第139話 北区VS東区~clear~
~現在の状況~
北区と東区が激突。
リハネVSワッポノの決着間際、カナミアが乱入。リハネVSカナミアが発生。
ワッポノは東区本陣に突撃。ラデュームを討ち取る為、攻撃するが何者かに防がれる。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__ヨダーシル・南区
●クレスタ :ワッポノ捜索隊
●ユンゼス :南区の区長
__ヨダーシル・北区
〇ワッポノ :マーアの勇者
〇ロミスオッド:北区の区長
〇カナミア :アイーホルの勇者。洗脳状態
__ヨダーシル・東区
〇リハネ :ゾトの勇者
〇ラデューム :東区の区長
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
*クレスタ視点*前日、三人の話し合いの続き。
「カナミアさんは、MDFを使えると思う。
しかし、ワッポノ君ほどのパワーアップはしないはずだ。」
私の質問に、ユンゼスさんが答えてくれる。
「本来、道具っていうのは。
魔道具でも機械でもそうだけど、誰が使ってもその性能に変化はない。
例えば、フフゴケ商会の掃除機。
ボタンを押すと、埃とか吸い取ってくれる。
吸い取る力は、誰がボタンを押しても変わらないんだ。
動力に魔力を使おうが、エレキを使おうがね。
もちろん、掃除の結果は、やり方とか手入れの有無とかで変わるけど。
同じ掃除機を使うなら、そこには平等性がある。」
フフゴケ商会商品開発部の主任としては。
ヨダーシルの開発者に、商品が認知されていて嬉しい。
「でも、MDFはそうじゃない。
人が、道具を使うという感じじゃないんだ。
言ってみれば、使用者もMDFの一部。
使う部品が合っているかどうかで、性能が全然違う。
使えたとしても、使わない方が強いなんて事だってある。
使用者から見れば、平等性なんて欠片もない。」
使う人の為の道具ではなく。
強くなるという目的の為に、使う人を部品にする道具なのね。
…ポノ君が心配になる。
このまま使い続けて、大丈夫なの?
「正しく、欠陥兵器だな。」
ラデュームさんが、ため息と共に続ける。
「ワッポノは相性がよかった。だから、あれほど強くなった。
仮に5倍強くなったとしよう。
そしてカナミアは、ワッポノほど相性がよくない。
2倍しか強くなれなかったとする。
しかし、元が全然違うだろ?
ワッポノの戦闘力が20だとすると、カナミアの戦闘力は100ぐらい。
MDF使用後は、ワッポノが100でカナミアが200だ。
…ここまで単純じゃないだろうが、そういう事だろ?」
「カナミアは洗脳状態だから、動きが鈍くなったりは…。
いえ、無いわね。
寧ろ逆。
遠慮とか、躊躇いが無い分、強いかも。」
リハネとカナミアの実力は拮抗していた。
戦闘力向上率200%なんていらない。5%でも上がれば、私達は勝てない。
「カナミアさんが、どれくらい強くなるかは、正直わからない。」
ユンゼスさんが、頭を下げた。
「ごめん。」
そのまま続ける。
「隠したかったんだ。保身のために。
開発中止になったMDFを廃棄処分しなかった事を。
それが、こんな事になってしまった。」
保身の為。
じゃないと思う。
でも今は、そこを追求しても仕方がない。
「俺の知っている事は、全部、話す。」
ゆっくりと、ユンゼスさんは顔を上げて。
「まずは、敵が持っているMDFについて。」
データが送られてくる。
「ワッポノ君の、黒い鎧。
名前は、ダークネス・フレア・ドラゴン(DFD)。
特徴は、防御力。
そして、固い装甲だから使える魔法がある。
本来なら、自身もダメージを受けるようなものとかも。」
カナミアの、雷光龍風を熔かした魔法ね。
「ロミスオッドの、白い鎧。
名前は、インベージョン・クリア・ドラゴン(ICD)。
特徴は、隠密性。
だったんだけど。
戦闘映像を見る限り、戦闘力は想定より高い。
こっそり侵入というより、無理やり侵略する感じだ。
