第138話 北区VS東区~RAGE~
~前回までのワッポノ~
俺は強くなった。
リハネのブレイブフェニックスだって、破った。
それでも。俺はリハネには及ばない。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__ヨダーシル・南区
●クレスタ :ワッポノ捜索隊
〇ユンゼス :南区の区長
__ヨダーシル・北区
●ワッポノ :マーアの勇者
〇ロミスオッド:北区の区長
__ヨダーシル・東区
〇リハネ :ゾトの勇者
〇ラデューム :東区の区長
__ヨダーシル・西区
〇カナミア :アイーホルの勇者
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
*クレスタ視点*前日、三人の話し合いの続き。
「もう少し、いいかしら?」
情報共有は済んだし、明日に備えないといけない。
だから、これで解散。
そんな雰囲気だったけど。
「具体的な作戦を立てたいわ。」
私達がディオルに勝てたのは、しっかりと作戦を立てられたからだと思うから。
「…リハネを呼ぶか?」
「まずは、この三人で。
もちろん、最終的には彼女の意見も聞きたいけど。」
あの子は、自分の動かし方は上手い。
行動力、決断力、直感は素晴らしい。
ただ、他の人の動きには無頓着というか。
だからこの場に呼んで頭を使わせるぐらいなら、休んで魔力や体力を回復してもらいたい。
「まずは、そもそもの目的の確認なのだけど。
私達の勝利は、ロミスオッドさんの拘束。
その為に北区へ侵攻する。っていう事で合ってるかしら?」
「合っている。
何をするにしても、それが最初だ。
捕まえられれば、罪を白状させる事も、償わせる事も出来る。
攻撃される事もなくなるから、この件は解決だ。」
「…敵は、居住区をいきなり襲撃した。
そういう事をしてくる相手で、しかも偽情報をバラまくような工作も得意なんだ。
だから、時間を与えたくない。
今回はラデュームのやり方が、結果的に被害を抑えられると判断するよ。」
そこは、まあ、同意かな。
「ラデュームさんは、東区は負けないと信じている。
東区は実力主義で、当然、戦闘面にも力を入れていて。
だからこその作戦だと思う。
ただ、向こうにはMDFが2機。
黒い方は勇者を追い詰め、白い方は勇者の仲間二人を倒している。
こちらにはリハネがいて、竜機兵タイプCが30機ある訳だけど。
本当に押し切れる?勝てる?」
「勝てる。」
即答とは、心強い。
「今の東区は、南区の支援を受けられている。
つまり、物資、物量が北区と段違い。
竜機兵以外の魔道具だってある。
そして、MDFには弱点が二つ。
一つは、使用者が限定される事。
もう一つは、魔力消費量が凄まじい事。
もって30分。
1機はリハネが押さえる。
もう1機は物量で堪え切る。
30分なら、確実にいける。」
なるほどね。
でも、そうなると。
「西区を襲撃すれば、東区と南区が組む事は予想できる。
物量の差は向こうも承知のはず。
でも、実行した。
せざるを得ない事情があったのかも、っていう希望的観測を除くとね。
物量の差を覆せる勝算があると考えるべき。」
特に今回は、手際のよさからも周到に準備してきたのだと分かるしね。
「ユンゼスさん。
MDFって、何機あるの?」
開発が中止になった欠陥兵器。
しかし既に、2機でてきている。
「…全部で4機。あと、未完成品が1機。」
「はぁ!?お前…。」
ラデュームさんが勢いよく立ち上がり、着席した。
「最初に言えよ…。
いや、俺も、そんな事にも思い至れないほど、血が上っていたか。
悪かった、取り乱して。
クレスタも、ありがとう。大敗する所だった。」
「いえいえ~。」
頭を掻きながら、ラデュームさんはユンゼスさんを睨む。
「その未完成品を完成させていたら、最悪5機のMDFを相手にしないといけない訳だが、何か手はあるか?」
勇者クラスの敵が、5人…。
マーアに戻ってディオル達を連れてくる案が浮かんだけど、無理ね。
往復で一週間近くかかる。
それだけの時間があれば。
おそらく大勢は決まってしまう。
「いや、5機が敵になる事は絶対にないよ。
…でも、あと1機は、向こうにあるかもしれない。」
「絶対あるだろ。
そう考えるなら、西区を襲撃するなんてバカな行動に納得できる。
アイーホルの勇者を潰したんだ。
彼女がいれば、こっちは3機のMDFに対抗できるから。
まんまと各個撃破された訳だ。」
「カナミアの件でも、一つ気になる事があるわ。」
まだ問題があるのか?みたいな空気になる。
まあまあ。
背けたって無くなる訳でもないし。
洗い出しておきましょうよ。
「連れ去られたのよ。
もちろん、生きているなら嬉しいわ。私達はね。
でも、向こうからしたら、何故?という話よ。」
「普通に考えるなら、交渉材料にする為とか?
