第131話 技術発表会~勇者VS勇者~
~前回までのクレスタ~
北区への入区許可がもらえないまま、技術発表会の日になった。
明後日には、リハネ達が北区に立ち入り捜査をしてくれるみたいだし。
だから、今日は楽しみましょう。世界有数の技術の祭りをね。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__勇者捜索隊
●クレスタ :フフゴケ商会、商会員
〇ツツジ :勇者隊、サポート員
〇リハネ :ゾトの勇者
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
□アニサ :クレスタがカスタマイズしたセイ
__行方不明
〇ワッポノ :マーアの勇者
__ヨダーシル
〇ユンゼス :南区の区長
〇ソルテローラ:西区の区長
〇ラデューム :東区の区長
〇カナミア :アイーホルの勇者
*クレスタ視点*
「これは、凄いわ~。」
技術発表会、当日。
私は満喫していた。
ヨダーシルの新商品、開発中の魔道具に魔装具。
そういった物が、そこら中にある。
見ているだけでも楽しい。
なにより、商会の仲間や勇者隊の皆に、お土産を披露した時の反応が楽しみで仕方ない。
興味深そうな物を片っ端から買いあさった。
予算は大幅オーバーだが、大満足。後悔なんて、微塵もない。
(そろそろツツジちゃんと、合流しないとか。)
彼女は休ませている。
昨日は会場の準備で動きっぱなしで、疲れが残っている顔をしていたから。
それにここは、彼女の村と比べ人が多い。
そこまでヨダーシル製の商品に興味のない彼女は、きっと気疲れしてしまう。
両手いっぱいの荷物を抱え、私は人込みを進んだ。
「お疲れ様です。随分、買い込みましたね。」
「ええ。ほら、お昼ご飯も買ったから、一緒に食べましょう。」
会場の隅っこのベンチの上で、昼食だ。
私のは、極彩色のサンドイッチ。
折角だから、他では食べられそうにない物を食べたかった。
対してツツジちゃんのは、マーアでよく見かけるような物を選んだ。
体調もよくなさそうだし、食べなれている物の方がいいかと思ったけど。
(…。)
食の進みは、遅い。
懸念はあった。
中途半端に似ていると、故郷の味と比較してしまい、美味しいと思えないのではないかと。
(ヨダーシルなら、やってくれるかもって思ったけど、ダメだったかぁ。)
マーアの料理は、長時間煮込むものが多い。
専門店ならともかく、出店に求めるのは無茶ぶりが過ぎるだろう。
(というか、私が見た目で判断しただけだし…。
あ~、私の所為か~。)
「ここまで頑張る必要が、あるんでしょうか…。」
ぽつりと。彼女から言葉が漏れる。
「ここは凄いです。人は多いし、見た事のない物ばかり。
どれも、あれば便利です。
でも、なくても、困りません。
少なくとも、マーアでは、私の村では。」
言葉を、探しながらだろう。
彼女は、ゆっくり喋る。
「どうしてポノは、ここに来たんでしょうか。
なんで、まだ帰らないのでしょうか。
ここは、私達の国よりも、よい所なんでしょうか。
私には、わかりません。」
列車に乗ってから、6日目。
ポノ君が中々見つからなくて、ツツジちゃんは焦っている。
他に出来る事がないのは分かるけど、こんな事をしていてもいいのだろうか。
無事に見つけられたとして、連れ戻せるのだろうか。
そういう不安で、いっぱいのようだ。
「私にも、わからないわ。」
でも、話してくれたから。
聞く事ができるし、会話が出来る。
一番難しいのが、心を閉ざしてしまう事。
おそらく、今のポノ君のように。
「だから、本人に聞きましょう。
沢山、話をしましょうよ。
ヨダーシルについて、マーアについて、それから、勇者隊について。」
実はポノ君は、誘拐された可能性がある。
でもそれなら、東区の捜査で発見できれば解決だ。
だから今話すのは、家出少年の連れ戻し方。
つまり、ツツジちゃんのケアだ。
「私の話は、聞いてもらえるでしょうか?」
「…。」
「私は、話しかけたんです、何度も。
でもポノは、辛そうな顔をするだけで…。
結局、私に何も言わずに、行方不明になりました…。」
彼女に、そっと近づいて、軽く抱き寄せるようにする。
「私は、ダメな大人でね。
ポノ君を、放っておいちゃったのよ。
彼と、ほとんど喋ってないし、だから、彼の事はよく分からないの。」
「…。」
「でも、ツツジちゃんの事は少しは分かる。
この一週間、ずっと一緒にいたからね。
あなたは、他人を思いやれる、いい子よ。」
「私は、いい子じゃないです。」
「はい、ツツジちゃん。これあげるわ。」
強引に、持っていたサンドイッチを渡す。
是非、食べてみてほしい。
そんな、ニコニコ顔で。
「…。」
逡巡はあった。けど、それも少し。
ツツジちゃんはサンドイッチを食べて。
両目をつぶり、微かに震える。
そう、これは。
物凄く不味かった。
「…マーアでは、あまり食べた事のないタイプの、斬新な味でした…。」
思わず、抱きしめる。
最初は思いきり、そして苦しくなる前に緩めて、最後は優しく頭を撫でる。
びっくりして硬直中のツツジちゃんに、伝える。
「ツツジちゃん、知ったかぶりの私を困らせようとしたでしょう?
