第145話 ユンゼス~ゲーム~
~前回までのユンゼス~
疲れていた俺は、クレスタのテントで休ませてもらう事に。
クレスタから、俺の昔の話をしてほしいと言われて。
話し終わった俺は、寝てしまったらしい。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ユンゼス :南区の区長
〇クレスタ :ワッポノ捜索隊
目を開ける。
テントの中だ。クレスタの。
(確か、俺は…。)
クレスタに、自分の過去の話をして。
その後、寝て…。
起き上がる。
薄明りを頼りに、テントの外へ。
満天の星空、ではない。
曇で隠れていて、まばらだ。
でも、まあ。
きれいな方ではないだろうか。
それはそれとして、今はド深夜。
ラデューム達は流石に寝ているだろう。
明日、いや、今日の決戦に備える為に。
そして敵地だから、当然、探知機や警報機はバリバリに設置しているはず。
その辺の確認前にこっちに来てしまったから、場所の把握が出来ていない。
不用意に戻って、それらを鳴らすのは避けないと。
申し訳ないが、このままクレスタのテントにいさせてもらおうかと考えて。
そういえば、彼女の姿が見えないな、と思った時だ。
「ひょわっ!」
頬っぺたに、何か冷たい物が当たり。
びっくりして、奇声を上げてしまう。
「えっと、ごめんなさい。
脅かすつもりだったけど、そこまで驚かすつもりはなかったの。
そっか、私の手ってそんなに冷えてたか~。」
クレスタがそこにいた。
少しだけ申し訳なさそうに。
「調子はどう?ユンゼスさん。」
軽く、腕をまわしてみる。
「だいぶよくなったよ。
クレスタのお陰だ、ありがとう。」
これなら、戦えそうだ。
「そういえば、クレスタは…。」
何で、こんな時間にこんな所に?
そう聞こうとして。
それを見つけた。
テントの近くに設置されたイスとテーブル。
その上の、飲みかけのカップ。
「まさか、俺がベッドを占領したから?」
寝る事ができずに?
「あ~、違う違う。」
クレスタの指さした方向。
そちらにも、テントがある。
「複数もってきてもらってたのよ。
新しいのを用意したから、全然平気。
うちの商品、組み立てるの簡単なのよ~。」
ニコニコ顔の彼女は続ける。
「魔王討伐の旅の途中、結構、野営が多くてね。
交代で見張りとか、よくやってたのよ。
最初は怖かったけど、だんだんこの時間帯が好きになっちゃって。
目が覚めちゃった時とか、しばらく星を眺めたりしてるのよ。」
確かに。
独特な雰囲気がある。
静かで、誰もいなくて。
…ロミスオッドが死んだ時も、こんな感じだった気がする。
「ねえ、折角だし。少し話さない?」
寝る前に、たくさん話をした。
でもあれは、俺が一方的に喋っただけで。
この後は決戦なのだから、休んでいた方がいい。
でも起きたばかりで、眠くなくて。
それに。
きっと、これも気遣い。
また何か、顔に出てしまっていたのだろう。
不安とか、そういうのが。
「そうだね。少し、お願いしようかな。」
満面の笑みで、テーブルまで案内されて。
手慣れた様子で、イスと飲み物を用意される。
ノンカフェインのホットミルクだ。
「ねえユンゼスさん。
ゲームをしましょう。」
「ゲーム?」
聞き返してしまう。
話をするんじゃなかったっけ?
まあ、気晴らしという意味では同じかもしれないし、構わないのだけど。
ただ、ゲームをするには暗すぎないだろうか。
道具とかもなさそうだし。
「ふふ、大丈夫。
道具は使わないわ。
そうね~、ごっこ遊びみたいなものかしら。」
「ごっこ遊び…。」
「ルール、というか設定を話すわ。
私は、めっちゃくちゃ強い魔王よ。
そしてユンゼスさんは、その魔王を倒しにきた勇者。」
「俺が勇者?それは大変だ。」
「そう、大変なのよ~。
魔王はめっちゃくちゃ強いからね。
勇者は歯が立たないわ。
そしてそれは、あなたが、一番よく知っている。
後は、そうね~。
やりながら考えましょう。
準備はいい?
