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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第四章 理想家オーズンの四人の後継者

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第141話 ユンゼス~挑戦~

ユンゼスの、思い出。


◇登場人物◇ ※●が視点者

●ユンゼス  :ヨダーシルの子供

〇ラデューム :ユンゼスの友達

〇ロミスオッド:ユンゼスの友達

*ユンゼス視点*


 皆が喜んでいる中、一人だけ悲しそうな表情の子がいる事が、嫌だった。


 喜べない子が悪い、なんて事はない。


 喜べない子がいるという事は。

 現状が『完璧』でないという事。


 完璧でないなら、改善の余地があり。

 改善の余地があるのなら、目指さなければならない。


 完璧を。皆が喜べる状況を。


 だって。

 皆が喜べるなら。楽しいなら。幸せなら。


 それこそが。

 理想の世界だ。




 俺は、生まれも育ちもヨダーシル。

 両親は元気だし、大人になるまで魔物と遭遇する事もなかった。


 他国の子供達と比べたら、なんと恵まれた環境だろうか。


 だからこそ。

 持つ者として、持たざる者の為に頑張らねばならない。


 『誰とでも仲良くしましょう。』

 『自分の嫌な事を、他の人にしてはいけません。』

 『この世に無駄なことはありません。』


 両親だったか、先生だったか。

 同じような話を、繰り返し聞いた気がする。


 その通りだと思ったし、特に疑問もなく受け入れていたと思う。


 人生を決めるような、インパクトのある出来事なんてない。

 日々の、積み重ね。


 それで、ユンゼスという男の人格は形成されていった。




 12歳の時、都市長オーズンが校長を務める学校に入学。


 言葉、考え方、ルール、歴史、情勢、体育、魔法。

 学友達と共に、研鑽に励んでいく。


 仲のいい友達も出来た。

 例えば、ラデューム。


 声も身体も大きくて、パワフルな男だ。


『だーかーらー!なんでそうなるんだよ!?』


 トリッキーシューターで、よく遊んだ記憶がある。


『負けたら悔しいだろ?次は勝ちたいと思うだろ?』

『うん!』


『だから練習して上手くなって!相手を打ち負かすんだよ!』

『でも打ち負かされたら、相手は悲しいよ…。』


『いいんだよ、勝負なんだから!

