第135話 ワッポノ~西区襲撃~
~前回までのワッポノ~
ヨダーシルに到着した俺は、訓練に明け暮れた。
その甲斐はあり、着実に強くなっている実感がある。
ロミスオッドが西区の軍事施設を襲撃するらしい。俺の相手は、アイーホルの勇者だ。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ワッポノ :マーアの勇者
〇ツツジ :ワッポノの友達
〇ロミスオッド:北区区長
〇リハネ :ゾトの勇者
〇カナミア :アイーホルの勇者
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
ツツジが、仲間と共にヨダーシルに来ているのは聞いた。
ロミスオッドの偽装工作は見破られたらしい。
敵にも凄腕の技術者がいるようだ。
今、東西南の区はツツジに協力、俺を探している。
もちろん、まだ帰るつもりはない。
(…。)
深夜、西区。
漆黒の鎧を身に纏い、指定位置で待機する。
最初の頃は、起動直後の破壊衝動が抑えられず、喚き散らし暴れ回った。
それから考えれば。
こうして佇んでいられるのは、かなりの進歩だ。
とはいえ、この状態でいる限り衝動は消えないし、魔力を消費し続ける。
MDFの起動は本来、戦闘直前がいい。
それでも稼働している理由は、俺の姿を晒さない為だ。
西区は俺を探しているから。
俺が姿を現せば、俺の方に人がきて。
結果、警備に隙が出来るかもしれない。
その方がロミスオッド的には、やりやすいかもしれない。
でもその場合、戦いに手心が加えられる可能性がある。
それは、俺の望む戦いじゃない。
俺とロミスオッドは、上司部下の関係ではなく、対等な協力関係だ。
奴は俺を強くする。
強くなった俺は、その力を試す。
奴の敵を倒す。
結果、双方に利があるという訳だ。
(今の俺は、あいつらに。勇者達の強さに迫れている。…はずだ。)
遠くで爆発音が聞こえた。
軍事施設への攻撃が始まったのだろう。
DFDの魔力探知に反応。
ターゲットが近づいてくる。
ここは、彼女の家と軍事施設の中間だから。
(やや南か。)
俺は動いた。
そして。
空中を飛ぶように移動する彼女に、火球を投げつける。
当然のように躱されるが、向こうはこちらに気づき降りてくる。
俺の見た目は怪しい。なんなら魔物にも見える。
放置なんて出来ないだろう。
「あなたは、誰?」
アイーホルの勇者、カナミアが問う。
俺は正体を隠している訳だから、答えない。
ただ敵である事を示す為に、剣先を向ける。
「…。」
彼女も、愛剣を抜いた。
模擬戦で使っていた物だ。
(理想的な状況だな。)
多くの魔力反応が、軍事施設に集結していく。
彼女の二人の仲間もそっちに行った。
信頼からだろう。カナミアは負けないと。
その過信に感謝する。
(後は、勝つだけだ!)
強く踏み込んで、地面が割れる。
その音が、開戦の合図だ。
弾丸のように突っ込む。
カナミアは、牽制に雷矢を放ちながら距離を取る。
まずは様子見のつもりだろう。
目的も実力も不明の、得体のしれない相手だから。
(焦らさないでくれ。俺は、今すぐ確かめたいんだ。)
俺の炎と、あの女の炎。どちらが強いかという事を。
俺の剣は、黒双牙の赤鬼が持っていた【黒牙】を強化した【臨界黒王牙】。
魔力を固めたり、融かしたりが得意な面白い武器だ。
それを投擲する。
カナミアは、やや驚いた様子だが難なく対処。遠くへ弾き飛ばした。
構わない。俺の目論は距離を詰める事で、それは成功したから。
彼女視点。
剣を弾く為に脚を止めてしまった。
その為、敵に距離を詰められている。
不用意に離れれば、追撃をくらう。
再び距離を離すには、一撃は躱さないといけない。
そして相手は、武器を失い丸腰。
この状況ならば。
雷の如く苛烈に攻める彼女ならば。
反撃してくると思っていた。
一閃。
これに反応できる者は、どれほどいるだろうか?
