表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第三章 王女レフィアラと王国滅亡の預言

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/168

第120話 預言~結末~

ゼユウは魔法を使う。仲間の力を借りて。

サダキを人間にする為に。フレン王国を守る為に。

そして…。


第三章、最終回です。


◇登場人物◇

●ゼユウ:???●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:天使●サダキ:??

〇ドットテカ男爵:ルフロンの町周辺の領主

〇カナミア   :アイーホルの勇者

〇アルテド   :王女の死亡記事を書いた男

〇フィアトリーヤ:フレン王国の王女

〇ルーティル  :フレン王国、39代目女王

〇レンバト   :研究者

〇チゴマ    :王宮の偉い人

〇ニケド    :コーホの主治医

〇ハナ     :ゼユウの職場の先輩

〇サダキの友達 :レンちゃん&シン君

〇アニア    :トリドの大事な人

〇イルハーナ  :アニアの妹

〇ハンネ    :ゼユウがお世話になった人

*クーノ視点*


 目を開けると同時に、覚醒。

 すぐに時計を確認する。


「…やっちまったよ…。」


 どうやら私は、寝落ちしたらしい。




 小鳥のさえずりを聞きながら、居間へいく。


「おはよう、クーノ。」


 ホーメナが朝ごはんの準備をしていた。


「…おはようだよ。」


 気まずい。

 彼女の態度がいつも通りなのが、余計に。


「どうしたの?昨日はあんなに、はしゃいでいたのに。

 随分、大人しいじゃない?」


 遠回しに非難されているのだろうか?

 長いこと一緒にいるけど、ポーカーフェイスの上手い女で、こういう時わかりづらいんだよ。


「…その、起きてるって約束したのに、…先に寝ちゃって、ごめん。」


 パンっと。軽音がしてビクっとなる。

 クラッカーだ。日付が変わると同時に鳴らす予定だったやつ。


「気にしてないわ。それより、もっと喜びましょうよ。」


 ホーメナは、笑顔だ。


「私達は、預言を越えたんだから。」


 『一年以内に、フレン王国は滅ぶ。』そう、私が預言した。


 その一年を乗り越えて。

 フレン王国は、未だ健在。




 あの、戦いの後。

 私は、天法の閲覧を使った。


 滅亡の未来は、なかった。少なくとも、ここ数年以内には。

 ゼユウの推理は、正しかった。


 その事をホーメナに伝えると。

 『一年間って話で、色々動いているからね。あと半年だし、このままの態勢でいきましょう。』

 そう言ってくれて、私たちの共同生活は続いた。




「でも、それもお終いかあ…。」


 朝食を食べ終わり、部屋に戻った私は、荷造りを始める。


 この建物は、借家だ。コーホ用の。

 期間は、一年間。だから、退去する必要がある訳で。


 一応、一週間の猶予がある。

 だからそこまで慌てる必要はない。


 だけど、相方は荷造りを終わらせていて、だから『私もやらないと』という気持ちになるんだよ。


「クーノは、どうするか決めた?」


 いつの間にか戻ってきたホーメナに聞かれる。


 質問の内容は分かる。

 この家を出た後の話だ。


 選択肢がある。


 一つは、王宮に戻る。

 もう一つは、ありがたい事に一緒に暮らさないかと言われている。彼女は賢者の森に持ち家があるから。


 私が天上の国へ帰るまで、あと一年。


「…もう少し、考えたいよ。」

「ええ。ゆっくり考えて。」


 相変わらずのポーカーフェイス。

 でも、怒っている時と違い、優しい時は分かりやすい。


「それはそうと、準備は出来た?」

「準備?」


 荷造りは、現在進行形で進んでいるよ?


「チゴマさんの所へ行く前に、お墓参りに行くんでしょう?

