第126話 城塞都市ヨダーシル~トリッキーシューター~
~前回までのクレスタ~
ポノ君を探して西区へ。そこで私は、カナミアと再会。
彼女の案内で、西区の区長ソルテローラと無事対面。西区にポノ君がいるか探してもらえることに。
待っている間、ゾトの勇者とアイーホルの勇者が勝負をするらしい。勝負内容は…。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__勇者捜索隊
●クレスタ :フフゴケ商会、商会員
〇ツツジ :勇者隊、サポート員
〇リハネ :ゾトの勇者
__行方不明
〇ワッポノ :マーアの勇者
__ヨダーシル
〇ユンゼス :南区の区長
〇ソルテローラ:西区の区長
〇カナミア :アイーホルの勇者
しばらく歩いて辿り着いたのは、専用の競技場。
特徴は、大きくて透明な箱。
たぶん、バスケットコート二面の体育館くらいある。
「トリッキーシューターは的当ての競技です。
まずこれが【ボックス】。この中に、三か所、的が出現します。」
区長がパネルを操作して、実際に的を出してくれる。
「あれを魔法球で打ち抜く感じなんですが…。」
ピロンと音がして手首を見る。アニサちゃんがメッセージを受信している。
「最初の関門です。魔法球に、規定があります。」
総魔力量がどれくらいで、属性値がどうのこうの…。
(うちの商品の、火球拡張補助ブレスレットを使えれば楽なんだけど、反則だしね…。)
「競技者、スローワーは、この円の中から魔法球を投げます。
ボックスの壁は魔法壁で、規定球以外は霧散する感じですね。」
規定球だけが、中に投げ入れられるという訳ね。
魔法壁はかなりの強度。
もちろん、魔王とかが壊そうと思えば壊れちゃうだろうけど、壊そうとする人はいないでしょう。
弁償代とか、考えるだけで恐ろしい。
そんな私の横を、凄いスピードで魔法球が通過した。
リハネだ。
ちゃんとボックスの中に入っている。
「こんな感じか?」
どうって事ないな。そんな表情。
(流石、と言いたい所だけど、まだスタートラインなのよね…。)
「これを三秒で作ります。」
ちょっと、リハネの表情がこわばった。
「スタートと同時に魔法球を作ってもらいます。
投擲可能時間は三秒間で、その間なら何発撃ってもらっても構いません。」
立て続けに三発、ボックスの中へ入る魔法球。
カナミアだ。
「三秒経つと魔法壁の強度が変わり通れなくなる仕組みですね。」
今は練習モードだから、時間制限がない訳か。
「まずは練習として、一回やってみましょうか。」
カナミアが配置につく。
終始ニッコニコのソルテローラさんの号令と同時、放たれる三つの魔法球。
真っすぐに飛んで行き、三か所の的を打ち抜いた。
「コツとか、いります?」
「いらん。大人しく見ていろ。」
勇者達はバチバチ。
リハネが配置についた。
号令がかかる。
やはりすぐには放てない。
三秒ぎりぎりで放たれた球は、一球。
いや、一球撃てただけでも凄い。
攻撃力を上げる訓練はしても、下げる訓練なんてまずしないはず。
だから今回が初めてで、それでも成功させている。抜群の魔力制御能力よ。
おそらく、私達四人共同じ感想。
そう、ゾトの勇者の実力を。
武器の相性があるとはいえ、ゾトの魔王に勝利した彼女を舐めていた。
リハネの投げた魔法球が、途中で爆発。
三つに分裂し、見事、三つの的を打ち抜いた。
「ルール違反じゃ、ないよな?」
リハネが区長に聞く。
「…ええ、バーストは公式大会でも認めている技術です。
ご存知だったんですか?」
ソルテローラさんの笑みが、若干引きつる。
「いや、三球用意するより、そういう球を一球作る方が楽そうだと思っただけだ。」
リハネは満足そう。
これが、修羅場をくぐり抜けてきた者の閃きってやつね。
「で、二人共、的を全部落とした訳だが、外すまでやるのか?
