第120話 預言~結末~
ゼユウは魔法を使う。仲間の力を借りて。
サダキを人間にする為に。フレン王国を守る為に。
そして…。
第三章、最終回です。
◇登場人物◇
●ゼユウ:???●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:天使●サダキ:??
〇ドットテカ男爵:ルフロンの町周辺の領主
〇カナミア :アイーホルの勇者
〇アルテド :王女の死亡記事を書いた男
〇フィアトリーヤ:フレン王国の王女
〇ルーティル :フレン王国、39代目女王
〇レンバト :研究者
〇チゴマ :王宮の偉い人
〇ニケド :コーホの主治医
〇ハナ :ゼユウの職場の先輩
〇サダキの友達 :レンちゃん&シン君
〇アニア :トリドの大事な人
〇イルハーナ :アニアの妹
〇ハンネ :ゼユウがお世話になった人
*クーノ視点*
目を開けると同時に、覚醒。
すぐに時計を確認する。
「…やっちまったよ…。」
どうやら私は、寝落ちしたらしい。
小鳥のさえずりを聞きながら、居間へいく。
「おはよう、クーノ。」
ホーメナが朝ごはんの準備をしていた。
「…おはようだよ。」
気まずい。
彼女の態度がいつも通りなのが、余計に。
「どうしたの?昨日はあんなに、はしゃいでいたのに。
随分、大人しいじゃない?」
遠回しに非難されているのだろうか?
長いこと一緒にいるけど、ポーカーフェイスの上手い女で、こういう時わかりづらいんだよ。
「…その、起きてるって約束したのに、…先に寝ちゃって、ごめん。」
パンっと。軽音がしてビクっとなる。
クラッカーだ。日付が変わると同時に鳴らす予定だったやつ。
「気にしてないわ。それより、もっと喜びましょうよ。」
ホーメナは、笑顔だ。
「私達は、預言を越えたんだから。」
『一年以内に、フレン王国は滅ぶ。』そう、私が預言した。
その一年を乗り越えて。
フレン王国は、未だ健在。
あの、戦いの後。
私は、天法の閲覧を使った。
滅亡の未来は、なかった。少なくとも、ここ数年以内には。
ゼユウの推理は、正しかった。
その事をホーメナに伝えると。
『一年間って話で、色々動いているからね。あと半年だし、このままの態勢でいきましょう。』
そう言ってくれて、私たちの共同生活は続いた。
「でも、それもお終いかあ…。」
朝食を食べ終わり、部屋に戻った私は、荷造りを始める。
この建物は、借家だ。コーホ用の。
期間は、一年間。だから、退去する必要がある訳で。
一応、一週間の猶予がある。
だからそこまで慌てる必要はない。
だけど、相方は荷造りを終わらせていて、だから『私もやらないと』という気持ちになるんだよ。
「クーノは、どうするか決めた?」
いつの間にか戻ってきたホーメナに聞かれる。
質問の内容は分かる。
この家を出た後の話だ。
選択肢がある。
一つは、王宮に戻る。
もう一つは、ありがたい事に一緒に暮らさないかと言われている。彼女は賢者の森に持ち家があるから。
私が天上の国へ帰るまで、あと一年。
「…もう少し、考えたいよ。」
「ええ。ゆっくり考えて。」
相変わらずのポーカーフェイス。
でも、怒っている時と違い、優しい時は分かりやすい。
「それはそうと、準備は出来た?」
「準備?」
荷造りは、現在進行形で進んでいるよ?
「チゴマさんの所へ行く前に、お墓参りに行くんでしょう?
そろそろ出発しないと。」
そう言えば、私が言い出した事だったよ。
手早く準備を済ませ、家を出た私達。
「おお、これはこれは二人共。」
「あ、男爵。」
「おはようございます。お久しぶりですね。」
家の前で、ドットテカ男爵に会った。
彼は、立派な花束を抱えている。
「預言の日を越えられたお祝いにと持って来ました。どうぞ。」
満面の笑みだ。
気持ちは嬉しいし、花束を受け取る。
「ありがとうだよ、男爵。」
「お越しいただきありがとうございます。上がっていって下さい。飲み物を出しますよ。」
ホーメナのポーカーフェイスは崩れない。
1、時間がない。
2、放置できない立派すぎる花束を受け取る。
3、男爵を狭い家に招くのか?
