第136話 北区VS東区~欠陥兵器~
~前回までのユンゼス~
技術発表会は、大盛況で終わった。
その数時間後、深夜。西区が襲撃される。
俺達は、救助と支援と情報収集に奔走する。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__ヨダーシル・南区
●ユンゼス :南区の区長
〇ルムリート :ユンゼスの秘書
〇クレスタ :ワッポノ捜索隊
〇ツツジ :ワッポノ捜索隊
__ヨダーシル・東区
〇ラデューム :東区の区長
〇リハネ :ゾトの勇者
__ヨダーシル・北区
〇ロミスオッド:北区の区長
〇ワッポノ :マーアの勇者
__ヨダーシル・西区
〇ソルテローラ:西区の区長
〇カナミア :???
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
*ユンゼス視点*
「随分と簡素な場所だな。」
彼の言う通り、ここには机とイスしかない。
「セキュリティレベルは、めちゃくちゃ高いから安心してほしい。」
持ち込んだコーヒーを机に置く。
「クレスタも。
今日は助かった。本当にお疲れ様。」
クレスタと、そしてツツジやリハネとも一緒に駆け回っているうちにタメ口になった。
「ありがとう。
…いただくわ。喉渇いちゃった。」
南区の隠れ家に、クレスタとラデュームを呼んだ。
内密な話をする為に。
今日の未明、西区が襲撃された。
被害状況の確認と復旧作業でバタバタしていたら、あっという間に日は沈み。
ようやく一段落ついて、二人と話が出来る。
「まずは、現状判明している被害状況をまとめるよ。
襲撃されたのは、西区のネジ工場。及び、その周辺。
区長宅も含まれている。
不幸中の幸いで、死者はいない。
が、負傷者は多数で、重傷者もいる。」
「ソルテローラの容態は?」
「一命は取り留めた。
しかし、まだ意識は戻っていない。」
「最初は区長宅が襲撃されて、工場が巻き込まれたって話だったわよね?
それが覆ったのは、あの情報がばら撒かれたから。
で、合ってるかしら。」
「その通り。」
お昼ごろ、襲撃者の犯行声明が都市民のセイに送られた。
俺の都市長候補辞任のメッセージのように。
自らを【断罪者】と名乗った襲撃者曰く。
西区は、民間工場に偽装した軍事施設で兵器を造り、それを他国へ売り捌いていたらしい。
一応、その証拠のデータも添付されていた。
「なにが断罪者だ。
犯人は北区。データはでっち上げ。
疑う余地はない。」
「俺も、ローラに限ってとは思う。
しかし、中々よく出来たデータだよ。
嘘の証明には、時間がかかる。
最悪、証明できないかもしれない。
…都市民の間にも、動揺がある。
何を信じたらいいのか、分からないんだ。」
「関係ないな。」
デューの機嫌は悪い。
もちろん、その気持ちはわかる。
俺だって、襲撃者は憎い。
避難所の状況を思い出す。
母親に抱かれ、泣き疲れて眠る少女。
茫然と立ち尽くす少年と、膝を抱え蹲る少女。
配給物の最後のパンを、盗むようにとってった少年。
こんな事にならなければ。
あんな顔をしないで済んだはずなのに。
「どの道、明日北区に行く予定だったんだ。
問い詰めてやるさ、徹底的に。」
「待ってくれ。
…西区の防衛が後手に回ったのは、セイによる妨害があったから。
区の防衛システムをどうこう出来るのは、それより権限が上の区長レベル。
脅されて、やらされた可能性は低い。
ヨダーシル内なら、敵にバレずに助けを求める方法がいくらでもある。
つまり、北区は限りなく黒い。
ならきっと、万全の態勢で待ち構えているはずだ。」
「東区が負けるとでも?
いいじゃないか、武力衝突。
こっちは、やる気十分さ。もちろん、リハネもな。」
「敵は強いよ。
アイーホルの勇者と、その仲間もやられた。」
カナミアは連れ去られた。
仲間二人も重症で、現在ローラと一緒に入院中。
だからこそ、リハネは燃えているんだろうけど。
「これを見てほしい。」
二人に、画像データを送る。
近隣住民から提供されたものだ。
「この白い奴が、断罪者だな。」
頷く。
「MDFと呼ばれる、兵器だ。」
ラデュームは聞いた事くらいはあるかもしれないが、クレスタがいるから改めて説明する。
「ドラゴンフォームという魔法がある。
纏う系の魔法の中では、最上位。
色々と効果があるみたいだけど、要は戦闘能力が物凄く上がる。
それこそ、二倍、三倍といった具合に。
でも、だからこそ習得難易度は失魔法クラス。
魔王専用の魔法とまで言われている。
…前都市長のオーズンも魔王。
彼のドラゴンフォーム、澄気竜に傷をつけられた人物はいなかったらしい。」
俺も実物を見たのは一度だけ。
その神々しさに、心を奪われて。
だから。
「MDFは、ドラゴンフォームの再現を目指した兵器だ。」
襲撃者の、その小手の部分の画像を拡大し、送る。
「この小手が本体でね。
これに魔力を注ぐと、魔法が発動。
全身を包んだ魔力が固まり、鎧となる。
こんなふうに。」
「変身アイテムだ…。」
クレスタが、ボソッと何かを呟く。
彼女は照れくさそうに、続けてのジェスチャーをする。
「欠陥兵器。」
ラデュームだ。
「そう聞いていた。
だから量産には至らなかったと。
だが、そうは見えない。凄まじい戦闘能力だ。
どういう事だ?
