第112話 ホーメナは知ってる~中編~
~前回までのゼユウ~
どうやら記憶が取り戻せそうという話になった。
薬を入れてもらい、目を閉じる。気づくと、見晴らしのいい丘だった。
顔に靄のかかった女の子が現れて、彼女は『俺』を、トリドと呼んだ。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公。過去の記憶の映像を俯瞰で見ている幽霊みたいな状態
〇トリド:ゼユウより、やや幼いが同じ顔の少年
〇アニア:トリドと同年代で、彼の大事な人。顔に靄がかかっている
〇ポーン:立派な白髭の爺さん。研究者達のリーダー
〇イルハーナ:アニアの妹
勇者トリドの英雄譚。
俺はその本を読んだ事がある。
入院中、ビッケにお見舞いの品として貰って。
その後ビッケに、この本は実話を元にしているとか、俺はトリドの血縁ではないかと言われたりしたが…。
まさか、俺がトリドだとは思わなかった。
(いや、まだそうと決まった訳ではない。)
トリドは、およそ1000年前の英雄だ。
関係があったとしても、本人とは限らない。
まあ、クーノの昔話で、同一世界軸記憶保持転生なんて難しい話もあったから、本人の可能性も残されているが。
(見続ければ、分かるか。)
そうして俺は、世界の真実の一部を知る。
現在、世界は『侵略者』からの攻撃を受けている。
後に、天上の国と呼ばれる異世界からやってきた者達だ。
彼らは、空間を切り裂くように現れ、その際、海が割れた。
それにより、世界の西側との行き来が不可能となる。
(断海が出来た原因は、天上の国が接触してきたからだったのか。)
断海に飲まれた島の中に、ドラゴンの棲む島もあった。
断海より溢れる、異質な魔力、それに適応するドラゴンもいて。
それらは、ワイバン大陸までやってきて暴れ回った。
それが、魔竜の正体。
侵略者と魔竜。二つの脅威により、世界は滅亡の危機に晒された。
それを打開する為に、当時、力のあったコア王国で、ある作戦が実行される。
それは、魔竜を操り、侵略者を倒すというもの。
騎士やら研究者やらで実行部隊が編制され、魔竜の巣穴へと進む。
その中に、トリドがいた。彼の大事な人である、アニアも。
ちなみにアニアは、顔に靄がかかったままだ。
他の人は、そんな事はないのに。
意味があるかもしれない。でも、考えても分からない。
だから今、考えるのは別の事だ。
(事実がベースって、なんだよ、ビッケ?
いくら天上の国の存在を無くしたいからって、もうほとんど創作じゃないか。)
トリドは勇者じゃないし、そもそも魔竜を倒しに行っていない。
トリドは十代前半だ。本では成人済みだったはずなのに。
三人旅じゃない。下手なキャラバンより大人数だ。
魔竜を崇める一族?末裔って何だよ?確かに、魔竜を操ろうとしているけれど。
ポーンはトリドの友達じゃない。研究者達のリーダーで、立派な白髭の爺さんだ。
などなど、ツッコミどころ満載だ。
中でも、俺が一番、気になったのは、トリドの性格。
本では、あんなに豪胆だったのに。
優柔不断というか、事なかれ主義というか。
戦いが好きではなく、昼寝が趣味。アニアの膝枕が大好きな奴だった。
(…ちょっと、いや、普通に嫌なんだが…。)
本当に、あれは俺なのか。別の可能性を信じたい。
旅は続く。
侵略者を避け、魔物を倒し、山を越え、病気を乗り越えて。
そして遂に、実行部隊は魔竜と邂逅する。
結論から言うと。
上手くいかなかった。
魔竜を操る事は出来ず、かなりの被害を出した。
アニアも、亡くなった。
そして激昂したトリドが、魔竜を葬った。
ポーンの開発した新薬で、新しく使えるようになった魔法で。
魔法の名前は、メタモルフォーゼ。
輝く刃が、無数に、突然現れた。
それで魔竜は、斬り刻まれた。
魔竜が倒れ伏す傍らで、アニアの亡骸を抱え、うずくまるトリド。
(ああ、ここはあそこだ…。)
何度かイメージとして現れた、何もない荒野。
(そして、胸を満たし焦がす、怒りは…。)