葛藤があったはず。しかし、男爵をこのまま帰す方が失礼だと判断したのだろう。
ひょっとすると、お墓参りを後日にする計算をしたのかもしれない。
「ありがとう。でも、すまないね。私もこれから用事があるんだ。
本当に渡しに来ただけなんだよ。花束と、これを。」
ホーメナが何かを受け取る。
「招待状さ。
預言を越えた事のお祝いを、大々的にしようと思ってね。
パーティーを開くんだ。是非、参加してほしい。」
王宮庭園を貸し切っての立食パーティー。
貴族だけじゃない。一般の人達も参加できるみたい。
(預言の噂に振り回された人達に、もう安心だと伝える為のパーティー。
それを自腹で開催するなんて、流石、男爵。)
「本当は、カナミアさん達にも来てもらいたかったんだけど…。」
カナミアには、滅亡は回避できたと半年前に伝えた。
協力してもらう予定だったけど、その件はもう大丈夫になったと。
今、彼女達は、アスゴフソアという国にいるはず。
次の戦場へと向かったのだ。
「私は、勇者として活躍する彼女の事が好きだから。
彼女の邪魔をするような事はしたくないんだ。」
男爵は、少し寂しそうだ。
「…パーティー。参加させてもらいますね。」
「楽しみにしてるよー。」
「ああ、楽しみにしていてくれ。」
そうして、彼の背中を見送った。
そんな事がありつつも。
私達は、王宮庭園の霊園までやってきた。
目的の場所には、先客。知らないおじさんだ。
「アルテドさん?」
ホーメナが、おじさんの名前を呼ぶ。
そう言えばと、思い出す。
元アンカバーズの記者で、フィアの死亡記事を書いた人だ。
ビッケの依頼でフレン王国に戻って来て、やるなと言われた事までやって。
舐められて怒ったビッケに、お仕置きされて入院したって話だったはず。
動けるようになったんだね。
「これは賢者様。そちらも、お墓参りで?」
「その通りです。
…すみません、その節は仲間がご迷惑を。」
「いえいえ、そんな何度も謝らないでください。調子こいた俺が悪いんで。
それに、暗殺者を捕まえてもらいましたからね。結果的に、命の恩人ですよ。」
アルテドは、ビッケみたいな帽子を被り、立ち去ろうとする。
大きな荷物だ。きっと国外へ行く。
「…行かれるんですか?」
「ええ、ウスーマに帰ります。」
彼の出身はここだ。でも、もう帰る場所ではないらしい。
「あなたの相棒について調査しました。が、蒸発理由は、分かりませんでした。」
「そうですか。
あの頃は、敵は王宮だけじゃなかったですからね。
別組織に消されたのか、怖くて密航でもして国外へ逃げたのか。
残念ではあります。
ですが、その件でこの国を恨んだ事なんてありませんよ。」
彼は再び帽子を取る。皺の数だけ苦労したような雰囲気の人だ。
「寧ろ引っ掻き回して済まなかったと。
立ち去る前に、一言謝罪しようと思いましてね。」
そして彼は頭を下げる。
私達に、そして。
「フィアトリーヤ様の、ご冥福を祈ります。」
フィアトリーヤの名前の彫られた墓石に向かって。
数か月前。
私と、女王様と、チゴマさんと、レンバト博士と、他、王宮の偉い人二名で話し合いをした。
フィアについてだ。
結論を言うと、フィアの蘇生計画は中止となった。
理由は、色々あったけど。
一番の決めては、計画中に起きた事故が原因で、フレン王国が滅亡の危機になったから。
私と女王様は、抱き合って、うわん、うわん、泣いた。
いつかの、フィアみたいに。
それから、レンバト博士は国を出る事になった。
