第134話 ワッポノ~北区~
~前回までのワッポノ~
謎の男に魔物をけしかけられて、死ぬ思いをした。
でも同時に、MDFなんて力をもらえた。
俺は、男についていく。強くなるために、ヨダーシルへ向かう。
◇登場人物◇ ※●が視点者
●ワッポノ :マーアの勇者
〇ツツジ :ワッポノの友達
〇ロミスオッド:北区区長
〇リハネ :ゾトの勇者
〇カナミア :アイーホルの勇者
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
「なあ。」
「何です?」
「俺、チケット持ってるんだけど。」
「存じてますよ。」
「何で、こんな事に?」
俺達は、ヨダーシル行きの列車に乗った。
貨物コンテナの中に隠れている。
「あなたがヨダーシルに向かった事を、隠す為ですよ。」
「勇者隊に?」
「いえ。ヨダーシルの、他区の区長にですよ。確認ですが、誰にも言っていないですよね?」
「ああ。言っていないし、書置きもしていない。」
勇者隊は、俺がいなくても問題にならない。
ツツジが心配するかもしれない、とは思った。
でも俺だって子供じゃないし、一か月くらいなら平気だろう。
強くなる為には、こいつの協力がいる。
だから、指示には従う。
「でも、どうせ隠れるなら、チケットは置いて行った方がよかったんじゃないか?
その方が、ヨダーシルに行ったと思われない。」
「チケットがあったから、問題なく近づけて、スムーズに隠れられたんです。
もし無ければ、発車した列車に飛び乗る予定でした。」
それは、嫌だな。
「何度か停車と点検、確認があるはずです。
もしそれで見つかると、ヨダーシルへは行けません。
注意してください。」
「…。」
「はは。そんな難しい顔をしないで、リラックスしていきましょう。
三日間もあるんです。気を張り続けていたら持ちませんよ。」
男は地べたにドカッと座ると、欠伸をした。
俺も座る。
(…。)
男の名前は、ロミスオッド。
ヨダーシル北区、区長。
昨日、魔物をけしかけてきて俺を試した。
死んでも構わないと、そういう考えだったはず。
使えそうなら使うし、使えないなら次を探す。
そういう男だと思う。
正直、好きではないし、一緒にいたくない。
でも、俺を強くしてくれる。
おそらく、利用価値がある内は。
「俺に、やってもらいたい事ってなんだ?」
だから、利用価値を示さないといけない。
「ふむ。」
ロミスオッドは、俺を見る。
見定めているのだ。話してよいかどうかを。
「いいでしょう。
時間はありますからね。」
今のこいつからは、殺気がない。
有言実行でリラックスしている。
信頼、ではなく。舐められているのだ。
(構わない。俺はこれから強くなるんだから。)
「ヨダーシルで、新都市長を決めるんですよ。
今は選挙期間中で、投票日は三週間後ですね。
都市=国、な所ですから、国の代表を民主的に決めようとしている最中だと思ってください。」
…聞いた事があるような、ないような。
「私は、都市長になりたいんです。
そして、かつてのヨダーシルを取り戻したい。」
かつて?
「オーズンの全盛期。12年くらい前ですね。
あの頃、ヨダーシルは世界最強の国でした。
世界大戦でもあれば、覇者になっていたはずです。」
「…今でも、世界一の国とか言われていなかったか?」
「分野によっては、そう言われる事もありますよ。
私が言っているのは、軍事力です。
10年前のクーデター以降、軍備縮小は一気に加速。
クーラン、ウーイングにはもちろん、バクーにすら勝てないでしょう。」
丁度その時、爆音が響く。
何事かと身構える俺に、ロミスオッドは静かにのジェスチャーをする。
それから、自分のセイを使って映像を見せてくれる。
外の様子だろう。
飛んできた竜機兵が光弾を飛ばし、魔物の群れを一掃している。
乗る前に説明はされていたが、なんという兵器だ。
「…こんなのが造れるのに?」
「ええ。こんなのは玩具です。」
涼しい顔に、少しだけ苛立ちを感じる。
「世界最強の軍事力を手にして、何をしようっていうんだ?」
流石に、世界に宣戦布告するとか言い出したら協力できない。
「戦争をする気はありませんよ。
…過去に掴んだ事のある栄光というのは、失うと取り戻したくなるものです。
勝算があれば、尚更ね。」
「…。」
「まあ、後は、そうですね。
ひどく個人的な理由ですよ。
倒したい敵がいるんです。
「…世界最強の軍事力が必要なほど?」
「私は、そう思っています。」
そんな奴、いるか?
魔王とか、勇者隊とか?
もしかして。
ちらっと聞いた事がある、天上の国?
(でも、こいつは戦争をする気はないと言った。敵は国ではない?
…いや、相手が誰だろうと世界最強の軍事力で戦うなら、それは戦争と変わらない被害が出てもおかしくない。規模が違うだけだ。
つまり、こいつの言っているのは、詭弁…!)
きっと『これは戦争ではない。虐殺だ。』とか、真顔で言うタイプだ。
やはり協力は出来ない。
「乗り越えたいんですよ、彼女を。」
それは、初めて見る表情。
乗り越えたい相手なら、俺にもいる。
俺は、浮かせた腰を下ろした。
「関係のない人間を巻き込む気はありません。
使う兵器も、竜機兵のような無人機です。
もちろん、あの玩具より高性能ですが。」
ロミスオッドが、俺に向き直った。
「私が造った最強の魔法兵器で、自身の因縁を砕きます。
最強の魔法兵器を造るには、今のヨダーシルでは不足。
私がトップとなり、ヨダーシルを変えるしかありません。」
気圧される。この男の本気がわかる。
それでも、言葉を吐く。重要な事だから。
「それは、国の、私物化じゃないか?