アニアを守る事の出来なかった、自分への怒り。
作戦は失敗。
侵略者に対抗する手段を失った。
しかし、希望はある。
本来は侵略者にぶつけるはずだった魔竜。それを打倒したトリドなら、侵略者にも対抗できるのではないかと。
実行部隊は、選択をしなければならなかった。
生き残る為に、天上の国と戦うかどうかの。
コア王国へ戻るには、天上の国の部隊と戦う必要がある。
トリドなら勝負になるかもしれないが、勝てるかどうかの保障はない。
天上の国との戦いを避けるなら、何とかやり過ごさないといけない。
ここは既に、大陸の最北西。これ以上の陸地はなく、もちろん船なんて持っていない。
選んだのは、戦いを避ける道。
全員で穴を掘った。
なるべく深く、そして、息を潜め隠れる。
嵐が、侵略者がどこかへ行くのを、祈る。そういうプラン。
トリドも穴を掘った。しかし、彼は途中で止める。
ポーンと、アニアの妹のイルハーナ。
その二人に告げたのだ。戦いに行くと。
反対された。自殺行為だと、皆で生き残ろうと説得された。
しかし、トリドは言った。皆で生き残る為に戦うのだと。
そして彼は魔法を使う。
メタモルフォーゼだ。土を、巨大なパイプへと変質させる。
侵略者の攻撃に耐えられるように、硬く。
逃げられるように、長く。
隊員達をパイプの中へと送り込み、土を被せていく。
イルハーナは、トリドの背中に向かって叫ぶ。
ここで、ずっと待っていると。だから、必ず戻ってきてほしいと。
それは、トリドの耳にも届いたと思う。
出入口を、いい感じに隠した彼は、決戦に向かう。
侵略者を何とか出来れば、少なくとも、イルハーナは助ける事が出来る。
(アニアの面影のある彼女には、生きていてほしいもんな。)
そしてトリドは、侵略者と対峙する。
(…あれが、天使?)
クーノの見た目は、俺達と何も変わらない。
しかし、今、トリドの前にいる奴は何だ?
シルエットこそ、人型。しかし、デカい。トリドの10倍はある巨人だ。
そして、全身が金色。しかも光を反射しているみたいな。
(鎧、か?いや、古の魔導超兵器か!)
そんなのが、4体いる。
トリドは吠えた。そして、突っ込んでいった。
…酷い、戦いだった。
戦いと言うより、ただ、暴れているだけ。感情のままに。
これは八つ当たりだ。
トリドは戦いが好きじゃなかったから。昼寝が趣味な奴だったから。
アニアと一緒にいるのが好きな奴だったから。
それがもう叶わなくて、駄々をこねる子供のように。
しかしそれで、増援でやって来た2体も含め、6体の魔導超兵器を破壊したのだから、その力は相当なものだ。
(メタモルフォーゼが強すぎる…。)
物体でも魔力でも、全く別の物に変質させる魔法。
あんなにイカれた性能なのに、なんで連発できるんだ?
(本当に魔法なのか?魔力とは別の何かを消費している?)
などと考えていると、更に一体、敵が現れる。
魔導超兵器とは、別の奴だ。
(!?…幻獣?)
金色の馬。
俺が賢者の森で出会ったのと微妙に違うが、同種と考えて間違いなさそうだ。
その幻獣が、トリドに襲い掛かる。
(幻獣って、天上の国関連だったのか!)
となると、天獣、とでも呼べばいいのだろうか。
(待て、確かクーノは、天上の国の動物を転移させようとして、サダキを転移させてしまったと言っていた…。)
本来、クーノが連れて来たかったのは、あれじゃないか?
(そうなると、俺が賢者の森で会った奴は…?)
クーノに確認しないといけない事が出来た。
転移の実験は続いているかもしれないし、フレン王国とは関係なく転移を行っている奴がいるかもしれない…。少なくとも、1000年間、ウロウロ彷徨っていたというよりは、ここ数年で召喚された可能性が…。
(!!)
息をのむ。
トリドと戦っている天獣の姿が変わった。
馬から、熊になった。
トリドのメタモルフォーゼの効果かと思ったが、違う。
その剛腕による一撃で、トリドが吹っ飛ばされていく。
そして再び馬になり、追撃を加えた。
(天獣も、メタモルフォーゼが使える?)