サンドイッチを食べて、不味いって言って、いい子じゃないアピールをしようとしたでしょう。
でも、食べたサンドイッチが本当に不味くて。
その衝撃で、考えていたプランが、どっかいっちゃったんでしょう。
で、真っ白になった頭で、あなたが最初に考えたのは、このサンドイッチは不味いという事。
そして、次に考えたのが、このサンドイッチを作った人、売った人、渡した私。
それから、このサンドイッチを美味しいと食べる、いるかどうかも分からない人の事。
そういう人達を、不味いの一言で否定したくなかったの。」
それは、言われた側の、否定された側の痛みのわかる人。
常にそういう考えであれ、とは言わない。
どちらかといえば、考え過ぎなんじゃないかと個人的には思う。
でもそれが。
当たり前のように出来るこの子は。
「いい子よ、ツツジちゃんは。」
「…。」
「きっとポノ君にも、伝わるはずよ。」
ポノ君も、余裕がなかったと思う。
でも、ヨダーシルっていう、自分達の文化とまるで違う国へ来て。
いい気分転換になって。
離れた事で気づくのよ。
ツツジちゃんという存在に。
自分を気にかけてくれる人、好意的に見てくれる人がいる事は、嬉しいものだと。
(そういう感じのシナリオでお願いしたいわ。)
この、いい子が。
笑顔で故郷に帰れるように。
私達はしばらくそのまま、遠くの喧騒を、他人事のように聞き流して過ごした。
午後。
荷物をホテルへ送った私達は、模擬戦が行われる会場にやってきた。
二人が戦う競技場は、トリッキーシューターのボックスのように透明の魔防壁で覆われている。流れ弾がこっちまでこないようにする為に。
(コロッセオというか、サッカースタジアムというか…。)
準備中にも思ったが、立派な建物だ。
競技場を取り囲むように設けられた観客席に、ツツジちゃんと座る。
「予想はしていましたが、凄い人ですね。」
午前中よりは顔色がいいツツジちゃんが、キョロキョロしながら言う。
「技術発表会なのに、これがメインみたいな…。
確かに、戦闘の技術の披露ではあると思いますけど、二人共、ヨダーシルの人じゃないのに。」
「ふふ。
そういう意見も多かったみたいね。
ただ、ラデュームさんが是非にって。
ほら、実力主義を掲げてるじゃない?
実力者は国を関係なく重用するという意思表明でもあり、そういった実力者とも繋がりをもっているというアピールでもあるのよ。」
少し離れた観客席が騒がしい。
客同士のトラブルみたいで、数人が警備の人に連行されていく。
実は、会場入口付近でも乱闘騒ぎがあって、リハネやカナミアに挨拶するのは諦めた。
お客さんのほうが、熱くなっている感はある。
そこまでの意図はないはずだけど。
選挙で争う、西区と東区の戦い。みたいな構図になっているから。
ちなみに、その時の警備員はアクスとギリュウ。
カナミアの仲間で、彼らには軽く挨拶した。
「誰も怪我することなく、終わりますように。」
ツツジちゃんが、手を合わせて祈る。
観客も、それから選手もだろう。
まあ、選手に怪我するなは無理かもだけど、死ぬような事故は避けてほしい。
(二人共、冷静なようで、頭に血が上るタイプなのよね…。)
それから暫くして。
模擬戦が始まる。
西区代表、アイーホルの勇者カナミア。
東区代表、ゾトの勇者リハネ。
奇しくも実現した、勇者VS勇者。
思惑ひしめく競技場で、実力者二人が激突する。
開始の合図と共に、リハネが突っ込んだ。
魔剣を振り下ろし、斬り上げ、薙ぐ。
豪快な風切り音と共に、果敢に攻める。
カナミアは、それを冷静に捌く。
二人共まずは小手調べ、準備運動感覚なのだろう。
尤も、観客からすれば最初からクライマックスだ。
開始前の騒ぎが嘘のように静まり返る。
それほど、二人は凄まじい。
(どう見る、アニサちゃん?)
