第141話 ユンゼス~挑戦~
ユンゼスの、思い出。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ユンゼス :ヨダーシルの子供
〇ラデューム :ユンゼスの友達
〇ロミスオッド:ユンゼスの友達
*ユンゼス視点*
皆が喜んでいる中、一人だけ悲しそうな表情の子がいる事が、嫌だった。
喜べない子が悪い、なんて事はない。
喜べない子がいるという事は。
現状が『完璧』でないという事。
完璧でないなら、改善の余地があり。
改善の余地があるのなら、目指さなければならない。
完璧を。皆が喜べる状況を。
だって。
皆が喜べるなら。楽しいなら。幸せなら。
それこそが。
理想の世界だ。
俺は、生まれも育ちもヨダーシル。
両親は元気だし、大人になるまで魔物と遭遇する事もなかった。
他国の子供達と比べたら、なんと恵まれた環境だろうか。
だからこそ。
持つ者として、持たざる者の為に頑張らねばならない。
『誰とでも仲良くしましょう。』
『自分の嫌な事を、他の人にしてはいけません。』
『この世に無駄なことはありません。』
両親だったか、先生だったか。
同じような話を、繰り返し聞いた気がする。
その通りだと思ったし、特に疑問もなく受け入れていたと思う。
人生を決めるような、インパクトのある出来事なんてない。
日々の、積み重ね。
それで、ユンゼスという男の人格は形成されていった。
12歳の時、都市長オーズンが校長を務める学校に入学。
言葉、考え方、ルール、歴史、情勢、体育、魔法。
学友達と共に、研鑽に励んでいく。
仲のいい友達も出来た。
例えば、ラデューム。
声も身体も大きくて、パワフルな男だ。
『だーかーらー!なんでそうなるんだよ!?』
トリッキーシューターで、よく遊んだ記憶がある。
『負けたら悔しいだろ?次は勝ちたいと思うだろ?』
『うん!』
『だから練習して上手くなって!相手を打ち負かすんだよ!』
『でも打ち負かされたら、相手は悲しいよ…。』
『いいんだよ、勝負なんだから!
手を抜かれたり、わざと負けられる方が、嫌だろうが!』
『…。』
『悲しそうな顔になるな!』
すまないラデューム。
いや、本当、めんどくさい奴だったと思う。
それでも。
俺はトリッキーシューターを、ラデュームとやるのが楽しかった。
あーじゃない、こーじゃない、今のはよかった、次はこうしてみないか。
投げ合って、お互いに感想を言い合う。
そういう時間が、大好きだった。
対してラデュームは、勝負がしたかった。
勝ったら嬉しくて。負けたら悔しくて。
悔しくて、努力して、今度は勝てて。その時、本当に嬉しくて。
そういうのが、好きだった。
そう、目的が違っていた。
それでも一緒にいたのは。
ラデュームは、あれで面倒見がよかったのと。
やっぱり、二人でやるのが楽しかったから。
『おい、ラデューム!』
それから、もう一人。
『ゼスをいじめるな!!』
『あ~面倒なのがきたぁ…。』
名前は、ロミスオッド。
成績優秀で、正義感の強い男。
『大丈夫だ、ゼス。俺は、ちゃんとわかってる。』
ラデュームを押しのけ、俺に耳打ちしてくる。
『ゴールテープは、皆で手を繋いで切りたいよな。』
そう、彼は。
俺と感性が似ていた。
学校を卒業した後。
俺とラデュームとロミスオッドは、オーズンの元へ行った。
それぞれの理想を、実現させるために。
俺は。
彼に師事し、より研鑽を磨き、更なる力を得て、そして。
より多くの人を助けたかった。
それが、正しい事だと信じていた。
試練というか試験を乗り越え、俺達三人はオーズンの弟子となる。
魔法を、そして魔道具製造の技術を学びつつ、身の回りの世話や、彼の事業も手伝った。
そうして、22歳の時。
俺は、トリッキーシューターの大会の運営委員になる。
『今度の大会、俺は絶対優勝するよ。優勝しないといけない。応援してくれた皆の為にも。』
いいじゃないか。俺も応援するよ。
よい大会にする為に、選手の声を聴いて回った。
『今度の大会が、最後なんだ。今までの、全部。全力を尽くして、それで勝つ。』
『あの子と約束したんだ、必ず優勝するって。私が優勝すれば、あの子も手術を頑張れる。』
『今の俺があるのは、あの人のお陰だ。だから、あの人に優勝してもらいたい。ユンゼス。お前も、あの人を応援してくれるよな?』
『…。』
皆に、優勝してもらいたい。
俺に、何か出来る事はあるだろうか。
『…特別賞?そんなの増えたの?…まあ、いいんじゃないか?