 そろそろ出発しないと。」


 そう言えば、私が言い出した事だったよ。




 手早く準備を済ませ、家を出た私達。


「おお、これはこれは二人共。」


「あ、男爵。」

「おはようございます。お久しぶりですね。」


 家の前で、ドットテカ男爵に会った。

 彼は、立派な花束を抱えている。


「預言の日を越えられたお祝いにと持って来ました。どうぞ。」


 満面の笑みだ。

 気持ちは嬉しいし、花束を受け取る。


「ありがとうだよ、男爵。」

「お越しいただきありがとうございます。上がっていって下さい。飲み物を出しますよ。」


 ホーメナのポーカーフェイスは崩れない。

 1、時間がない。

 2、放置できない立派すぎる花束を受け取る。

 3、男爵を狭い家に招くのか?


 葛藤があったはず。しかし、男爵をこのまま帰す方が失礼だと判断したのだろう。

 ひょっとすると、お墓参りを後日にする計算をしたのかもしれない。


「ありがとう。でも、すまないね。私もこれから用事があるんだ。

 本当に渡しに来ただけなんだよ。花束と、これを。」


 ホーメナが何かを受け取る。


「招待状さ。

 預言を越えた事のお祝いを、大々的にしようと思ってね。

 パーティーを開くんだ。是非、参加してほしい。」


 王宮庭園を貸し切っての立食パーティー。

 貴族だけじゃない。一般の人達も参加できるみたい。


 (預言の噂に振り回された人達に、もう安心だと伝える為のパーティー。

 それを自腹で開催するなんて、流石、男爵。)


