第113話 ホーメナは知ってる~後編~
~前回までのゼユウ~
トリドは天上の国の戦力と死闘を繰り広げた。
トリドの命を繋ぎ止める為、コア王国はコールドセーブという魔法を使う。
トリドは結晶体となり、長い年月を過ごす事となる。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公。過去の記憶の映像を俯瞰で見ている幽霊みたいな状態
●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇トリド :ゼユウより、やや幼いが同じ顔の少年
〇アニア :トリドと同年代で、彼の大事な人。
〇イルハーナ:アニアの妹
〇ウハルパ :フレン王国、初代女王
〇ルーティル:フレン王国、39代目女王
〇ハンネ :ゼユウがお世話になった人
〇チゴマ :王宮の偉い人
まだ救いなのは、映像が断片的な事。
永遠に変わらない視点で1000年とか、どんな地獄だよって話だから。
(こんな状況でも、意識がある時があるんだな。寝てるような感覚なんだろうか?
耳が興味深い話を聞いた場合に起きるみたいな?
つまり、少しずつ時間が流れている?完全に止まっている訳ではない、のか?)
まあ、考えても分からない事は置いておこう。
たまに聞こえる、ひそひそ話から世界情勢を学ばないと。
俺にとってはちょっと前だが、トリドにとっては懐かしい実行部隊のメンバー達。
コア王国に戻らず、国を造ったようだ。
だと思ったよ。
ワイバン大陸の最北西。しかもパイプも出てきたから。
フレン王国の初代女王は、イルハーナの娘だ。
何気に、女王の名前の法則の謎も判明した。
なぜ『ウ』スタートなのかという、あれだ。
1番がアニアで、2番がイルハーナ、それで3番がウハルパ。
頭文字の五十音順が完成って訳だ。
(理由は、たぶん、あれだよな…。)
イルハーナはトリドに言った。ずっと待っていると。
フレン王国の皆が、トリドの現状を知っているかは分からない。
でも、待ち続けるという約束を、世代をまたいでも守る為に、約束が続いている証の為に、女王の名前に連続性を入れたんだ。
これならアニアも入れられるから。トリドへのメッセージとしては最高じゃないか?
問題は、二つ。
現在、王女が亡くなって、39代目ルーティル様で、約束が止まりそうな事。
最悪の話をすれば養子とかでも続くだろうけど、血筋みたいなのは途絶えるかもしれない。
もう一つは、それこそ大問題な訳だけど。
俺が、トリドを感じれない事だ。
こうやって彼の記憶を見て、知識としてトリドを学んでいる。思い出している。
ここまで見て。
おそらく、トリドの根幹部分であるだろう戦いを全て見た今でも。
どこか、他人事である。
(絶望した上に、1000年もこんな結晶体に閉じ込められているんじゃあ、心が死んでもおかしくないか…。)
俺は、恐れていた。
記憶が戻り、今の人格が消える事が。
どうやらその心配は無さそうだけど。
(1000年も待ってくれている人達がいるのに、トリドの身体はあるのに、トリドの魂が残っていないなんて、寂しいじゃないか…。)
それでも唯一、俺がトリドを感じられる時はある。
それは、怒り。自分を許せないという感情。
その事が、より悲しい。
俺が感傷に浸っている間に、話は、時代は、どんどん進む。
気づけば、教会が焼け落ちようとしている。
(これは、200年前のコア王国の最後の時か。つまり、800年経ったって訳か。)
トリド結晶は荷車に載せられ、ロープで乱暴に固定される。
一瞬、火事場泥棒的なやつを想像してしまったが、そうではない。
運び出そうとしているのは、コア王国の兵士達だ。
(こんな状況でも、守ろうとしてくれるのか。大事に思われていたんだな…。)
焼け落ちる王都を脱出したトリド結晶は、コア王国の残党達と一緒に、ネクーツの外れまでやってきた。
ネクーツはコア王国の同盟国。頼れる所はここしかない。
追い出される事はなかったが、待遇がいいとは決して言えない。
文字通り、耐え忍ぶ生活が続く。
周辺国のコア王国の当たりは強くなり続ける。ネクーツに裏切られて売られるのも時間の問題。
そんな話が、連日続いた。
同時に、フレン王国への恨み節も増えていった。
元は同じコア王国の住民なのに。
どちらもトリドに愛された国なのに。
そもそもトリドがいるのに、王都を攻め落とすとはどういう事だ。
トリドを待つと、約束した国ではなかったのか。
もしも、コア王国が堕落した事が罪だというのなら。
焼き払われる事で償ったといえるだろう。
ならば。
多くの人々を焼き払い、それを正当化し続けるフレン王国という国の罪は。
領土ごと消されて、償われるべきではないか。
それをするのが、生き残った者の役目ではないか?