奴等が完成させたのか?」
そんな言われ方してたのか…。
欠陥兵器。確かに、反論は無理だ。
「MDFに求められたのは。
誰もが魔王クラスの力を扱えるようになる事。
実現できれば、防衛力としては申し分ない。
…今は過剰すぎると思うけどね。」
そもそも軍備縮小が進められたのは、スペースと維持コストの問題からだ。
小型で強力な兵器は、求められている。今でも。
「とにかく、そんな感じで開発が進められた訳だけど、結果は大失敗。
方法というのがね。
まず、使用者の魔力に強制的に干渉する。
そして、増強させやすい魔力の質に変更させる。
それから目一杯、増強させて魔王レベルまで無理やり引き上げるって感じだった。
最初の段階、魔力の質の変化に耐えられない人が続出。
それに耐えられた後も、急激な魔力上昇がある。
全ての人の意識が飛んだよ。
何度かテストをしたんだけど、全滅さ。
最後には心肺停止する人が出て、以降の開発は中止になった。」
だから無人機の開発にシフトして、今では竜機兵なんてのが完成した訳だけど。
まあ昔の、家くらいの大きさの戦車に比べれば小さくはなったし、数も減った。
「なるほどな。
強力な兵器だったが、誰も扱えなかった。
それを使える奴が現れたのか。
しかも、二人。」
「申し訳ありません。」
クレスタが立ち上がり、頭を下げた。
慌てて頭を上げさせる。
そう。
襲撃者は、二人。
白い鎧の断罪者は、ロミスオッド。
そして黒い鎧は、ワッポノ君だ。
カナミアのセイが、映像として記録していて。
捕らえられ破壊される直前に、ローラに送った。
見舞いに行った時、彼女のセイにデータをもらい発覚した事実。
知っているのは、俺とクレスタとラデューム。
それから、秘書のルムリートとリハネだ。
ツツジには、伏せてある。
「寧ろ、謝るのは俺達の方だ。」
デューが、クレスタに言う。
頭は下げないが、申し訳なさそうではある。
「悪いのは、ロミスオッド。
おそらく奴は探していたんだ。
MDFに耐えられる人物を。
だからワッポノを唆し、手駒にした。
巻き込んで、すまなかった。
彼は、俺達東区が連れ戻す。少し、時間をくれ。」
「私、ううん、私達も手伝うわ。
やっぱりツツジちゃんにも説明しようと思う。
彼女なら大丈夫。
私も、足手まといにはならない。魔王討伐に貢献だってしたし。
勇者隊の実力を、見せてあげる。」
デューは少しだけ考えて。
クレスタと握手をした。
「南区も、協力するよ。」
「いや、お前達には西区の復旧を頼みたい。」
「そっちは優秀な秘書に任せているからね。
ワッポノ君にチケットを渡した責任もあるし、彼が列車に乗っていたのに気付けなかったのは、俺の落ち度だ。
竜機兵タイプCを、30機、出すよ。」
CはシティのC。
市街戦想定だから、線路に配置しているやつより火力が大幅に低い。
「それと、実はまだ話は終わっていない。」
しかも本題はここからだ。
この話がなければ、ここまで二人を連れてこなかった。
「ロミスオッドについて、気になる事がある。」
カナミアのセイの記録映像に映る、彼の顔を拡大し、送る。
それを、しばらく凝視したデューが呟くように言う。
「…老けたか?かなり。」
失礼な発言なのだけど。
「そうなんだ。
それと、実はさ…。」
いや、もったいぶる気はないのだけれど。
言いづらい内容だから、言い淀んでしまう。
しかし、言わない訳にはいかない。
こうなってしまった以上は。
「ロミスオッドって、亡くなってるんだよね…。」
「は?」
デューのポカンとした顔なんて、何十年ぶりかな。
「詳細は、ごめん、いつか話すよ。
ちょっと理由があって、この事は、前都市長と俺しか知らない。
でも死んだのは確実。火葬して灰にして埋めたから。」
「…いつだよ?」
「3年前だよ。」
「何で言わなかったんだよ?
