第127話 城塞都市ヨダーシル~東区~
~前回までのクレスタ~
リハネは予想以上の実力を見せたけど、カナミアには敵わなかった。
私としては、勝負後に険悪な雰囲気にならなかったからOKよ。
結局西区にもポノ君はいなくて。だから私達は、東区へ向かった。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__勇者捜索隊
●クレスタ :フフゴケ商会、商会員
〇ツツジ :勇者隊、サポート員
〇リハネ :ゾトの勇者
__行方不明
〇ワッポノ :マーアの勇者
__ヨダーシル
〇ユンゼス :南区の区長
〇ソルテローラ:西区の区長
〇ラデューム :東区の区長
〇スーマミーサ:ラデュームの秘書
〇ティルム :ラデュームの秘書
区間の移動はゲートの他に、中央塔を通る方法がある。
主に、対角の区。北と南、西と東の移動をする際はここを使った方がいい。
手続きが一回で済むから。
もちろん、ここから隣の区にもいける。
けど、中央塔は混んでいるから。隣の区に行くにはゲートの方が速い感じね。
そんなこんなで東区。
区役所へ行き、区長に話を聞いて…。
日が暮れた。
今、私達は酒場にいる。
「いい人でしたね、ラデュームさん。」
「そうね、意外にね。」
東区区長、ラデューム。
第一印象は、いかついチャラ男。
細マッチョで、ピカピカの金髪。
赤い丸型の帽子、素肌にノースリーブ赤ジャケット、白の七分丈パンツで露出が多め。
完全な偏見だけど、何かトラとか飼ってそう。
あと、スタイル抜群の露出過多の美女も侍らせてそう。
会う前に調べた彼の評判は、賛否両論と言った感じ。
結構強引に物事を進めるタイプで、だから、南区や西区のようにはいかないぞ、と、覚悟していた訳だけど。
実際は親身に話を聞いてくれたし、リハネと衝突する事も無かった。
二つの区と同様に東区も探してくれて、結果、ポノ君はいなかった訳だけど、困ったらまた頼ってくれてもいいとまで言ってくれた。
(ツツジちゃんは可愛いし、リハネは美人…。だからあの対応だったのかもしれないけど…。)
ともあれ、助かった。
問題は。
(あとは、北区か…。)
北区への入区許可はまだだ。
暗くなってきたし、今日はもう南区の拠点へ戻ろうという事になり。
それよりお腹が減ったという話になり。
東区の、酒場に入った訳。
いや、お肉が美味しいらしいのよ、ここ。
「クレスタ!」
注文を済ませ、料理がくるのを待っている時、その声が響いた。
そして、身体に衝撃が。
誰かに、抱きつかれた。
「…ミーサ?」
「ハ~イ!お久しぶりですヨ!」
水色の結った髪に、赤色の布切れを繋ぎ合わせたような大胆な格好。
彼女の名前は、スーマミーサ。
魔王討伐の旅の途中、確か、トバースロンの町で出会った退治屋だ。
ガットル君の知り合いらしく、一緒に魔物の討伐をして、打ち上げで盛り上がったり。
楽しい思い出だったと記憶している。
「拠点は、アッブドーメン周辺って言ってなかった?どうしてヨダーシルに?」
「クレスタ達の頑張りで、東側の魔物は減りましたからネ。」
え、退治屋廃業したって事?
「それは、その…ごめん…。」
「NO、NO~。クレスタ達は、いい事をしたんデス。
笑って下さいヨ~。」
頬っぺたを摺り寄せてくる。
そうそう。私の比じゃないほど、ボディタッチが激しかったのよね。
「性質上、魔物が根絶される事はありまセン。」
そうね。この世界に、魔力がある限りは。
「だから、続けようと思えば、退治屋は出来たんですヨ。
でも、折角魔王がいなくなったんですかラ。
色んな所に、行ってみたかっタ!」
退治屋の中には、私達を恨む人がいたと思う。
だって稼ぎが減ったから。
だから、ミーサみたいに言ってもらえるのは、嬉しい。
「そして、ラデュームに会えましタ。」
ミーサは頬を軽く染め、恍惚の表情だ。
まるで、恋をしているような。
でも、どうだろう?