諸々の後始末をした後に。
「言っただろう?この研究には、私の一生を懸ける価値があると。
当然、続けるさ。」
博士は一人。
それを、私とチゴマさんの二人で見送る形だ。
「一度でも成功例があれば、また違ったのだがね。
まあ、こればかりは、仕方がない。」
行先は教えてもらえなかった。
何か難しい事をする場合、ヨダーシルに行くイメージだけど違うみたい。
「実は、息子を一人、亡くしていてね。
魔王に縋ろうとしても、上手くいかなかったんだ。」
博士は、笑顔だった。
「感謝しているよ、可能性の一端を見せてもらえたからね。
お陰で、生き甲斐を見つけられた。」
彼が、自分の人生に、満足できる事を祈るよ。
同じ夢を見た、仲間として。
お墓を綺麗に掃除して、私達二人はチゴマさんの元へ。
王宮内の、会議室だ。
「新しい船を造っているの?」
「ええ、センレイ会が新しい技術を開発しまして。断海の魔力に耐えられるとか。」
「それは、凄いわね。でも…。」
ホーメナとチゴマさんが話しているのは、未だに処理できていない800個のニードルについてだ。
断海に捨てるのが確定して。
今は、どうやって捨てに行くのか、という所まで進んでいる。
で、それから数十分、話し合いは続いて。
結局、現存する船で行くのは危険だから、新しい船を造って、それで捨てに行く。
という事で落ち着いた。
秋ごろには、何とか、みたいな。
方針が決まり、打ち合わせも一段落して。
そしたら、チゴマさんがお昼を御馳走してくれる事になり。
高級そうなお店に連れていってもらう。
驚いた事に、その席にコーホの主治医であるニケド先生もいた。
「コーホの皆さんには、お世話になりました。」
「いえいえ、こちらこそですよ。
特に、よく入院するのがいましたから。」
コーホ解散により、ニケド先生も私達の主治医ではなくなるみたい。
でも、フレン王国の病院の先生は続けてくれるから。
また、お世話になる事もあるかもしれない。
「…ふぃ…。」
満腹。満足。
チゴマさんと、ニケド先生と別れ、ホーメナと一緒に帰路へつく。
(午後は、荷造りの続きをして…。)
午後の予定を考えていたら、ホーメナの通信機が鳴った。
「私よ。どうしたの、ハナ?
…え?」
あからさまに、何かありました感を出さないでほしいよ。気になるから。
「船は?…壊れたんだ。だからか、…なるほどね。」
『船』『壊れた』そして、通信相手は『賢者の森・北出入口』で働く、ハナさん。
これだけの情報があれば、私なら、事態を察する事が出来る。
「クーノ、今から南門へ行くわ。」
通信を終えた彼女が言う。
「了解だよ。」
さっきまで考えていた午後の予定は、キャンセルだ。
最初に、シン君とレンちゃんがいるのが分かった。
二人は駆け出して、その後を追うのが。
サダキだ。
三人で、楽しそうに遊んでいるみたい。
「そこでさ、たまたま会って。
折角だから、少し遊ぼうかってなったんだ。」
声が聞こえて。
そちらを向いた。
城壁に寄りかかっている白髪の男性。
右前髪が伸びている。失くした瞳を隠すように。
ゼユウだ。
「おかえりなさい。」
ホーメナが声をかける。
私も、彼に近づく。
「ただいま。」
彼は小さく、微笑んだ。
「隣の荷物って、全部お土産?」
私もおかえりって言おうとしたけど、気になり過ぎて聞いてしまった。
「そうだよ。珍味と評判なのを、沢山買ったんだ。」
「珍味?」
美味しいんだよね?
「食べるの、楽しみだな。」
「ゼユウが食べるの?」
お土産じゃないの?