あ、魔道具で防音対策はしてあるから、そこは安心して。」
「えっと、…いいですよ。」
なんというか。
思考実験を思い出した。
こういう状況の時、あなたはどうしますか?みたいな。
まあ、やってみない事には、何も分からない。
「はっはっは!人類皆幸せマシーンが完成したぞ~。これで皆幸せだ~。」
不意打ちで。
ちょっと吹きだしそうになった。
なるほど、こういう感じか。
「全員眠らせた!後は永遠に、幸せな夢を見るとよい。わはははは~。」
えっと、めっちゃくちゃ強い魔王さん?
キャラ、それで合ってる?
人類皆幸せマシーンて、それじゃあまるで。
…まるで。
え?師匠がモデルとかじゃないよね?
「ほら、ユンゼスさん。人類で起きている人は、あなたと私だけよ。どうする?」
「え?え~と、俺は勇者で、魔王を倒しにきて、でも歯が立たなくて…。」
何か出来るかな?
「私はマシーンを止めるスイッチを持ってるの。
でも、無理やり奪い取るのは難しいわ。めっちゃくちゃ強いから。
どうにかするには、私を説得するしかない。」
あ~そういう感じ?
「もちろん、眠らせてほしいならそれでもいいわ。幸せな夢を見せてあげる。」
「そしたら、そうだな。まず、理由を聞こうかな。
あなたは、なぜ、こんな事を?」
「この世界は、辛い事が多すぎる。」
そうだよな。マシンの名前からして、そうじゃないかとは思ったよ。
なら、こうだ。
「でもその幸せは、夢の中だけだよ。」
クレスタは、優しくほほ笑む。
「何か、問題が?」
「夢は醒めるものだから。」
一時ならばいい。幸せな夢を見て、また頑張れるなら。
「醒めないわ。あなたが100歳まで生きるとしたら、100年間、眠っていてもらう。」
「夢は一人で見るものだから。見ている人しか幸せになれない。」
あ。これはダメか。
「なら問題ないわ。皆が夢を見ているもの。皆が見ているのだから、皆が幸せよ。」
仮に。
本当に人類皆幸せマシーンなんてのを造った奴がいたのだとしたら。
そいつに言ってやりたい事はある。
同じ発想を持ちながら、実現できる力がありながら、それでも造る事はしなかった男の弟子として。
だから少し、考える。
会話の道筋を。
(ゲームか。確かに少し面白い。)
「夢は、記憶の整理とか、感情の調整とか、脅威への準備とかの為に見るとか言われていて、つまり制御なんて難しいんだ。
悪夢を見てしまうかもしれない。そもそも、夢が見れないかもしれない。
だとしたら、やっぱり現実の方がいい。」
「そこをクリアしたから、完成したなんて言ったのよ。
列車と同じ。ただ走れる事を完成とは言わない。
夢は見る。そして、悪夢は見ない。
誰もが、自分の考える最高のハッピーエンドを迎えられる。
100年、いえ、望むのならもっと長い時間を生きられる。
200歳を越えれた人もいたようだし。」
楽しい。狙い通りの返され方をされて。
「なら、ダメなポイントが二つある。」
…師匠も、友人と話したなんて言っていたな。
たぶん、こんな感じじゃなかったと思うけど。
「一つは、…聞いた話なんだけど。」
クレスタから。
「ある勇者がいた。
勇者の目標は、魔王を倒す事。
当然、それが勇者の考えるハッピーエンド。
でも、勇者の考えもしなかった出来事があって。
討伐ではなく、和解をした。
勇者一人では、絶対に到達できないエンディング。
そして、自分が考えていたものよりも、いいエンディングだった。」
素敵な事じゃないか。
一人じゃなかったから、出来た事だ。
「きっと、この装置にはそれがない。
だって、自分の考える最高のハッピーエンドになるように、制御されてしまっているから。」
「その変わり、魔王に殺されてしまう可能性だってある。
それが、現実よ。」
その通りだ。
最善を目指したいけど、失敗すると最悪になるかもしれなくて。
目指さなければ最善にはならないけど、最悪にもならない。
それなら、目指さない事は間違いだとは言えない。
そして、目指す事だって間違いとは言えない。
そう。
何を優先させるか、という話。
問題が変われば、答えも変わる。
「もう一つは、…俺の話になってしまうんだけど。
うちの秘書、ルムリートにさ。
一回、本気で怒られた事があるんだ。
去年なんだけど、彼女、恋をしててさ。初恋ってやつだよ。
成就してほしいじゃないか。
だから、相手の事を調べまくった。
趣味、趣向、生活パターン。
最適のデートプランまで立てた。
で、彼女にそれらを渡したんだよ。
いや、凄かった。
『舐めるな!』って。『余計なお世話!』『そこまで弱くない!』って。
見る前に渡した紙を破り、データは完全消去。
で、彼女は独自でデートプランを立てて、告白して、玉砕。
うわんうわん泣いて。
でも。
今も彼女は、俺の秘書でいてくれている。」
たぶん。
自分の選んだ道だから。後悔のない選択ができたから。
「ユンゼスさん。それはあなたが悪いし、人に話していい内容じゃないわ。」
「ごめんなさい。」
真顔やめて。
「と、とにかく!