私はそれでも構わないが、相当かかるぞ?」
「ご心配なく。ちゃんとルールがあります。」
再びアニサちゃんにメッセージが届く。
「基本は落とした的の多い方が勝ちですが、同数だった場合。
三つ目の的を落としたタイムが、遅い方の勝ちです。」
「遅い方?早い方じゃなくて?」
「ええ。ただ、遅すぎてもダメです。制限時間10秒ですから。」
そう、これこそがトリッキーシューター。
開始3秒で球を投げた場合、7秒近く滞空させ、時間ぎりぎりで的を撃つ。
つまり、これは。
10秒ジャストで最後の的を射抜く事を目指す競技だ。
「跳弾、カーブ、スロー、そして先程のバースト。
そういう技術を駆使して、戦う訳です。」
速さを競うスピードシューターや、障害物をぶち破るパワーシューターといった競技もある。
でも、トリッキーシューターがダントツで人気。
スピードやパワー、そしてテクニックも必要な競技だから。
「的の配置も公式大会には規定がありまして。
基本出現パターンは、【A】~【Z】の26種。そこから派生がある感じですね。
A‐2とかA‐3とか。
地形も、今回はフラットでしたが、障害物があるパターンもあります。
特にX~Zの難易度は高く、的に当てるのも大変だったり。」
リハネは真剣に説明を聞いている。
この競技の難しさというか、奥深さというか。
そういうのが分かって、余裕が消えたのだと思う。
いつの間にか。
カナミアが配置についていた。
号令と共に投げた球は、一球。
的とは見当違いな方向へ飛んで行く。
そして、壁際で爆発。
リハネもやったバーストという技術。
方向を変えた球は、一つの的を射抜き、反対側の壁際へ。
そして再び爆発、また一つの的を射抜き戻って来る。
壁際から壁際へ。それを数度繰り返す。
爆発の度に加速する球は、もはや目で追えず、連続する爆発音だけが響く。
最後に。
派手な音と共に、最後の的が爆ぜた。
9.6秒。
そんなタイムが、表示される。
「多段式バースト。【サンダー】という技です。
今では彼女の代名詞で、【サンダークイーン】なんて異名まであるんですよ。」
ソルテローラさんが得意げに解説してくれた。
「ほんとに凄いです。戦闘でも使うんですか?」
やや照れているカナミアにツツジちゃんが近づいて、そんな事を言った。
ツツジちゃんだから。
皮肉とかではなく、素直な感想でしょう。
「確かに、最高速度の時に無防備に当たれば大怪我するでしょうけど。
戦闘向きじゃないですね。
これを使うんだったら、素直に雷矢を放った方が強いです。
もちろん、これが使えるほどの魔法制御レベルは、戦闘にも役立ちますが。」
「なあ。」
私と区長もカナミアに近づこうとした時、リハネの声が聞こえた。
彼女は、配置についている。
「盛り上がってる所悪いんだが、先にいいか?
こっちの準備は出来てる。」
「えっと、リハネ様…。」
ソルテローラさんに、戸惑いがある。
これほどの実力を見せられて、まだ続けるのかと。
「号令を頼む。白黒つけよう。」
迫力がある。
彼女は、勇者なのだ。自分が決めた勝負から、勝手に降りたりしない。
それを感じとったのか、区長は黙って指定位置へ。
そして号令をかける。
三秒ぎりぎりで放たれる一球。
それはカナミアのと同じように壁ぎわへと飛んで行く。
爆発。
からの方向転換、そして加速。
的を一つ射抜き、壁際で再爆発。
そう。カナミアのサンダーと同じ動きだ。
「!?…一度見ただけで…?」
ソルテローラさんが息をのむ。
私もだ。
同時に、『ワッポノ君は、大変だなぁ。』ユンゼスさんの言葉が浮かんだ。
「…ダメか。」
悔しそうなリハネの声が聞こえて。
彼女の球が消えた。
最後の的を打ち抜けずに。
「私の負けだな。」
リハネが両手を上げる。
降参のポーズ。
誰も言葉を発せない。
打ち抜いた数は三対二でカナミアの勝利。
仮に最後の的を打ち抜けたとしても、タイムは7秒くらい。
どちらにしてもリハネの負けだ。
しかし。
(さっきルールを聞いて、三球目でこれって…。)
既に、公式大会ベスト8の実力はある。