「皆で食べるんだよ。鍋にするんだ、闇鍋だよ。」
「闇…鍋…?」
明かりを消して調理して、一度皿に取ったものは食べなければならないという、あれ?
「ほんとに、食べ物ばっかりね。サダキへのプレゼントで魔道具を買うんじゃなかったの?」
荷の確認をしながら、ホーメナが言った。
「…あ。」
「ちょっと。オスノとグンターでしょう?何しに行ったのよ…。」
「…珍味探し。」
「一か月も?」
「ラインナップには、自信がある。」
なるほど。
これ、全部食べ物かぁ。うれしいよ。
「ゼユウ、お待たせしました。」
サダキが、駆け寄ってくる。
「もう、いいのか?」
「はい。二人とは、また遊べますから。」
満面の笑顔だ。
「サダキ、おかえり。」
「おかえりだよ。」
「二人共!はい!ただいまです!」
サダキの元気な姿は、まだちょっと涙腺にくる。
「とりあえず、家に帰りましょう。
荷物を運ぶわ。クーノとサダキは手伝って。
ゼユウはいいわ。町中だと、翼は使えないでしょう。」
「悪いな、お願いするよ。」
そう言ってゼユウは、博士が使っていたのと同じ杖をつきながら歩き出した。
メタモルフォーゼの影響で、彼の左脚は動かないから。
「久しぶりに、コーホメンバー全員でご飯が食べられますね!」
「元ね。残念ながら、昨日でコーホは解散よ。」
「あ…そう、ですよね…。」
「いや、船が壊れなければ、昨日戻れたんだけどさ…。」
「そもそも何で、壊れるのよ…。」
わちゃわちゃしながらの、帰路。
賑やかで、楽しい。
でも、サダキが言った、コーホメンバー全員という言葉に、少し、寂しさを覚える。
きっと、皆、少なからず思ったと思う。言ったサダキ本人も。
あれから、もう半年も経つのに。
あのメタモルフォーゼの、直後。
『天力は感じない。でも、呼吸はある、生きてる。なんなら、魔力すら感じる。
これは、成功だね。』
ビッケの言葉に安堵して、私はその場にへたり込む。
ビッケもホーメナも息を切らしている。
サダキは目を閉じたままだけど、生きてる。
ゼユウも、また気絶しちゃったけど、生きてる。
私達は、全員無事に、預言を越えられた。
『いやあ、間に合ってよかったよ。じゃあ、そういう事で…。』
『!?ちょっと!』
ホーメナが叫んだ。
見ると、ビッケが、消えかけてる。光の粒子みたいになってきている。
天上の国へ、帰るんだ。
別の言い方をすると、この世界での死を迎えようとしている。
『流石に天力がヤバいんで、先に帰らせてもらうよ。』
そのビッケの腕を掴む。
『待って、せめてゼユウとサダキにお別れを言って!二人と仲よかったじゃん!』
最後は、その、殺し合ったみたいだけど…。
『はは、無茶言わないでよ。これ以上は、マジで死ぬ。
早く帰って、天力を回復させないと。』
そう言われたら、引き止められない。
でも、急だよ。ホーメナも困ってるし。
『…ねえ、クーノさん。』
『…え、私?』
こんな時に、なんだろう?
