第140話 北区VS東区~戦略~
~現在の状況~
北区と東区が激突。
結果、北区は撤退。
東区は、被害状況の確認と追撃の準備を進める。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__ヨダーシル・南区
●クレスタ :ワッポノ捜索隊
〇ユンゼス :南区の区長
__ヨダーシル・北区
〇ワッポノ :マーアの勇者
〇ロミスオッド:北区の区長
〇カナミア :アイーホルの勇者。洗脳状態
__ヨダーシル・東区
〇リハネ :ゾトの勇者
〇ラデューム :東区の区長
〇スーマミーサ:ラデュームの秘書。愛称はミーサ
〇ティルム :ラデュームの秘書
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
*クレスタ視点*前日、三人の話し合いの続き。
「そして、未完成のMDFを持っているのも俺だよ。南区に保管してある。」
「それ、完成度はどれくらいだ?
使えるようにならないか、リハネとかが。」
確かに。
使えれば頼もしいけど。
「90%、かな。
最終調整前に、中止になったんだ。
流石に、明日は使えないと思うけど…。
…そうだね。
ルムリートに相談してみるよ。」
そうなると。
「えっと、ごめんなさい。
ユンゼスさんは、戦力と考えていいのかしら?」
「うん。
長期戦は無理だけど、短期戦ならいける。
そして、こいつのパワーなら短期決着が可能だと思う。
ワッポノ君か、ロミスオッドなら押さえてみせるよ。」
まあ、ここは。
ユンゼスさんを信じましょうか。
「敵の戦力は、MDFが3機。
1機はリハネがなんとかして、1機はユンゼスさんがなんとかする。
そして最後の1機は、物量で押さえ込む。
MDF以外の戦力も物量でなんとか出来れば、東区は北区に勝てる?」
どこか一か所なんとかならなかった場合、総崩れになる可能性もある綱渡り。
カナミアの力は未知数だし、分の悪い賭けみたいな戦い。
それでも。
一応の勝ち筋は、ある訳か。
「そう考えると、やっぱりおかしいのよね。」
二人の様子を見る。
大丈夫そうだから、続けましょう。
「敵は、長い期間準備をしているの。
勝負を仕掛けるタイミングを計っていたはずよ。
勝てるかもしれないし、負けるかもしれない。
そんな状況なら、仕掛ける訳がない。」
ICDの存在を見落としていた?
3機のMDFを所持していて、それはない。
「でも、実際に仕掛けてきた。
つまり、まだ奥の手があるって訳だな。
確実に勝てると思える手が。」
ラデュームさんの言葉に、私は頷く。
「その存在を放置するのは、危険だわ。
だから私が、調べてこようと思うのだけど?」
セイで調べられるのであれば、ユンゼスさんが発見できている。
だから直接北区に潜入して、自分の目で確認するしかない。
「一人でか?」
「何人か、ついてきてもらえると助かるわ。…ミーサとか。」
ロミスオッドの奥の手。
ノーガードなんて事はないでしょう。
それこそ、本人が守っていてもおかしくない。
「大きく分けて、2つのパターンが考えられるな。」
ラデュームさんから、北区の地図が送られてくる。
「東区からゲートを通って北区にいくと、最初に丘がある。
その丘を越えると、戦うには丁度よさそうな平野だ。
おそらく、敵はここに陣取っている。」
まさか、市街戦をやりたいとは思わないでしょうしね。
「一つ目は、ここに敵の全戦力が集結されているパターンだ。
その場合は、クレスタ別動隊の出番はない。
3機のMDFと、奥の手もここにいるはずだからな。
奥の手が、独自に開発した4機目のMDFとかならありえる話だろう。
その場合、一応は交戦する。
見掛け倒しのハッタリの可能性もあるからな。
でも、確かな力があるならば撤退だ。
被害拡大を防ぐ為に、早期決着させる為に仕掛けるんだ。
甚大な被害を出す訳にもいかない。」
「…なあ、撤退を視野に入れるなら明日攻めるのを中止にしないか?
実際戦ってみて、相手の実力を把握したいのもわかる。
けど、情報収集なら別に戦わなくても出来るんだ。
来週の投票日を延期させて、しっかり防御を固めて、情報収集に努める。
長期戦なら、物資のあるこちらが絶対に勝てる。」
「ごめんなさいユンゼスさん。
私は、ラデュームさんと同意見。
初めから長期戦を仕掛けるのはよくないと思うのよ。」
ロミスオッドという人物の事は知らない。
だから、これは私の想像。可能性の話。
「ユンゼスさんも言ったように、敵の。
並行世界から来たかもしれないロミスオッドさんの目的は、私も分からない。
けど、分かる事もあるわ。
きっと力を、武力を求めているのよ。
MDFを所持しているのは、この戦いの為だけじゃない。
新都市長になりたいのも、ヨダーシルの力を手に入れたいからよ。
ヨダーシルを守る為に、力を求めているという事は絶対にない。
だって、そうなら。
西区を襲撃するはずがないから。」
今の体制を壊したかった?