この場に、トリッキーシューターのプロの関係者がいなくてよかった。
そう思う。
「カナミアだっけ?すげーなあんた。
クイーンって事は、あんたがトップかい?」
表情の柔らかくなったリハネが、カナミアに話しかける。
「…いえ。私は西区のトップであって、世界の一位ではないですね。」
思うところはありそうだが、カナミアは普通に対応する。
「現在の一位は、東区のクオリーさん。
私が勇者になった頃からの不動の王者です。
異名は、【ドーナツキング】。」
「ドーナツ?」
「技名ですね。
球が円を描くように高速回転して、その場に留まるんです。」
リハネは、カナミアのセイの画面を食い入るようにみる。
「彼のプレイスタイルはですね。
まずフィニッシュターゲットを決めるんです。
そして、それ以外を速攻で打ち抜きます。一つの球をバーストさせて。
初球がとにかく速いんです。
こう手を前に突き出しておいて、号令と同時に発射される感じですね。
そして、残り時間ぎりぎりまで引っ張って、ドーナツ球を放ちます。
球は回転を続け、残り1秒でバースト。
彼は10秒ジャストを連発しますし、ずれても9.8秒とかです。
凄いですよ。キングは。」
私もアニサちゃんで調べてみる。
動画を見つけた。
一瞬で打ち抜かれた二つの的に、気づくと回っているドーナツ。
この時点で、観客は大盛り上がりだ。
(ちなみに、他の区は…。)
南区のトッププレイヤーの情報が見つかった。
名前はザッタヌー。異名は【サイレントワーカー】。
超スロー球を三球投げる。
時間ぎりぎりまで、ふよふよさせる。
そして、それぞれをバーストさせて三つの的を射抜く。
キングやクイーンに比べると、地味。
でも、確実性のあるグッドプレイヤーだ。
(これも、北区の情報は無しか…。)
気になって、トリッキーシューターに限らず何でもいいから北区の情報がないかを探してみる。
一応でてきた。
普通に人が暮らす、普通の町みたいな感じ。
北区は、内外から隔絶された場所ではないらしい。
(ただ、積極性がないというか…。やはり何かを隠している?)
ユンゼスさんに聞いてみるべきだろうか?
深い意味とかではなく、軽く、どんな印象か、みたいな。
(あ、カナミアに聞くのはありかも。)
彼女は他国の人間で、ヨダーシルに半年近く滞在している。
しかも勇者だ。悪意みたいのには敏感ではなかろうか。
(取り越し苦労なら、それが一番なんだから。)
そう思って、カナミアに近づく。
…でも四人で仲良く話しているから、後でもいいか。
「実は、三年前に伝説の試合がありまして。
ドーナツキングと、ある対戦者の公式大会決勝。
互いに10秒ジャストを取り続けるという異次元の戦いで。
結果、7セット目、対戦者が的を外して決着。」
「試合もさることながら、表彰式の話もよく聞きます。
キングが大号泣したのは、あの時が最初で最後とか。
準優勝者に慰められて、どっちが勝者か分からなかったとか。」
そう、カナミアが話した時。
ピロンと、ソルテローラさんのセイが鳴った。
「あ、みなさん。西区、調べ終わりましたよ。
ワッポノさんは、いないみたいですね…。」
続けて、私達三人の方も鳴った。
どうやら東区へ向かっても大丈夫らしい。
「カナミア。
今日の所は私の負けだ。」
二人の勇者は顔を見合わせ、不敵に笑いあう。
「でも、リベンジはするからな。」
「ええ、待っています。トリッキーシューターも、手合わせの方も。」
流れ的に、このまま東区へ向かう感じかな。
ソルテローラさんとカナミアに、お礼と再会の約束をして別れる。
気になる事、話したい事はあるけれど。
そういうのは、ポノ君を見つけた後でよい。
魔力を使った競技がほしかった為、トリッキーシューターをつくりました。
名前だけは出てくるので、そんなのあったなぁぐらいに思ってもらえたらOK。
競技内容や、他区のキングの情報は、おそらくもう出てこないでしょう…。
実はキングと伝説の試合を繰り広げたのは、ユンゼス。
という設定があったのですが、没になったので(笑)