ロミスオッドとの相性がよかったのか、改造したのかは分からないけど。
おそらくワッポノ君と同等の力がある。」
高い隠密性で敵に近づいて、高い戦闘力で圧倒する。
厄介ね。
「そして、カナミアさんが使うと思われるもの。
名前は、ライトニング・レイジ・ドラゴン(LRD)。
白銀に金の差し色が入った見た目で、特徴は敏捷性。
カナミアさん自身も、高速戦闘が得意だったから、その点でも相性はいいと思う。
推測というか、ただの予想だけど。
現時点で、ヨダーシル最強だと思う。」
それは、そうかも。
「それで、完成品の最後の一つだけど。
名前は、インディビジュアル・クリア・ドラゴン(ICD)。」
あ、ロミスオッドさんの物とイニシャルは同じなのね。
「色は、薄い水色かな。
最初に造られたMDFだよ。
以降のシリーズのベースになってる。
これの防御力を上げたのが、DFDみたいな。」
「つまり、没個性って事か?」
「まあ、そうかな…。
あ、いや、一つ特徴があった。」
なんとなくだけど。
碌な特徴じゃあない気がする。
「最初に造ったやつだからね。さじ加減が、よくわからなくて。
魔力上昇率は群を抜いていると思う。その、人体への影響も。」
「なるほどな。
他のもイカレているが、中でもヤバイやつだというのはわかった。
で、それがどこにあるのか知っているのか?」
「知ってる。」
ユンゼスさんは、自分の袖をめくった。
「これがそうだよ。」
*ユンゼス視点*現在
「誰なんだよ!お前は!?」
ワッポノ君は、叫びながら剣を振るう。
鋭い攻撃だ。
彼は、リハネと戦って。その後、竜機兵の防衛ラインに突っ込んでいる。
もう、魔力はほとんど残っていないのに。
「俺はユンゼス。南区の区長だ。」
問われたから、答える。
迫る剣を、両手で防御しながら。
「覚えているかな。
あの砂浜で、君に列車のチケットを渡した男だよ。」
ワッポノ君は、攻撃の手を緩めない。
このまま俺を両断してやるという気迫がある。
「ツツジさんとクレスタさんがいるんだ。
君を迎えに来ている。
だから、帰ろう。マーアに。
こんなに強くなったんだ。目的は、果たせたんじゃないか?」
まだ、なんとか押さえられているけど。
正直、きつい。
剣がぶつかる両腕もだけど、身体全体が痛い。
ICDの反動だ。
「今の俺は、魔王を倒せるか?」
押し殺した声。
彼は、覚えていてくれた。
もちろん俺だって、忘れていない。
『君を強くして見せる。クーランの魔王よりも。』
そう言ったのは、俺だ。
そして今のワッポノ君は、魔王より強くない。
「まだ帰れるか!!」
ワッポノ君が、剣を投げた。
剣を注視していた俺は、明後日の方向に向かうそれを追ってしまう。
つまり、ワッポノ君の姿を見失い。
顔面に、拳が叩き込まれた。
(ああ、痛いな…。)
彼の、悲痛な叫びが。
ワッポノ君の手元に、剣が戻っていく。
火縄とか、そういう魔法だろう。
俺に向かって振り下ろされる、それを。
俺は手で防がないし、避けない。
ドゴンという衝突音。
剣が出す音じゃない。
ワッポノ君の剣は、俺の肩に直撃。
その装甲に阻まれ、止まった。
「MDFを使わなければ、俺は君より弱いよ。」
その表情は見えないけれど。
きっと悔しそうな顔なのだろう。
そして、その腹に。
思い切り拳を叩き込む。
ありったけの魔力を込めて。
「…がはっ…!」
彼は、二、三歩よろめいて、後ろに下がる。
ガラスが割れる音がして、DFDが砕け散った。
お腹を押さえながら、両膝をついて、くの字に倒れるワッポノ君。
これで、力は示せたはずだ。
「ICDって言うんだ。
望むなら。これを君に譲ってもいい。」
彼は倒れたまま、俺を睨みつけた。
興味を持ってくれたようだから、続ける。
「今は俺用に調整してあるから、すぐには渡せない。
南区に来てほしい。君用に、調整する。」
それで魔王より強くなれるかは、未知数。
でもそこは、俺が頑張ればいい。
元々、そうするつもりだったんだ。
「俺に、約束を果たさせてくれないか?」