…でも、そうか。」
「そう。
誰と交渉するの?っていう話なのよ。
ソルテローラさんは放置されている。
ヨダーシル内で交渉するなら、影響力のある彼女を連れ去ったほうがいい。
この戦いの後、勇者隊やアイーホルと交渉したいからっていう可能性は残っているけど、リスクの方が高いと思う。
ラデュームさんも言ったように、彼女がこちら側なら、私達の勝率はグッと上がる。
まず、彼女を助けて。
その後に、正面からやり合えばいい。
逆に彼女を殺してしまえば、その勝ち筋が消える。
報復を恐れている?それはないと思う。
そうなら、そもそも西区を襲撃したりしない。」
「あの場にはワッポノがいた。
その場で殺すと、彼との関係が悪くなると思って、一先ず連れ去る事にして。
だから、既に殺されている。その可能性は?」
「ないよ。
こんな状況だからね。
北区に探知魔法を使わせてもらったよ。
そして、カナミアさんと思われる魔力反応があった。
彼女は生きている。…1時間前の情報だけど。」
そこまで生かされていたなら、殺される事もないでしょう。
それに。
「ユンゼスさんは、言ったわ。
『ヨダーシル内で、幻惑魔法を使えば痕跡を辿れる。この時『は』幻惑魔法を使っていない。』って。」
二年前。
魔王城からウーイングに戻る旅の途中。
トワと色々話をして。幻惑魔法についても、それなりに聞いた。
「私の仲間に幻惑魔法に詳しい子がいるのよ。
その効果はピンキリ。
ちょっとした見間違いを起こさせるものから、世界の理に干渉するものまで。
人を催眠状態に陥らせて、意のままに操れる。なんて、凶悪なものもあるそうね。」
「…おい、ゼス…。」
「…西区の襲撃の後に、幻惑魔法が使われた形跡はあった。
おそらく、強制誤認。
大掛かりで、個人差の大きい魔法だよ。
発動するまで1時間くらいかかって、効果は48時間くらい持続する。…らしい。」
ラデュームさんが、天を仰ぐ。
「手駒にする為に、連れ去ったって事かよ…。」
…まあ、最悪は考えておくべきよね。
「MDFの弱点の一つって、使用者が限定される事よね。
魔力の質の問題で、多くの者は耐えられないから。
…例えばなんだけど。
魔力の質がやっぱりあっていなかったとして。
でも、魔力制御がとても上手で。
魔力の質の変化にも、魔力上昇にも耐えられる精神力がある人なら?」
西区を襲撃して、上手く拘束できるとは限らない。
逃げられる可能性もあるし、死んでしまう可能性も。
だから、使用者は用意していたはず。
でも、もしも。
その使用者より、上手く使える人物がいたとしたら。
「カナミアって、MDFを扱える?」
*ワッポノ視点*現在
MDFには、相手の魔力量を測定し、数値化、可視化できる機能がある。
ただ、魔力量というのは一定ではない。
例えば、魔法を使う時。
周囲の魔力も使い魔法を使うなら上昇するし、放てば減る。
他にも、出力を上げる事で一時的に上昇させる事も出来るし。
なんなら平時でもだ。少し動いただけで上下はする。
要するに、測定された値が絶対ではないという事だ。
とはいえ、参考にはなる。
いきなり半分になったり、2倍になったりはしないから。
明らかな格上とか、格下とか。
ハッタリ、空元気、やせ我慢。
そういう判断材料としては優秀なんだ。
だからこそ、驚愕する。
リハネの魔力量の急上昇に。
冷静に考えれば、簡単な仕掛けだ。
増えたのではなく、隠していた。
正しく測定されないように、魔力の出力を減らしたんだ。
魔力制御が得意なら、そんな芸当も可能だろう。
そんな事、本来ならする必要は全くない。
おそらく、MDFに詳しい奴がいて、魔力測定機能も知っていて、だからこんな事をした。
俺を、騙す為に。
俺は、舐めプされている事に気づかず、打ち合えていた事に喜んで。
まんまと術中にはまった。
(強くなったとか、そういうのも全部!俺を嵌める為に言ったのか!)
気づいた時には、もう遅い。
リハネの剣は、恐ろしい速度で迫ってきて…。
そして、俺に到達する前に何者かに弾かれた。
「♪~。」
リハネが口笛を吹いた。
俺は、情けなく尻もちをつく。
その俺に。
手が、差し伸べられる。
「大丈夫ですか?」
金色の短髪と紫色のローブが、風に薙ぐ。
アイーホルの勇者、カナミア。
その両目は、どす黒く渦を巻いているみたいで。
ロミスオッドから話は聞いている。
彼女に幻惑魔法を使ったと。
少なくとも、この戦いの間は味方として動いてくれると。
その手を掴んで、立ち上がる。
リハネを睨みつける。
なぜか、楽しそうだ。
分かっているのか?二対一なら、勝ち目はないぞ。
(二対一で、戦うのか…?)
それでいいのか?
舐められたままで?