「本当は、カナミアさん達にも来てもらいたかったんだけど…。」


 カナミアには、滅亡は回避できたと半年前に伝えた。

 協力してもらう予定だったけど、その件はもう大丈夫になったと。


 今、彼女達は、アスゴフソアという国にいるはず。

 次の戦場へと向かったのだ。


「私は、勇者として活躍する彼女の事が好きだから。

 彼女の邪魔をするような事はしたくないんだ。」


 男爵は、少し寂しそうだ。


「…パーティー。参加させてもらいますね。」

「楽しみにしてるよー。」


「ああ、楽しみにしていてくれ。」


 そうして、彼の背中を見送った。




 そんな事がありつつも。

 私達は、王宮庭園の霊園までやってきた。


 目的の場所には、先客。知らないおじさんだ。


「アルテドさん?」


 ホーメナが、おじさんの名前を呼ぶ。

 そう言えばと、思い出す。


 元アンカバーズの記者で、フィアの死亡記事を書いた人だ。


 ビッケの依頼でフレン王国に戻って来て、やるなと言われた事までやって。

 舐められて怒ったビッケに、お仕置きされて入院したって話だったはず。


 動けるようになったんだね。


「これは賢者様。そちらも、お墓参りで?」


「その通りです。

 …すみません、その節は仲間がご迷惑を。」


「いえいえ、そんな何度も謝らないでください。調子こいた俺が悪いんで。

 それに、暗殺者を捕まえてもらいましたからね。結果的に、命の恩人ですよ。」


 アルテドは、ビッケみたいな帽子を被り、立ち去ろうとする。

 大きな荷物だ。きっと国外へ行く。


「…行かれるんですか?」

「ええ、ウスーマに帰ります。」


 彼の出身はここだ。でも、もう帰る場所ではないらしい。


「あなたの相棒について調査しました。が、蒸発理由は、分かりませんでした。」


「そうですか。

 あの頃は、敵は王宮だけじゃなかったですからね。

 別組織に消されたのか、怖くて密航でもして国外へ逃げたのか。

 残念ではあります。

 ですが、その件でこの国を恨んだ事なんてありませんよ。」


 彼は再び帽子を取る。皺の数だけ苦労したような雰囲気の人だ。


「寧ろ引っ掻き回して済まなかったと。

 立ち去る前に、一言謝罪しようと思いましてね。」


 そして彼は頭を下げる。

 私達に、そして。


「フィアトリーヤ様の、ご冥福を祈ります。」


 フィアトリーヤの名前の彫られた墓石に向かって。




 数か月前。

 私と、女王様と、チゴマさんと、レンバト博士と、他、王宮の偉い人二名で話し合いをした。


 フィアについてだ。


 結論を言うと、フィアの蘇生計画は中止となった。


 理由は、色々あったけど。

 一番の決めては、計画中に起きた事故が原因で、フレン王国が滅亡の危機になったから。


 私と女王様は、抱き合って、うわん、うわん、泣いた。

 いつかの、フィアみたいに。


 それから、レンバト博士は国を出る事になった。

 諸々の後始末をした後に。


「言っただろう?この研究には、私の一生を懸ける価値があると。

 当然、続けるさ。」


 博士は一人。

 それを、私とチゴマさんの二人で見送る形だ。


「一度でも成功例があれば、また違ったのだがね。

 まあ、こればかりは、仕方がない。」


 行先は教えてもらえなかった。

 何か難しい事をする場合、ヨダーシルに行くイメージだけど違うみたい。


「実は、息子を一人、亡くしていてね。

 魔王に縋ろうとしても、上手くいかなかったんだ。」


 博士は、笑顔だった。


「感謝しているよ、可能性の一端を見せてもらえたからね。

 お陰で、生き甲斐を見つけられた。」


 彼が、自分の人生に、満足できる事を祈るよ。

 同じ夢を見た、仲間として。




 お墓を綺麗に掃除して、私達二人はチゴマさんの元へ。

 王宮内の、会議室だ。


「新しい船を造っているの?」

「ええ、センレイ会が新しい技術を開発しまして。断海の魔力に耐えられるとか。」


「それは、凄いわね。でも…。」


 ホーメナとチゴマさんが話しているのは、未だに処理できていない800個のニードルについてだ。


 断海に捨てるのが確定して。

 今は、どうやって捨てに行くのか、という所まで進んでいる。


 で、それから数十分、話し合いは続いて。


 結局、現存する船で行くのは危険だから、新しい船を造って、それで捨てに行く。

 という事で落ち着いた。


 秋ごろには、何とか、みたいな。


 方針が決まり、打ち合わせも一段落して。

 そしたら、チゴマさんがお昼を御馳走してくれる事になり。


 高級そうなお店に連れていってもらう。

 驚いた事に、その席にコーホの主治医であるニケド先生もいた。


「コーホの皆さんには、お世話になりました。」


「いえいえ、こちらこそですよ。

 特に、よく入院するのがいましたから。」


 コーホ解散により、ニケド先生も私達の主治医ではなくなるみたい。


 でも、フレン王国の病院の先生は続けてくれるから。

 また、お世話になる事もあるかもしれない。




「…ふぃ…。」


 満腹。満足。


 チゴマさんと、ニケド先生と別れ、ホーメナと一緒に帰路へつく。


 (午後は、荷造りの続きをして…。)


 午後の予定を考えていたら、ホーメナの通信機が鳴った。


「私よ。どうしたの、ハナ?

 …え?」


 あからさまに、何かありました感を出さないでほしいよ。気になるから。


「船は?…壊れたんだ。だからか、…なるほどね。」


 『船』『壊れた』そして、通信相手は『賢者の森・北出入口』で働く、ハナさん。

 これだけの情報があれば、私なら、事態を察する事が出来る。


「クーノ、今から南門へ行くわ。」


 通信を終えた彼女が言う。


「了解だよ。」


 さっきまで考えていた午後の予定は、キャンセルだ。




 最初に、シン君とレンちゃんがいるのが分かった。

 二人は駆け出して、その後を追うのが。


 サダキだ。


 三人で、楽しそうに遊んでいるみたい。


「そこでさ、たまたま会って。

 折角だから、少し遊ぼうかってなったんだ。」


 声が聞こえて。

 そちらを向いた。


 城壁に寄りかかっている白髪の男性。

 右前髪が伸びている。失くした瞳を隠すように。


 ゼユウだ。


「おかえりなさい。」


 ホーメナが声をかける。

 私も、彼に近づく。


「ただいま。」


 彼は小さく、微笑んだ。


「隣の荷物って、全部お土産?」


 私もおかえりって言おうとしたけど、気になり過ぎて聞いてしまった。


「そうだよ。珍味と評判なのを、沢山買ったんだ。」

「珍味?」


 美味しいんだよね?


「食べるの、楽しみだな。」

「ゼユウが食べるの?」


 お土産じゃないの?