『サダキさんは、もう天獣じゃない。
だから、クーノさんが天獣を無断転移させた事は、誤魔化しておく。
僕の保身の為さ、だから気にしなくていい。
後は君が、フィアの蘇生を諦めれば、君の罪は何もない。』
それは、今すぐ返答は、できないよ…。
『君は、僕と同じ管理者を目指すといい。』
『…管理者?』
天使の役職の一つ。
レベル3天法が軒並み使えて、試験にも合格する必要があるっていう。
『僕の私物を探すと、参考書みたいのもある。それで勉強するんだ。
君の、閲覧の能力は高い。適正はあると思う。
管理者になるとさ。
ある程度、自由が利くんだよ。
この世界にもう一度くる事が、サダキに会いに来る事が出来るようになる。』
『ならビッケも、天力が回復したら会いにきてね。』
サダキや、ゼユウに。
『はは、気が向いたらね。』
ビッケは帽子を被った。その帽子も、光の粒子になっていく。
『にしてもさ。』
本当に、消える直前。
『フィアトリーヤ。まったく、なんて女だよ。
出会った天使を、ことごとく虜にするなんて。』
『まったく、その通りだよ。』
私は笑って、ビッケと別れた。
結局、彼は戻ってきていない。少なくとも、この半年の間は。
いくら食べた事が無いとはいえ、ゼユウやサダキ、買った本人達は具材を知っている。
それは、闇鍋のルール?的にどうなんだという話になり、私とホーメナも一品、買った。
それから旅行の土産話を聞いたり、荷造りを進めたりしていると、あっという間に夕食時。
「そうだ、写真だ!」
鍋の出汁を作っている最中に、ゼユウが叫んだ。
「男爵のパーティーに行った時、皆で撮ったやつ。
預言を越えられたって事は、エンディングじゃないか。
写真を見ないと。」
「違うわ、ゼユウ。
エンディングは日付が今日になった時。つまり、もう終わったの。
今は、新章の第1話よ。」
一瞬、ホーメナに睨まれた気がした。
「なかなかエモい感じだったわね。
二人は帰ってこないし、クーノは寝たから、私一人。
写真を見ながら、『ああ、こんな日も、あったなぁ』って感傷的な気持ちになったものよ。」
やっぱり、先に寝た事、怒ってたよ。
「俺のエンディングは、今なんだよー。」と言いながら、部屋まで写真を取りに行くゼユウ。
「…。」
私は、鍋にお肉をつっこむ。
いや、少しだけだよ。まだ始まりそうもないし、小腹が空いちゃったし。
出汁だよ出汁。
そしてこの程度では、ホーメナは何も言わない。
(…。)
管理者への勉強はやっている。
あと一年で、皆と永久にお別れは嫌だから。
参考書を手に入れる為、ビッケの私物を漁った。
なんか、遺書みたいのが出てきた。
彼がこの世界を去った時、開封できるようになるみたいな仕掛けが施されたやつ。
蘇生岩の時、興奮気味で天力が乱れていたサダキを、ガス抜きの為に天獣に変えていたのはビッケだ。ツアーから、ちょこちょこ戻ってきてたらしい。
他にも、国外に協力者がいる事とか、アルテドの件とか、ニードルの入手経路とかが書いてあった。
そして、写真も同封されていた。二枚目に撮った、真面目な方。
しかも、魔法的な防御の仕込みまでしてあった。
きっとサダキが爆発して、フレン王国が滅んだ時、この写真がはらりと落ちるようにしていたんじゃないだろうか。
悪趣味だが、あの男ならやりかねない。
これは想像、というか、そうであったらいいなと思う事だけど。
一枚目の写真は、ビッケが持って帰ったんじゃないだろうか。
バラバラな方向を見て、変な顔をして、思わず吹き出しそうになる、あれを。
(…。)
いい色になったから、肉を取り出す。
ポン酢で、さっと、いく。
「おいしいぃい~♪」
「ええ?食べてる?まだ明かり消してないし!」
ゼユウが戻ってきた。一枚目の写真をもって。
「大丈夫です、ゼユウ。まだ始まっていません。これからですよ。」
「ほらゼユウ、早く座って。始めるわよ。」
さあ、新しい闇鍋パーティーを始めよう。
私達は。
この幸せを、噛み締めて生きていく。
