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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第四章 理想家オーズンの四人の後継者

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第135話 ワッポノ~西区襲撃~

~前回までのワッポノ~


ヨダーシルに到着した俺は、訓練に明け暮れた。

その甲斐はあり、着実に強くなっている実感がある。

ロミスオッドが西区の軍事施設を襲撃するらしい。俺の相手は、アイーホルの勇者だ。


◇登場人物◇ ※●が視点者

●ワッポノ  :マーアの勇者

〇ツツジ   :ワッポノの友達

〇ロミスオッド:北区区長

〇リハネ   :ゾトの勇者

〇カナミア  :アイーホルの勇者


□セイ    :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載

 ツツジが、仲間と共にヨダーシルに来ているのは聞いた。


 ロミスオッドの偽装工作は見破られたらしい。

 敵にも凄腕の技術者がいるようだ。


 今、東西南の区はツツジに協力、俺を探している。

 もちろん、まだ帰るつもりはない。




 (…。)


 深夜、西区。

 漆黒の鎧を身に纏い、指定位置で待機する。


 最初の頃は、起動直後の破壊衝動が抑えられず、喚き散らし暴れ回った。

 それから考えれば。

 こうして佇んでいられるのは、かなりの進歩だ。


 とはいえ、この状態でいる限り衝動は消えないし、魔力を消費し続ける。

 マシンDFドラゴンフォームの起動は本来、戦闘直前がいい。


 それでも稼働している理由は、俺の姿を晒さない為だ。

 西区は俺を探しているから。


 俺が姿を現せば、俺の方に人がきて。

 結果、警備に隙が出来るかもしれない。


 その方がロミスオッド的には、やりやすいかもしれない。


 でもその場合、戦いに手心が加えられる可能性がある。

 それは、俺の望む戦いじゃない。


 俺とロミスオッドは、上司部下の関係ではなく、対等な協力関係だ。


 奴は俺を強くする。

 強くなった俺は、その力を試す。

 奴の敵を倒す。


 結果、双方に利があるという訳だ。


 (今の俺は、あいつらに。勇者達の強さに迫れている。…はずだ。)


 遠くで爆発音が聞こえた。

 軍事施設への攻撃が始まったのだろう。


 ダークネスフレアドラゴンの魔力探知に反応。

 ターゲットが近づいてくる。


 ここは、彼女の家と軍事施設の中間だから。


 (やや南か。)


 俺は動いた。




 そして。

 空中を飛ぶように移動する彼女に、火球ファイアーボールを投げつける。


 当然のように躱されるが、向こうはこちらに気づき降りてくる。


 俺の見た目は怪しい。なんなら魔物にも見える。

 放置なんて出来ないだろう。


「あなたは、誰?」


 アイーホルの勇者、カナミアが問う。

 俺は正体を隠している訳だから、答えない。


 ただ敵である事を示す為に、剣先を向ける。


「…。」


 彼女も、愛剣を抜いた。

 模擬戦で使っていた物だ。


 (理想的な状況だな。)


 多くの魔力反応が、軍事施設に集結していく。

 彼女の二人の仲間もそっちに行った。


 信頼からだろう。カナミアは負けないと。

 その過信に感謝する。


 (後は、勝つだけだ!)


 強く踏み込んで、地面が割れる。

 その音が、開戦の合図だ。


 弾丸のように突っ込む。

 カナミアは、牽制に雷矢ライトニングアローを放ちながら距離を取る。


 まずは様子見のつもりだろう。

 目的も実力も不明の、得体のしれない相手だから。


 (焦らさないでくれ。俺は、今すぐ確かめたいんだ。)


 俺の炎と、あの女の炎。どちらが強いかという事を。


 俺の剣は、黒双牙の赤鬼が持っていた【黒牙】を強化した【臨界黒王牙】。

 魔力を固めたり、融かしたりが得意な面白い武器だ。


 それを投擲する。


 カナミアは、やや驚いた様子だが難なく対処。遠くへ弾き飛ばした。

 構わない。俺の目論は距離を詰める事で、それは成功したから。


 彼女視点。


 剣を弾く為に脚を止めてしまった。

 その為、敵に距離を詰められている。

 不用意に離れれば、追撃をくらう。

 再び距離を離すには、一撃は躱さないといけない。

 そして相手は、武器を失い丸腰。


 この状況ならば。

 雷の如く苛烈に攻める彼女ならば。


 反撃してくると思っていた。


 一閃。


 これに反応できる者は、どれほどいるだろうか?