 手を抜かれたり、わざと負けられる方が、嫌だろうが!』

『…。』


『悲しそうな顔になるな!』


 すまないラデューム。

 いや、本当、めんどくさい奴だったと思う。


 それでも。

 俺はトリッキーシューターを、ラデュームとやるのが楽しかった。


 あーじゃない、こーじゃない、今のはよかった、次はこうしてみないか。

 投げ合って、お互いに感想を言い合う。

 そういう時間が、大好きだった。


 対してラデュームは、勝負がしたかった。


 勝ったら嬉しくて。負けたら悔しくて。

 悔しくて、努力して、今度は勝てて。その時、本当に嬉しくて。

 そういうのが、好きだった。


 そう、目的が違っていた。

 それでも一緒にいたのは。


 ラデュームは、あれで面倒見がよかったのと。

 やっぱり、二人でやるのが楽しかったから。


『おい、ラデューム!』


 それから、もう一人。


『ゼスをいじめるな!!』

『あ~面倒なのがきたぁ…。』


 名前は、ロミスオッド。

 成績優秀で、正義感の強い男。


『大丈夫だ、ゼス。俺は、ちゃんとわかってる。』


 ラデュームを押しのけ、俺に耳打ちしてくる。


『ゴールテープは、皆で手を繋いで切りたいよな。』


 そう、彼は。

 俺と感性が似ていた。




 学校を卒業した後。

 俺とラデュームとロミスオッドは、オーズンの元へ行った。

 それぞれの理想を、実現させるために。


 俺は。

 彼に師事し、より研鑽を磨き、更なる力を得て、そして。

 より多くの人を助けたかった。


 それが、正しい事だと信じていた。


 試練というか試験を乗り越え、俺達三人はオーズンの弟子となる。


 魔法を、そして魔道具製造の技術を学びつつ、身の回りの世話や、彼の事業も手伝った。


 そうして、22歳の時。

 俺は、トリッキーシューターの大会の運営委員になる。




『今度の大会、俺は絶対優勝するよ。優勝しないといけない。応援してくれた皆の為にも。』


 いいじゃないか。俺も応援するよ。


 よい大会にする為に、選手の声を聴いて回った。


『今度の大会が、最後なんだ。今までの、全部。全力を尽くして、それで勝つ。』

『あの子と約束したんだ、必ず優勝するって。私が優勝すれば、あの子も手術を頑張れる。』

『今の俺があるのは、あの人のお陰だ。だから、あの人に優勝してもらいたい。ユンゼス。お前も、あの人を応援してくれるよな?』


『…。』

 皆に、優勝してもらいたい。

 俺に、何か出来る事はあるだろうか。




『…特別賞?そんなの増えたの?…まあ、いいんじゃないか?

 え?嬉しいかって?…いや、俺が目指してるのは優勝だし。』


『へ~、新しい大会が出来たんだ。いいじゃないか、界隈が盛り上がるのは俺だって嬉しい。

 え?参加するかって?…う~ん、次期が悪いな。俺が優勝したい大会は、別のだし。』


『流石に、大会の格がなあ…。こっちで優勝しても、だから何って話だし。

 優勝はしたいよ。でも、優勝できれば何でもいいって訳じゃないだろ?』


『おいおい、同日開催とか勘弁してくれよ。俺は、全部の大会で優勝するつもりなんだ。

 参加できないなんて、酷いじゃないか。』


『おいおい、日程をずらすなよ!この日なら強豪はいないし、だから俺でも勝てるかもって思ってたのに!

 …何だよ?俺は勝ちたいんだよ、優勝したいんだよ!そうしないと、話にならないだろ!!』


 …俺に、できる事なんて、あるのだろうか。




『いや、無いね。』


 打ち上げの二次会。

 ラデュームに誘われて、二人だけの反省会。


 俺とラデュームが携わった、二つの大会は終わった。

 優勝者と準優勝者と入賞者と、特別賞の受賞者を出して。


 喜ぶ人と、泣く人を出して。


『いいか、ゼス。

 俺はお前の事が嫌いじゃない。

 お前の、『おてて繋いで皆一緒にゴールする』って考えをバカにする気も無い。

 寧ろ、そうしないといけない時はある。

 だが勝負事というのは、そういう事じゃない。』


 お互い大人になって。

 最近では、あまり話さなくなっていた。


 でも今は、昔みたいに話せる。

 酒が入っている所為かもしれない。


『実力、戦術、運、コンディション、メンタル。

 そういうのを全部ひっくるめて、一番強い奴が勝つ。

 だからこそ価値があり、熱くなれるものなんだよ。』


 そこが好きなんだもんな、デューは。


『今回お前は、勝てない奴のフォローの為に動いた。

 それは間違いだ。

 勝負に挑む側からするとな?

 運営に求めるのは、ルールの明確化と、不正の防止だ。

 まあ、後、リターンとかもあるけど。

 とにかく、その二つがしっかりしてれば、あとは、どうすれば勝てるかを考え、努力する。

 優勝する、しないは、その結果だ。』


 選手からも、そういう声は聴いた。

 でも、全員がそうじゃない。


 続けるには、結果が必要で。とにかく優勝しなくちゃダメで。

 でも優勝するだけでもダメで。そういう事でもなくて。


『余計なお世話なんだよ。

 自分でやると決めて、真剣に準備して、挑んだ者からすれば。

 現に、土壇場での大会追加は賛否が多かった。

 わかるよ?