このまま勝っても、何の自慢にもならない。
(カナミアに、ここは任せてくれと、言うべきじゃないのか?)
表示されるリハネの魔力量は、俺よりも、だいぶ高い。
「行ってください。」
「え?」
カナミアが指さす方は、東区の本体がいる。
「北区の勝利の為に。」
北区の勝利。
それは、東区区長ラデュームの捕縛。もしくは、殺害。
「一人で、大丈夫なのか?」
表示される魔力量はカナミアより、リハネの方が高い。
昨日のダメージが、魔力消費が回復しきれていないんだ。
「大丈夫です。」
カナミアは、リハネの方を向いて、言った。
『MDF、起動。』
その音声は。
彼女の腕から聞こえる。
『LRD。』
カナミアが、眩い光に包まれて。
その魔力量が、バカみたいに上がって。
現れたのは、金色の差し色が入った白銀の鎧。
(…聞いていない…。)
カナミアを仲間にしたのは聞いた。
でも、俺の援護にくる事も、彼女がMDFを使える事も、知らなかった。
(俺だけ、の力じゃないのか…?)
勇者に張り合える力だった。
なのに、勇者がこれを使えたら。
俺は。
「行ってください。」
呆けた俺に。
もう一度、彼女が言った。
「北区の為に。」
俺は、移動を開始した。
リハネみたいに、移動に便利な魔法は使えない。
だから、走る。
走りとはいえ、DFDだ。
凄い速さで移動できる。
でも、それが。
全力で、逃げている気がして。
あの日、魔王から逃げた時の事を思い出して。
目の前が、ぼやけてくる。
(違う!逃げてない!
北区の為、北区の勝利の為に!
敵の大将の元へ、駆けているんだ!)
事実だ。間違っていない。
それなのに。
少し前。
リハネのブレイブフェニックスを破った時。
降りて来た彼女は、かなり魔力量が減っていた。
それだけ、全力で放ったのだと思って。
それに、俺は勝ったのだと思って。
でも実際は。
作戦だった。手を抜いていた。
俺は、あいつの強さに迫れてなんかいなかった。
そして。
カナミア。
昨日は、あと一歩まで追い詰めて。
きっと、もう少しで抜けると思ったのに。
さっき見た、彼女の魔力量は。
俺なんて、相手にならない。
気づけば敵の本陣だ。
集中しないといけない。
魔力量の消耗は激しいんだ。
気を抜いて、敗れたりすれば。
本当に、逃げて来たみたいじゃないか。
2機の竜機兵が飛び掛かって来る。
ペインフレアは温存。臨界黒王牙で応戦。
すれ違いざまに1機を両断。もう1機は無視し、前進。
飛んでくる光弾を、最小限の動きで躱す。
ついでに前方に火球。
竜機兵に命中し、爆発。
そのまま突っ切ろうと思ったが、2機の竜機兵に邪魔をされる。
(くそ!!)
残りの竜機兵の数は、28機。
全てを処理するには、魔力が足りない。
(そこにいるのは、分っているのに!)
ラデュームの魔力は、捉えている。
しかし辿り着くには、障害が多すぎる。
「あああああ!!!」
吠えた。
誰もが、俺をバカにしている気がして。
お前には無理だと。こんな事も出来ないのかと。
そんな嘲笑が聞こえて。
(舐めるな!!俺は、強くなったんだぞ!!)
勝負に出る。魔力を、かき集め、突っ込む。
4機の竜機兵が俺を囲み、2機の竜機兵が上から光弾を飛ばしてくる。
構わず駆け抜けて。
魔法を、使う。
魔法名、フレアボム。
効果は、シンプル。
自身を中心に、爆発を起こす。
所謂、自爆技。
火力が分散されるから、ペインフレアよりも威力は劣る。
それでも。
周囲の邪魔者を消し飛ばす事には、成功。
そして道が開けた事により。
(見つけたぞ、ラデューム!)
奴は、堂々と突っ立っていた。
大将としての自覚があるのか?
(弱いくせに!俺の一撃だって耐えられないくせに!)
その態度に、怒りを覚える。
(その、傲慢さを、あの世で悔め!!)
最早、障害物はない。
勢いのまま、言葉通り潰してやろうと。
俺は駆け、剣を振りかぶり。
そして。
「…なんだよ…。」
俺の攻撃は、防がれた。
ラデュームと俺の間に、割って入った何者かに。
そう。
何者か、だ。
誰だかは分からない。見た事はない。そもそも、その顔は見えない。
透明、いや、薄い水色。
透き通るような、鎧のようなもので、全身を覆っていて。
そう。
正体は分からない。その名称も知らない。
ただ一つわかるのは。
俺の攻撃を。
MDFの、DFDの一撃を防いだのは。
MDFの、何かだ。
「誰なんだよ!お前は!?」
俺は叫ぶ。
悔しくて。
俺の力は。
全然、俺だけの力ではなかった。
勇者に助けられ、手を差し伸べられる。
今回のポノは、ガットルとの対比です。




