第122話 発端~二年ぶり~
~世界情勢~
マーア王国が、クーランの魔王へ宣戦布告。実行部隊は勇者隊。
ヨダーシルがマーア王国、及び勇者隊を支援。
ヨダーシル内で、何かあるらしい。
◇登場人物◇
__勇者隊・ウーイング組(第一章で活躍)
●クレスタ:23歳、女性。フフゴケ商会、商会員
〇トワ :18歳、女性。戦績ランキング1位
〇サニア :19歳、女性。戦績ランキング5位
〇ガットル:20歳、男性。戦績ランキング6位
〇ディオル:22歳、男性。戦績ランキング2位
〇フフゴケ:48歳、男性。フフゴケ商会、商会長
※ガットル、トワは春が誕生日で+1。他は夏以降なのでこうなります。
第一章は秋スタート。そして今は春。
__勇者隊・ウーイング途中合流組(第二章で活躍)
〇リガーナ:16歳、女性。戦績ランキング3位
〇ロストン:22歳?男性。戦績ランキング4位
__勇者隊・マーア組(第四章で初登場)
●ワッポノ:14歳、男性。戦績ランキング11位(最下位)
●ツツジ :14歳、女性。勇者隊、サポート員
〇カソロー:35歳、男性。戦績ランキング10位
__勇者隊・ゾト組(第二章にちょっとだけ登場)
●リハネ :23歳、女性。戦績ランキング7位
〇ミュナ :19歳、女性。戦績ランキング8位
〇トドゥン:79歳、男性。戦績ランキング9位
*クレスタ視点*
「サニア。」
(え、そんな優しい声出せたの?)
いつもと全然違う雰囲気にビックリする。
名前を呼ばれ、サニアちゃんが気付く。
二人は見つめ合ったまま、しばらく動かなかった。
「久しぶり、サニア。」
もう一度、その名を呼んで。
トワは、ゆっくり近づいて行く。
「久しぶり。トワ。」
(おう…。)
ごく自然に二人はハグ。
キスするんじゃないかと、ドキドキした。
しなかったけど。
「ここに来た事、怒ってる?」
「まさか。あなたの決断を、怒ったりしないわ。」
二人はそっと離れて、再び見つめ合って。
「会えて嬉しいわ、トワ。」
「僕もだよ、サニア。」
(すげぇ…。)
二年ぶりの親友の再会。とても美しいシーン。
(感極まったんでしょうね。二人とも、恥ずかしいとかは無いんだわ。)
こうなる事も予測は出来ていた。
だからトワに、一人で会えば?見たいな感じで提案したんだけど。
『なんで?サニアもクレスタに会いたいよ?』とか言われて。
確かに、久しぶりの再会で二人きりも困るかもしれない。とか思っちゃって。
今は後悔している。
私がここにいて、二人きりに出来なくてごめんね。
「クレスタも。会えて嬉しいわ。」
「お久~。」
気まで遣わせて、ごめん。
私達ウーイングの勇者パーティーは、冒険の末、レーグの魔王の討伐を果たす。
その後、都合により二手に別れた。二年後の再会を約束して。
で、二年経って。
それで先程の感動シーンだ。
今は三人で座って、あれから何があったかを話している。
平和だったこっちと違って、サニアちゃんの方は色々あったみたい。
サニアちゃんと、ガットル君と、ディオルの三人は、ゾトの魔王に会う為にテイブの港町で船の出航を待っていた。
そしたらゾトの魔王の方からやってきた。正確には勇者に敗れて逃げて来た。
ゾトの魔王のリガーナと、その従者ロストン。
二人を仲間に加え、五人で海を越える。
そしてゾトの勇者達、勇者リハネと、その仲間のミュナとトドゥン。
彼女達と激闘を繰り広げて、最後には和解。
計画だと、サニアちゃん達はゾトの魔王の居城に厄介になって、私達がマーアに到着してから、マーアで合流する感じだった。
でもゾトの魔王の居城は、戦いの最中、完全倒壊。
ゾトに留まる理由はなく、ならマーアまで行ってしまおうかという話になり。
クーランの魔王に興味があるとかで、リハネ達もついてきた。
そう、レーグの魔王を倒した勇者の仲間達と、ゾトの魔王を倒した勇者パーティーは合流する形となり。合計八人でマーア王国にやってきた訳だ。
四大魔王の半数を倒した勇者達が、魔王と険悪な国にやってきたって?
