第13話 後悔~雨~
~前回までのサニア~
私が別行動している間、何が起きていたのかをガットルから聞いた。
父親の会社であるニージュ商会は、かなりの悪さをしているようだ。
自分達の身に、危険が迫っているかもしれない。どうしよう?
状況把握が終わり、次は?
私達が町に残れば、敵を刺激するのではないか。
しかし町に残れば出来る事もあるのではないか。
町を去れば、町に被害は出ないのではないか。
しかしこの町のフフゴケ商会が襲撃されるのではないか。
動いた方が、動かない方が。
話あったが答えは出ない。何が正解かは解らない。
結局今日はこのまま宿舎で休む事に。
見張りをたて、交代で。
最初の見張りは私だ。いつかのドラゴンの時のように。
武装していたガットルには悪いが、眠れそうにないと言って先にしてもらった。
ガットルは肝が据わっていると思う。
あんな話をよく落ち着いて出来たものだ。
時には声を出して笑っていた。
いつ襲撃されてもおかしくないと、分かっているのに。
(有事の際、私を抱えてアサルトフローで飛び出す気だったのね。)
クレスタの性癖の話ではなく、襲撃されるかもって言って欲しかった。
首を振る。愚痴を言っている場合ではない。今考えるべきは別の事だ。
(ニージュ商会、それから…。)
…今日の話で、一つ仮説が生まれた。
それは長年の謎、父さんと母さんは、何故別れたのか。
その事に対しての、私なりの考え。
母さんは正義感の強い人、だった。母さんは知ってしまったのではないか。
カルフラタ周辺で起こっている事に。
それで父さんを問い詰めて。
父さんは…、
…例えば、調査をしたけど証拠が出てこない。
それを伝えても、母さんは信じてくれない。
それで口論になって、仲がギクシャクして、別れた。
もしくは、父さんは、全部知っていて…。
「!?」
今、誰かがこちらを見ていた気がする。
「トバ…。」
顔は見えなかったが、そんな気がした。
それからガットルが起きてくるまで、変化はなく。
私が起きるまで平和そのものだった。
短時間でも睡眠をとった為、私の頭は夜よりは動く。
「知り合いに会おうと思う。」
防具を着けながら、ガットルに伝える。
ガットルは食べかけのパンを、飲み物で流し込む。
「昨日の、酒場のあいつか?」
「うん。」
「なら、伝えないといけない事がある。」
急いで洗い物を終わらせたガットルが、近づいてくる。
「尾行の途中で顔を見た。
あいつは、サニアを磔にした連中の一人だ。」
パチンと、脚の留め具の音が大きく聞こえた。
「なるほど。だから私は生きている訳ね。」
正直あの磔の工程は謎だ。
山火事を魔王崇拝者の仕業に見せかけたかった、そうだと思うが、その意味が薄い。
あの状況なら殺すべきだろう。
でも倒れているのが私で、トバがそこにいたのなら。
手心を加えてくれたのだ。友達だから。
「ショックを受ける、事になる、と思う。」
「大丈夫。」
もうだいぶ、受けてる。
仕入れの為に町を出るという商会の人を見送る。
王国の焼きそばパンが一番美味いと笑ってくれた。
色黒で屈強で美しい歯のナイスガイはガットルとハグしていた。
彼らの道中の無事を祈り、別れる。
そのまま宿舎に鍵をして、私はトバに会いに行く。
ガットルは私について来てくれるようだ。
「その為に来たからな。」
と、彼は胸を叩いた。
ニージュ商会の建物はこの町に三つあった。
順番に回り、トバを探す。
対応してくれたニージュ商会の人は丁寧で親切。
悪事に加担しているとは、思えなかった。
道中ガットルと会話らしい会話は無い。
私に考える時間をくれたのか、それとも街が珍しくキョロキョロしているだけか。
そして、町に雨が降り出した頃。
私はトバを見つけた。
トバは、人気の無い路地裏で雨宿りをしていた。
煙草を吸いながら、空を見ていた。
ガットルは少し離れた所にいる。
人払いをしてくれているのかもしれない。
レーラスが打ち明けてくれた日の、ディオルを思い出し少し可笑しかった。
私はトバに近づいた。
「お金は稼げた?」
嫌味ではない。
目の前にいる人が、一稼ぎしてくると町を出た友達の、延長線上にいるのかを確かめたかった。
「ああ、大分稼いだ。が、その分使ったからな。儲けはいまいちだ。」
彼は私を見ずに雨空を見ているが、質問には答えてくれる。
「悪い事、したの?」
私も雨空を見た。
「ああ。やった。」
彼の声は、優しく、寂しい。
「会社を大きくしたかった。そして認められたかった。
難しかった。でも、何とかしたかった。」
雨は激しくは無い。でも、暫く止む事はないだろう。
「最初はそこまで悪い事だと思わなかった。
でもそれは、俺の考えが足りなかっただけだった。
それを隠そうとしている内に、悪事がどんどん増えていった。」
彼はもう、敵対する気は無いのだろう。
諦めの独白だ。
「社長は知らない。俺達の独断だ。」
「でも、責任はある。」
父さんはトップだから。
「責任…か。」
彼は煙草の火を消し、携帯灰皿に入れた。
「俺も最後の責任を、果たすとしよう。」
路地裏の奥に歩き出した彼を、私は追った。
路地裏沿いのドアをノックする。
「トバ、か。」
返事が、返ってきた。
「ロストン。話がある。」
聞き覚えが、ある。酒場でトバといた、声の大きい人。
「やっぱりか。この裏切り者め。」
ロストンはドアを開けない。
「何の話だ?」
「お前、俺達を売っただろ。」
違和感がある。
口調から、怒っていると分かる。しかし、静かなのだ。
酒場の様子をみる限り、感情を出しやすい人だと思っていた。
もちろん、あれは酒の所為かもしれないが。
「売っていない。どうした、様子がおかしいぞ。」
トバも、おかしいと思ったようだ。不気味な怖さがある。
「おかしいのはお前だ。なぜ勇者の仲間と一緒にいる。」
ドアは閉まったままだ。しかし、カメラらしいものを見つけた。
おそらくあれで、見ている。
「話しただろ。こいつは社長の娘だ。」
「なぜ社長の娘が、フフゴケ商会側にいる!