「皆で食べるんだよ。鍋にするんだ、闇鍋だよ。」

「闇…鍋…?」


 明かりを消して調理して、一度皿に取ったものは食べなければならないという、あれ?


「ほんとに、食べ物ばっかりね。サダキへのプレゼントで魔道具を買うんじゃなかったの?」


 荷の確認をしながら、ホーメナが言った。


「…あ。」

「ちょっと。オスノとグンターでしょう?何しに行ったのよ…。」


「…珍味探し。」

「一か月も?」


「ラインナップには、自信がある。」


 なるほど。

 これ、全部食べ物かぁ。うれしいよ。


「ゼユウ、お待たせしました。」


 サダキが、駆け寄ってくる。


「もう、いいのか?」

「はい。二人とは、また遊べますから。」


 満面の笑顔だ。


「サダキ、おかえり。」

「おかえりだよ。」


「二人共!はい!ただいまです!」


 サダキの元気な姿は、まだちょっと涙腺にくる。


「とりあえず、家に帰りましょう。

 荷物を運ぶわ。クーノとサダキは手伝って。

 ゼユウはいいわ。町中だと、ウイングは使えないでしょう。」


「悪いな、お願いするよ。」


 そう言ってゼユウは、博士が使っていたのと同じ杖をつきながら歩き出した。

 メタモルフォーゼの影響で、彼の左脚は動かないから。


「久しぶりに、コーホメンバー全員でご飯が食べられますね!」

「元ね。残念ながら、昨日でコーホは解散よ。」


「あ…そう、ですよね…。」

「いや、船が壊れなければ、昨日戻れたんだけどさ…。」


「そもそも何で、壊れるのよ…。」


 わちゃわちゃしながらの、帰路。

 賑やかで、楽しい。


 でも、サダキが言った、コーホメンバー全員という言葉に、少し、寂しさを覚える。

 きっと、皆、少なからず思ったと思う。言ったサダキ本人も。


 あれから、もう半年も経つのに。




 あのメタモルフォーゼの、直後。


『天力は感じない。でも、呼吸はある、生きてる。なんなら、魔力すら感じる。

 これは、成功だね。』


 ビッケの言葉に安堵して、私はその場にへたり込む。

 ビッケもホーメナも息を切らしている。


 サダキは目を閉じたままだけど、生きてる。

 ゼユウも、また気絶しちゃったけど、生きてる。


 私達は、全員無事に、預言を越えられた。


『いやあ、間に合ってよかったよ。じゃあ、そういう事で…。』

『!?ちょっと!』


 ホーメナが叫んだ。

 見ると、ビッケが、消えかけてる。光の粒子みたいになってきている。


 天上の国へ、帰るんだ。

 別の言い方をすると、この世界での死を迎えようとしている。


『流石に天力がヤバいんで、先に帰らせてもらうよ。』


 そのビッケの腕を掴む。


『待って、せめてゼユウとサダキにお別れを言って!二人と仲よかったじゃん!』


 最後は、その、殺し合ったみたいだけど…。


『はは、無茶言わないでよ。これ以上は、マジで死ぬ。

 早く帰って、天力を回復させないと。』


 そう言われたら、引き止められない。

 でも、急だよ。ホーメナも困ってるし。


『…ねえ、クーノさん。』

『…え、私?』


 こんな時に、なんだろう?


