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継承英雄譚、担々  作者: シロクロゲンヤク
第三章 王女レフィアラと王国滅亡の預言

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第111話 ホーメナは知ってる~前編~


クーノが過去を話してくれてから、だいたい一か月、経過した。


◇登場人物◇

●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使

〇ハナ先輩:職場の先輩

〇ニケド:コーホの主治医〇トーネイ:コーホの前の主治医

*ゼユウ視点*


 コーホ結成から、五か月。フレン王国は、未だ健在。


「ホーメナ、昨日ビッケが帰って来なかったんだ。何か知ってるか?」

「秋の大食い大会に参加して、お腹を壊したそうよ。クーノがお見舞いに行ってるわ。」


 何か事件かと思ったが、そんな事は無かった。


「賢者の森に、魔物が現れたそうなんだ。調査と、退治に行ってくる。」

「ハナから聞いたわ。サダキと二人で行くんでしょう?気を付けてね。」


「…カナミアの事なんだけど。」

「勇者試験に合格したって話?三期連続だってね。お祝いに旬のキノコを送っておいたわ。」


「東門近くの商店街で…。」

「お肉が安いのよね。今から買ってくるわ。」


 そう言って、彼女は出て行った。


 ホーメナは、何でも知ってる。

 もちろん、知らない事だってある。預言の真相とか。


 でも少なくとも、俺が知っている事は全部知ってるんじゃないかって思う。


 (これが、賢者の実力か…。)


 そんな事を考えながら、俺も家を後にした。




「たあ!!」


 サダキが、振り上げた拳を叩きつける。

 それで、獣型の魔物は霧散した。


「お疲れ、サダキ。もうバッチリだな。」


 今のが最後の一匹。予定より、かなり早く片付いた。


「ゼユウが教えてくれたお陰ですよ。

 それに、ゼユウだって凄いです!

 敵の攻撃を素手で弾いてたじゃないですか!

 怪我とかもしてないし、どんな秘密があるんですか!?」


 こちらを確認するだけの余裕もある。


 サダキを弟子にして、だいたい三か月。

 早くも教えられる事は無いかもしれない。


風鎧ウインドアーマーって魔法だよ。

 魔力を纏って、防御力を上げるんだ。」


 流石、ゼユウです!と、サダキは褒めてくれる。


 ちょっと気まずい。

 だってこの魔法は、ビッケの気竜エアドラゴンの完全下位互換だから。


 (結局、サダキ用の魔道具、買えてないんだよな…。王国内にいいのが無くて。

 いっそ許可をもらって、アイーホルまで行ってみるか?)