例え、何百年かかっても。
コア王国から脱出した者達は、ネクーツの外れで村を造り、ネクーツの民として生活しだした。
けれど。
ある時、数名の村人がいなくなる。
行先は、フレン王国。
消える事の無い復讐の炎を胸に、かの国を滅ぼさんと行動を起こすのだ。
「本気か?」
「当然。」
コア王国残党は、6回目の襲撃を計画していた。
「今まで、散々、俺達の魔力を吸い取って来たんだ。
最後くらいは、役に立ってもらわないと。」
「そうだぜ。やはり復讐の完遂は、トリド様自ら果たしてもらわないと。」
(…まじかー…。)
そうだよな。俺は賢者の森をふらふらしてたんだもんな。
だから、フレン王国領内にはないと、辻褄があわない。
クーノも、爆弾がどうとか言っていた。しかし、まさかの展開だ。
トリド結晶は、大量の爆弾を括りつけられ、荷車で運ばれていく。
(一応、それ、お前達の数世代前の爺ちゃん婆ちゃんが、一生懸命、焼け落ちる王都から持ち出したやつなんだぜ…。)
確かに近年は、謎に魔力を捧げないといけないだけの、置物になってしまっていたけども。
もう、全部が悲しい。
で、トリド結晶改め、トリド爆弾は、爆破される前に、ハンネに回収される。
ルーティル女王様は、トリド結晶を前に泣き崩れた。
その理由は、正確には分からない。感極まったんだろうけど。
俺としては申し訳なく思う。王女が亡くなったのに厄介事を増やして。
それから、中身がこんなので、すまない。
トリド結晶は、王宮の地下。
資料室のずっと奥、研究室よりも、実験室よりも奥の、保管室に置かれた。
もちろん、魔力提供も行われる。
俺が資料室にきた時、なんとなく初めてじゃない気がしたのは、地下の空気が馴染んでいたからかもしれない。
トリド結晶の事を知るのは、本当に数人。
王女様と、ハンネと、チゴマさんと、レンバト博士だ。
この時はまだ、ハンネはホーメナに話していない。たぶん、出会ってもないだろうし。
そしてだ。
いよいよトリドが結晶から解き放たれる時がきた。
原因は、予想通り2年前のサダキの天力暴走。
何かが上手い具合に作用して、コールドセーブが解除された。
当然、トリドは虫の息。
彼を助けたのは、王宮にいたハンネだ。
ハンネは、たまに王宮にきてたらしい。
理由は、たぶん、フレン王国を守る為。
チゴマさんと、連絡を取り合っていた。
でも、この事故が起こるまで、王女の蘇生計画は知らなかったようだ。
何にせよ、ハンネがいたからトリドは助かった。
(なるほど…。賢者の森で彷徨っていたというのは嘘か。)
まあ、王宮で助けたなんて話なら、なんで?って話になるしな。
ハンネはトリドを自宅へ連れ帰る。
事故で、ごたつく王宮にトリド問題発覚は重すぎるから。
あるいは、ハンネは王女蘇生計画なんてのを知って、王宮に不信感を抱いたのかもしれない。そこら辺は謎だ。
こうして、ゼユウという人間が誕生した。
ここからは、俺の想像。
トリドという男は、1000年前の人物だ。当然、知り合いは全員、亡くなっている。
第三者的には英雄視されるのも分かる。しかし、本人は守りたい人も守れず、失意のまま封印され、本人の意思とは無関係に復活してしまった。
そんな人物の記憶がない。
その記憶を戻す事は、よい事だろうか?
ハンネは取り戻さない方がいいと思った。
だからホーメナに打ち明けて、ゼユウという新しい人間として扱ってくれた。
そういう、事なのだろう。
ゼユウと、目があった。
ここから先は、知っているだろう。いつまで寝ているつもりだ?
