第124話 城塞都市ヨダーシル~南区~
~前回までのクレスタ~
私達3人は、列車に乗ってヨダーシルを目指す。
ヨダーシルは、東西南北の4区に分かれていて、それぞれに区長がいる。
その4人の区長が、新都市長になるべく選挙活動をしている状況。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__勇者捜索隊
●クレスタ:フフゴケ商会、商会員
〇ツツジ :勇者隊、サポート員
〇リハネ :ゾトの勇者
□セイ :色々できる腕輪型のデバイス。人工知能(AI)搭載
__勇者隊
〇リガーナ:ゾトの魔王
__行方不明
〇ワッポノ:マーアの勇者
__ヨダーシル
〇ユンゼス:南区の区長
マーアを出発して、三日。
列車は、ヨダーシルの南区の駅へ到着した。
(こんな形で来る事になるとはね。)
ヨダーシルとセンレイ会は、フフゴケ商会がライバル視している。
いつかは視察に、と考えてはいた。
魔王討伐を果たし、ようやく肩を並べられたと思ったけど。
ここ数年のヨダーシルの伸びは凄まじく、完全に独走状態。
(列車の窓から見た、ヨダーシルの外壁は高かった。
魔王最前線のバクー王国の首都よりも。)
正直、恐ろしい。
(まあ、フフゴケ商会の目標は、世界一の商会になる事じゃない。
つまり、ヨダーシルと対立する必要もない。
気楽に見せてもらいましょう、世界一の技術を。
それで、私達が断海を越える為の参考にさせてもらいましょう。)
でもそれは、ポノ君を探し出した後の話だ。
決意を新たに、一歩を踏み出して。
「リハネ~、そっちじゃないわよ~。」
逆方向へ進む仲間に声をかける。
「魔物が見えたんだ。」
首元の通信機からリハネの声。
「マーアでも見た、馬みたいなやつ。
警戒しているのか、遠巻きに見ているだけで近づいてきていない。」
彼女は、止まらず進み続ける。その先は線路だ。
「レールから離れている所為か、竜機兵が出てこない。
恐らく、近づかなければ撃退はしない考えなんだろう。
しかし、魔物は残しておいていい事は何もない。
ここを離れ、旅人を襲うかもしれない。
だから、潰しておく。」
「OKよ。私もあなたの意見に賛成。
でも物事には順序というか、手続きというか、そういうのもあってね。
簡単に言うと、線路を逆走して国外に出るのは不味いわ。
ちょっと待ってもらっていい?」
返答はない。
(真面目で行動力のある所は、美点でもあるんだけどね!)
荷物をツツジちゃんに任せて、走る。
リハネを止める為に。
「流石勇者様。立派な考えです。」
私がリハネの前に立ちふさがった時、一人の男性が現れた。
緑色の髪で、少しくたびれた深緑色のスーツを着た人物。
その顔には、覚えがある。
「ユンゼスさん。」
「お久しぶりですクレスタさん。それから、リハネさんかな?
ようこそ、ヨダーシルへ。」
区長の登場に、リハネは足を止める。
「初めまして区長。
いきなりで申し訳ないが、今から魔物の討伐に行く。
許可がほしい。」
本人に自覚はないと思うけど、リハネの態度は威圧的だ。
対して、ユンゼスさんは柔和な雰囲気。
「それはありがたい。いくらでも許可しますよ。
あと、少し遠いでしょう?魔走車を出しますから乗ってください。」
そう言って彼は歩き出した。
ツツジちゃんも呼んで、私達三人はユンゼスさんの車に乗せてもらった。
「ユンゼスさんは、どうして駅へ?」
忙しいはずだ。
まさか、出迎えに来てくれた訳ではあるまい。
「魔物を倒しにきたんです。
ヨダーシルも、魔物を放置なんてしませんよ。」
「区長自らですか?責任感のある方なんですね!」
ツツジちゃんの無邪気な感想。
大丈夫。
暇なんですか?みたいなニュアンスはない。
「実は開発物のテストも兼ねようと思いまして。
でも、今回はゾトの勇者様が討伐してくれるとの事なので。」
車が止まる。
肉眼では見えないが、きっとこの先に魔物がいる。
「しっかり見学させてもらおうと思います。
よろしくお願いしますね。」
ユンゼスさんは機械を取り出して設置し始めた。
(測定器、記録装置…。リハネのデータを取るのね。)
テストを兼ねるとか言っていたから、当然持ってきている。
リハネの方は、ストレッチ中だ。
その彼女に近づく。
「リハネ。」
「どうした?」
「データを盗られるのが嫌なら、言うけど?」
「構わないさ。」
獰猛な。
と呼べるような笑み浮かべ、彼女は声を張り上げる。
「竜機兵なんて愉快な物をみせてもらった礼だよ。