 そんな事を考えつつ。サダキと話しながら家へ帰った。




 そして、今、俺は病院にいる。

 別に怪我をした訳でも、ビッケのお見舞いでもない。


 クーノ、ホーメナと一緒に、遅めのお昼ご飯を食べ終わった頃だった。

 病院から来るように言われたのである。


 都合のよろしい時に~とか言われたが、病院からの呼び出しである。

 気が気じゃないじゃないか。


 心配そうにするサダキと、ひそひそ話するホーメナとクーノを置いて、一人でやってきたという訳である。


 待ち合わせ室ではボーっとしていた。

 本とか、読む気になれなくて。


「やあゼユウさん、来てくれてありがとう。その後、左腕の調子はどうかな?」


 呼ばれて案内された部屋に入ると、ニケド先生がいた。


「いいですね。前よりもよくなったかもしれません。」


 軽く、肩を回してみせる。


「それはよかった。」


 経過観察も仕事の内かもしれないが、呼び出された理由は他にあるはずだ。


「さて、ゼユウさん。」


 雰囲気が変わる。本題だろう。


「申し訳ありませんでした。」


 先生は頭を下げてきた。


「あなたの治療に関する件で、ミスがありました。」


 戸惑う俺に、先生は説明してくれる。


 二年前、ハンネに保護された俺は、この病院に入院した。

 記憶を取り戻す為の治療を受けたんだ。


 その時、使われた薬。

 記憶を取り戻す為のものではなく、寧ろ、逆。


 記憶を薄れさせるというか、忘れさせるようなものだったらしい。


 新しく主治医となり、カルテを見直していたニケド先生はそれに気づき、こうして今、謝罪してくれている。


「そして、ゼユウさんが望むのなら、今度こそ、記憶を取り戻す治療をさせてほしい。

 もちろん、無償で。」


 それは、今の俺に、いや、俺達にとって、願ってもないことだ。

 俺の記憶が戻れば、更に、新しく判明する事があるかもしれないから。


「それは、是非、お願いしたいです。でも…。」


 記憶を取り戻す事によるリスク。ゼユウ犯人説は無くなった訳ではない。


「先に、仲間に相談していいですか?」




「それで、真っ先に僕に会いに来てくれるとは嬉しいね。」

「同じ建物にいたからな。」


 ベッドに横になるビッケの横に座る。

 逆が多かったから、新鮮だ。


「当然、僕は賛成さ。ゼユウさんの過去に興味を持って、もう五か月かな?

 僕も協力したし、ゼユウさんもちょっとずつ思い出したり。

 感慨深いね。ようやく、全部、分かる訳だ。」


 俺の記憶に関しては、ビッケが一番熱心になってくれていたと思う。

 思わずお礼を言いそうになって、でも、恥ずかしいし止める。


 今、伝えるのは別の事だ。


「なあビッケ、もしもの時は…。」

「大丈夫さ。」


 不敵に、彼は笑う。


「もし君が敵になったら、魔王の真の実力を見せてあげるよ。」

「それは、頼もしいな。」


 こういう時、ビッケがいてよかったと思う。

 ホーメナやクーノには頼みづらいから。


 俺は立ち上がる。

 他のメンバーにも伝えないといけないから。


「そうだ、ビッケ。」


 部屋の扉に手をかけて、振り向く。


「調子はどうだ?」

「それ、最初に聞くやつだよ。」


 ビッケと笑って。それで別れた。




「頑張って、応援してるよ。」


 日向ぼっこしながら、クーノが言った。


「ゼユウ!」


 サダキに手を掴まれる。


「記憶があっても、なくても、ゼユウはゼユウです!」


 力強い宣言だった。

 なんてゆうか、温度差がすごい。


「一緒に、遊んで、修行して、これからもずっと、一緒ですよ!」


 サダキの頭をぽんぽんした。


「ありがとう。頑張って来るよ。」


 ビッケには言えなかったお礼が言える。

 これだけ真っすぐこられたら、逆に言えない方が恥ずかしい。


 もちろん、クーノに応援してもらえた事も嬉しかったよ?


「ホーメナにも伝えたいんだけど、何処に行ったか知らないか?」


 それにはクーノが答えてくれる。


「ハンネの所。」


 という事は、あそこか。


「ありがとう、ちょっと行ってくる。」


 最後のメンバーに、報告する為に。




 賢者の森。有料エリアの更に奥。

 少し開けてて日当たりのよい場所に、ハンネの墓がある。


 そこに、ホーメナはいた。

 お墓の前に、座っている。


「俺は、当然、そうだと思ってた。」

 彼女に近づいて。


「だから、ハンネにもホーメナにも、聞かなかった。」

 言葉を続ける。


「でも今は、そうなんじゃないかって思ってる。だから、聞くよ。」


 二年前、俺の主治医はトーネイ先生。今は外国へ行ってしまった先生。

 今の主治医のニケド先生は、トーネイ先生の事を尊敬している。


 腕のリハビリの時とか、嬉しそうに逸話やら自慢話を聞かせてくれた。


 その先生が、薬を間違える?

 ちょっとしっくりこない。


 ニケド先生が嘘を言っているとも思えない。

 別の薬は、使われていたのだろう。


 間違いではなく、別の薬を使う理由?

 例えばなんだけど、そう頼まれたとしたらどうだろう?


 記憶喪失の男の、記憶を戻さないように頼む?

 それは、記憶が戻ると困るからじゃないか?


 という事はだ。

 記憶が戻ると困る人物は、その戻ると困る記憶について、知っているのではないか?


