第121話 発端~継がされた者~
開いてくれた方、ありがとうございます。
一か月かかりましたが、形になってきたので投稿を再開していきます。
第四章も、自分こそが正しいと思う頑固者達の戦いです。
勝ったから、その考えが正しいとか、負けたから、間違っているとかではなく、勝負は勝負であり、考えはキャラのモノ。
魔法が使える異世界だからこその、物語を楽しんでもらえたら幸いです。
◇登場人物◇
●ユンゼス:城塞都市ヨダーシル、南区の区長
●ワッポノ:マーア王国の勇者
〇オーズン:ヨダーシルの前都市長
〇セイ :腕輪型のデバイス。ユンゼスの補佐をする為の、人工知能(AI)搭載。
*ユンゼス視点*
『古い友人と、よく話し合ったんだ。』
それは、その人との最後の記憶。
真っ白で広く、物の少ない部屋。
『この世から争いを無くすには、どうすればいいか。』
窓際のベッドで横になる白髪で白髭の老人。
卓越した魔力制御能力がある人は、100歳でも現役なんて話もある。
でもこの人は、そういうレベルじゃない。217歳、圧倒的だ。
コア王国の滅亡も、クーラン大戦も、レスガー大橋崩落事件も、ウーイング王国魔王襲撃事件も、この人は誰よりも詳しい。
『彼は、得意げな顔で言っていたよ。
全ての人に幻惑魔法をかけて、全員洗脳して、行動を管理してしまえばいい。とね。』
元、そして最後のヨルタムアーの魔王にして、現、ヨダーシル都市長。
オーズン。
俺の、いや、俺達の恩師だ。
『全ての人が幸せになれる。そんな世界にするには、どうしようか。なんて話もした。』
偉大なる魔法使いは己の最期を悟り、こうして一人ずつ弟子を呼んで話をする。
俺の場合は、こんな感じ。
『全員脳みそだけにして水槽に浮かべて、幸せを感じられるよう魔力やエレキで信号を流す。
永遠に夢を見続けさせる。管理は機械にやらせればいい。
…そんな感じだったかな。』
滑舌だってしっかりしてる。
超高齢と言われつつ、ここまでやってきた人だ。
あと数十年生きてても、この人なら不思議じゃないのに。
『そうでもしないと、実現できない。それが彼の、そして私達の結論。
なんと皮肉な話だろうね。
他者を思いやる、優しい問いのはずなのに、出された答えは、こんなにもグロテスクだ。』
『無知こそが、幸福。どこかで、聞いた事がありますね。』
この人と、こんな話をするのは初めて。
だから困惑がある。でも最後まで聞かないといけない。
次は無いから。
『程度の話だね。知らなさすぎてもダメ、知り過ぎてもダメ。
弱すぎても、強すぎてもダメ。
優秀だともてはやされた男が、人智を越えてしまうと魔王と呼ばれ恐れられる。
要は、バランス。
厄介な事に、この基準はころころ変わる。』
愉快そうに笑いながら。
しかしこの人は。
そういった事で、とんでもない苦労をしたはずだ。
『でも、それでもだよ。
争いの無い世界、皆が幸せな世界。
そんな世界を目指さないなんて、寂しいじゃないか。
諦めた世界は、きっと寒い。』
『【目指さなけらばならない場所。しかし、辿り着いてはいけない場所。】
それに挑む為の、ヨダーシルです。
ここは、魔法を極める場所であり、機械を極める場所ですから。』
全ての人を洗脳しようとか、脳みそだけにしようとか。そんな考えはない。
この人が、それをやる気なら、もう実行されている。
【人として。】成したい、いや、近づきたい。【誰もが幸福な世界】に。
『ユンゼス。』
俺の名を、呼ばれる。
『はい。』
昔と変わらない瞳。
この人が俺を見る目は、いつだって優しい。
『お前には、ヨダーシルの技術を。南区を任せる。』
『はい。』
南区の区長になるという話は聞いていた。
でも、この時、遂に託されたのだと、自覚した。
『ムアー、ドンハ、ガーフィン。旧ヨルタムアー領の国とは、上手くやれよ。』
『はい。』
『お前は、さ。』
いつの間にか、下がっていた視線を上げる。
『私と、理想が似ている。
だから、心配している。
でも、楽しみでもあるんだ。
私と同じ苦悩を抱えた、お前の造る、ヨダーシルが。』
意地悪そうな顔だ。