元々、色仕掛け云々で渡り歩いてきた人だ。
こういう感じが染みついているだけかもしれない。
「今の私は彼の秘書でス!ティルムも一緒ですヨ!」
ティルムは、ミーサの相棒。
出会った時、二人は喧嘩中で…。
関係が今でも続いているようで、よかった。
(でも、ミーサが秘書かぁ~。)
まあ、退治屋には、一癖も二癖もある連中が多い。
そんな中を、女二人で渡り合ってきたのだ。
強いだけはなく、頭も、相当使ってきたはず。
…意外と合っているのかも。
ミーサとティルムを侍らせて歩くラデュームさんを想像して、おかしくなる。
なんか、めちゃくちゃ、それっぽい。
「流石クレスタさん、知り合いが多いんですねぇ。」
ツツジちゃんがしみじみと言う。
『変な知り合いが』みたいな意図はない。ツツジちゃんはいい子なんだから。
「Oh!そうですクレスタ!
このキュートな二人を紹介してくださいヨ!」
それから皆で、ワイワイしながらご飯を食べた。
まあ主にはミーサが喋って、ツツジちゃんが感想を言うみたいな感じだったけど。
いい雰囲気だった。
リハネも騒がしいのは嫌いじゃないし、ミーサのオーバーなボディランゲージは見ていて楽しい。
「クレスタ。」
食後、飲み物を飲んでいると、ミーサが真剣な声のトーンで話しかけてきた。
「どうしたの?」
だから私も、真面目に尋ねる。
「私はラデュームの秘書でス。
だから、クレスタ達が何でヨダーシルに来たのか、なぜ東区にいるのかを知っていまス。」
言いながら、彼女はセイを操作する。
「人探しで忙しい事も、南区を応援しているという事モ。
それでも、これを見てほしイ。」
ピロンと音がして、アニサを見る。
動画が送られてきた。
タイトルは【ラデューム新都市長、生まれ変わるヨダーシル。】
ヨダーシルの都市民向けのものだ。
ラデュームさんが都市長になると、どうなるのかの説明動画かな?
だから、その政策に魅力を感じるなら彼に投票しよう、みたいな。
当然、私達に選挙権なんてない。ここには、一時的に滞在しているだけだから。
もちろん、ミーサは承知している。
「クレスタは、私が凄いと思う人でス。
だから、そんな人に、ラデュームの事を知って欲しイ。
彼の考えヲ。」
リハネとツツジちゃんにも動画が送られたようだ。
二人共動画は…、大丈夫か。確か、魔道具で見た事がある。
ミーサの指示でボタンを押して、再生できそう。
(断る理由は、…特に無いか。)
私は動画を再生する。
「私が都市長になった場合。
ヨダーシルは、人が挑戦する町へと変わります。」
高級そうなイスに座るラデュームさんは、先程みたいな格好じゃない。
きちんとした正装だ。
「東区の理念を、町全体の理念にするという事ですか?
具体的にはどのように?」
その彼に、記者らしき人が質問する。
「東区が試験的に導入している階級制。
これを更に細分化し、あらゆる分野に適用。
階級には明確な差があり、当然、上の階級にいくほど質の高いサービスやサポートが得られます。
頑張れば頑張るほど、いい暮らしが、更なる挑戦が出来る訳です。」
「明確な差は、差別を生むのでは?
上の階級の者が、下の階級の者を見下す。みたいな。」
「上の階級へ上がればいいんですよ。」
画面にはラデュームさん一人だけが映っているが、聴衆がいるのだろう。
ざわついている。
『上がればいいんですよ。』で、簡単に上がれるイメージは私もない。
まあ、判断材料が少ないから何とも言えないけど。
「その為のサポートもあります。」
区長は落ち着いている。
「向上心がある若者だっています。
だから、挑戦できる環境がある事はいいと思います。
しかし、それを町全体でやるのはどうでしょうか?
