第123話 発端~勇者捜索~
~前回までのクレスタ~
2年ぶりにサニアちゃん達と再会。色々あったみたいで、勇者隊なんて大所帯になってたわ。
マーアの勇者、ワッポノ君が行方不明。城塞都市ヨダーシルにいるかも知れないって話よ。
私とツツジちゃんとリハネの3人は、ワッポノ君の捜索の為、ヨダーシルへ向かうわ。
◇登場人物◇ ※●が視点者
__勇者捜索隊
●クレスタ:フフゴケ商会、商会員
〇ツツジ :勇者隊、サポート員
〇リハネ :ゾトの勇者
__行方不明
〇ワッポノ:マーアの勇者
霞がかる早朝。私は駅前で二人を待つ。
今日は、ヨダーシルへ出発する日。
「おはようございます。」
「はい、おはよう。」
ツツジちゃんが来た。やはり、集合時間より大分早い。
彼女の格好は、昨日、皆で選んだ物だ。
白基調の薄地の長袖に、白のロングスカート。
ベストとか、小バックの黒色がいい感じで気に入っている。
本人も、私も。
戦闘、というか激しい運動には適さないけど、長時間歩き回っても疲れないような物を選んだ。
あえて地味目にはしてある。
ツツジちゃん、可愛いし、知らない人に声とかかけられたくないし。
彼女の持ってきた、大きな旅行カバンの中に入っているであろう着替えもそんな感じ。
(列車で、ヨダーシルまで二泊三日。で、二週間滞在予定。
まあ、不都合があれば向こうで買えばいいか。)
などと考えていると。
「おはよう。二人共、早いな。」
「おはようございます。」
「おはよう。あなただって早いわよ。」
ゾトの勇者、リハネがやってきた。
真っ赤な長髪と、挑発的なつり目。
身長は私と同じくらい。
こう見えて私は、若い商会員の子に「脚が長くてカッコイイです~。」ってお世辞を言われるんだけど、その私からみても、いいスタイルだと思う。胸おっきいし。
(昨日選んだ服、ちゃんと着てくれて嬉しいわ~。)
赤のタンクトップに、青のジャケット。黒の長ズボン。
一見すると、ただの服。
しかし彼女は護衛役。しっかり戦闘服だ。
単純に丈夫だし、伸びる。
ジェケットの内側は回復薬やら治療薬が入っているし、袖の下に隠し武器がある。
ヨダーシル内は鎧で武装してる人はいないっていうから、目立たないように工夫した訳だ。
一番こだわったのは、丈。
動いた時、きっとへそチラする。そのギリギリのラインを、攻めた。
本人も動きやすいって言ってくれたし、問題は何もない。
二人に合わせて、自分の服も新調した。
黒の長袖に、白ジャケット。ブラウンの長ズボン。
ちなみに髪色は、今まで通り黄色。髪型も、ポニーテールのまま。
全員に黒色を入れた感じね。
機能性はツツジちゃんと同系列。戦闘用ではなく、動き回るよう。
マーアでこの服装だと目立つけど、ヨダーシルなら目立たないはず。
着いてから着替えればいいって?だって早く、着たいじゃない。
二人共、ちょっと楽しみなのが伝わって嬉しいわ。
大丈夫。目的はポノ君。忘れてなんか、いない。
私達の乗る、貨物列車。
正確には貨物魔列車は、コンテナを積載した貨車を牽引するタイプ。
前の方に乗客・乗務員用の車両があり、私達はそこに乗り込む。
なんと贅沢に一人一部屋の個室な訳だけど、お喋りしたいから私の部屋に集合。
昨日の買い物の時の事を喋っていたら、列車が動き出す。
二人は列車が初めてだ。
最初は緊張した面持ちで。でも動きだしてからは、窓の外に釘付けだ。
私はそんな二人を眺める。
遠い昔。電車に乗った事はある。正直、そんなに覚えていない。
こんな感じだったような気も、しないでもないけれど。
「凄いですよ、クレスタさん。窓の外、見ないんですか!?」
窓の外より、あなたを見てた方が楽しいわ。
なんて、もちろん言わない。
「ええ。私はマーアに来る時、乗せてもらったから。
ここは二人に譲るわ。」
「いや、私もいい。確かに馬より大分早いが、見慣れたマーアの国だ。
それより、ヨダーシルの話が聞きたい。」
リハネが、私を見る。
「話によく聞く町だ。名前だけは知ってる。凄い所という事も。
実際、こんな物を造るんだから、相当なんだろう。