きっと、死んだ事にも気づけないんじゃないだろうか。
その一撃を。
完璧に予測し、身構えていた俺は。
DFDを纏う俺は、右手で掴んで止めた。
「!!」
だが、それで終わらない。
剣から雷光が迸る。
今の俺の耐久力は異常なほど高い。
だというのに全身が痛い。右手は千切れそうだ。
「あああああ!!」
その右手に力を込める。剣の刃を握りしめる。
魔法を使う。右手ごと炎に包む。火力を、温度を上げ続ける。
魔法名、ペインフレア。
イメージは、この鎧ごと焼き尽くす炎。
カナミアの剣は、リハネの炎剣と何度もぶつかったし、ブレイブフェニックスまで切り裂いた。
あの女の、炎に耐えた。
それが。
俺の炎で、融けていく。雷光が、徐々に弱くなる。
いい気分だ。
完全に融ける前に、カナミアは武器を手放し離脱した。
流石の判断力で、俺の攻撃を躱す。
動揺は見られない。
両手をバチバチさせながら、俺の様子を見ている。
(こいつは、中距離戦も得意な魔法使い…。)
武器が破壊されたくらいで、戦意は落ちない。
それでこそ。
越え甲斐があるというもの。
再び俺は、突撃を開始する。
それからカナミアは、常に一定の距離を保ちながら俺を攻撃し続けた。
俺にはペインフレアという強力な近距離魔法があり、自身は剣を失っている。
近づく理由がないのだ。
逆に俺は近づきたい訳だが、雷矢に雷大砲。更には雷網という魔法が飛んできて、接近できない。
所謂、膠着状態。
予想通りの展開だ。
『ワッポノさんがカナミアさんに勝てるとしたら、どこだと思います?』
西区へ向かう魔走車は二台。
運転手を除くと、こっちはロミスオッドと俺の二人だけ。
『攻撃力は、トントンでしょう。
そしてスピードは、圧倒的に負けています。
射程距離でも勝てない。
距離を離されると、一方的な戦いになります。
あなたは、手も足も出ない。』
聞いてきたのに、俺が答える前に喋りだす。
『更に不味いのは近距離戦です。
あなたも近い距離の方が得意でしょう。
ペインフレアの威力は絶大です。
しかし、あなたより速い相手には、まず当たらない。
そして彼女は、あなたの比ではない程、近接戦が得意です。
まともに打ち合うと、手足の一本や二本は斬り落とされる。
最悪、真っ二つにされて死にます。』
『…。』
『おや、どうしました?
勝算はあると言ってくれたじゃないですか?』
接近戦で勝つつもりだった。
なのに絶対勝てないと言われたから、こんな顔だよ。
『最初の質問に戻ります。
あなたが彼女より優れている点、それはなんでしょう。』
接近戦は否定されてしまった。
他?
まさか、『私の協力がある事ですよ。』なんて言い出さないよな?
『それは、耐久力です。
持久戦。それが、あなたの勝機です。』
確かに、DFDの装甲は固い。
でも、真っ二つにされるんだろ?
それに魔力消費だってあるんだ。俺だってそんな長時間使えない。
『彼女は強い、そして速い。
だから大抵の戦闘は、すぐに決着します。
すぐに決着させているんです。
その集中力が、瞬間爆発力が、それを可能にしている。
でも、もしも。
すぐに決着しなかったら?
集中力も魔力も、長時間もつはずがない。
そこを仲間が補っている訳ですが、だから今回は分断させます。』
なるほど。
相手は俺よりも先にバテると。
バテた状態なら、俺が勝てると。
弱点をつくのは基本だと知っている。でも、そもそも弱点が見つからない。
俺は、そこまで思い至れなかった。
この男は、やはり凄い。
『具体的な話をしましょう。
彼女は、異様な姿のあなたを見て警戒するはずです。
最初は様子見をすると思います。
ここであなたは、ペインフレアを、その威力を見せつけてやって下さい。
出し惜しみや、隠す必要は無い。
どうせ当たらないから、切り札になりえない。
しかし、ハッタリとしては十分。
こいつに近づくと不味いと思わせれば、大成功です。
実際は、彼女が全力で斬りにくれば、あっさり斬られてしまいますから。
それにもし、彼女の剣でも壊せたら。あなたの勝利に、一気に近づく。』
可能なら武器破壊。
無理なら、最悪地面でも抉ってみるか…。
『あなたは魔力総量が低い訳ではありません。
魔力運用効率が悪いんです。
魔力制御とは、また別の問題ですね。
そして、その問題は。
MDFで補えます。』
こいつの声が、少し優しくなった気がする。
あれか?