精々苦しんで、同じだけ楽しめ。そう言われている気がする。
『お前の列車。あれは、いいなぁ。一度も乗れなかったが、見ているだけで、ワクワクする。』
俺も、乗ってもらいたかったです。
そう言おうとして、言えなかった。
涙が、溢れてしまったから。
あーあ。29歳にもなって。
泣きたくなかったし、泣くつもりもなかったのに。
そんな俺を見て、目の前の人物は、大変満足そうなにやけ面。
全く、悪趣味な爺さんだ。
そう。これが最後の記憶。
数日後、列車の件で隣国にいた時だ。俺は恩師の訃報を聞く。
「あれ?」
人だ。人がいる。
そりゃ、人ぐらいいる。別に世界は滅んでいない。
それでも声が出てしまったのは。
まだ肌寒い春の砂浜に、たった一人で腰掛けて。
何をするでもなく夕暮れ時の海を眺める。そんな少年を見つけたからだ。
偉大なる都市長オーズンが亡くなって、一年。
つまり、俺が南区の区長になってからもそれぐらい。
が、秘書や代理にその仕事を押し付けて、俺は、国内外を動き回っていた。
もちろん仕事だ。それも、大仕事。
二大陸を縦断する長大な列車。それを造っている。
正確には、魔列車。魔鉱石、魔力を動力にしているから。
敷かれたレールの上を、猛スピードで走るし、パワーもある。
大量の人や荷物を、素早く運べる優れもの。
造ろうとした理由は二つ。
単純に便利そうだから。
と、ヨダーシルの技術力を見せつける為。
誰にって?
諸外国にであり、自分達自身にだ。
俺達は、これだけの物が造れるんだぞ、って。
一番大変だったのは諸外国との交渉だ。
レールを敷かせてもらわないといけないから。
それが何とかなれば、後は、トントン拍子。
驚きはしない。技術的には、十分可能だと疑っていなかったから。
個人的には、最初から一般客を乗せても問題なかった。
でも、安全確認の為、データが必要という話で。
丁度、マーア王国がクーランの魔王に宣戦布告したって聞いて。
だから支援を決めたんだ。
荷運びという、試運転をする為に。
大分データは集まった。
事故は一度も起こしていない。
ただ、サービスとしては問題があった。動かしてみて初めて分かる事もある。
でも、それらの改修、改善も順調。
おそらく、夏。いや、秋には一般公開できるはず。
ただ。
今、ヨダーシルがごたごたしていて。
一度、帰らねばならない。
長らくお世話になったマーアから、一時撤退。
帰り支度やら旅支度をしている時だ。
浜辺で黄昏れる少年を見つけた。
『彼は、マーアの勇者、ワッポノ。14歳です。』
「え?有名人じゃないか。」
今、俺は一人だ。
つまり傍から見たら独り言だが、そうじゃない。
【セイ】。俺のつけている腕輪型のデバイスの名前であり、搭載されている人工知能(AI)の名前だ。
そう、俺はセイと会話をしている。
セイは、仕事を補佐してもらう為の魔道具だ。
特に、情報保持領域の広さと検索機能はピカイチ。喋り方も滑らか。
通信機能もあるし、魔法補助も。なんならセイ自身、魔法が使える。
盛りに盛った性能。凄すぎる。正に、ヨダーシル製。
ともかく。
お陰で、謎の人物の正体は分かった。
車を止めて、しばし様子を見て。
「行くか。」
俺は勇者ワッポノに近づいた。
「やあ、少年。眩しい夕日だね。」
無反応。完全な無視。
なるほど、そっちね。
睨みつけられたり、逃げられたり、大声をだされたり。
想定していた中だと、悪い部類だ。
(で、あるならば。話しかけて正解だった可能性もある。)
「隣、失礼しまーす。」
微動だにしない。
返事は期待していなかったが、これは強敵。
「浮かない顔じゃん。どうしたの?」
黒で、やや長髪。整った顔立ち。
衣服の汚れは砂の上に座ったからじゃない。きっと訓練帰りとかだろう。
「話聞くよ?大丈夫、口は堅い。話す事で、楽になる事もある。」
うざい。その一言を引き出したい。
それを取っ掛かりに会話を進めたい。
しかし、相変わらず彼は鉄壁。
ポーカーとか強そうだ。
(…ゼス。)
俺にだけ伝わる声で、セイに呼ばれる。
不満そうだ。『何をちんたらやっているのか。』そんな感じか。