ニージュ商会の敵だぞ!?そんな嘘を信じる訳がないだろう。」
怒声。思わず一歩下がってしまった。
「嘘じゃない、事実だ。信じてくれ!」
「そうだとしても、いや、そうだとしたら、もうそいつは立派な裏切り者だろう!
粛清対象だ!」
裏切り者、なの?いや、そうかも、しれない。
「落ち着け!」
「身内だぞ!一番の味方であるべき存在が裏切ったんだ!その罪は死んで償うべきだ!」
明確な敵意。怖い。左手で右腕を掴んだ。
「落ち着け!無理だ!」
トバはかばってくれようとしてくれる。しかし、言葉は届くのだ。
「お前が惚れているだけだろう!だから殺せないんだ!
あの時殺しておけば、勇者の戦力を削れたのに!
お前がうだうだ言うから!」
惚れている、は邪推だろう。
しかし友達として見逃してくれたのは、本当だと思う。
「終わった事だ。蒸し返してもどうにもならん!」
「お前の所為だ!お前が責任を取れ!責任を取って今ここで、その女を殺せ!」
私は固唾を吞んで成り行きを見守る。
「今更殺した所でどうなる。まず、俺の話を聞いてくれ。」
「言ってみろ!」
「王国は、本気だ。本気で魔王を落とす気だ。
今度の勇者は強すぎる。俺達の完敗だ。」
間が空く。相手からの反応は、無い。
「罪を認める。この町から手を引く。」
思わずトバを見る。
「責任はとる。罪は全部俺が被る。お前たちは守ってみせる!」
直後、笑い声が響き、
「お前一人でどうこうなる訳がないだろうが!!!」
絶叫。
全ての音が消えた気がした。
「なあ、トバさんよう。」
ロストンの声。
「今まで何人殺ってきたと思っている。もう後には引けねんだよ。」
嫌な予感。トバがドアを強く叩く。
「おい開けろ!とりあえず、出てこい!何も、するな!」
「俺達を裏切った奴らの町なんて、滅んじまえばいいのさ。」
私はトバを下がらせ、ドアを吹き飛ばした。
「新しいプランはこうだ。
勇者の仲間とフフゴケ商会は、結局町一つ守れない。
そんな中ニージュ商会は、町長および貴族の皆様、一部住民の脱出に貢献。
あとはまぁ、広報が上手くやってくれると期待するよ。」
吹き飛ばしたドアから、魔力があふれ出す。
私はそれを避けるようにトバを抱えて飛んだ。
(あれを、室内で、使ったの!?)
私は、あの煙のような魔力が町全体を覆うのではと恐怖した。
しかし、そうはならない。
突如魔力が、部屋の中に吸い込まれるように、戻っていったのだ。
こんな現象は見た事がない、が、心当たりがある。
「魔力を、吸収している…。」
異常供給、魔力暴走、そして。
魔物化。
「は、ははは、はは、はははははhhh」
ロストンの家を破壊しながら現れたのは、下手な建物より大きな人型の魔物だ。
あんなのが暴れたら、町が、壊れる。
トバを下ろして私は駆けた。
魔物化した時点で脳が壊れている。人としては死んでいる。
魔力をどうにかした所で手遅れだ。
「hhhhhh」
でも、あの人はトバの仲間で、簡単に割り切っていいはずもない。
トバが何かを叫んでいる。
でも、私は勇者の仲間だから、ここで迷う訳にはいかない。
魔物の右足を爆破した。
態勢を崩し、倒れてきた魔物にタイミングを合わせ、上半身を消し飛ばす。
それで、終わりだ。
トバを見る。怪我はない。へたり込んでいる。
(…被害の確認をしないと。)
最小限に抑えたとは思うが、周りの建物は倒壊している。
人気が少ないとはいえ、巻き込まれた人がいるかもしれない。
瓦礫の下敷きになっているかもしれない。
(…まず、トバを安全な所に、連れて行かないと。)
何て声をかければいいかは分からない。けど、トバの方へ向けて歩き出す。
その時だった。
「サニア!」
ガットルだ。騒ぎで駆けつけてくれたのだろう。
(丁度よかった。瓦礫の撤去で人手が…。)
「街の、あちこちから、魔力が!」
雨はまだ、止む気配が無い。
もう山場です。
調査パートは裏で終わっていて、大勢も決していたから、後は、敵の悪あがき。




