第128話 技術発表会~理由~
~前回までのクレスタ~
東区にきた私達は、区長の協力を得る事に成功。東区にもポノ君はいなかった。
魔王討伐の旅で知り合った、スーマミーサと再会。彼女は区長秘書になっていた。
私達は南区へ戻る為、ゲートで順番待ちをしていたのだけど…。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__勇者捜索隊
●クレスタ :フフゴケ商会、商会員
〇ツツジ :勇者隊、サポート員
〇リハネ :ゾトの勇者
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
□アニサ :クレスタがカスタマイズしたセイ
__行方不明
〇ワッポノ :マーアの勇者
__ヨダーシル
〇ユンゼス :南区の区長
〇ソルテローラ:西区の区長
〇ラデューム :東区の区長
〇スーマミーサ:ラデュームの秘書
〇ルムリート :ユンゼスの秘書
「ユンゼスさん、何かあったんでしょうか?」
「…ちょっと聞いてみるわね。」
南区区長ユンゼス氏、市長候補辞退。
おそらく、一斉に発信されたメッセージ。
周囲もざわついている。
「どう、アニサちゃん?」
『繋がらないわね。都市民からの問い合わせが凄いみたい。』
でしょうね。
『でも、関係者には連絡済みだったみたい。
急の思いつきや、突発のトラブルじゃなさそう。
計画されていた事のようね。
私の権限だと、これ以上は分からないわ。』
「ありがとう、助かったわ。」
不安そうなツツジちゃんに微笑む。安心させるために。
「とりあえず、緊急事態ではなさそう。
だから、予定通り南区のホテルに行きましょう。
こんな時間だしね。
一泊して、平気そうならユンゼスさんの様子を見に行きましょう。
報告、お礼を兼ねてね。まあ、既にワッポノ君については知ってるかもだけど。」
ツツジちゃんは頷いてくれる。
「リハネも、それでいいかしら?」
「悪い、クレスタ。」
おっと?
「私は東区に残る。荷物は、すまないが部屋に置いておいてくれ。」
なるほど。
…ふ~ん。なるほどね?
「私達と別行動がしたいって事でいい?
理由を話してもらえるかしら。
あなたは、私達の護衛なんだから。」
「今日一日、様子を見てわかった。
ヨダーシルにいる内は安全だ。護衛はいらない。
ヨダーシルを出る時は護衛に戻るから、連絡をくれ。」
護衛として、きてもらったのだ。
必要ないからといって、勝手にやめていい訳はない。
でも、そんな事はリハネも分かっている。
だから、最初に悪いと言ったし、今も凄く申し訳なさそう。
「私が聞いたのは、別行動をしたい理由よ?
東区にいたいのなら、皆で東区に残るという選択肢だってあるわ。」
私一人ならともかく、ツツジちゃんがいるんだから。
「私達の目的は、ポノを探す事だ。」
「そうね。」
「南区、西区、東区にいないなら、あとは北区。
しかし北区は、他の区と雰囲気が違う。
お前も、感じているはずだ。
そして、ポノがここにいるなら、面倒事に巻き込まれている可能性がある。」
ツツジちゃんの様子を見る。
心配そうではあるけど、取り乱したりはしていない。
「もしそうなら、協力なんてしてくれるはずがない。
寧ろ、ポノの存在を隠すだろう。
正規手順で、見つけられるとは思えない。
だから、少し強引にいかせてもらう。」
「それで、東区?」
「そうだ、ラデュームに頼む。
困ったらまた頼ってくれてもいいと言われたし、ここは実力主義だからな。
これには少し、自信がある。」
リハネは腕をポンポンと叩く。
「とはいえだ。
北区は特殊なだけで、よい所の可能性はある。
いい人そうに見えた三区の区長が、嘘をついている可能性もな。
だから、手は増やした方がいい。」
「それで、別行動?
東区を見極めつつ、北区を強引に捜索するって?」
「そうだ。
…私一人なら、ヨダーシルを追い出されるくらい強引な手も打てる。
クレスタ達が残っているから、全滅にはならない。」
「流石にそれは困るわよ。
あなたはゾトの勇者なのよ?あなたが追い出されたら私達も帰るわ。」
「私なら町の外でも大丈夫だ。フフゴケ商会の通信機の範囲内で野宿すればいい。
それに、浅慮でそんな事はしない。
やるやらないは別として、手段の用意くらいはしておいた方がいいはずだ。」
勇者の勘。
なのかもしれない。
この件は、観光していれば解決するような話ではないと。
(監視カメラの改竄から、ポノ君の失踪を手助けした人物がいるのは間違いない。
問題は、その人物が。
ポノ君の家出を手伝った協力者なのか、無理やりポノ君を連れ去った不届き者なのかという事。
確かにリハネの言う通り、最悪を考えて手段は増やしておいた方がいいか。)
ツツジちゃんの表情的に、完全に納得はしていないが、ある程度の理解はした感じかな?