 きっと、死んだ事にも気づけないんじゃないだろうか。


 その一撃を。

 完璧に予測し、身構えていた俺は。


 DダークネスFフレアDドラゴンを纏う俺は、右手で掴んで止めた。


「!!」


 だが、それで終わらない。

 剣から雷光が迸る。


 今の俺の耐久力は異常なほど高い。

 だというのに全身が痛い。右手は千切れそうだ。


「あああああ!!」


 その右手に力を込める。剣の刃を握りしめる。

 魔法を使う。右手ごと炎に包む。火力を、温度を上げ続ける。


 魔法名、ペインフレア。

 イメージは、この鎧ごと焼き尽くす炎。


 カナミアの剣は、リハネの炎剣と何度もぶつかったし、ブレイブフェニックスまで切り裂いた。

 あの女の、炎に耐えた。


 それが。

 俺の炎で、融けていく。雷光が、徐々に弱くなる。


 いい気分だ。


 完全に融ける前に、カナミアは武器を手放し離脱した。

 流石の判断力で、俺の攻撃を躱す。


 動揺は見られない。

 両手をバチバチさせながら、俺の様子を見ている。


 (こいつは、中距離戦も得意な魔法使い…。)


 武器が破壊されたくらいで、戦意は落ちない。


 それでこそ。

 越え甲斐があるというもの。


 再び俺は、突撃を開始する。




 それからカナミアは、常に一定の距離を保ちながら俺を攻撃し続けた。


 俺にはペインフレアという強力な近距離魔法があり、自身は剣を失っている。

 近づく理由がないのだ。


 逆に俺は近づきたい訳だが、雷矢ライトニングアロー雷大砲ライトニングキャノン。更には雷網ライトニングネットという魔法が飛んできて、接近できない。


 所謂、膠着状態。

 予想通りの展開だ。




『ワッポノさんがカナミアさんに勝てるとしたら、どこだと思います?』


 西区へ向かう魔走車は二台。

 運転手を除くと、こっちはロミスオッドと俺の二人だけ。


『攻撃力は、トントンでしょう。

 そしてスピードは、圧倒的に負けています。

 射程距離でも勝てない。

 距離を離されると、一方的な戦いになります。

 あなたは、手も足も出ない。』


 聞いてきたのに、俺が答える前に喋りだす。


『更に不味いのは近距離戦です。

 あなたも近い距離の方が得意でしょう。

 ペインフレアの威力は絶大です。

 しかし、あなたより速い相手には、まず当たらない。

 そして彼女は、あなたの比ではない程、近接戦が得意です。

 まともに打ち合うと、手足の一本や二本は斬り落とされる。

 最悪、真っ二つにされて死にます。』


『…。』


『おや、どうしました?

 勝算はあると言ってくれたじゃないですか?』


 接近戦で勝つつもりだった。

 なのに絶対勝てないと言われたから、こんな顔だよ。


『最初の質問に戻ります。

 あなたが彼女より優れている点、それはなんでしょう。』


 接近戦は否定されてしまった。


 他?

 まさか、『私の協力がある事ですよ。』なんて言い出さないよな?


『それは、耐久力です。

 持久戦。それが、あなたの勝機です。』


 確かに、ダークネスフレアドラゴンの装甲は固い。

 でも、真っ二つにされるんだろ?


 それに魔力消費だってあるんだ。俺だってそんな長時間使えない。


『彼女は強い、そして速い。

 だから大抵の戦闘は、すぐに決着します。

 すぐに決着させているんです。

 その集中力が、瞬間爆発力が、それを可能にしている。

 でも、もしも。

 すぐに決着しなかったら?

 集中力も魔力も、長時間もつはずがない。

 そこを仲間が補っている訳ですが、だから今回は分断させます。』


 なるほど。

 相手は俺よりも先にバテると。


 バテた状態なら、俺が勝てると。


 弱点をつくのは基本だと知っている。でも、そもそも弱点が見つからない。

 俺は、そこまで思い至れなかった。


 この男は、やはり凄い。


『具体的な話をしましょう。

 彼女は、異様な姿のあなたを見て警戒するはずです。

 最初は様子見をすると思います。

 ここであなたは、ペインフレアを、その威力を見せつけてやって下さい。

 出し惜しみや、隠す必要は無い。

 どうせ当たらないから、切り札になりえない。

 しかし、ハッタリとしては十分。

 こいつに近づくと不味いと思わせれば、大成功です。

 実際は、彼女が全力で斬りにくれば、あっさり斬られてしまいますから。

 それにもし、彼女の剣でも壊せたら。あなたの勝利に、一気に近づく。』


 可能なら武器破壊。

 無理なら、最悪地面でも抉ってみるか…。


『あなたは魔力総量が低い訳ではありません。

 魔力運用効率が悪いんです。

 魔力制御とは、また別の問題ですね。

 そして、その問題は。

 マシンDFドラゴンフォームで補えます。』


 こいつの声が、少し優しくなった気がする。


 あれか?