そんな訳ない。
ここまでセイを使いこなせる人物よ?
他にやりようは、沢山ある。
手に入れた力を試したかった。
それ以外の理由がある?
ここまでやっておいて、『一度、王様になってみたかっただけなんだ~。』みたいな落ちは無いでしょう。
「ヨダーシルの力に興味があるけど、ヨダーシル自体には興味がない。
もし自分が負けそうになれば、逃げるでしょうね。一人で。
そして、その時。
自分が手に入れられなかったヨダーシルを、そのままにしておくかしら?
今回の件を諸外国が知ったら、どうなると思う?
ユンゼスさん。」
「それは…。
まずは、事実確認じゃないか?
問い合わせが来ると思う。俺達に。」
「そう。
それぞれの区は、関係性の高い国があったはず。
南区なら、ワイバン大陸の南側3国。
東区なら、ヨダーシルの北と東の3国とか。
そこから、懇意にしている区長に問い合わせが殺到する。
きっと対応に追われて、それどころじゃなくなってしまうわ。」
北区に、そういう国はない。
「その混乱に乗じて、逃げるつもりか?」
「それだけなら、いいのよ。
最悪なのは、焚きつけられた諸外国が、ヨダーシルを攻めるケースね。
防衛システムの情報や、セイへのハッキングコードをプレゼントされて、大義名分まで用意されたら、どう?」
例えば。
ヨダーシル北方の国、ネクーツ。
表では東区と仲良くしていて、裏で北区と繋がっている。
どちらが勝っても、うまい汁を吸おうとしているのは、ありそう。
ヨダーシルは、強い。
でも、その主戦力はセイや無人機なのだ。
システムが乗っ取られて、ネクーツに攻め込まれたりしたら…。
「自分はその隙に逃げられるし、ヨダーシルも滅びる。
追撃される心配もないし、ヨダーシルの武力は失われる。
自分が手に入れられないのは残念だと思うけど、敵の手に渡る心配もないわ。」
力を求めるという事は、敵がいるはず。
敵、が誰かはわからないけど。
「長期戦なら、私達は勝てる。
でも、この手を使われる可能性が出てくる。
使わせない為には。
相手に、勝ちの目があると思わせておかないといけない。
相手のベストは、新都市長になってヨダーシルを手に入れる事だから、有利だと思っている内は、逃走を考えない。
売国は、しない。」
長期戦になった時。
敵が売国をちらつかせて交渉してくるかもしれない。
それで強制的に戦闘をしなければならなくなって、より不利な状況で戦う事になるとか。
でも、それもマシな話で。
いきなり手札を切ってくるなんて事が、ありえてしまうのだ。
「一気に決められなかった場合。
小規模戦闘を繰り返し、敵にバレる事なく、追加戦力を確保する戦いだ。
それで長期化するようなら、俺は第二ヨダーシルまで逃げる。
俺達の敗北となるが、ヨダーシルを滅ぼされるよりはマシ。
その後は、ロミスオッドの出方次第だな。」
多分、ユンゼスさんとソルテローラさんも第二ヨダーシルにいくでしょうね。
私達の目的は、ポノ君を連れ帰る事だから。
負けた時は、ダメ元でロミスオッドさんと交渉か。
リハネが暴れすぎるのは、まずいかも。
(いやいや、心配する所はそこじゃないでしょうに。)
私と、ツツジちゃんと、リハネと、ポノ君。
カナミア達や、ユンゼスさん達、ヨダーシルの住民達。
この際、怪我は仕方ない。
でも、命を落とす事がないように。
その為にも。
戦闘の激化や泥沼化は、避けたい。
「で、次は奥の手を隠しているパターンだな。
会敵した際に、知らないものが無い場合だ。
ハッタリや未完成だからという希望的観測もあるが、そうでない時。
使った場合のリスクがあるから、出来れば使いたくない。
それか、単純に動かせない。という事が考えられる。」
持ってきたけど、リスクがあるから使いたくない。
ていうのは、一つ目のパターンの方ね。
「これなら、クレスタの言う通りだ。
存在を放置するのは危険すぎる。
奥の手が。
例えば、ヨダーシルを吹っ飛ばせる高性能爆弾だったら。
解除手段がない状態で追い詰めてしまえば、それで終わりだ。
例えば、強力な催眠波だったら。
本丸に攻め込んだ全員、幻惑魔法にかかるなんて事になる。