『サダキさんは、もう天獣じゃない。

 だから、クーノさんが天獣を無断転移させた事は、誤魔化しておく。

 僕の保身の為さ、だから気にしなくていい。

 後は君が、フィアの蘇生を諦めれば、君の罪は何もない。』


 それは、今すぐ返答は、できないよ…。


『君は、僕と同じ管理者を目指すといい。』

『…管理者?』


 天使の役職の一つ。

 レベル3天法が軒並み使えて、試験にも合格する必要があるっていう。


『僕の私物を探すと、参考書みたいのもある。それで勉強するんだ。

 君の、閲覧の能力は高い。適正はあると思う。

 管理者になるとさ。

 ある程度、自由が利くんだよ。

 この世界にもう一度くる事が、サダキに会いに来る事が出来るようになる。』


『ならビッケも、天力が回復したら会いにきてね。』


 サダキや、ゼユウに。


『はは、気が向いたらね。』


 ビッケは帽子を被った。その帽子も、光の粒子になっていく。


『にしてもさ。』


 本当に、消える直前。


『フィアトリーヤ。まったく、なんて女だよ。

 出会った天使を、ことごとく虜にするなんて。』


『まったく、その通りだよ。』


 私は笑って、ビッケと別れた。


 結局、彼は戻ってきていない。少なくとも、この半年の間は。




 いくら食べた事が無いとはいえ、ゼユウやサダキ、買った本人達は具材を知っている。

 それは、闇鍋のルール?的にどうなんだという話になり、私とホーメナも一品、買った。


 それから旅行の土産話を聞いたり、荷造りを進めたりしていると、あっという間に夕食時。


「そうだ、写真だ!」


 鍋の出汁を作っている最中に、ゼユウが叫んだ。


「男爵のパーティーに行った時、皆で撮ったやつ。

 預言を越えられたって事は、エンディングじゃないか。

 写真を見ないと。」


「違うわ、ゼユウ。

 エンディングは日付が今日になった時。つまり、もう終わったの。

 今は、新章の第1話よ。」


 一瞬、ホーメナに睨まれた気がした。


「なかなかエモい感じだったわね。

 二人は帰ってこないし、クーノは寝たから、私一人。

 写真を見ながら、『ああ、こんな日も、あったなぁ』って感傷的な気持ちになったものよ。」


 やっぱり、先に寝た事、怒ってたよ。


 「俺のエンディングは、今なんだよー。」と言いながら、部屋まで写真を取りに行くゼユウ。


「…。」


 私は、鍋にお肉をつっこむ。


 いや、少しだけだよ。まだ始まりそうもないし、小腹が空いちゃったし。

 出汁だよ出汁。


 そしてこの程度では、ホーメナは何も言わない。


 (…。)


 管理者への勉強はやっている。

 あと一年で、皆と永久にお別れは嫌だから。


 参考書を手に入れる為、ビッケの私物を漁った。

 なんか、遺書みたいのが出てきた。


 彼がこの世界を去った時、開封できるようになるみたいな仕掛けが施されたやつ。


 蘇生岩リバイブロックの時、興奮気味で天力が乱れていたサダキを、ガス抜きの為に天獣に変えていたのはビッケだ。ツアーから、ちょこちょこ戻ってきてたらしい。


 他にも、国外に協力者がいる事とか、アルテドの件とか、ニードルの入手経路とかが書いてあった。


 そして、写真も同封されていた。二枚目に撮った、真面目な方。

 しかも、魔法的な防御の仕込みまでしてあった。


 きっとサダキが爆発して、フレン王国が滅んだ時、この写真がはらりと落ちるようにしていたんじゃないだろうか。

 悪趣味だが、あの男ならやりかねない。


 これは想像、というか、そうであったらいいなと思う事だけど。

 一枚目の写真は、ビッケが持って帰ったんじゃないだろうか。


 バラバラな方向を見て、変な顔をして、思わず吹き出しそうになる、あれを。


 (…。)