え?嬉しいかって?…いや、俺が目指してるのは優勝だし。』
『へ~、新しい大会が出来たんだ。いいじゃないか、界隈が盛り上がるのは俺だって嬉しい。
え?参加するかって?…う~ん、次期が悪いな。俺が優勝したい大会は、別のだし。』
『流石に、大会の格がなあ…。こっちで優勝しても、だから何って話だし。
優勝はしたいよ。でも、優勝できれば何でもいいって訳じゃないだろ?』
『おいおい、同日開催とか勘弁してくれよ。俺は、全部の大会で優勝するつもりなんだ。
参加できないなんて、酷いじゃないか。』
『おいおい、日程をずらすなよ!この日なら強豪はいないし、だから俺でも勝てるかもって思ってたのに!
…何だよ?俺は勝ちたいんだよ、優勝したいんだよ!そうしないと、話にならないだろ!!』
…俺に、できる事なんて、あるのだろうか。
『いや、無いね。』
打ち上げの二次会。
ラデュームに誘われて、二人だけの反省会。
俺とラデュームが携わった、二つの大会は終わった。
優勝者と準優勝者と入賞者と、特別賞の受賞者を出して。
喜ぶ人と、泣く人を出して。
『いいか、ゼス。
俺はお前の事が嫌いじゃない。
お前の、『おてて繋いで皆一緒にゴールする』って考えをバカにする気も無い。
寧ろ、そうしないといけない時はある。
だが勝負事というのは、そういう事じゃない。』
お互い大人になって。
最近では、あまり話さなくなっていた。
でも今は、昔みたいに話せる。
酒が入っている所為かもしれない。
『実力、戦術、運、コンディション、メンタル。
そういうのを全部ひっくるめて、一番強い奴が勝つ。
だからこそ価値があり、熱くなれるものなんだよ。』
そこが好きなんだもんな、デューは。
『今回お前は、勝てない奴のフォローの為に動いた。
それは間違いだ。
勝負に挑む側からするとな?
運営に求めるのは、ルールの明確化と、不正の防止だ。
まあ、後、リターンとかもあるけど。
とにかく、その二つがしっかりしてれば、あとは、どうすれば勝てるかを考え、努力する。
優勝する、しないは、その結果だ。』
選手からも、そういう声は聴いた。
でも、全員がそうじゃない。
続けるには、結果が必要で。とにかく優勝しなくちゃダメで。
でも優勝するだけでもダメで。そういう事でもなくて。
『余計なお世話なんだよ。
自分でやると決めて、真剣に準備して、挑んだ者からすれば。
現に、土壇場での大会追加は賛否が多かった。
わかるよ?