選挙があるんだ。ヨダーシルは、独裁国家じゃない。」
俺だって本気だ。
本気で強くなりたい。その為には言う事を聞く。
でも、限度はある。
都市長になる為に、俺に力を貸せと言ったという事は。
武力での制圧を考えているという事。
俺は勇者だから。
悪事に加担は出来ないし、見過ごすわけにはいかない。
「それは違いますよ。」
諭すような、声音だった。
「最終目標は私闘ですが、それは都市長を辞した後の話です。
ヨダーシルを軍事強国にするのは、ちゃんと国民の為ですよ。
だってそうでしょう?」
その、薄く笑った顔は好きになれそうもない。
「力が無ければ、何も守れない。」
それは。
俺もよく知っている。
「確かに、あなたには私の敵と戦ってもらうつもりです。
でも都市長は、ちゃんと選挙で決めてもらいますよ。
無理やり地位を奪おうとは、考えていません。」
「…誰と戦うんだよ。」
「未確定です。
戦いそうだなと思う相手はいますが、そこそこ長い間ヨダーシルを空けましたからね。
状況が変わっているかもしれません。
まずは確認してからです。」
おそらく相手は、他の区の誰かだろう。
選挙で勝てなさそうな区を潰して、勝てそうな区と選挙をするとか?
そんなんで、無理やり奪わないとか。よく言えたものだ。
(…。)
限度はある。
他国へ戦争を仕掛けるとか、罪のない人々を虐殺するとか、そういうのは絶対ダメだ。
しかし。
俺は、全てに文句を言っていられる状況じゃない。
綺麗ごとで済むのであれば、この男についてきていない。
「…関係のない人は、巻き込むな。」
だから、線引きをする。
譲歩する。
ロミスオッドは、新都市長になる為に戦うはずだ。
その場合の、関係者。
他の都市長候補者、及びその護衛。
そして、その支持者達。つまり、ヨダーシル都市民。
(ヨダーシルにいる間は、誰とでも戦う。)
『力が無ければ、何も守れない。』
その通りだと思うから。
「ええ、心得ています。」
ロミスオッドは、薄く笑った。
その三日後、俺達は無事ヨダーシルへ辿り着く。
着いてからは、MDFの制御訓練に明け暮れた。
マーアを出発してから、二週間。
ヨダーシル北区、区役所の区長室。
「それが、今日行われた技術発表会での模擬戦ですよ。」
間もなく日が沈む時間。
俺は、ある映像を食い入るように見ていた。
ゾトの勇者リハネと、アイーホルの勇者カナミアの戦い。
結果は、中断による引き分け。
戦闘時間も短め。
しかしその内容は。
まさしく、勇者同士の戦いだった。
「どうですか、ワッポノさん。今のあなたは、彼女達と渡り合えますか?」
「…。」
勝負になるわけがない。
最初のリハネの猛攻すら捌けない。
でもそれは。
MDFが、なかった場合の話だ。
「渡り合える。勝算は、ある。」
俺は、ここにきて。
強くなった。格段に。
「…こちらをご覧ください。」
俺は左手に小手を着けている。
魔力を流す事で、MDFが起動できる物だ。
DFD。
それは小手の名前であり、MDF起動後の俺の姿の名前だ。
で、その小手の上にセイを着けている訳だけど。
そこにデータが送られてきた。
報告書、だと思う。
文字が多すぎて読む気にならないが。
「西区に、軍事施設があるんです。」
「西区に?」
意外だった。
西区は都市民の生活の中心みたいな所で。
だから、あるとしたら東区や南区のイメージだ。
「そこを、襲撃します。」
「…。」
「理由1。
西区に軍事施設は無いとしているのに、実在している。
つまり、明確な違反を罰する為。
理由2。
有るだけでは、何の意味も無いという事を知らしめる為。」
おそらく送られてきたデータは、違反の証拠とかだろう。
でも俺は、理由を重視しない。
このデータが正しいとか正しくないとか。
悪いのは北区なのか西区なのか。
そういうのは、別にいいんだ。
「軍事施設は偽装されています。
それが、区長のソルテローラの指示かどうかは、分かりませんでした。
でも、関係ありません。
黒ならば粛清対象。
白だった場合は。
…自分の区ですら好き勝手されるなんて、ヨダーシルの都市長として相応しくない。」
「反対する気はない。
西区なら、敵はアイーホルの勇者だ。
聞いてきたという事は、俺が相手をするんだろう?
いつだ?」
「明日に日付が変わり次第。」
「わかった。打合せは?」
「0時丁度、煙突塔から魔走車で向かいます。その車内で。」
「了解した。」
立ち上がる。自室で仮眠をとる為に。
「もし、事前に聞いておきたい事があれば、メッセージを下さい。」
軽く手を振り、部屋を後にする。
(…早く、戦いたいな。)
こんな気持ちは。
魔王軍をチヨカ村から追い出そうと馬を走らせた、あの日、以来だ。
次回、ワッポノVSカナミア。