東区だけでよいのでは?」
「トリッキーシューターの施設が増えましてね。
東区だけでは手狭なんですよ。
それに私の計画には、セイの全権が必要です。」
再びざわつくが、ラデュームさんは続ける。
「目指すのは、完全実力主義の国です。
その為に、絶対の基準を。そしてルールの明確化を。
判断や取り扱いが偏らず、ルールに則る。
セイならば、それが出来ます。」
プログラムによる、公正な世界。
そう聞くと、怖いイメージがある。
でも、四六時中いっしょで、自分の頑張りを、陰ながらの努力も全部見てくれて。
そういうものが、評価してくれる。
というのは、人によっては嬉しいかもしれない。
悪い事も出来ないけど、悪い事をしていないという事も証明してくれる訳だし。
「完全実力主義ですか…。
例えば、実力不足でも、立ち回り方が上手かったり、人と人とを取り持つ事で成果を出している人もいるじゃないですか?
そういう人は、評価されないんですか?」
「あらゆる分野と言ったはずです。
【立ち回り方】や【人を取り持つ】分野で評価されますよ。」
という事は、そのルールも決めるという事か。
私じゃ、大変そうだな。っていう感想しか出てこないけど。
決めてしまえば、後はセイが何とかしてくれる。
間違ったら指摘してくれるし、不都合があった時のフィードバックは早そう…。
「でもルールばかりというのも、何というか、息苦しいといいますか。
ケースバイケース、臨機応変ってあるじゃないですか。
そこに個性があって、それが面白かったり。
ヨダーシルは、自由な発想があって栄えた面だってあります。
その辺りは、どうお考えで?」
「まずルールとは、自分が知っているものがルールではありません。
ルールは無数にあります。それこそ、個人レベルで。
知っているかどうかと、知る気が、守る気があるかどうかという話です。」
…あれかな。
赤信号を渡ってはいけないルールなのは知っているけど、見晴らしがよくて車が来てないから渡っちゃえ、みたいな?
「知らない、忘れた、分からない。
これらはセイがあれば解決できます。
それから、基本的にルールで縛るのは、やってはいけない事。不正行為ですね。
まあ、都市の存続の為の義務なんてのも、少しはありますが。
あなたが朝食に何を食べようと、どの道を通って帰ろうと自由です。
問題が発生したら、ルールを守った上で臨機応変の対応をお願いします。」
ヨダーシルで生活している人は、常にセイを着けて生活している。
という事は、この辺は今まで通りなのかな?
「もちろん、例外や情状酌量の余地はちゃんと残します。
例えば、魔物に追われ、入ってはいけない建物の中に避難してしまった、とかね。
そういう時も、セイが役に立ちます。」
あ~。きっと心神喪失の状態とかの診断って、正確なんだろうなぁ。
「自由と無秩序は違う。
厳格のルールは、自由な発想を妨げないと考えます。
逆に、ルールに引っかかるのであれば、その発想はなくていい。
ルールを守った上での成功。
それこそが、ヨダーシルを発展させると確信しています。」
ラデュームさんは、終始、堂々とした態度だ。
きっと自分の発言に自信を持っている。
この人が都市長になった時、言っている事は実現させる。そんな雰囲気。
「待ってくれ。区長は区を取り払う気なのだろう?
今、住んでいる人はどうなるんだ?
挑戦する者の町だなんて…。
俺みたいなジジイは、ついていけないよ!」
記者じゃない。
聴衆の野次だ。
しかし必死な声は、はっきりと聞こえた。
「ヨダーシル第二都市計画。」
その野次への返答だろうか?
ラデュームさんが口を開く。
「南区のユンゼス区長、ご存知でしょう?
列車にご執心なイメージかと思いますが、こちらも彼の進めている計画です。
ムアーとトスーチェの間の、海の上に人工島を、そして町を造ります。
既に島は完成。
建物もいくつか建っていますね。」
知らなかった。
よく二国が了承したわね。
というか、これ。私達が知ってよかった話?
「私の街づくりは、数年で完成するようなものではありません。
徐々に開発を進めていくのです。第二のヨダーシルと共に。」
「…つまり、区長は。
都市の方針に沿えない者は、ヨダーシルから出て行け、と?
その第二のヨダーシルへ行けという事ですか?」
「そうです。」
「ふざけるな!」そんな罵声が聞こえる。
まあ、町から出て行けと言われたのだ。怒るのも無理はない。
「あんたが、その第二のヨダーシルに行けばいい!