そんなの、残りの魔王を討伐しにきたに違いない。
そんな噂が瞬く間に広まったそう。
サニアちゃん達は、【勇者隊】と言われ注目の的だった。
最終的にはクーランの魔王と事を起こす予定だが、まだ早い。
なぜなら、クーランの魔王と戦う理由はフフゴケ商会の売名の為で。
まだ、フフゴケ商会の準備が出来ていないから。
勇者隊は王都を離れる。でも、割とどこでも注目されて。
人目を避け北上。もちろん、クーランまで行かないようには注意して。
そう、地図上はマーア王国だったのだ。チヨカ村は。
まさか、クーラン魔王軍に占領されているとは思わなかったらしい。
ちょっとした事故。
酒場で口論になって、勇者隊だとバレて。相手も魔王軍だと知って。
乱闘になり、勝ってしまった。完全勝利だ。
結果、チヨカ村から魔王軍は引き上げた。
マーアの国民は喜び、マーアの国王から会いたいと言われ、クーラン魔王軍からは敵視された訳だ。
思わぬ進展をみせた現状、事態を重くみた勇者隊は、現状をフフゴケ商会に伝え指示を仰ぐべく、特別出向偵察員であるガットル君がウーイングへ向かった。
驚いたわよ。私達が別れたのが春。
同年の冬に、ガットル君と再会するなんて思わないから。
その後の勇者隊は、チヨカ村を拠点にして、ちょっとした小競り合いをしつつ、基本的には睨み合い。
それが、今も続いている。
クーランの魔王は恐ろしい強さだけど、こちらの戦力だってヤバい。
討伐された事になっている魔王が二人共仲間にいるのは、ずるいと思う。
フフゴケ商会の方も、マーア王国の方も、態勢はバッチリ。いつ討伐してくれても構わない。
それでも、攻め込まないのは。
もちろん、味方に被害を出したくないってのもあるけど。
リガーナがクーランの魔王と仲がよいらしく、殺し合いを望んでいない。
和解、つまり落としどころを探している。
その為の情報を集めている。
クーラン側も、フフゴケ商会側も、マーア王国側も、納得できるような、そんなのを。
(まあ、私達は、ディオルの時もそんな感じだったし、ねぇ…。)
それにたぶん、リハネの時も。
いつの間にか話題は、一緒に行きたいマーアのお店の話になっている。
仲良く話す二人を見ているのは、大変、和む。
でも、微妙に引っかかりがあるのは、ガットル君との差かもしれない。
ウーイングで再会した時のトワの反応は、『あれ~、ガットルじゃん。どしたの?』なんて、凄く軽かったから。
なんなら、ディオルとの再会シーンの方が、まだ何かあった。
(ガットル君を色々と応援している身としては複雑なのよね…。)
まあ、今、彼は誰が好きなのかは知らないのだけど。
とはいえだ。私達は遊びに来ている訳ではない。
クーランの魔王との和解だなんて、超難問に挑まないとならない。
和解後に、やる事だってある。
寧ろ、そっちが本番。
(…気合入れてこ…。)
それから一か月後。事件が起こる。
「ポノ君が?」
マーア王国、最北部、チヨカ村。
クーラン魔王軍から奪い返して、勇者隊の拠点となっている場所。
その中心、村で一番立派な建物。
作戦司令本部と書かれた部屋に、私はいる。
「ええ。所謂、行方不明という状態です。
この一週間、彼を見た者はいません。」
そう教えてくれるのは、カソローさん。
マーア王国最強の騎士と呼ばれる実力者で、彼も今は勇者隊の仲間。
部屋にいるのは、後二人。
一人はツツジちゃん。
黒髪ロングで、たれ目の小柄な子。
勇者隊のメンバーだけど、戦う子じゃなくてサポート員。
何でも、いいお家柄だとか。勇者の子孫らしいわ。
つまり意思表示ね。私達は、あなた達を支持します、みたいな。
最初に聞いた時は、人質みたいで嫌だな、とも思ったけど。
私が口を挟める話でもないし、何より、ツツジちゃんがいい子なのよ。
よく働いてくれるし、何より可愛い。
(サニアちゃんもいいけど、やっぱり引き締まってるっていうか。
対してツツジちゃんは、その、柔らかそうというか。
ツンツンしてみたいというか。
トワは、ちょっと痩せすぎだから、もっと食べればいい。)
話を戻す。
もう一人の名は、フフゴケ。私の叔父さん。
ガットル君と一緒にここへ来て、以降、フフゴケ商会の商会長として頑張っている。
そう、叔父さんは気合が入っている。
フフゴケ商会の名が知られるようになってきた今、クーランの魔王討伐にも貢献し、更に名を大きくしたい。その考えもあると思う。
でも、一番の理由は別だ。
ワイバン大陸の東、レーグの魔王が討伐。
ライダ大陸の東、ゾトの魔王が討伐。