(わかってるよ。)
こっちも、セイにだけ伝えて。
改めて、少年に向き直る。
「俺はユンゼス。ヨダーシルの南区の区長だ。
君は、ワッポノ君だろ?マーアの勇者の。」
ピクっと。反応があった。
「実は、ある人から頼まれたんだ。君の悩みを解決してほしいと。
だから、話してみてくれないかい?」
(ゼス。)
余計な嘘をつくなと苦情がきた。
悪いと思うけど、この方がスムーズかと思ったんだよ。
だって。
『誰もが幸福な世界を目指しているから、辛そうな顔の君を放っておけない。』
なんて言ったら、胡散臭いじゃないか。
「ヨダーシルは、魔道具や魔装具を作る事に関して世界一だと思っている。
きっと、君の役に立てる。」
もしこれで、恋煩いだったら土下座しよう。それ系は無理だから。
でも雰囲気的に、そうじゃないだろう。
「…なら、俺を。」
初めて聞いた彼の声は。
言葉と共に、呪いを出したかのように重い。
「あれより強くしてくれ。」
勇者が、ある方角を指さした。
その先にあるのは、山。その向こうにあるのは、クーラン。
あれ、とは。
クーランの魔王の事か。
(マーアの勇者も、勇者隊のメンバーだったな。)
クーランの魔王を討伐する為の実行部隊、通称【勇者隊】。
実質、ヨダーシルが支援しているのは、マーア王国というより、この部隊だ。
「わかったよ。」
その言葉に、彼は、初めて俺を見た。
どこまでも深い、そんな黒色の瞳だ。
(ゼス。安請け合いは感心しません。)
(安請け合いじゃないさ。
彼は、きっと凄く悩んでいる。苦しんでいる。だから助けたい。)
彼に話しかけながら、マーアの勇者についてセイを使って調べた。
彼は、生まれながらに勇者らしい。
勇者なんて、如何にも面倒そうじゃないか。
それを、自分の意思とは関係なく継がされる。
それだけで。
俺には到底理解できない苦しみがあったはずだ。
「君を強くして見せる。クーランの魔王よりも。」
彼に、列車のチケットを渡す。関係者の身分証みたいなものだ。
「明日、列車が発車する。それに乗ってほしい。
ヨダーシルに来てくれ。そこで、約束を果たす。」
俺は立ち上がる。
呼び止められないから、歩き出す。
(よいのですか?あれで。)
(ああ。彼は来るよ。)
チケットを受け取った時、彼の目の色が変わった。
だから、確信があった。
の、だが。
「…こない。」
翌日の早朝、駅前。
間もなく、出発時間。
(場所が分からないとかはないよな?時刻と一緒にチケットに書いてあるし。
だいたい、マーアに駅は一つしか造ってないし…。)
落ち着かず、ウロウロしてしまう。
セイは黙っている。呆れているのかもしれない。
(やっぱ勇者という立場上、国を離れられないとか、あったのかなぁ…。)
その可能性にいきついたのは、今朝で。
特に、勇者隊とかに根回しとかはしなかった。
(ゼス。時間です。あなたは遅れる訳にはいきません。乗って下さい。)
(…はぁい。)
責任者権限で、発車を遅らせる事は出来る。
しかし、来るかどうか分からない人物をいつまで待てばよいのか。
第一、ヨダーシルには遅れず到着しなければならない。
予定があるし、そっちの時間はずらせないから。
(…まあ、ヨダーシルの件が終われば、また来るし。
その時、彼の様子次第で、また誘おう。)
そうして俺は列車に乗る。動き出し、ヨダーシルを目指す。
もしも、あの時。
もう少し、彼と一緒にいたら。
不幸にならずに済んだ人がいるはずで。
物語の結末も、大きく変わっていた事だろう。
でも、もう列車は出発した。
逆走なんてしない。
進むしかない。
いくら凄い機械があったって、未来の事なんて分からない。
この時の俺は、何も知らない。
それでも。
俺は、祈る。
少なくとも、この件に関わった人達が。
その人達の幸福な世界に、近づけるように。
第四章の主人公を一人だけ選ぶなら、今回登場したユンゼスです。
でも、物語は複数人の視点で進む予定です。
基本は四人。ユンゼスとワッポノと、あと二人。
序盤は、あのキャラの視点となります。