戦闘をイメージして俯いていたから、気落ちしたと思われたのかもしれない。
『ねえ、ワッポノさん。
MDFは、誰にでも使えるものではありません。
魔力の質、特性とでもいいましょうか。
扱うには、相性が大事なんです。
あなただから、DFDを使えているんですよ。
これは、紛れもなくあなたの力。
あなたは、選ばれた人間です。』
俺は。
マーアの勇者として、選ばれた人間だった。
でも、力が無かった。
それが、今。
MDFという力を得た。
ならば。
証明したい。
本当に、選ばれた人間なのかどうかを。
『俺は、アイーホルの勇者を倒す。』
全身が悲鳴を上げている。
当たり前だ。勇者の攻撃を受け続けているんだぞ。
寧ろ、生きている事が不思議だ。
本当に、この鎧は固い。
それでも、そろそろ限界だ。
体力的にも、魔力的にも。
(あと、もって五分か?)
目の端に、数字が見える。減り続ける俺の魔力残量だ。
ちなみに、推定だがカナミアの魔力残量も分かる。
かなり減ってきた。もう俺と大差ないくらい。
彼女は汗だくで、肩で息をしている。
魔法の攻撃速度も、頻度も、威力も落ちてきている。
それでも。
その眼光の鋭さは衰えていない。
「!!」
彼女が、突っ込んできた。
勝負を決める気だ。
(望むところ!)
最初ほどのキレはない。武器もない。そして、おそらく冷静さも。
ならば。
この鎧のある俺が有利。
魔力の出力を、装甲と、攻撃力を上げる。
(真向から、返り討ちだ!)
彼女が加速、視界から消えた。
しかし、DFDの魔力探知は見失わない。
振り向き、迎撃の拳を振り下ろす。
躱される。それはいい。追撃で蹴りを放つつもりだから。
しかし。
(!?)
彼女は剣を握っていた。
俺の、臨界黒王牙だ。
おそらく、風縄で回収したのだろう。
なんという早業。
そして、なんという殺気!
(くそ!)
蹴りは止める。
腕をクロスさせ、胸と首と頭を防御する。
強い衝撃。
脇腹を抜けるように、斬られた。
魔力を相当持っていかれる。
カナミアは反転し、追撃。
迫る斬撃を、今度は左拳で弾く。
(遅い、そして軽い!)
彼女が万全なら、さっきの一撃で俺は死んでいた。
でも、これなら戦える。
持久戦は大成功。
彼女の踏み込みに合わせ、俺も踏み込む。
その顔面を殴ってやろうと拳を振り上げ、そして。
「な!?」
ガラスが割れるような音と共に、DFDが解除される。
なんてことはない。
魔力切れだ。
興奮状態の俺は、魔力残量確認を怠った。
「ワッポノさん?」
カナミアは動きを止めた。
彼女と目が合う。
きょとんとした顔。
数秒前の殺気立った奴と、同一人物だと思えないほど。
「お疲れ様です、ワッポノさん。」
カナミアが倒れた。
ロミスオッドの一撃を受けて。
「あなたが勇者を押さえていてくれたお陰で、上手くいきましたよ。」
言いながらロミスオッドは、カナミアを抱える。
「彼女を、どうする気だ?」
「なに、悪いようにはしませんよ。」
限界だった俺は、そこで崩れそうになるが、ロミスオッドに支えられる。
「さあ、帰りましょう。北区へ。」
徐々に、周りの音が聞こえてくる。
騒ぎになっているようだ。
(襲撃された訳だから当然か。)
大人しく、ロミスオッドについていく。
魔走車の中は静かだった。
単純に、疲れていたというのもある。
けど、一番の理由は。
カナミアに勝てなかったから。
そう、あの戦いは完全に俺の負けだ。
ロミスオッドが来なければ。
いや、ツツジ達がヨダーシルまで俺を探しに来ていなければ。
情報提供をしていなければ。
俺は死んでいた。
(持久戦を仕掛けて、持久力で負けるとか…。)
まったく情けない。
倒す倒すと息巻いていながら。
これではマーアにいた時と、大して変わらないじゃないか。
「ねえワッポノさん。
目的を覚えていますか?」
返事をする元気はないが、耳には届く。
「あなたの目的は強くなる事です。
DFDは、あなたの力であり、より使いこなせれば更に強くなれます。
実際、以前と比べて強くなりました。
どれくらい強くなったかを勇者相手に試した訳ですが、どうですか?