でも具体的な事は、何も知らないんだ。」
勉強熱心で大変よろしい。
私だってそんなに詳しい訳ではないが、知っている事は教えましょう。
「OK。え~と、ね…。」
私が、話しだそうとした時。
「あ!」
窓を見ていたツツジちゃんが叫んだ。
「大変!魔物です!」
確かに。
馬っぽい魔物が数頭、体当たりする勢いで突っ込んでくる。
確かに人参の入ったコンテナはあるけれど…。
まあ、魔物だし。こういう事もある。
「大丈夫。」
心配そうなツツジちゃんと、飛び出しそうになるリハネに向けて。
「列車を動かすというのは、安全に動かせる状況を造るという事よ。」
魔物を跳ね飛ばして進めない事もないかもだけど、それで脱輪でもしたら大惨事だ。
魔物がいる世界で、列車を動かすなら。
当然、魔物対策はしてある。
「何だ、あれは?」
流石のリハネも驚いたみたい。
そうよね。世界観がおかしいとは思うわ。
魔物の前に現れたのは、三機の人型ロポットだ。
見た目は、バクー王国にある古の魔導超兵器と似ているかもしれない。
大きさは、あれと比べると小さく、だいたい二~三メートル。
ロボットは掌から光弾を発射して、瞬く間に魔物を蹴散らす。
そして、どこかへ飛んで行った。
「竜機兵、というらしいわ。レールの守備兵ね。
人が乗って操縦するタイプでもないし、人が纏っている鎧でもない。
自動制御で動く、完全な無人機。
空を飛んで、熱弾を発射する。
ドラゴンをイメージして造られたから、この名前ね。
前は、もっと竜っぽかったらしいけど、不評だったらしくて今のデザインになったそうよ。
中継地点に数機配置されていて、レールに魔物が接近すると迎撃する為に飛んでくる。
レールに悪さする輩がいた場合も飛んでくるらしいわ。」
列車やレール自体にも、そういう撃退用の仕掛けがあるらしい。
機械と魔法のなせる業、とでもいうのだろうか。
ここまで来ると、流石に仕組みは分からない。
「竜機兵か。戦ってみたい所だが…。」
「おすすめはしないわね。一機造るのに、相当かかるみたいだし。
レールが敷かれた六か国には、列車関係の法律が出来たし。
戦うのは簡単かもしれないけど、得る物より失う物が大きすぎるわ。」
だからこそ、そのパーツは高く売れる!
なんて、一瞬だけ盛り上がったけど、一瞬で廃れた。
あれに慈悲なんてない。死のリスクがあまりにも高すぎる。
あれに挑むなら海に潜って鉱石を掘った方がいい。
それが、盗賊達の共通認識。
「ヨダーシルはね。」
トラブルも片付いた事だし、改めてヨダーシルの話に入る。
「東西南北の四区に分かれているのよ。
前都市長であるオーズンの、四人の弟子達がそれぞれの区長を務めている。」
窓の外を見ていたツツジちゃんも、私を見る。
「ヨダーシルは、国としては世界で二番目に狭い領土なんて言われているけど、その領土全てが、一つの都市。
つまり、町としては世界最大。
世界一の領土を持つウーイングの、王都よりも大きい。
広すぎるというのも影響していると思うけど、それぞれの区の独立性が高いのよ。
区間の移動に手続きが必要になるくらい。
別の町が四つある、みたいなイメージかしら。」
「別の区とは、仲がよくないんですか?」
ツツジちゃんが、聞いてくる。
「どうかしらね。対抗意識みたいのはあるみたいだけど。
区ごとに特色があるのよ。」
「特色?」
こんどはリハネだ。
「そう。
例えば、南区。
オーズンから技術を受け継いだ場所。
あの竜機兵も、この列車も、造ったのは南区よ。
区長はユンゼスさん、30歳。」
「クレスタさんのお知り合いですよね。情報提供もしてくれた方だとか。」
「ツツジちゃんの言う通りよ。
私達は、最初に彼に会いにいくわ。
事情を聞く為と、協力を得る為ね。
普通だと区の移動手続きに、下手すると三日、なんて事もあるらしくて。
だからその辺りの融通を利かせてもらう。
列車は南区の駅まで行くから、そのまま区役所までいく感じかな。」
私は、ヨダーシルの地図を広げて二人に見せる。
「次に、東区。
区長はラデュームさん、30歳。
オーズンから受け継いだのは、力。」