そこで、あんたが好きなような町を造ればいい!」
「そうだ、そうだ」と。同調する声が多く聞こえる。
「それを決める為の、選挙ですよ。」
ラデュームさんの、その静かな一言は、騒ぐ聴衆を黙らせた。
「ふざけるな。と思うのであれば、西区のソルテローラさんに投票するといいです。
彼女は、今の四区体制を続けるでしょう。
今まで通りの生活が続きますよ。」
『今まで通りの生活』に不満があるなら、こっちに投票しましょうって事か。
「私が選挙に敗れれば。
どなたかが言ってくれたように、私は第二のヨダーシルで、挑戦する町を造ります。
私は挑戦を諦めない。
まあ、一から造る事になりますからね。
私の生涯を賭け、形になるかどうかといった所でしょうか。」
ラデュームさんと目が合う。
カメラに視線を向けたのだ。
「私がヨダーシルの都市長になった場合と、そうでない場合。
技術レベルに100年の差が出ると考えます。
現在、ヨダーシルの技術は世界最高だと自負しております。
それは、進み続けた200年があってからこそです。
だから、ヨダーシルの第二都市計画もここまで進められたのです。
更に進み続ける為に、皆さんの力を、私に貸していただきたい。」
最後に彼は深々と頭を下げ、動画は終わった。
私達三人は、南区への帰路につく。
ミーサとは酒場で別れた。
『言ったでしょう?クレスタに知ってもらいたかったんでス。』
特に感想とかは聞かずに、笑顔で。
「結構詳細が出てますね。ラデュームさんの新制度。」
ゲートで順番待ちをしている時、ツツジちゃんが言う。
セイを操作しながらだ。もう使いこなせている。
若い子は、飲み込みが早い。
「挑戦する為のスタートラインに立つまでの援助を厚くして…。
過剰すぎたり、偏ったりをなくして…。
挑戦失敗時にはペナルティがあって、あ、でも再挑戦のハードルは低そう。」
「対して、西区のソルテローラの方は、ふわっとしてるな。
何のための技術か。とか、大切なものを見失わない為に。とか。
まあ、現状維持路線だから、新しい制度とかないしな。」
リハネも使いこなしてる。そうよね、頭の回転は速そうだしね。
「私がヨダーシル都市民なら、ラデュームに投票するな。」
ケラケラ笑いながら、リハネが言う。
「私は、ソルテローラに投票しますよ。ラデュームさんは、何か怖いです。」
ユンゼスさん…。
「明確に切り捨てますって言われるのは、嫌です。
それに、村でもありました。
変える事って怖いんですよ。
変えないといけないなら、仕方ないです。
でも、変えなくても大丈夫なら。
それで、現状が悪くなるかもしれないなら、変えたくないです。」
いつもニコニコなツツジちゃんが、感情的に話す。
というか、やや怒っている。
(…ポノ君と重ねちゃったかな?)
私達にその気がなくても。
『勇者ワッポノは不要』みたいな陰口が、マーアの国民から出ていたら嫌だろう。
「そうね。
ツツジちゃんと同じ考えの人は、いると思う。
変化は、怖いから。」
優しく声をかけながら、二人の様子を見る。
リハネは、別に平気ね。
ツツジちゃんは、モヤモヤしてそう。
ただ、本質は別。この話を続けても、彼女の気は晴れない。
なら、この話はお終い。
「まあ、決めるのは、ヨダーシルの都市民だから。」
現状、ヨダーシル内に不満があるのは知っている。
セイが高性能すぎて、仕事が、自分の存在価値を失っている人がいるのだ。
そういう人達に、ラデュームさんは支持されるはず。
(結構いい勝負になるのかも…。)
おそらくユンゼスさんは、ソルテローラさん寄り。
二人で票を取り合うと、改革派のラデュームさんが勝つなんて事も…。
ピロン。
聞きなれた、メッセージ受信音。
しかしそれは、色んな場所から聞こえてきた。
もちろん、二人からも。
「クレスタさん…。」
ツツジちゃんが、心配そうに私を見た。
私は、送られてきたメッセージを確認する。
南区区長ユンゼス氏、市長候補辞退。
そう、書かれていた。
これで3区の説明はお終い。
次回は、ちょっとしたイベントを挟みます。