彼の前に屈みこんで、手を差し出す。
彼に、選んでほしかったから。
「…俺…は、」
俺を睨んだまま、彼は言う。
「北区の、皆の…為に!戦うと、決めた…!」
頭に、強い衝撃。
確かに、彼に拒否されたのはショックだったけど。
それとは別。
物理的に。
俺は蹴っ飛ばされた。
コロコロ転がって、仰向けで止まる。
視界の先にいたのは、白の鎧。
ICDだ。
俺は油断しきっていたけど、ICDにも探知機能がある。
(それを、かいくぐるとは。流石の隠密性だ。)
来てしまったのだから、文句を言っても仕方が無い。
でも、奴がここにいるという事は、一つの可能性がある訳で。
心が、ざわつく。
「すみません、ワッポノさん。
少し、手こずってしまいまして。」
ロミスオッドは、小脇に抱えたワッポノ君に語りかける。
なんらかの魔法で、上空に浮かびながら。
ワッポノ君の反応は、ない。無事だとは思うけど。
「ロミスオッド!」
よろよろと立ち上がりながら、その名を。
友の名前を、叫ぶ。
「それ。
やはり、あなたが持っていたんですね。」
それ、とは。
ICDの事だろう。
そうだよ。ずっと俺が持っていた。
「俺は、ロミスオッドの最期を看取った。
お前は、並行世界のロミスオッドなのか?」
「その通りです。」
「…お前の目的は、なんだ!?」
本当は。
酒でも飲みながら、ゆっくり語りたい。
でも、そんな状況じゃないし、そんな時間もないだろう。
だから。
俺が、一番気になっている事を聞く。
「決まっているでしょう。
新都市長になる事ですよ。」
「それは手段だ。
新都市長になって、遂げたい目的が聞きたいんだ!」
蹴られた事で、魔力探知が不調だ。
近くに誰かいるかどうか、わからない。
ラデュームとかが聞いていないな、と思いながら、叫ぶ。
「力になれるかも知れないだろ!」
あいつは、西区を襲撃して。
あいつは、ワッポノ君を唆して。
あいつは、ひょっとしたら俺の仲間を殺してきたかもしれなくて。
罰を受けるべきだと思う。
それでも。
これも、俺の本心だ。
「なるほど。
相変わらず、イカレているようですね。」
この反応は。
こいつは俺を知っている。
並行世界の住民だとしても。
俺の友達だった、ロミスオッドなのか?
「ですが。
そんな時間はありません。」
ロミスオッドはワッポノ君を連れ、猛スピードで飛んで行く。
魔力は、まだ残っていた。
全力で追いかければ、追いつけたかもしれない。
追わなかったのは。
例えば、罠があるかもしれないし。
奥の手があるかもしれないし。
そうなれば、勝てるかどうかもわからないし。
負けて、ICDを奪われるのは避けなければいけないから。
そんな言い訳ばかり浮かぶのは。
ワッポノ君に、拒絶されたからで。
そんな状況でロミスオッドを倒したとしても…。
(いや、違うか…。)
ロミスオッドを倒せば、ヨダーシル内の戦いが終わる。被害がこれ以上でない。
ワッポノ君を拘束してでも連れてこれれば、説得はツツジ達がしてくれる。
つまりは要するに。
俺は、ロミスオッドと戦いたくなかっただけだ。
向かってくるなら、まだ戦えた。
しかし、こちらから追いかけてまでは、流石に。
(…。)
MDFを解除して。
あいつが飛んで行った空を、ぼんやりと眺める。
「おい。」
ラデュームに小突かれる。
「呆けている場合じゃないぞ。
敵は退いたんだ。
前進して、包囲網を狭める。準備しろ。」
これだけ早く俺に接近できたということは。
割と近くにいたのだろう。
さっきの会話は、聞かれていたかもしれない。
「…わかったよ。」
パン、と。
頭を叩かれた。
え、このタイミングで?
「バカ野郎が。」
彼は、俺を見ない。
「まずは、状況の確認からだ。
ついてこい。」
早足で進む彼の後を。
少し離れて、ついていく。
ユンゼスの目指す、誰もが幸福な世界。
果たしてこの『誰も』は、どこまでが対象なのか。
別人とはいえ、並行世界の同一人物。友達と同じ顔だから、手を差し伸べるのか。
どうなのか…。
みたいな話です。