 戦闘をイメージして俯いていたから、気落ちしたと思われたのかもしれない。


『ねえ、ワッポノさん。

 マシンDFドラゴンフォームは、誰にでも使えるものではありません。

 魔力の質、特性とでもいいましょうか。

 扱うには、相性が大事なんです。

 あなただから、ダークネスフレアドラゴンを使えているんですよ。

 これは、紛れもなくあなたの力。

 あなたは、選ばれた人間です。』


 俺は。

 マーアの勇者として、選ばれた人間だった。


 でも、力が無かった。


 それが、今。

 マシンDFドラゴンフォームという力を得た。


 ならば。


 証明したい。

 本当に、選ばれた人間なのかどうかを。


『俺は、アイーホルの勇者を倒す。』




 全身が悲鳴を上げている。

 当たり前だ。勇者の攻撃を受け続けているんだぞ。


 寧ろ、生きている事が不思議だ。

 本当に、この鎧は固い。


 それでも、そろそろ限界だ。

 体力的にも、魔力的にも。


 (あと、もって五分か?)


 目の端に、数字が見える。減り続ける俺の魔力残量だ。


 ちなみに、推定だがカナミアの魔力残量も分かる。

 かなり減ってきた。もう俺と大差ないくらい。


 彼女は汗だくで、肩で息をしている。

 魔法の攻撃速度も、頻度も、威力も落ちてきている。


 それでも。

 その眼光の鋭さは衰えていない。


「!!」


 彼女が、突っ込んできた。

 勝負を決める気だ。


 (望むところ!)


 最初ほどのキレはない。武器もない。そして、おそらく冷静さも。


 ならば。

 この鎧のある俺が有利。


 魔力の出力を、装甲と、攻撃力を上げる。


 (真向から、返り討ちだ!)


 彼女が加速、視界から消えた。

 しかし、ダークネスフレアドラゴンの魔力探知は見失わない。


 振り向き、迎撃の拳を振り下ろす。

 躱される。それはいい。追撃で蹴りを放つつもりだから。


 しかし。


 (!?)


 彼女は剣を握っていた。

 俺の、臨界黒王牙だ。


 おそらく、風縄ウインドロープで回収したのだろう。

 なんという早業。


 そして、なんという殺気!


 (くそ!)


 蹴りは止める。

 腕をクロスさせ、胸と首と頭を防御する。


 強い衝撃。

 脇腹を抜けるように、斬られた。


 魔力を相当持っていかれる。


 カナミアは反転し、追撃。


 迫る斬撃を、今度は左拳で弾く。


 (遅い、そして軽い!)


 彼女が万全なら、さっきの一撃で俺は死んでいた。


 でも、これなら戦える。

 持久戦は大成功。


 彼女の踏み込みに合わせ、俺も踏み込む。


 その顔面を殴ってやろうと拳を振り上げ、そして。


「な!?」


 ガラスが割れるような音と共に、DダークネスFフレアDドラゴンが解除される。


 なんてことはない。


 魔力切れだ。

 興奮状態の俺は、魔力残量確認を怠った。


「ワッポノさん?」


 カナミアは動きを止めた。

 彼女と目が合う。


 きょとんとした顔。

 数秒前の殺気立った奴と、同一人物だと思えないほど。


「お疲れ様です、ワッポノさん。」


 カナミアが倒れた。

 ロミスオッドの一撃を受けて。


「あなたが勇者を押さえていてくれたお陰で、上手くいきましたよ。」


 言いながらロミスオッドは、カナミアを抱える。


「彼女を、どうする気だ?」

「なに、悪いようにはしませんよ。」


 限界だった俺は、そこで崩れそうになるが、ロミスオッドに支えられる。


「さあ、帰りましょう。北区へ。」


 徐々に、周りの音が聞こえてくる。

 騒ぎになっているようだ。


 (襲撃された訳だから当然か。)


 大人しく、ロミスオッドについていく。




 魔走車の中は静かだった。


 単純に、疲れていたというのもある。


 けど、一番の理由は。

 カナミアに勝てなかったから。


 そう、あの戦いは完全に俺の負けだ。


 ロミスオッドが来なければ。

 いや、ツツジ達がヨダーシルまで俺を探しに来ていなければ。

 情報提供をしていなければ。


 俺は死んでいた。


 (持久戦を仕掛けて、持久力で負けるとか…。)


 まったく情けない。

 倒す倒すと息巻いていながら。


 これではマーアにいた時と、大して変わらないじゃないか。


「ねえワッポノさん。

 目的を覚えていますか?」


 返事をする元気はないが、耳には届く。


「あなたの目的は強くなる事です。

 ダークネスフレアドラゴンは、あなたの力であり、より使いこなせれば更に強くなれます。

 実際、以前と比べて強くなりました。

 どれくらい強くなったかを勇者相手に試した訳ですが、どうですか?