用意された道を、ただ歩く事を。
用意された幸せを、ただ享受する事が嫌な人。
誰かに、委ねる事を嫌う人はいるんだ。
既に誰かの掌の上というのなら、尚更だよ。
自分で勝ち取りたいんだ。
進みたいんだよ。成功、失敗はその結果。
苦労して、勝ち取った結果が嬉しいってのは、俺も覚えがある。
俺だって、トリッキーシューターをやってたんだ。」
そうか。
トリッキーシューター関連の例を出せばよかったのか。
ごめん、ルムリート。
強烈だったから、パッと出て来たんだ。
「このマシンは。
そういう人達の希望を蔑ろにしている。
その人達は、幸せになれない。」
「確かにね。
でもそれらは、外側からみた時の事よ。
夢を見ている彼らに、分からない話なのよ。
だってそうでしょう?
あなたの言う魔王と和解した勇者様。
和解ではなく、討伐したとしても幸せよ。
和解できれば、もっと幸せになれたとしても。
その事実は、知りようがないのだから。
やっぱり幸せなのよ。」
「…。」
「用意された道だとして。
用意された道だと分からなければ、それは、自分で選んだ道なんじゃない?
夢の中で、努力して勝ち取るのよ。
夢だと分からなければ、それは、努力で勝ち取ったと言えるんじゃない?」
なるほど、と思ってしまった。
これは、手ごわいか?
認識や心構え的なやつだとダメだ。
別の方向から攻めよう。
「俺達はさ、生きてるんだよ。」
「…うん。」
「人は生きているだけで影響がある。大小はあるけれど。
だって、物を食べないと生きていけないから。
いるだけで、住んでいるだけで。
その人がいる場合と、いない場合で違いが出来るんだ。」
ロミスオッドの事を引き合いに出そうとして。
彼が生きていた場合のIFを想像して。
少し、辛くなってしまって。
声が震えずに話せる自信がなくて。
だから、別の例えをする。
「ある男が道を歩いていた。
考え事をしていて、足元をよく見てなくて。
一匹の虫を踏み潰すんだ。
もし、男がいなかったら、虫は潰されずに活動を続ける。
虫は、ある時、未知のウイルスに感染するんだ。
その虫を食べた鳥も、ウイルスに感染して。
その鳥を食べた人も、ウイルスに感染するんだ。
ウイルスは進化を続け、やがて世界中が大混乱。
つまり、男は意図せず、世界を救っていたんだ。」
まあ、例えだし。別にいいだろう。
未知のウイルスだから、絶対にないとは言い切れないし。
見ると、クレスタが突っ伏して震えていた。
笑っている。
「ごめん、それ、凄い好きかも。
知らぬ間に世界を救っていた一般人とか最高よね。
ん、ん。ごめんね、続けて。」
OK、続ける。
「マシンの世界だと、そういうのはない。
生まれた意味がないんだ。だって、いなくなったら、いや、いなくなっても、何も変わらないから。」
どうだろう。
割といい所をつけた気でいるけど?
クレスタの様子を見る。
彼女は。
不敵な笑みを浮かべていた。
ゲームの決着は、次回!
そもそもなんでゲームなんてしているのかも、次回!