正直、私だと速すぎて凄い事しか分からない。
だから、解説を頼む。
(カナミアが優勢ね。
リハネは、ギアを上げている。緩急をつけ、ここで決める勢いで本気で攻めている。
カナミアは、それら全てに対応できているのよ。
しかも。)
カナミアから鋭い突きが放たれた。
リハネは何とか躱し、そのまま攻め続ける。
しかし、完全に避けきれなかったようで、彼女のつけていた額当てが落ちた。
(あれ、わざとよ。
避ける事も予測して額当てを落としたの。
リハネに、実力差を見せつける為に。
そんな余裕まである。近接戦は、カナミアの勝ちよ。)
意外だった。
個人的に、近接戦はリハネが有利だと思っていたから。
だって、毎日のように勇者隊メンバーと模擬戦をしていたのだ。
対人戦に慣れている。
逆にカナミアは。
ラコボーンの戦いを経験しているけど、近年は魔物戦ばかり。
1対1。しかも実力者との対人経験は少ないはず。
(でも、そうか。)
カナミアが相手にするのは、並みの退治屋では対処しきれない奴。
厄介な奴とか、特殊な奴とか、新種の奴とかだから。
初見での対応力が、相当磨かれているみたいね。
「!」
戦況が動いた。
近接戦では勝てないと判断したリハネが、距離をとったのだ。
噴出炎を使い、猛スピードで後ろへ飛ぶ。
超低空飛行で、警戒もしたままだ。
そう、並みの実力者が相手なら、何の問題もない行動。
しかし相手は、カナミアなのだ。
「な!?」
立て続けに放たれる三発の雷矢がリハネに追いついた。
彼女は防御に成功するが、低空とはいえ空中だ。
踏ん張りがきかず、体勢を崩してしまう。
それを、カナミアが見逃すはずがない。
雷矢か、それ以上のスピードで距離をつめてくる。
(ディオルが距離をとる時、自分ごと巻き込む獄炎を使うのは、追撃を警戒してるからなのよね。)
もちろんリハネも、このままやられる子じゃない。
彼女は閃光を使った。
騙線の発展魔法。
自身を激しく発光させるだけの魔法。
一瞬だけの目くらまし。タネがわかれば、次は効かない魔法。
それでも、警戒したカナミアは必要以上に距離をとる。
あのスピードで方向転換が出来る彼女は流石だが、リハネにとってはチャンスだ。
体勢を立て直し、魔法の準備に入る。
ブレイブフェニックス。彼女の最大の魔法。
難点は、発動まで数秒かかる事。
数秒もあれば、カナミアなら近づける。
しかし彼女は、後ろに飛んだ。
攻撃を避けた。
(どこから?)
当然この場には、カナミアとリハネ以外いない。
そしてリハネは、必殺魔法の準備中。
(最初の近接戦の時ね。)
アニサちゃんが教えてくれる。
(リハネは、沢山仕込んでいたみたい。
地面に、そういう魔法球を。
パワープレイが得意そうに見えて、中々器用なのね。)
時間差で、相手に向かって飛んで行く魔法球?
いや、相手に向かっていない。
でたらめに飛び回っている。
(おそらく、トリッキーシューターの技術。
驚異的なのは、その数とスピード。)
カナミアの放った雷矢が、飛び回る球に当たり逸れた。
無暗に突っ込めば、ダメージを受ける。無視するには大きすぎるダメージだろう。
しかし、突っ込まなければ。防御に徹すれば脅威はない。
ただし、リハネの魔法発動を許してしまう。
カナミアは、剣を鞘に納めて身構える。
彼女は現状を正しく理解し、選んだのだ。
リハネの、必殺の魔法を迎え撃つ事を。
(居合、かな?)
彼女の愛剣、雷光龍風。
私がいた世界でいう所の、東洋剣に似た形状だ。
だから所謂、抜刀術とかも出来そうな形ではある。
にわかで申し訳ないが、心身を整えるとか、そういう心構え的な話だったと思う。
(集中している、のよね?)
(ええ。魔力が研ぎ澄まされていくのがわかる。)
「ブレイブフェニックス!」
リハネの突き出された剣から、燃え盛る炎の鳥が飛び立った。
周囲を焦がし、飛び交う魔法球を蹴散らして、轟音と共に襲い掛かる、それを。
カナミアは、真っ二つに斬り裂いた。
多くの観客が、状況を理解できないまま。
私も、(あ、魔法って斬れるんだ。)なんて間抜けな感想を抱いている中。
雷矢が奔る。
障害物の消えた今、それは真っすぐリハネに飛んで行く。
が、既にリハネの姿はない。
彼女は必殺の魔法が斬られても、動揺する事なく次の行動へ移っている。
勇者隊で散々叩きのめされているから、こういう事にはタフなのだ。
火球を放ちながら、烈火の如くカナミアに迫る。
その間、右手に持つ魔剣の炎の勢いが増し続けていく。
(最大魔法が効かないなら、中距離魔法戦は不利。
となれば、やはり近接戦。
最初の打ち合いは本気だったけど、魔法球の仕込みとかもやっていたから。
今度は攻めきれると判断したようね。)
アニサちゃんの解説の最中、リハネが飛んだ。
(でも、カナミアに読まれている。)
いや、飛ばされたのだ。カナミアの風魔法で。
上空高くに打ち上げられて、しかも魔法の妨害つき。
リハネは思うように動けない。
その彼女に。
カナミアは魔法の照準を合わせる。
(雷矢じゃない?)
