理では?
と続けそうになったけど。
そもそも、俺にロミスオッドと話をしろと言ってきた人だ。
そして俺も。一度、ワッポノ君の説得を試みている。
「そう。
私とツツジちゃんも前線に行くわ。
流石に、ずっと前線で戦うなんて無理。
だから、お願いしたいのよ。
ユンゼスさんと、あとリハネにも。
ポノ君を見つけたら、場所を教えてほしい。
後はこっちで何とかするわ。」
この人も、レーグの魔王を討伐した勇者パーティーの一人。
その人が、ここまで言うのなら。
信じてみても、いいのかもしれない。
「今日、日が昇ったら。」
改めて。
作戦の確認をする。
「リハネが、カナミアさんを押さえて。
クレスタとツツジが、ワッポノ君を説得して。
俺がロミスオッドを説得、もしくは捕縛。」
それで、勝てる?
「後は、そうね~。
ラデュームさんは、ミーサ達を護衛につけて逃げ回ってもらって。
CMDは、状況次第かしら。」
作戦というか、立ち回り方。
出たとこ勝負なイメージだ。
「ねえ、ユンゼスさん。」
それでも、勝ちたい。
だから、頑張る。
「私もね。皆が笑える世界がいいわ。」
『ゴールテープは、皆で手を繋いで切りたいよな。』
俺は、頷いた。
そして、その数時間後。
決戦の火蓋は切られる。
ユンゼスとロミスオッドの選択は?
リハネとカナミアの戦いの行方は?
クレスタ達はワッポノを連れ帰れるのか?
そして、ヨダーシルの新都市長は?
次回より、第四章、終盤戦。