北区全域なんてのは無理だろうが、王宮の敷地くらいの範囲なら出来てもおかしくないからな。」
噂に過ぎなかった、オーズンの遺産である凶悪兵器。
一気に現実味が出てきたわね。
「私達別動隊は、西区のゲートから北区に侵入して待機。
東区のゲートから突入する本体が、敵の布陣を確認。
最初のパターンなら、私達は本体に合流。
2つ目のパターンなら、奥の手を探る為に北区の中枢を目指す。
探っているとバレないように。
って事でいいかしら。」
「そういう事だ。
ゲートでなら情報のやり取りが出来る。
ゲートを離れた北区内では、おそらく通信は不可能。
セイのネットワークは区ごとに分かれている。
設定は変えられているはずだ。
セイ自体を使う事は可能だろうが、無線での受信、送信は使えない。」
フフゴケ商会の通信機。
2年前より性能は上がっているとはいえ、北区全域をカバーなんて出来ない。
作戦が開始されたら、連絡はとれないという訳ね。
「最善の結果は、ロミスオッドの捕縛。
やむを得ない場合は、ヨダーシルからの撤退。
最悪の結果は、ヨダーシルの滅亡。
最悪を避けつつ、最善を狙える作戦だと思うが、どうだ、ユンゼス?」
「…わかった。それでいこう。
人の配置とか、具体的な戦術を考えようか。」
それからもう少し。
私達は、話し合った。
*クレスタ視点*現在
そして結果は。
「ダメだったわ~。」
東区ゲートから北西。
丘を越えた平原に、東区本隊の野営地がある。
私と、ミーサと、ティルム。
敵の奥の手の調査隊は、そこに合流。
もう夕暮れ時だ。
情けない話。
早々に敵に見つかってしまい、ろくな調査が出来なかった。
流石に手ぶらでは帰れないと、市街地で聞き込みとかを頑張って。
まあ、それでわかるはずもなく。
(…やってしまった。)
自分からやると言っておいて、この様とは。
ミーサ達に手伝ってもらったのに…。
そんな感じで。
自分のテントで凹んでいると、ユンゼスさんが訪ねて来た。
「全員無事で何よりだよ。
スーマミーサさんも言っていたよ?
クレスタのお陰で生き残れたって。」
私も、ミーサがいなかったら死んでいたかもしれない。
持ってきた商会の魔道具に、ここで買ったヨダーシルの魔道具もガンガン使って。
それで、何とか逃げ切れた感じだ。
まったく、しつこい男だった。
ロミスオッドという奴は。
「それに、何も掴めなかった訳じゃない。
敵の奥の手の名前は、クレイジー・マシン・ドラゴン(CMD)。
MDFの一種なのか、竜機兵みたいな無人機なのかは分からないけど。
名前的に、幻惑魔法系の洗脳装置ではなさそうだよね。
爆弾でもないんじゃないかな。
CDなら可能性があるけど、名前にMが入ってるからね。
あ、でもそうなると、MDFでもないかもな。
Mが被ってるよ。」
名前だけで判断していい訳がない。
それでも、唯一の成果を喜んでくれている。
あんなに苦労して名前しか分からなかったなんて、悔しすぎる。
それでも。
ここまで気を遣わせているのだから、これ以上は言うまい。
私も、切り替えよう。
一応事情は、簡単に聞いた。
北区との緒戦は、辛勝。
リハネの消耗がやばい。
本人は、いけるって言っていたみたいだけど、魔力消費、ダメージ共にデカすぎる。
最後カナミアに、こっぴどくやられそうで。
まあ、向こうもMDFに慣れていなくて、ガス欠で戦闘続行不能状態。
そこを、ロミスオッドに回収されていったらしい。
もう少し戦闘が続いていれば、やられていたかもしれない。
(現状、リハネ、カナミア、ポノ君の3人の勇者が戦闘不能…。)
敵の主力は。
ロミスオッドのICD。
そして奥の手のCMD。
対してこちらは。
ユンゼスさんのICD。
そして、竜機兵タイプC、22機。
私やミーサ、兵隊さんもいるけど、戦況を決めるのは竜、ドラゴンの名を冠するモノ達だ。
(たぶんラデュームさんは、私達、調査隊を待っていた。
これで私達が、相手の奥の手を無効化できるような何かを持って帰れていたら、迷わず追撃できたんでしょうね…。)
でも、持って帰れなかった。
一度、東区に撤退はあるかもしれない。
「そうだ、クレスタさん。
伝えに来たんだよ。