それ、お前、偽物だって分かってたって事だろ!?」
「エンビッケ。」
「あ?」
「ルートレスの魔王だよ。前都市長と仲がよかった。
前都市長が亡くなる少し前に、ふらっとヨダーシルにやってきたんだ。」
見た目は、十代後半くらいに見えた。
でもその魔力は、間違いなく魔王だったと思う。
「魔王を傍に置いておくと、いろいろと不味いだろ?
だから彼には、ロミスオッドを名乗ってもらったんだよ。ヨダーシルにいる間。
エンビッケは多分、師匠が俺達よりも信頼していた人物だと思う。
どこまで本気か分からないけど、新都市長になってくれと頼んでいるのも聞いた。
その時、彼は断っていたんだけどね。」
あの時の前都市長は、俺達に見せないような笑顔だったっけ。
「前都市長が亡くなった後、彼から連絡が来た。
最期のお願いで、しばらく北区の区長をやる事になったから、よろしくって。
魔王としてやるべき事が残っているから、ちょくちょく国外へ行く事もあるけど、仕事はちゃんとこなすからって。
実際、彼の仕事は早かったよ。」
最近は、仕事をしていなかったようだけど。
「…待って、ルートレスの魔王は半年前に陥落したって聞いたわ。
確かに、裏は取れてないけど。
ユンゼスさんは聞いた事ない?」
「聞いたよ。
本人から連絡が来たんだ。
区長に専念したいから、そういう事にしたって説明された。
俺もさ。
この一年は秘書に代理させて、よく国外へ行っていたから。
だから。
疑っていなかったんだよ。」
後ろめたさもあった。
皆を騙している自覚はあった。
それでも。
オーズンが望んだ事ならば。北区の皆が幸せならば。
そう思っていた。
もっと早くに、疑うべきだった。
「映像を見た時、震えたよ。
こいつは、エンビッケじゃない。
死んだはずのロミスオッドだ。
幻惑魔法で姿を偽っている可能性も考えた。
でも違った。
ヨダーシル内で、幻惑魔法を使えば痕跡を辿れる。
この時のこいつは、幻惑魔法を使っていない。」
「…少し、整理させてくれ。
3年前にロミスオッドが死んで。
1年前にエンビッケがロミスオッドを名乗って。
前都市長が亡くなって、ロミスオッドを名乗ったエンビッケが北区の区長になって。
昨日、西区を襲撃したのが、死んだはずのロミスオッド?
…『ロミスオッドが実は死んでいなくて、北区の区長になった。』というのが、一番丸いと思うが?」
「…。」
「今いるロミスオッドさんは、並行世界のロミスオッドさんっていうのは?」
クレスタ?
「いえね、勇者隊の仲間にいるのよ。
ロストンっていうんだけど。
この世界だと、私達も関係のある事件で亡くなってしまったの。
でも並行世界から転移してきて。
いるのよ、今、この世界に。」
彼女は「あ、並行世界っていうのは~。」と解説を始めようとしてくれたが遠慮する。
俺もデューも、前都市長から聞いた事がある。
(…並行世界の別人か…。)
一応の納得のできる、有力な情報だと思う。
証明は出来そうもないけど。
「…そうなると、老けている理由の説明は出来るか。」
ちょっとヤケクソ気味に、デューは続ける。
「ユンゼスは、エンビッケを見ているんだよな?」
「うん、見てる。」
「で、北区の区長をやると連絡が来た時、姿は見たか?」
「見ていない。文章を、セイを使ってやりとりした。」
「となると、そこから入れ替わったと考えるのが自然か。
…別に、お前を責めない。
1年前といえば、尋常じゃない忙しさだったし、なんなら俺は挨拶文も秘書に書かせたような気がする。
言いたい事は、まあ、そうだな…。
もし、あいつの墓があるなら教えてくれ。この件が終わった後で構わない。」
「…うん。教えるよ。」
意図せずしんみりした空気になってしまった。
それを変えるように、言う。
「仮に、並行世界からきたロミスオッドだとする。
何でやって来たのかは、想像もつかない。
言えるのは…。」
二人を見る。二人も、俺を見た。
「得体の知れない奴だという事。
セイを使いこなす技量と、MDFを扱える戦闘力を持っている。
強敵だ。
明日の戦いは、気を引き締めていこう。」
第三章に出て来たビッケ。
オーズンに会って、彼が亡くなったからヨダーシルを出てクーランへ。
ヨダーシル→トスーチェ→フラスカ→マーア→クーラン→マーア→ジドル→ネクーツ→ラゼン山脈
そしてフレン王国で、ゼユウと出会う。