そう言われた気がして。
俺は。
目を開けた。
病院の、病室だった。
辺りは、暗い。窓から星が見える。
「おかえり。」
視線をずらすと、ホーメナがいた。
「ただいま。」
彼女一人だ。
「私は、ゼユウが帰ってきてくれて、嬉しい。」
ホーメナは、知ってる。
俺が記憶を取り戻している事も、人格に変化がないという事も。
「俺は…。」
どうだろう。
嬉しいのか、楽しいのか、悲しいのか、怒りがあるのか。
言い淀んでいると、彼女が手を握ってくれた。
「夜だから。今日はこのまま、休んでいいよ。」
優しい声だ。
「…たくさん寝てたから、起きていたい。」
甘えたくなって、我儘を言う。
「わかった。お腹は?」
「…減った。」
「温かいものを、もってくるわ。」
ホーメナの持ってきてくれたシチューは美味しかった。
時間を確認すると、真夜中。
でもホーメナは、仲間に俺が起きた事を連絡しに行った。
(たぶん、来てくれるだろうな。)
俺だってそうする。いい仲間達だ。
通してくれる病院も。
(…。)
それはそれとして。
俺の手には、スプーンがある。
シチューを食べたから。別に変じゃない。
よく見るタイプだし、そんなに高くないはず。
(ちゃんと弁償はするから…。)
そう思うなら、それ用のを用意して試せ。
そんなツッコミが聞こえた気もしたが、見逃してほしい。
今なら出来る気がして、試さずにいられない衝動がある。
左手で、スプーンを握りしめる。感覚としては魔法を使うように。
カランと、握っていた物が落ちた。
握っていた手が、震えている。痙攣をおこしているように。
込み上げてきた吐き気に耐える。
次第に頭痛もしてくる。苦しくて、右手で胸を抑えた。
蹲る。汗が噴き出してくる。
(…なんだ、これ…。)
命を削られたような気がした。
魔力消費はある。魔法には変わりないはず。
でも、別の何かと言われたほうが、しっくりくる。
次第に、落ち着いてくる。
削られた命が、別の何かで補われていくような不快感と共に。
(…はは、こんなのを続けたら、そりゃあ、記憶も人格も吹っ飛ぶよ…。)
左手の震えは止まっていない。だから、右手でそれを拾う。
さっき俺が落としたフォークだ。
その前は、スプーンだったもの。
メタモルフォーゼ。
トリドの記憶と共に思い出した、魔法のような、何か。
(記憶を思い出して、新技も増えた~ってやろうと思ったけど、これは、不味いか?)
流石に心配されるだろう。出来る事は伝えるが、実践はやめよう。
暫くして、皆、集まる。
ようやく止まった左手の震えに安堵しつつ、俺は説明した。
実は俺、トリドだったって。
それから三日。経過観察で俺は入院。
結果、異常なしという事で、明日、退院だ。
(…。)
棚の上のフォークを見る。当然のようにフォークのまま。
変な魔力反応とかもない。
…まあ、パイプの件もあるから、別に驚きはしない。
(カボチャが馬車に、ネズミが馬に…。)
ふれあい教室の時、レンちゃんに絵本を見せてもらった時の事を思い出す。
あの時は出来るわけがないと思ったが、今の俺なら出来そうだ。
(絵本のお婆さんは、随分楽しそうに魔法を使っていたが、そこは真似できそうもないな…。)
使う度に、汗だくで痙攣されたら怖すぎる。つまり子供を喜ばせる事は無理そうだ。
(あのお婆さんの魔法は、時間制限付きだったな。)
それが代償。制約だった。
俺のは、そうじゃない。
何かを別のものへ変質させ、自分も何かに変質していく。そういう魔法。
(…。)
棚に手を伸ばす。フォークに用はない。
クーノが剥いてくれたリンゴと、調査記録を手に取った。
リンゴを口に入れ、記録を眺める。
国家とか、企業とか、勇者達とか。
フレン王国を滅ぼせそうな力をもつ所の、経過報告という感じだ。
昨日も散々見たが、改めて。
新しい発見とかは、やはりない。
「…なあ、クーノ。」
リンゴを剥き続けるクーノに声をかける。
うさぎに飽きたらしく、色んな形に挑戦中だ。
「呼んできてほしい人がいる。」
コーホ結成から、もうすぐ半年。
「預言の真相が、わかったよ。」
滅亡の預言は、終わらせてみせる。
次回、預言の真相が明らかに…。
そんな最終戦直前、チート級の能力を手に入れる主人公。