あまり危険な事はしてほしくないけど、ポノ君を連れ戻せる可能性があるならお願いしたい、みたいな。
「OK、リハネに任せるわ。」
リハネは東区に残り、私とツツジちゃんは南区へ戻る。
「まずはミーサに連絡しましょうか。」
「大丈夫だ、もう連絡した。迎えにきてくれるらしい。」
流石のスピード感ね。
「リハネさん。あまり無茶をしないで…。」
「ああ。絶対にポノを見つけよう。」
二人は握手して。
「健闘を祈るわ、また後で会いましょう。」
「そっちも。ユンゼスによろしくな。」
私もグータッチして。
それでリハネと別れた。
南区は都市長候補を辞退した訳だから、東区と敵対はしないはず。
そんな所も考えて、彼女はこの案を言い出した。
そんな気がする。
「聞きましたよ。ワッポノ君、西区にも東区にもいなかったそうですね。
すみません。まだ北区への入区許可が出てなくて。」
ユンゼスさんがコーヒーを出してくれる。
一夜明け、私とツツジちゃんは南区の区長室にいる訳なのだけど。
「私達の方は、いいですよ。
それどころじゃあ、ないでしょう?」
区役所前は人が凄かった。
入るどころか近づく事も出来ないくらい。
「そこは気にしなくていいよ。
自業自得で、想定の範囲内だし。」
声の主は、ドア付近に立っている少女。
名前はルムリート。
オレンジ髪のボブカット、薄緑色のダボっとしたTシャツ、短パン。
10歳くらいかな。ツツジちゃんよりも小さかった。
遠巻きに眺めていた私達の手を引いて、ここまで連れて来てくれた子。
ユンゼスさんの秘書らしい。…親族か何か、かな。
「騒ぎたい奴が騒いでるって感じ。
ゼスを知っている奴なら、だろうなって思ってるよ。
こいつが都市長とか、無理だって。
区長が候補、みたいな雰囲気に流されただけ。」
お菓子を取り出し、食べながら喋る。立ったまま。
…自由な職場で、いいわね。
「…まあ、そういう事です。」
苦笑いしながら、ユンゼスさんもコーヒーを飲む。
「よかったんですか?」
この件に関しては部外者で。
だから、ほじくり返す事でもないのだけれど。
それでも聞いたのは。
彼の雰囲気が、怖いぐらい落ち着いていたから。
私は。
彼の事情を知っている。
トワの件を話した時、お返しに教えてくれたのだ。
(ユンゼスさんは、前都市長のオーズンからヨダーシルを託された。
彼の造るヨダーシルが楽しみだとも言われている。
だからこそ、新都市長になりたいのだと思っていた。
今でも、特別な存在である前都市長の期待に応える為に。)
なのに、なぜそんな顔が出来るのか。
その理由が知りたかった。
「ええ。
ラデュームが造る町も、ソルテローラの造る町も。
いいところだなって、思います。
後は、好みというか、合う、合わないの話ですから。
ヨダーシルの都市民が決める事です。」
「南区の、区長も辞めるとか…。」
候補辞退のメッセージの最後に、ついでみたいに書かれていたけど。
区役所前の人達は、どちらかというと、そっちが気になっている様子だった。
「ラデュームがですね。当選したら結構な人数を追い出す気なんですよ。
そして落選したら、支持者を連れて自分が出て行くつもりで。
私は、ここを出た人達の行き場所を、第二のヨダーシルを造る手助けをしたいんです。
もちろん強制力なんてないですから、必ず行かないといけないなんて話はありません。
だからこそ、行きたいと思ってもらえる、住んでよかったと思える町にしないと。」
その発言に、迷いは無かった。
この人は、期待に応えられなかったなんて考えていない。
今も、期待に応える為に動いている。
(ラデュームさんにとってのヨダーシルは、場所。挑戦する場所であり、生産、発展させる所。
ソルテローラにとってのヨダーシルは、人。ツツジちゃんと一緒で。
そしてユンゼスさんにとってのヨダーシルは、場所であり人。
ヨダーシルも第二ヨダーシルも、同じヨダーシル。距離が離れていようとも。)
やりたい事が出来るように。
それによって悲しむ人を減らせるように。
住み慣れた町を出る事になった人が、新しい町でも笑えるように。
それがこの人の、町造り。
(ひょっとすると三区の区長は、全員そのつもりで…?)