*ゼユウ視点*半年前*
覚えている風景がある。
気持ちのいい風が吹く、見晴らしのいい丘。
俺の好きな場所。
俺の、安らげる場所。
大変で、面倒で、辛くて。
そんな事ばかりだけれども。
ここで何も考えずに、ぼーっとしている時が。
その隣にアニアがいる時が。
彼女に頭を撫でられている時が、一番いい。
この時間さえあれば。俺は何にで耐えられる。
「ねえ、トリド。」
その声に、目を開ける。
「今度の旅は大変だと思うのよ。だって、相手は魔竜だもの。」
近くに、アニアの顔がある。
彼女の顔は、いつも見えなかった。
ずっと、後ろめたさがあったから。
彼女を守れなかったから。
でも今回、彼女の顔に靄は無かった。
初めてじゃないはずなのに、初めて顔を見る。
あの時。
あの不思議な場所で、ハンネと別れた後、森から俺を見ていたのは彼女だ。
その彼女の顔は。
「でも、絶対に帰ってこようね。どんなに時間がかかっても。」
少しずつ、明るくなり始めた頃。
俺は目を開けた。
隣に、ホーメナがいてくれた。
「…サダキ、ハ…?」
まだ、ガビガビ声のままだった。
「無事。今、クーノが見ているわ。
変質は、おそらく成功したと思う。」
それは、なにより。
「…ビッケ、ハ?」
「…。」
言いよどんだのは、一瞬だけ。
「帰ったわ。天上の国に。」
「…ソッカ。」
挨拶は、出来なかったか。
あいつの所為の所もあるけど、助けられた事の方が多い気がする。
だって、俺もホーメナも、サダキもクーノも、王国も無事なんだから。
「…。」
沈黙。
心地の良いやつだ。
でも今。
確認しておきたい事がある。
思い出したアニアの顔。それは。
「ホーメナ、ッテ、王女サマ?」
ホーメナとよく似ていた。
「…そうね。」
優しい声色だ。
「私達は、三姉妹なのよ。一緒に過ごした時間は、ほぼないけどね。
別々に育てられたの。
もしもの時、コア王国の残党の襲撃とかを考えて。
フィアトリーヤは長女で、私が次女。」
孤児でハンネが引き取ったというのは嘘。
信用されているハンネに託されたんだ。
「三女のララポッカは、女王の妹のヘメレイ様と一緒にいるわ。
あの子は確か、花火大会で長女の振りをしたりもしてたわね。
多分、あと半年で戻ってくると思う。」
声色は優しい。嫌っては、いないみたいだ。
「その後は、どうなるかしらね。
フィアトリーヤ様の扱い次第だとは思うけど、場合によっては、女王の座を懸けて争ったりもするかも。
預言が越えられたから、その辺も動いてくるんでしょう。
でもまあ、今はそこまで考えなくていいわ。」
太陽の光が、差し込んできた。
眩しさに、顔をしかめる。
それを彼女は、自分の身体で遮るように。
「一先ず、お疲れ様。
あなたの守りたかったものは、しっかりと、守る事が出来たわ。」
ホーメナに、頭を撫でられる。
その姿が、アニアと重なる。
失くしてしまったモノ。
もう二度と、帰れない場所。
コア王国はない。
きっとあの丘も、変わってしまった。
それでも。
(…ありがとう。)
涙が、零れた。
遠い昔に、出し尽くしたと思ったのに。
トリドを、感じる。嬉しいんだ。
あの日々に帰れた気がして。
(アニア、イルハーナ。そして、今までの女王様達。
あなた達の想いは、確かに、英雄に届いた。)
懐かしい風が吹く。
限界だったハンネの剣が、儀剣ウィルダネスが割れて。
その中から溢れ出たように。
幻視する。
あの、見晴らしのいい丘を。
「タ、だいま。」
「おかえりなさい。」
英雄は、千年の時を越えた。
多くの思惑と想いによって。
俺は今、ここにいて。
ここにいて、よくて。
ここに、いたいと思えて。
だから。
俺は、この場所で、生きていく。
第三章、完結。
力業が多いなと思う話でしたが、今までもそうだったので(笑)
とりあえず、最後まで書けて一安心です。
見てくださった方、ありがとうございました。
第四章は、11月頃に投稿しだすと思うので、まだお付き合いいただけるようなら、よろしくお願いします。