 そうじゃない奴がいるって事も。

 でも、それらは両立しない。全員が納得するなんて、ありえない。

 どちらかの希望しかとれないなら、当然、真剣に準備して挑む奴等に利のある大会にするべきだ。

 それが一番、分かりやすく納得できる。

 それに、そういう奴等の勝負の方が、見ている側も楽しいしな。

 逆はあり得ない。

 勝てればルールなんてどうでもいい、なんて奴等を優遇するようなら。

 そうなら、もう。やる意味すらない。』


 俺だって、不正をしようとする人を擁護しようとなんてしない。


 それでも、あの人には夢があったし。

 叶えてほしかったんだよ、俺は。


『と、まあ、色々言ったが。

 こちらの利益の観点からすれば、お前のやった事は大成功だ。

 じゃぶじゃぶ金を使うから心配していたが、結果的に大黒字。

 大会自体も、盛り上がったしな。』


 陽気な声音で、ラデュームは語る。


 あまりに暗い表情をしていたから、励まそうとしてくれているのかも。


『来年の運営は大変だろうな。

 これだけ金が動いたんだ。参入企業も増えるだろうし、ハードルも上がった。

 しかも俺達は、途中から手綱を握れていない。

 なんで成功したのか、聞かれても答えられん。

 難しいだろうなぁ。

 あ~本当、来年どうしよ。』


 いや、これは。

 遠回りに責められているか。


 大会に携わったのは、選手だけではない。

 何とかなったからよかったものの、多くの人を振り回してしまった。


 誰もが喜べる大会なんてのを考えているなら、もっと視野を広く持てと。


 (…まったく、その通りだよ。)


 今回、俺がやった事は。

 俺の理想とは、程遠い。

 引っ掻き回してしまっただけで。運よく得をする人もいたってだけ。


 勝負の世界というのは、そういう所なのだ。


 だからこの分野は、きっと俺に向いていない。


『デュー、ごめん。俺、運営から降りるよ。』


『そうか。まあ、お前は向いてなさそうだもんな。』


 ラデュームは、グイっと酒を煽る。


 (あれ、終わり?)


 随分、サッパリした別れだった。


 旧友なのに。もう同じ道は歩けないのに。


 (ん?でも、それだけか?)


 永遠の別れではないし、なんなら同じオーズンの弟子だ。

 こうやって飲む機会だってあるだろう。


 なんというか。

 目から鱗というか。


 (…そうだよな。)


 俺は勝負事に向いていない。

 でも、勝負事が嫌いではない。理解がない訳でもない。


 ラデュームは、勝負が好きで。

 彼は、俺の友達だから。


 (デューが好きな事を、否定なんてしたくない。)


 俺の理想と異なるからといって。


 その世界を壊すなんてことは、ありえない。




 それからしばらくして、デューとは別れた。

 帰路についた俺は、たった一人で夜道を歩く。

 ややふらつくが、大丈夫だろう。ヨダーシルの治安はいい。


 (…。)


 今でも、泣き顔は覚えている。

 簡単に、割り切れるものでもない。


 それでも。

 一応の納得はする。それも含めて、勝負なのだと。


 (勝負の世界はあって。

 でもそこから離れれば、皆でゴールテープを切る世界だってある。)


 無理やり寄せる必要も、押し付ける必要もない。


 それでいい。共生できるんだ。

 そう、俺とデューは友達なんだ。


 (それぞれが、自分の好きな世界を選べて。

 だから、皆が喜べる。うん、しっくりくる。)


 つまり、俺がやるべき事は。

 自分で、選ぶ事が出来るような手助けか。


 (勝負、というか競い合う環境っていうのは、デューが作ってくれそうだな。

 後は、助け合えるような環境を作ってくれる人とか、いないかな?

 …そういえば、最近弟子になったソルテローラさん。

 まだ15歳って聞いたけど、すごく優秀らしいし。

 なにより優しそうな子だったな。どうだろう?)


 そんな感じで。

 幾分かスッキリした顔の俺は。


『ゼス。』


 声をかけられた。


 振り向くと、そこにいたのは懐かしい顔。

 数年前から外国に出張中の、友達だった。


『ロミスオッド!』


 彼に伝えたかった。

 俺が至った結論を。


 違う価値観を認める事で、より理想に近づけるのだと。

 皆が喜べる世界は、きっと実現できるはずだと。


『皆が笑えないのは、何でだと思う?』


 とても。

 冷たい声だった。


『わかったんだ。理由が。

 そして、解決策も。』


 その瞳は。

 まるで黒い何かが、ぐるぐると渦を巻いているようで。


『協力してほしいんだ。皆が喜べる世界の為に。』


 俺は、頷いた。

 彼を一人にしてはいけないと思ったから。


 俺は。

 皆でゴールテープを切りたいんだ。

ユンゼスの近くにいたのが、ラデュームとロミスオッドだったから。

ユンゼスは、こんなキャラになりました。

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