俺達は、このままここに居座る。
リハネさんの回復を待って、追撃開始だ。」
「東区に、退かないの?」
「うん。
リハネ、回復力には自信があるらしい。
ヨダーシル製の回復薬だってある。
明日の朝には戦えるってさ。
そして、それだけの時間があれば調整も終わる。
相性も悪くはない。数%かもだけど上昇が見込めたんだ。
明日はきっと、MDFを使うリハネが暴れてくれる。」
出来たとして、ほぼ、ぶっつけ本番。
でもリハネは、そういうの得意そうよね。
トリッキーシューターの時もそうだった。
そういう器用さがある。
「カナミアさんも、こういう無茶多そうだし、回復してくると思う。
そこは、リベンジに燃えるリハネになんとかしてもらって。
ワッポノ君は…。」
ばつが悪そうな、ユンゼスさん。
「その、思いっきり殴ったから、一日じゃあ回復できないと思う。
リハネがカナミアさんを押さえて、俺がロミスオッドを倒す。
ロミスオッドを倒せれば戦いは終わるはず。
悪あがきで、CMDが暴れだすかもだけど、それを俺とリハネで、なんとか出来れば。
それで、この戦いは勝てる。」
そう上手くいくとは思わないけど、やるしかない。
そんな表情。
「えい!」
掛け声は、勇ましく。
でも軽めに、彼の肩を叩く。
「!!?!?」
とてもコミカルな表情をした後、平静を装うユンゼスさん。
「相当辛いみたいね。」
ICDの反動で。
「ポーカーフェイス、自信があったんだけどな…。」
「いや~、うちには、そういう子が多くて。」
無理して頑張って、心配させまいと我慢する子が。
「ほら、ちょっと横になってってよ。」
置いてあるベッドを、バンバン叩く。
ユンゼスさんは、困った顔で少し考えて。
「…じゃあ、少しだけ失礼するよ。」
横になってくれる。
実際辛くて。
でも、ラデュームさんや、他の皆に心配させたくなくて。
だから休むなら、もうバレてしまった私の所が一番なのだ。
「じゃ~ん。」
塗り薬、飲み薬、シップ、お香。
所謂、回復系アイテムを沢山見せる。
「随分、沢山だね。
そう言えば、このテントも、東区の物じゃない?」
「そう。
これらは全部、うちの商品よ。
どうなるか分からなかったから、いろいろ列車で持ってきていてね。
ツツジちゃんに、ここまで運んでもらったのよ。魔走車で。」
ツツジちゃんは、技術発表会の準備の時、魔走車の運転を覚えた。
そんな彼女は、東区本隊のサポート要員として同行してもらっている。
今は、リハネの治療に協力しているはずだ。
「ねえ、ユンゼスさん。」
お香の準備をしながら、話しかける。
「3機目のMDFの存在とか、カナミアが洗脳されている事とか、相手の奥の手の事とか。
最初から可能性に気づいていたでしょう。
気づいていながら、話題に出さなかったでしょう?」
「…。」
「私達は別動隊とか作らないで、全軍で北区に攻め込んで。
様子見とかしないで、全力でぶつかる。
でも突然現れるカナミアに崩されて、慌てふためいて散り散りに逃げるのよ。
相手にとって、絶好のチャンス。
一気に決める為、ロミスオッドさんも前に出てくる。
そこを、狙うつもりだったんでしょう?
ユンゼスさんは、ロミスオッドさんに奇襲をかける。
ロミスオッドさんは勝負に出ている訳だから、退いたりはしない。
カナミアや、奥の手も呼んで、ユンゼスさんを潰しにくる。
それでも。
ICDなら、勝てる計算だったんでしょう?」
ICD。
最初に造って、さじ加減がわからなくて、魔力上昇率と人体への影響が大きい。
たぶん、嘘じゃない。
でも、かなり、ぼかしていると思う。
想像だけど。
本当に、どこまでも魔力は上がるんじゃないかしら。
使用者の魔力が、命が尽きるまで。
そう、彼は。
自分の命を代償に、ロミスオッドを止める気だったのだ。
「ねえ、ユンゼスさん。」
どうして、そこまでしようとしたのか。
ロミスオッドと、何があったのか。
どうしてMDFを造ったのか。
どうしてそれを、破棄しなかったのか。
「聞きたいな、話。」
ユンゼスさんは。
目を閉じて、しばらくそのままで。
それから、ゆっくり口を開いた。
そんな訳で。
次回から、ユンゼスの話。