(雷大砲。カナミアの最大火力の魔法よ。)
迸る雷光は、雷矢の比ではなく。
それが雷鳴と共に、身動きのとれないリハネに放たれた。
「舐めるな!!」
風の拘束を破り、リハネが吠える。
燃え続けた炎剣を空中で振り下ろし、放たれるブレイブフェニックス。
直後、彼女自身は噴出炎による急降下。
カナミアを狙う気だ。
そして、カナミアも同じ考えだったようで。
上空で、雷と炎鳥がぶつかり大爆発。
同時、リハネとカナミアの、互いの刀身がぶつかり合う。
二人は、楽しそうに笑っていた。
それから少しして。
模擬戦は終わった。
ユンゼスさんが止めたのだ。
何でも、魔防壁が壊れそうだとかで。
勝負がつかなかったのは残念そうだったけど、二人共、真面目だから。
観客を危険にさらしてまで続けようとはしなかった。
観客にも、文句を言う人や騒ぐ人はいない。
凄い物を見せてもらったから。今日はもう満足したから。
競技場は、大きな拍手に包まれた。
「いや、死を覚悟しましたね…。」
「ほんとだよ。斬る所だった。」
ツツジちゃんと一緒に、選手の控室へ行くと、へたり込んだユンゼスさんに、リハネが説教をしている所だった。
「でも、戦闘音が凄すぎて、近づかないと聞こえないでしょう?」
「それこそヨダーシルの技術で何とかしろよ。
フフゴケ商会の通信機は、戦闘時もクリアに聞こえるぞ。」
「まあまあまあ。」
それくらいにしてあげてよ。
ユンゼスさんも、必死だったんだし。
「リハネ、お疲れ様。
ゾトの勇者としても、勇者隊のメンバーとしても、最高の戦いだったわ。」
「私は勝つつもりだったんだけどな。
相手もよくやったよ。」
「私も、あなたには勝っておきたかったわ。」
扉が開き、カナミアが入ってくる。
「ガットルはあなたより強いらしいからね。」
勇者隊内の模擬戦の話?
確かに、ガットル君はリハネに勝ったらしいけど、リハネは魔剣を使ってないし…。
あ~、でも彼もアサルトフローは使ってないから、どうなんだろ?
「今はな。いずれあいつは追い抜くし、お前にも勝つ。」
「私もよ。次は決着をつけましょう。」
リハネとカナミアは、固い握手を交わす。
いいライバル関係じゃない?青春じゃない?これは、いいわ~。
ていうか、ガットル君、やるわね。
二人の勇者に意識されてるじゃん。
カナミアは用事があるらしく、そのまま去っていった。
ポノ君が見つかったら、打ち上げをしようと約束して。
リハネも東区へ戻った。
別れてからの話もしたかったが、お疲れだろうし引き止めたりはしない。
明後日の北区への捜索には同行するらしいから、一先ずポノ君は彼女に任せる。
(とりあえず、明後日の結果待ちか。)
まだ何も解決していない。
それでも、そこまで心配はしていない。
ユンゼスさんや東西の区長は、いい人で。
ツツジちゃんはいい子で、強い子だ。
何よりこの町には、頼もしい勇者が二人もいるから。
ポノ君の件は、もうすぐ解決できる。
この時の私は、そう思っていた。
翌日。
南区の区役所は、かつてないほど慌ただしかった。
ユンゼスさんが『都市長候補の辞退』及び『南区区長の辞任』を発表した時の比ではない。
「西区が?」
私とツツジちゃんは、ルムリートちゃんから事情を聞く。
「本日未明、西区が何者かに襲撃された。
区の詳しい被害状況は調査中。
分っている範囲だと、まず、ソルテローラ区長は重傷。
それで、アイーホルの勇者が…。」
マーアの駅から列車に乗って、7日目。
私達、ポノ君捜索隊は、とんでもない事態に巻き込まれてしまった。
西区はなぜ襲撃されたのか?
それを説明する前に。
次回から、あのキャラの話。