ライダ大陸中央、マーア王国がクーランの魔王へ宣戦布告。
ワイバン大陸中央、元ヨルタムアーの魔王が死去。
同じくワイバン大陸中央、世界初の魔列車が造られ走り出す。
ライダ大陸の西、ジドル王国にて断海の魔力に耐える船が建造された。
不確定情報だけど、半年前にワイバン大陸の西でルートレスの魔王も陥落して、四大魔王はクーランの魔王だけになったとか。
世界は、凄い速さで動いている。
だから叔父さんは動いた。
彼の夢、断海を越える。それを叶える為に。
誰かに、先を越されない為に。
自分が、その事業の一端を担えるように。
クーランを開放し、売り込む気だ。ジドル王国に、フフゴケ商会を。
断海を越えるには、溢れる魔力の他にも障害があるのだから。
もちろん、私はそれを支えるつもりだ。
ウーイング王国は、信頼のおける商会員に任せてあるし。
だからこそ、今、発生している事件を解決しなければならない。
一週間も放置した訳はあるまい。きっと血眼になって探したに違いない。
それこそ、マーア軍の力で。でも発見できない?
「国内にいない。つまり、国外?」
国外逃亡。そんな単語が浮かぶ。
(これは、大人として。やってしまったわね…。)
彼とは最初の挨拶以降、ほぼ会っていない。
クール系で、ちょっと影があって、カッコいいかも、なんてバカな事を考えている場合ではなかった。
多感な年頃の子が、暗い表情をしている。何もないはずがない。
ましてや、彼は勇者という特殊な立場だ。
(ガットル君とかサニアちゃんとか、しっかりした子ばっかりで油断したわ。)
忙しいは言い訳。話をするべきだった。
見ると、ツツジちゃんも暗い表情。
彼女は、ポノ君と仲がいいなんて話を聞いた事がある。
「気になる話があるんです。」
カソローさんが続ける。
「ヨダーシルのユンゼスさんからの情報なんですが。」
「ユンゼスさん?」
ヨダーシル、南区の区長、ユンゼスさん。
私の仕事仲間だ。
特に、この一か月は毎日顔を見ていたと思う。
訳あって、国へ帰ったけど。
「ワッポノさんに、列車のチケットを渡したそうなんです。」
ん?
「そして、ヨダーシルに行くことを勧めたらしいです。」
ちょっと、ユンゼスさん?
いや、彼に文句を言うのも違うかもしれないけど。
他国の悩める少年を気遣ってくれて、ありがとうだけど。
でも一言、先に伝えてよ。
「彼曰く、列車には乗らなかったそうなんですが…。」
あれ、違うの?いや、続きがある。
「昨日、駅の映像記録装置を確認したんです。」
所謂、防犯カメラね。
「ワッポノさんは、映っていませんでした。」
「…。」
「しかし、映像は改竄された可能性がありまして。」
「可能なの?」
「不可能です。本来なら。」
「なるほど、イレギュラーがあるのね。」
「ユンゼスさんが持っていた、セイ、ですか。あの腕輪。
あれか、あれと同等の性能があれば、可能らしいです。」
「…その情報は?」
「ユンゼスさんです。」
なるほど。今やヨダーシルは、駅間の通信が可能になっている。
それで、聞いた訳か。
「それ以上は聞けませんでした。以降、連絡は取れません。
忙しいんでしょう、都市長選がありますから。」
都市長選。ヨダーシルの新しい都市長を決める選挙。
前都市長が亡くなって、一年。
四人の区長がそれぞれの区を統治していたみたいだけど、色々と不都合があって。
やはり、トップを決めるべき、となったみたい。
ユンゼスさんは、都市長候補だ。
「なるほど。つまり、ヨダーシルに直接探しに行く。と、いう訳ね?」
呼ばれたという事は、私が。
「港も国境線上も監視を続けています。国内も引き続き捜索を続けます。」
必ずヨダーシルにいる、という保証はない。
それでも。
「行って、くれるぅ?」
叔父さん。そんな心配そうな顔をしないでよ。
「任せて。悩める少年を連れ帰ってみせるわ。」
クーランの魔王と決着の場には、彼が、マーアの勇者がいないといけない。
それが、マーア王国の落としどころの条件になるはず。
「私も、一緒にお願いします。」
ツツジちゃんが頭を下げる。
「彼女の希望です。私達も、彼の説得には、彼女の力が必要と判断します。」
おっと。
そう言われると、連れて行かない訳にはいかないし、応援しない訳にもいかない。
でもそうなると、護衛がほしいかも。
私だとツツジちゃんを守るのは厳しい。
「もう一人、希望者がいます。その方も、同行させてほしいです。護衛として。」
「それは嬉しいわね。どんな方?」
ガットル君かな?