実感できたでしょう。
勇者と勝負が出来て、あと一歩まで追い詰めました。」
「でも、勝てなかった…。」
「生きてさえいれば、敗北になりません。
いいではないですか、課題も見えました。
『勝機が見えた時こそ冷静に。』
『魔力制御レベルを高め、より持久力を上げる。』
『退くという選択肢も頭に入れておく。』
あなたは、もっと強くなれます。」
「…詳しいな。見てたのか?」
「いえ、そんな余裕はありませんでした。
車に乗ってから確認したんですよ。」
ロミスオッドが、自分のセイを叩いて見せる。
「そして私の目的は、今回は軍事施設の襲撃ですね。
大成功です。
不正を知らしめる事も出来ましたし、戦力も削げました。
もう一度いいますが、あなたが勇者を押さえてくれたお陰です。
彼女に妨害されたら、きっと成功しなかったでしょう。」
魔走車が止まった。
北区には入ったと思うが、宿舎には早すぎる。
「どうぞ。」
促されるまま、車を降りる。
しばらく、ロミスオッドの後をついて行く。
まだ深夜だ。
今日は曇りで、星だって見えない。
でも、その小さな広場は。
火が焚かれているようで、ぼんやりと明るい。
数人、集まっているようだ。
「西区の軍事施設の破壊に成功したんだって?」
「不正に金を稼いでいたんだろ?売国奴に制裁を下せて、スカっとしたぜ!」
「あいつら俺達の事、散々バカにしてたからな。ざまあみやがれ!」
口は悪いが、雰囲気は明るい。
「皆さんの協力もあり、作戦は大成功でした。
お礼を申し上げます。」
ロミスオッドが前に出て、そんな事を言う。
「今後は、東区と戦う事になるでしょう。
彼らは、これ幸いと理由をつけて攻めてきます。
もちろん、北区は迎え撃ちます。
実力者主義共に、北区の実力を思い知らせてやりましょう。」
ワッと、周囲が沸いた。
それに俺はデジャヴを感じる。
「今回の作戦のMVP、ワッポノさんです。
彼はきっと、次の作戦でも活躍してくれる事でしょう。」
グイっと引っ張られ、前に出される。
反応なんて出来ない。
説明もなく、いきなりなんだ。事情だって、なんとなくでしか分からない。
それでも。
「ありがとう!」
それでも。
「まだ若いのに、すげえじゃねえか!」
「お疲れ様!ゆっくり休んで!」
「よ!北区のエース!」
俺は右手を、思い切り上げた。
それで再び、周囲が沸く。
(…。)
それから、ロミスオッドに引っ張られ魔走車まで戻る。
ゆっくり休んで、魔力を回復させないといけないから。
ロミスオッドは、彼らを。
協力者達を、一言ねぎらう為だけに寄ったらしい。
「ねえ、ワッポノさん。」
その声は、少し嬉しそうで。
「私達は、いいパートナーになれますよ。」
「…。」
返事が出来なかったのは。
気持ちの整理が追いついていないから。
俺は動揺している。取り乱している。
なぜ?
なぜ俺は、右手を上げたのか?
(…あ。)
唐突に。
思い出した。
遠い昔の、一族の集会を。
(そうか。俺は。)
凱旋したいんだ。
マーアの王都に。家族の元に。
そうすれば。
今まで苦しかった事も、悲しかった事も、悔しかった事も、怖かった事も、恐ろしかった事も、情けなかった事も、全部。
報われると、思ったから。
(俺は…。)
皆の笑顔が見たかった。
その為に、強くなりたかったのだと。
思い出した。
(…もっと、強くなりたい。)
俺とロミスオッドの乗った魔走車は、真っ暗な夜道を走り続ける。
ワッポノの臨界黒王牙。
特殊能力を使いこなすには訓練が必要で、現在、彼はMDFで手一杯なので訓練なんてしていません。
つまり、ただの丈夫な剣(笑)
時間軸が追いついたので、次回は向こうの視点です。