「やる事全部終わらせないと、新しい町になんか行かせないからな。
都市長選が終わったら、新しい区長選だぞ。
ラデュームが勝ってもな。すぐに南区が消える訳じゃないんだから。
列車だって最後まで面倒みさせるし、直近だと、技術発表会。
もう少ししたら、現地に行くからな。」
お煎餅みたいな物かな。
ルムリートちゃんは、いい音を出しながら。
ユンゼスさんの方へ歩きながら、喋る。
「分かってますよ。
そして、それらの事に集中する為にも、まずはポノ君を見つけたい。
セイ?」
『昨日と同じですね。
申請は届いていますし、目も通されています。
しかし、そこで止まっていて、許可が出ていません。』
「なるほど…。
直接会いにいこうかな。」
「やめとけ。それで困るのは善良な職員だからな。」
ユンゼスさんとルムリートちゃんが、セイを使って色々やってくれているけど、旗色はよくないみたい。
リハネの言葉を思い出す。
意図的に隠しているなら、申請は下りない。
「北区って、どんな所なんですか?」
ツツジちゃんの、無邪気な質問が出る。
「閉鎖的で、何をやっているのかもよく分からない。
よからぬ事を企んでる、なんて話もあるみたいですが?」
う~ん、邪気があるかも。
ポノ君捜索が滞って、焦ってそう。
「へ~。よく調べられましたね。」
ユンゼスさんの方が無邪気だった。
「これ、めちゃくちゃいいですよ。
持って帰ってもいいですか?」
セイを摩りながら、そんな事を言うツツジちゃん。
実は私も欲しい。
「残念ですが、セイの機能が使えるのはヨダーシル内だけです。
セイが運用できる仕組みが、ヨダーシル全域にありまして。
国外でも使えるのは、現状、区長が持つものだけなんです。
量産にはお金が、ね…。」
ユンゼスさんのセイをもう一つ造るには、町が一つ出来るくらいの額が必要って、聞いた事あるわね。
だから町を造った方が、多くの人が利用できる。
(でも、そうか…。)
国外で使えるのは区長のセイのみという事は。
防犯カメラの改竄、つまりポノ君と関係があるのは区長という訳で。
東西の区長は多忙で、その行動を追いやすい。
そもそも数日間、ヨダーシルを離れられない。
数日いなくても気づかれないのは、北区の区長。
(ユンゼスさんは、最初から北区を疑っていた?)
いや、セイを部下に貸せばいいだけだ。
三区の区長の疑いを完全には晴らせないか。
「外見も怖いですからね。よからぬ噂がよく立つんです。
でも、北区は悪いところではないですよ。」
外見。
ヨダーシルの北門は、完全武装されていて。
前都市長も、元魔王だったから。
魔王城と呼ばれる事もある。
「南区や東区は、施設とか工場とかの割合が高いでしょう?
だから、住居が西区だったりするんですが。
騒がしいのが苦手な人だっています。
そういう人が、北区に行くんですよ。
北区は、田舎みたいな感じですかね。」
「ロミスオッドさんって、どんな人なんですか?」
ツツジちゃんの質問に、ユンゼスさんは少し考えてから。
「真面目で、努力家なやつです。
まあ、しばらく会えてないですけど。」
その態度に、違和感を覚える。
何かを隠しているような。
ただ、言及するのは躊躇う。
申し訳なさみたいのを、感じて。
「ダ~メだ。」
ルムリートちゃんが、両手を上げた。
「埒が明かない。
私は裏ルートを当たってみる。
だから後は任せた~。」
手を振りながら歩いて行く彼女に、ユンゼスさんが声をかける。
「え、でもこの後、現場…。」
「なあ、あんたら。」
え、私達?
「ゼスを手伝ってくれよ。北区は、私が当たってみるから。」
返事を聞かずに、扉から出て行った。
「勝手な奴で、すみません。」
「元気があって、いいじゃないですか。」
北区に行けないのであれば、私達は手持ち無沙汰だ。
彼女に任せて、手伝える事があるなら手伝った方がいい。
「技術発表会の現場へ行くんですよね?」
そんな事を言っていた気がする。
「ええ。
スペースの確認と調整、必要な物の洗い出し、及び準備。
とかですかね。」
「クレスタさん、これ。」
ツツジちゃんから、技術発表会の詳細が送られてきた。
選挙の一環だ。
区ごとに、いろいろと出し物をするみたい。
開催日は明後日。
「下の方です。」
言われた場所を見る。
(東区と西区の代表選手による、模擬戦?)
トリッキーシューターではなく、一対一の魔法戦だ。
東区主導で行われるみたい。
それがある事は問題ではないのだけど。
「なるほどねぇ…。」
西区代表は、カナミア。
色々言っていたけれど。
嘘はついてないだろうけど。
一番の理由って、これでしょう。
リハネは、カナミアと戦いたかった訳だ。
第四章を、序盤、中盤、終盤に分けた時。
技術発表会が、序盤の山場。