「リハネさんです。」
「おお、豪華な人が来たわね。え、でもそれは、いいの?」
ゾトの勇者リハネ。
本人の希望とはいえ彼女がいなくなると、勇者隊なのに勇者不在となってしまう。
…トワは、違うし。
「そこは、まぁ…。マーアの勇者が行方不明というのも、伏せてありますし…。」
そうよね。ごめんなさい。
「OK。素直に実力者が護衛についてくれた事を喜んでおくわ。
それで、出発はいつ、とかある?」
「明後日ですね。貨物列車を出すので、それに乗って下さい。」
「あ、列車あるんだ?」
「ええ。出発の報告さえ入れれば、荷運び用に自由に使っていいそうです。」
「助かるわ~。移動日数が全然違うからね。」
私は、ツツジちゃんに向き直った。
「よろしくね、ツツジちゃん。」
その手を取る。
やや戸惑いはあるが、拒絶や、不快感はなさそう。
軽く、揺すりながら続ける。
「折角だし、明日、一緒に旅支度しましょう。新しい服とか買いましょうよ。
あ、リハネも誘いましょうか。三人でコーディネートよ~。」
ツツジちゃんは頷いてくれる。
表情的に。これは、大丈夫なやつ。
「じゃあ、リハネにも連絡してと。」
メッセージを送る。
ヨダーシルの護衛の件のお礼と、明日の買い物の件だ。
まあこの後訓練場には行くから、直接言うけれど。
ややテンションが上がっている私に、カソローさんが、そっと近づいてくる。
「一応、なんですが…。」
小声だ。内密な話?
「あんまりリハネをいじらないであげてください。
ランキングが7位に落ちて、若干凹んでます。」
「え!ガットル君、リハネに勝ったんだ!」
思わず、声を出して喜んでしまった。
ランキングとは、勇者隊内で行われている模擬戦結果の事。
ちなみに私は不参加。商人だし。
リハネも同じ仲間だけど、ガットル君は、ね。ほら、応援してるし。
ディオルにガットル君が勝っても喜ぶし、だからごめん。
(でもこれで、ワイバン大陸組がライダ大陸組に完勝かぁ。
あ、リガーナがいたか。彼女の出身はライダ大陸。)
とはいえだ。
リハネが実力者なのは、揺るがない。
ルール上の有利不利だってある。
ランキング1位になったトワが、自分で言っていた。
もっと制限時間が長くて、範囲も広ければ、ディオルには勝てないだろうと。
「OK。気晴らしも兼ねてる訳ね。
帰ってきたら二人の勇者が満面の笑顔になっているよう努めるわ。」
それはちょっと、怖いかも…なんて呟くカソローさんに手を振って別れる。
叔父さんや、ツツジちゃんとも。
私は早足で建物を後にした。
だって忙しいじゃない。今日中に、仕事の引継ぎを終わらせないと。
でも、嫌じゃない。寧ろ、ワクワクしている。
だって、女三人で列車旅だなんて、楽しそうでいいじゃない。
こうして私達は、ヨダーシルへ行く事になった。
マーアの勇者の捜索の為に。
登場人物、たくさん書きましたが、第四章でこの後も出てくるのは、クレスタ、ワッポノ、リハネ、ツツジの●の四人です。他の人の出番は、次章以降です。
第一章の最後、トワちゃん呼びだったクレスタ。
それから長い事一緒にいて、『ちゃん』は消えます。
見た目は変わっても、内面までは変わらないから…。