そうじゃない奴がいるって事も。
でも、それらは両立しない。全員が納得するなんて、ありえない。
どちらかの希望しかとれないなら、当然、真剣に準備して挑む奴等に利のある大会にするべきだ。
それが一番、分かりやすく納得できる。
それに、そういう奴等の勝負の方が、見ている側も楽しいしな。
逆はあり得ない。
勝てればルールなんてどうでもいい、なんて奴等を優遇するようなら。
そうなら、もう。やる意味すらない。』
俺だって、不正をしようとする人を擁護しようとなんてしない。
それでも、あの人には夢があったし。
叶えてほしかったんだよ、俺は。
『と、まあ、色々言ったが。
こちらの利益の観点からすれば、お前のやった事は大成功だ。
じゃぶじゃぶ金を使うから心配していたが、結果的に大黒字。
大会自体も、盛り上がったしな。』
陽気な声音で、ラデュームは語る。
あまりに暗い表情をしていたから、励まそうとしてくれているのかも。
『来年の運営は大変だろうな。
これだけ金が動いたんだ。参入企業も増えるだろうし、ハードルも上がった。
しかも俺達は、途中から手綱を握れていない。
なんで成功したのか、聞かれても答えられん。
難しいだろうなぁ。
あ~本当、来年どうしよ。』
いや、これは。
遠回りに責められているか。
大会に携わったのは、選手だけではない。
何とかなったからよかったものの、多くの人を振り回してしまった。
誰もが喜べる大会なんてのを考えているなら、もっと視野を広く持てと。
(…まったく、その通りだよ。)
今回、俺がやった事は。
俺の理想とは、程遠い。
引っ掻き回してしまっただけで。運よく得をする人もいたってだけ。
勝負の世界というのは、そういう所なのだ。
だからこの分野は、きっと俺に向いていない。
『デュー、ごめん。俺、運営から降りるよ。』
『そうか。まあ、お前は向いてなさそうだもんな。』
ラデュームは、グイっと酒を煽る。
(あれ、終わり?)
随分、サッパリした別れだった。
旧友なのに。もう同じ道は歩けないのに。
(ん?でも、それだけか?)
永遠の別れではないし、なんなら同じオーズンの弟子だ。
こうやって飲む機会だってあるだろう。
なんというか。
目から鱗というか。
(…そうだよな。)
俺は勝負事に向いていない。
でも、勝負事が嫌いではない。理解がない訳でもない。
ラデュームは、勝負が好きで。
彼は、俺の友達だから。
(デューが好きな事を、否定なんてしたくない。)
俺の理想と異なるからといって。
その世界を壊すなんてことは、ありえない。
それからしばらくして、デューとは別れた。
帰路についた俺は、たった一人で夜道を歩く。
ややふらつくが、大丈夫だろう。ヨダーシルの治安はいい。
(…。)
今でも、泣き顔は覚えている。
簡単に、割り切れるものでもない。
それでも。
一応の納得はする。それも含めて、勝負なのだと。
(勝負の世界はあって。
でもそこから離れれば、皆でゴールテープを切る世界だってある。)
無理やり寄せる必要も、押し付ける必要もない。
それでいい。共生できるんだ。
そう、俺とデューは友達なんだ。
(それぞれが、自分の好きな世界を選べて。
だから、皆が喜べる。うん、しっくりくる。)
つまり、俺がやるべき事は。
自分で、選ぶ事が出来るような手助けか。
(勝負、というか競い合う環境っていうのは、デューが作ってくれそうだな。
後は、助け合えるような環境を作ってくれる人とか、いないかな?
…そういえば、最近弟子になったソルテローラさん。
まだ15歳って聞いたけど、すごく優秀らしいし。
なにより優しそうな子だったな。どうだろう?)
そんな感じで。
幾分かスッキリした顔の俺は。
『ゼス。』
声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは懐かしい顔。
数年前から外国に出張中の、友達だった。
『ロミスオッド!』
彼に伝えたかった。
俺が至った結論を。
違う価値観を認める事で、より理想に近づけるのだと。
皆が喜べる世界は、きっと実現できるはずだと。
『皆が笑えないのは、何でだと思う?』
とても。
冷たい声だった。
『わかったんだ。理由が。
そして、解決策も。』
その瞳は。
まるで黒い何かが、ぐるぐると渦を巻いているようで。
『協力してほしいんだ。皆が喜べる世界の為に。』
俺は、頷いた。
彼を一人にしてはいけないと思ったから。
俺は。
皆でゴールテープを切りたいんだ。
ユンゼスの近くにいたのが、ラデュームとロミスオッドだったから。
ユンゼスは、こんなキャラになりました。