そう考えるのが自然だと思う。
つまり、メタモルフォーゼは天法…、でもそれだと、トリドが使えない。
(同じではない。でも、似た効果のものが、魔法と天法にある。)
これが正解のはず。
俺が答えを出すのと同時、勝敗も決する。
トリドの輝刃が、天獣を切り裂いた。
膝をつき、息を整える彼は満身創痍。でも、勝ちは勝ちだ。
(見た感じ、増援はない。勿論、大陸には残っていると思うけど、コア王国への帰路は確保できたんじゃないか?)
一先ず、勝利。
圧倒的実力差で、なすすべがなかったって聞いたけど、なんとかなったぞ。
やるじゃないか、トリド。
そんな事を考えている俺の目の前で、天獣が起き上がる。
その形が、変わっていく。
身体に罅が入り、光が漏れ出して。
「な…。」
一瞬の出来事だった。
一瞬で、天獣が爆発した。
恐るべきは、その威力。
辺り一面、更地となった。
(自爆…したのか…?)
流石に、これは。
トリドは死んだかもしれない。
だとしたら、俺は何を見ているんだ?
「あ…。」
見つけた、トリドだ。虫の息だが生きている。
咄嗟に、盾を作ったようだ。
しかし、このままでは助からない。
一体どうなるんだと、見続ける。
果たして、実際の時間はどれくらいだったのか。
ともかく、トリドに近づく一団があった。
あの旗には覚えがある。コア王国軍のものだ。
(…救援部隊?)
彼らはトリドに回復魔法を使う。
しかし、弱り過ぎた彼に、効果は薄い。
「だめだ!王国まで、持たせられない!」
その会話が聞こえる。救援部隊で間違いない。
「何とか持たせるんだ!英雄を死なせる訳にいくか!!」
「そうだ!彼がいれば我々は勝てるかもしれない!」
「彼にはもっと、連中を殺してもらわないといけないんだから!!」
(…。)
俺がトリドだと仮定して。
だから俺が聞けているという事は、トリドも聞いていたからだとすると。
その時の感情は、絶望。
どうやら自分は、まだ、戦わされるらしい。
もう疲れたのに。これで終わりだと思ったのに。
どれだけ頑張っても、アニアには会えないのに。
トリドは、結晶体みたいなやつに入れられた。
ピンク色で、中のトリドは外からは見えない。
あれもきっと魔法。クーノの昔話に出てきた、コールドセーブってやつだと思う。
トリドの時を止め、命を繋ぐ為だ。
彼らはトリドを回収し、王国へ引き上げていく。
トリドは、結晶体に入れられる直前。
仲間がいる事を、彼らを助けてほしいという事を、うわ言のように伝えたが、無視された。いや、まずはトリドを国へ戻してから、改めて救助に向かうかもしれない。
だが、運が悪い事に救援隊は魔導超兵器と遭遇。
彼らは何とか逃げられて、王国まで帰れたが、コールドセーブを使った人を含む半数が犠牲になった。
今では完全な失魔法。この時代でも、かなりレアそうな感じだった。
(…もしかして、解除できずに、1000年なんて事は…。)
不吉な予感と共に、成り行きを見守る事にする。…それしか、出来ないし。
それから暫く経った頃、侵略者達は去って行った。
来た理由も、帰った理由も不明のまま。
トリドの入った結晶体は、やはり解除できる人はいなかった。
結晶体の魔力が無くなれば、普通に出てくるのでは?と思ったが、そう単純な魔法ではないらしい。
詳しくは分からなかったが、正規手順でないとトリドは死ぬらしい。時間凍結がなんたら。
そして天上の国に一矢報いた彼は、英雄とされ、ぞんざいに扱われる事はなかった。
解除できる人物が現れるまで、魔力提供は行われるそうだ。
それから、数年経った。
トリド結晶は、魔力供給用の管みたいのをつけられて、教会みたいな所に飾られている。
まるで、聖骸物あつかいだ。ちょっと笑える。
そしてもう俺は疑っていない。
俺の正体はトリドで、きっとこのまま1000年近く結晶体なのだ。
次で、回想は終わり。
回想が終わったら、物語を一気に畳みます。
第三章は、第120話で完結予定!