 実感できたでしょう。

 勇者と勝負が出来て、あと一歩まで追い詰めました。」


「でも、勝てなかった…。」


「生きてさえいれば、敗北になりません。

 いいではないですか、課題も見えました。

 『勝機が見えた時こそ冷静に。』

 『魔力制御レベルを高め、より持久力を上げる。』

 『退くという選択肢も頭に入れておく。』

 あなたは、もっと強くなれます。」


「…詳しいな。見てたのか?」


「いえ、そんな余裕はありませんでした。

 車に乗ってから確認したんですよ。」


 ロミスオッドが、自分のセイを叩いて見せる。


「そして私の目的は、今回は軍事施設の襲撃ですね。

 大成功です。

 不正を知らしめる事も出来ましたし、戦力も削げました。

 もう一度いいますが、あなたが勇者を押さえてくれたお陰です。

 彼女に妨害されたら、きっと成功しなかったでしょう。」


 魔走車が止まった。

 北区には入ったと思うが、宿舎には早すぎる。


「どうぞ。」


 促されるまま、車を降りる。

 しばらく、ロミスオッドの後をついて行く。


 まだ深夜だ。

 今日は曇りで、星だって見えない。


 でも、その小さな広場は。

 火が焚かれているようで、ぼんやりと明るい。


 数人、集まっているようだ。


「西区の軍事施設の破壊に成功したんだって?」

「不正に金を稼いでいたんだろ?売国奴に制裁を下せて、スカっとしたぜ!」

「あいつら俺達の事、散々バカにしてたからな。ざまあみやがれ!」


 口は悪いが、雰囲気は明るい。


「皆さんの協力もあり、作戦は大成功でした。

 お礼を申し上げます。」


 ロミスオッドが前に出て、そんな事を言う。


「今後は、東区と戦う事になるでしょう。

 彼らは、これ幸いと理由をつけて攻めてきます。

 もちろん、北区は迎え撃ちます。

 実力者主義共に、北区の実力を思い知らせてやりましょう。」


 ワッと、周囲が沸いた。

 それに俺はデジャヴを感じる。


「今回の作戦のMVP、ワッポノさんです。

 彼はきっと、次の作戦でも活躍してくれる事でしょう。」


 グイっと引っ張られ、前に出される。


 反応なんて出来ない。

 説明もなく、いきなりなんだ。事情だって、なんとなくでしか分からない。


 それでも。


「ありがとう!」


 それでも。


「まだ若いのに、すげえじゃねえか!」

「お疲れ様!ゆっくり休んで!」

「よ!北区のエース!」


 俺は右手を、思い切り上げた。

 それで再び、周囲が沸く。


 (…。)


 それから、ロミスオッドに引っ張られ魔走車まで戻る。

 ゆっくり休んで、魔力を回復させないといけないから。


 ロミスオッドは、彼らを。

 協力者達を、一言ねぎらう為だけに寄ったらしい。


「ねえ、ワッポノさん。」


 その声は、少し嬉しそうで。


「私達は、いいパートナーになれますよ。」

「…。」


 返事が出来なかったのは。

 気持ちの整理が追いついていないから。


 俺は動揺している。取り乱している。


 なぜ?


 なぜ俺は、右手を上げたのか?


 (…あ。)


 唐突に。

 思い出した。


 遠い昔の、一族の集会を。


 (そうか。俺は。)


 凱旋したいんだ。

 マーアの王都に。家族の元に。


 そうすれば。

 今まで苦しかった事も、悲しかった事も、悔しかった事も、怖かった事も、恐ろしかった事も、情けなかった事も、全部。


 報われると、思ったから。


 (俺は…。)


 皆の笑顔が見たかった。


 その為に、強くなりたかったのだと。

 思い出した。


 (…もっと、強くなりたい。)


 俺とロミスオッドの乗った魔走車は、真っ暗な夜道を走り続ける。

ワッポノの臨界黒王牙。

特殊能力を使いこなすには訓練が必要で、現在、彼はMDFで手一杯なので訓練なんてしていません。

つまり、ただの丈夫な剣(笑)


時間軸が追いついたので、次回は向こうの視点です。

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