データでも、何でも、好きなだけ取ればいい。」
言いながら駆け出して、強く踏み込む。
噴出炎。斜めに火柱を上げながら、彼女は飛んだ。
「勇者とは、こういう者だ!」
空高く現れたのは、巨大な火の鳥。
ブレイブフェニックス。
彼女の代名詞であり、必殺の魔法だ。
「これは、凄い…。」
ユンゼスさんが呟く。
「ワッポノ君は、大変だなぁ。」
もしポノ君が、本当に国から逃げ出したのだとすれば。
実力差。
それが、原因と考えられる。
私達が拠点にしているチヨカ村。
元は魔王軍に占領されていて、ポノ君も開放の為に二度ほど挑んだ。
結果はどちらも敗走。一族の精鋭も多くやられてしまったらしい。
それを。
ふらっとやってきた勇者隊が、事故みたいな形で簡単に奪い返してしまった。
存在意義が、揺れてしまった事だろう。
自分など、いてもいなくても。
魔王討伐に影響など、無い。
(…。)
地に降りた巨鳥は、魔物を一瞬で灰にした。
戻ってきたリハネは、涼しい顔だ。
その彼女を、ユンゼスさんは拍手で出迎える。
「いやはや、実に見事です勇者様。
これは、竜機兵じゃあ耐えられない。」
「その割には余裕そうだ。全然悔しそうに見えない。
あれは、あんたの虎の子じゃないのか?」
「現状を越えられた事より、そのデータが取れた事が大きいですからね。
参考にさせてもらいます。
竜機兵は、更に強くなりますよ。」
「そうかい。
実は私も、まだ強くなるんだ。いつかは勝負をしたいな。」
一触即発な空気を感じてか、ツツジちゃんがオロオロしだす。
その手を握って安心させる。
「大丈夫、二人共あれで大人だから。ちゃんとわきまえているわ。」
小声で、そっと伝えた。
私にとっては、微笑ましい光景だ。
私の仲間には、負けず嫌いが多いから。
(きっとそういう所も、ポノ君には重荷だったのかもしれない。)
誰もが同じ感想にはならない。
私と、ツツジちゃんみたいに。
無事魔物を討伐した私達は、そのまま魔走車で区役所まで行った。
区長室に入り、促されたからソファーに座る。
フカフカだ。
「改めて、ようこそヨダーシルへ。
ここは南区。区長のユンゼスです。
どうぞよろしく。」
改めてとの事なので、私達三人も軽く自己紹介。
そして、ポノ君を探してやってきた事も伝える。
「一応、私の方でもワッポノ君を探しました。
結果、南区にはいませんね。」
言いながら、ユンゼスさんは腕輪に触れる。
私達の前のテーブルに、南区の地図が現れた。
ホログラム映像というものではないだろうか。
さぞ二人も驚いただろうと様子を見るが、あまり驚いていない様子。
列車や竜機兵は驚愕していたのに。
(なるほど。これは、魔法っぽいからか。)
土魔法や水魔法なら、似たような再現が出来そうだ。
なまじ近未来的な世界観だから、ややこしい。
「どうやって探したんだ?」
リハネが聞く。
「それはですね。
…それを答える前に、こちらを着けてください。」
一人に一つ渡されたのは、腕輪。
腕輪と言うよりは、スマートウォッチを縦長にしたような感じ。
ユンゼスさんがつけているようなやつだ。
「本当は入国の手続きの時に渡すんですが、ごたごたしてましたから。
この国にいる間は、着けていて下さい。」
着けて、軽く動かしてみる。
重くもないし、違和感もない。
…まあ私の場合、腕輪を結構つけてるから、一つ増えた所で感はある。
ツツジちゃんも問題なさそう。新しいアクセサリーにウキウキしてるみたい。
でも、リハネは着けようとしない。
腕輪を睨んで、一言。
「監視の為か?」
まあ。
私も、そうかなと思ったけど、言い方よ。
「そうですね。監視の為です。」
こっちもか。
まあ、下手に隠さないほうがいいのかな?
「『神は見ている』とか、『お天道様が見ている』とか聞いた事ないですか?
誰も見ていなくても、神や仏が、もしくは自分の良心が見ているのだから、悪事を働いてはならないという教訓です。
まあ、この辺は地域差ですね。
神や仏の概念の有無、神よりも魔王として伝わってたりもしますから。」
笑顔で続けるユンゼスさん。
えっと、なぜ監視用の腕輪を着けてもらうのかの説明。で、いいのよね?
「それは知っている。」
リハネ、知ってるんだ。
私も知ってるのよ。ウーイングだとそんな話はなかったけど、前の世界でね。
「…つまりあんたは、『超常の存在に見られているのだから、既に監視されているようなものだ』とでも言いたいのか?
それとは全然違うだろ?