 いい色になったから、肉を取り出す。

 ポン酢で、さっと、いく。


「おいしいぃい~♪」

「ええ?食べてる?まだ明かり消してないし!」


 ゼユウが戻ってきた。一枚目の写真をもって。


「大丈夫です、ゼユウ。まだ始まっていません。これからですよ。」

「ほらゼユウ、早く座って。始めるわよ。」


 さあ、新しい闇鍋パーティーを始めよう。


 私達は。

 この幸せを、噛み締めて生きていく。




*ゼユウ視点*半年前*


 覚えている風景がある。


 気持ちのいい風が吹く、見晴らしのいい丘。


 俺の好きな場所。

 俺の、安らげる場所。


 大変で、面倒で、辛くて。

 そんな事ばかりだけれども。


 ここで何も考えずに、ぼーっとしている時が。

 その隣にアニアがいる時が。


 彼女に頭を撫でられている時が、一番いい。

 この時間さえあれば。俺は何にで耐えられる。


「ねえ、トリド。」


 その声に、目を開ける。


「今度の旅は大変だと思うのよ。だって、相手は魔竜だもの。」


 近くに、アニアの顔がある。


 彼女の顔は、いつも見えなかった。


 ずっと、後ろめたさがあったから。

 彼女を守れなかったから。


 でも今回、彼女の顔に靄は無かった。


 初めてじゃないはずなのに、初めて顔を見る。


 あの時。

 あの不思議な場所で、ハンネと別れた後、森から俺を見ていたのは彼女だ。


 その彼女の顔は。


「でも、絶対に帰ってこようね。どんなに時間がかかっても。」




 少しずつ、明るくなり始めた頃。

 俺は目を開けた。


 隣に、ホーメナがいてくれた。


「…サダキ、ハ…?」


 まだ、ガビガビ声のままだった。


「無事。今、クーノが見ているわ。

 変質は、おそらく成功したと思う。」


 それは、なにより。


「…ビッケ、ハ?」

「…。」


 言いよどんだのは、一瞬だけ。


「帰ったわ。天上の国に。」


「…ソッカ。」


 挨拶は、出来なかったか。


 あいつの所為の所もあるけど、助けられた事の方が多い気がする。

 だって、俺もホーメナも、サダキもクーノも、王国も無事なんだから。


「…。」


 沈黙。

 心地の良いやつだ。


 でも今。

 確認しておきたい事がある。


 思い出したアニアの顔。それは。


「ホーメナ、ッテ、王女サマ?」


 ホーメナとよく似ていた。


「…そうね。」


 優しい声色だ。


「私達は、三姉妹なのよ。一緒に過ごした時間は、ほぼないけどね。

 別々に育てられたの。

 もしもの時、コア王国の残党の襲撃とかを考えて。

 フィアトリーヤは長女で、私が次女。」


 孤児でハンネが引き取ったというのは嘘。

 信用されているハンネに託されたんだ。


「三女のララポッカは、女王の妹のヘメレイ様と一緒にいるわ。

 あの子は確か、花火大会で長女の振りをしたりもしてたわね。

 多分、あと半年で戻ってくると思う。」


 声色は優しい。嫌っては、いないみたいだ。


「その後は、どうなるかしらね。

 フィアトリーヤ様の扱い次第だとは思うけど、場合によっては、女王の座を懸けて争ったりもするかも。

 預言が越えられたから、その辺も動いてくるんでしょう。

 でもまあ、今はそこまで考えなくていいわ。」


 太陽の光が、差し込んできた。

 眩しさに、顔をしかめる。


 それを彼女は、自分の身体で遮るように。


「一先ず、お疲れ様。

 あなたの守りたかったものは、しっかりと、守る事が出来たわ。」


 ホーメナに、頭を撫でられる。

 その姿が、アニアと重なる。


 失くしてしまったモノ。

 もう二度と、帰れない場所。


 コア王国はない。

 きっとあの丘も、変わってしまった。


 それでも。


 (…ありがとう。)


 涙が、零れた。

 遠い昔に、出し尽くしたと思ったのに。


 トリドを、感じる。嬉しいんだ。

 あの日々に帰れた気がして。


 (アニア、イルハーナ。そして、今までの女王様達。

 あなた達の想いは、確かに、英雄トリドに届いた。)


 懐かしい風が吹く。


 限界だったハンネの剣が、儀剣ウィルダネスが割れて。

 その中から溢れ出たように。


 幻視する。

 あの、見晴らしのいい丘を。


「タ、だいま。」

「おかえりなさい。」


 英雄は、千年の時を越えた。

 多くの思惑と想いによって。


 俺は今、ここにいて。

 ここにいて、よくて。

 ここに、いたいと思えて。


 だから。


 俺は、この場所で、生きていく。

第三章、完結。

力業が多いなと思う話でしたが、今までもそうだったので(笑)

とりあえず、最後まで書けて一安心です。


見てくださった方、ありがとうございました。


第四章は、11月頃に投稿しだすと思うので、まだお付き合いいただけるようなら、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