「力…。」
「力?」
そうよね、抽象的すぎるものね。
「ヨダーシルは魔法とか機械とかが有名だけど、それらを使いこなす力も重要って訳。
学問やスポーツ。人を育てる事にも力を入れているのよ。」
「つまりこのデカい建物は、学校であったり、競技場だったりするのか?」
地図を指さしながら、リハネが聞いてくる。
「そういう事。
【トリッキーシューター】っていう的当ての競技があって、それの発祥もヨダーシルみたい。
ワイバン大陸中央だと、メジャーで大人気なスポーツらしいわ。」
二人の様子をみる。
OK。興味はトリッキーシューターじゃなくて、ヨダーシルね。
「北区。
区長はロミスオッドさん、30歳。
オーズンの夢を引き継いだ、らしいわ。」
リハネの眉が動く。
元魔王の夢と聞いて、不穏な空気を感じ取ったのかもしれない。
「実は、夢の内容は分かっていないの。
一説には、コア王国の復興なんてのもある。
オーズンは若い時、コア王国の王都にいた事もあって、無二の友人とコア王国をよくしようなんて約束をしたらしいわ。」
そして、それは叶う事なくコア王国は滅びた。
「…コア王国の王都の場所は、今はネクーツの領土だな。
まさか、戦争を?」
「あくまで、そういう話もあるってだけ。確証はないわ。
オーズンの遺産である凶悪兵器を受け取った、なんて話も噂に過ぎない。」
「でも、火のない所に煙は立たない。」
「根が無くとも花は咲くわ。とはいえ、警戒する事には賛成だけど。」
なるべく、明るく言う。
風評被害は嫌いだし、先入観もよくないけど。
信じる根拠だってない。
出来れば、北区に行くことなくポノ君を見つけたい。
「最後は、西区ね。
区長は、ソルテローラさん、23歳。
オーズンから託されたのは、ヨダーシルに住む、人々。」
「…それは、前都市長から、直々に都市長になるよう頼まれた、という事では?」
なるほど。ツツジちゃんにとって町とは、人なのね。
人が集まって町になるのだから、その考えは分かりやすい。
「そうね。
実際、西区の区長の評判はいいわ。
でも、人数がいるからね。
否定的な人も当然いる。
それこそ、今回の都市長選。言い出したのは西区なんて話もある。
自慢の区長を都市長にしたい派もいるでしょうけど、都市長を別にする事で区長の権限を落としたい派もいるとか。
こう言っては何だけど、若い女性だから支持されないなんて噂もある。」
「あ、それ思いました。区長の方、皆さん若いですよね。
23歳と、30歳が3人。
マーアだと町長は、だいたい年長者が多いですから。」
「他の所でも経験が豊富な方が選ばれたりするわ。
ヨダーシルのケースは、かなりレアよ。
誰が都市長になったとしても、相当話題になる。
お世話になってるからユンゼスさんを応援してるけど、西区のソルテローラさんにも頑張ってほしいわ。私達と同年齢だしね。」
ね、リハネ。と、同意を得ようと彼女を見ると、何やら険しい顔。
「クーデター未遂があったんだよな。10年くらい前に。
それで、大規模の粛清があって。
ほとんどの側近が処罰されて。
だから若いのしか残らなかった。だろ?」
「リハネ~。
何も知らないなんて、謙遜?
詳しいじゃない。その通りよ。」
おっと、ツツジちゃんが反応に困ってる。
面白い話じゃないものね。
じゃあ、さらっと流しますか。
「でも、それだけじゃない。
四人は、オーズンに認められて区長になったの。
その仕事を、一年間やりきって。
偉大なる前都市長の、その後継者として。
新都市長になる為に、今回、選挙をするのよ。」
辺りが少し暗くなる。
太陽が雲に隠れたから。
よく見ると、分厚い雲だ。
一雨、くるかもしれない。
「私達は。」
ツツジちゃんが、独り言のように呟いた。
「そういう所に向かっているんですね…。」
窓に一滴、ついたと思ったら。
あっという間に降り出した。
さっきまで、いい天気だと思ったのに。
(ヨダーシルの選挙か。)
この天気みたいに、荒れないといいけど。
1章でも2章でも3章でも、名前だけは登場していたヨダーシル。
第4章の舞台は、ここです。