いるかどうかも分からない奴ではなく、これは明確に監視を目的に、監視をしている。」
リハネは不機嫌である事を隠したりしない。
「確かに。
監視されている、という事に忌避感がある方もいます。
一応、こちらの言い分としては、『【人間】が監視している訳ではない。』というのがありますね。
そのデータを人間が見る事は、重罪ですから。」
「人間が監視しない?なら、何が監視するんだ?」
「この腕輪ですよ。【セイ】という名前です。」
ユンゼスさんが左腕を前に出す。
その腕輪の上に、ホログラム映像が現れる。
銀色で長髪の女の子だ。サイズは掌ぐらいだろうか。
(彼女がセイ。イメージアバターでしょうね。
本来はプログラム。形はないはず。)
セイは丁寧にお辞儀をして、姿を消した。
「基本的に、法に触れない限り何もしません。
法に触れそうな時は教えてくれます。
まあ、だから、知らずにやってしまったは通用しないんですが。」
ユンゼスさんは、腕輪を優しく撫でながら続ける。
「希望があれば、色々やってくれます。
聞けば答えてくれますし、話し相手にもなってくれます。
音楽を流してくれますし、時間になると起こしてくれます。
体調管理だってしてくれますよ。
もちろん、何もしないもしてくれます。
家の鍵に宿った付喪神だと思ってもらえたら幸いです。」
装着理由は、あくまで犯罪防止の為。
色々サービスだってついてますよ。って訳か。
(監視カメラを導入するにあたっての説明会みたいね。)
なんというか。
世界観が違う。
神とか仏とか、付喪神。そしてホログラムに超高性能AI。まるで私が元いた世界みたい。
(元は私と同じか、近しい異世界からの転移・転生者の知識…。
それを、こちらの技術で完成させた。フフゴケ商会のように。)
だと思っていた。
リガーナも、異世界人はいなくはないって言ってたし。
でも伝わり方が偏っているというか、言語の壁はある中で、こんなに正確に伝わる事があるだろうか?
(これひょっとして、別の可能性もあるかも…。)
ある異世界があって。
その異世界から影響を受けている。
私の元いた世界も、この世界も。
ある異世界。例えば。天上の国。
(…なんて、今考える事じゃないわね。)
リハネは腕輪を着けた。
完全に納得はしていない。仕方なく、といった感じ。
「ここにいる間は着けないといけないなら、着けるさ。
用事があるんだ。
追い出される訳にはいかないし、無駄なトラブルを起こす気もない。」
『よろしくお願いいたします。』
腕輪から声がして、リハネがビクっとなった。
気づかなかった、ふりをしてあげよう。
ついでに、自分のを少し弄ってみる。
『よろしくお願いいたします。』の声が、前に聞いたユンゼスさんのと違ったから。
(名前も同じだし、監視が目的ならネットワーク上で情報を共有しているはず。
要は、根本システムは同じ…。)
音声が違うということは、自分用にカスタマイズ出来そうだ。
あ、見つけた。
(声以外に見た目も変えられるのね。名前も変更可能と。あ、猫にも出来る。)
とりあえず、サニアちゃんみたいな子にしてみる。
名前はアニサ。
かなりの完成度だと思う。
(よろしくね~。)
(よろしく。)
これは、いいわね。
「では、話を戻しますね。
ワッポノ君をどうやって探したか?
セイには個人特定機能と位置特定機能がありまして。
彼はセイを持っていない。
つまり、いる場合は不法入国者です。
南区にいる人間を、熱や魔力で見つけまして。
そこから正規住民を除くと、残ったのが不正規住民となる訳です。
で、結果は全員正規住民でした。」
なるほど。
私達が探すよりも正確でしょうね。
「そのデータみたいのを見せてもらう事は?」
リハネは食いつくわね。
でも、そうか。
これくらい疑ってもいいのかも知れない。
町ぐるみ、なんて可能性も否定できないから。
(でも、それならここまで協力してくれないか。)
そもそもポノ君をヨダーシルに誘った、なんて言わなければいい。
それでも最悪を考えるなら。
勇者隊の分断。それこそが、敵、の目的。とか?
「流石にご勘弁を。
実は話すのも、グレーなんですよ。」
笑ってくれているが、迷惑をかけてしまったようだ。
それだけポノ君の件を親身に考えてくれている、のかな?
「もちろん、観光がてら南区を回ってもらっても構いませんよ。
ただ。」
ピロン、と。
腕輪が鳴った。
「申請が通りました。これで皆さんは西区へ行けます。
東区と北区は、もう少々お待ちください。」
ちょっと、三人顔を寄せて相談。
「どうする?」
「一応南区は調べてもらったし、西区でいいんじゃないかしら?」
「すいませーん。」
ツツジちゃんが挙手。
「他の区も、南区みたいな感じで探してもらえないんですか?」
「残念ですが、それは他の区の区長の許可がいりますね。
勝手にやると、怒られます。」
まだ聞きたそうなツツジちゃんに、一旦ストップをかける。
ユンゼスさんなら、それが可能なら既にやってくれているはず。
でも出来ていないという事は、気軽に頼めるものではないという事。
今は選挙の時期なのだ。
相手に頼りたくない。というのもあるかもしれない。
つまり、この件は掘り下げない方がいい。
「西区に行った後、南区に戻れるのか?」
リハネは挙手せずに聞く。
「ええ、その為のセイでもあります。
一応、皆さんの拠点として南区のホテルを用意してあります。
荷物もそこに運びましたが、西区に泊まる事も出来ますよ。
その際は、セイに言って下さい。」
私達は、もう一度、顔を見合わせる。
そして。
「それじゃあ私達は、このまま西区へ向かいます。」
「了解です。よい旅を。」
最後まで、ユンゼスさんは笑顔だった。
南区から、西区へ。