 あの時、そんな状況の人物がいるとしたら。

 俺の近くにいた人物は。


「ホーメナ。俺の過去、知ってる?」


 ハンネと、ホーメナだけだ。


 「記憶はどう?」「何か思い出した?」

 たくさん聞かれたと思う。二人に。


 だから、二人は知らないと思っていた。

 だから、俺が聞くことはなかった。


 ホーメナは、立ち上がって振り返った。


 心地よい、風が吹く。


「ええ、知ってるわ。」


 その風に、言葉が乗った。


「俺の記憶は、取り戻すと不味いやつなのか?」


 やはり、コア王国の残党なのか?


「ハンネは、取り戻さない方がいいって思ったみたい。」


 彼女は淡々と話す。どういう感情なのかは、分からない。


「ホーメナは?」


「私は、…ゼユウが選んでいいと思う。思い出したいなら、思い出していいし。

 思い出さなくていいと思うなら、それでいい。」


「どっちでもいいって事は、俺の事は、そんなに興味ないかな?」


 そんな訳あるか、と思う。彼女の口で否定してほしかった。

 …女々しい思考で、自分でも驚く。


「ねえゼユウ、覚えてる?」


 そんな俺の考えを知ってか、知らずか。

 話題が変わる。


「私が魔法の練習をしているのを、あなたはずっと見ていた時がある。」


 あの時か?

 二人と出会って間もない頃。

 ハンネに、『楽しいを探すといい。』というアドバイスをもらった時。


 確かに、ハンネが来る前から、ずっと見ていた。

 …いや、あの頃は、連日ずっと見ていた気がする。


「あの頃の私は賢者の弟子で、だから期待もされていたし、ガッカリもされていた。」


 期待は分かるけど、ガッカリ?


「魔法大会で、惨敗したのよ。

 私は、ハンネほどの才能はなくて、どころか、私より凄い人なんてたくさんいた。

 それでも、諦める訳にはいかなかった。私は賢者の弟子だったから。」


 それは知らなかった。


「そんな時よ。いきなり現れたあなたは、私に期待をしなかった。

 羨んだり、バカにしたりもしない。

 ただ、私を見て。

 私を知ろうとしてくれていた。」


 深い意味なんてない。ただ、凄い人だなと。それだけだった。


「それが、私には嬉しかったのよ。

 私が何者であろうと、私を見てくれたあなたが。

 だから、私もあなたに興味が出たの。

 あなたを知ろうとして、実際、色々と分かってきて。

 仲良くなれたと思ってる。」


 ホーメナが近づいて来て、俺の手を取った。

 空のように、透き通った瞳だ。


「だから、今の記憶のないあなたが好き。大事な家族。

 でもだからこそ、あなたの意思を尊重したい。

 記憶があっても、なくても、あなたが何者でも、私達は家族。」


 何というか、心が軽くなった気がする。

 きっと、俺が聞きたかったセリフは、これだったんじゃないかと思う。


 やっぱりホーメナは凄い。

 俺の知らない、俺の事まで知っている。


「もう一度、言うわ。ゼユウが選んでいい。」


 もう、迷う事なんてないよな。


「俺、記憶を取り戻してくるよ。」

「待ってるわ。だから安心して、行って来て。」


 俺は病院に、ニケド先生に連絡した。




 薬の手配とか、俺達の都合とか、日程調整をして、数週間後。

 治療開始の日となった。


 俺は、手術台に横になる。


「あの、投薬治療って聞いたんですけど?」

「投薬治療だよ。ゼユウさんは、寝ていればいい。」


 ニケド先生はニコニコだ。

 逆に、怖い。


「目を閉じて、ゆっくり息を吸って、吐いて。」


 指示には従う。記憶は取り戻したいから。


「ゆっくり、ゆーっくり、意識が沈むように…。」


 やがて、眠気に襲われた。




 そこは、見晴らしのいい丘だった。

 いい風が吹いている。


 (…俺、だな。)


 そこに寝ている人物がいた。


 鏡を見ると、見かける顔だ。

 いや、やや若いか?


 (不思議な感覚だ。幽霊にでもなって、見下ろしているみたいな。)


 過去の、記憶の映像を俯瞰で見ている、のだと思う。

 つまり、このまま見続ければ、俺の正体が分かる?


 (記憶を取り戻すってこういう感じか。

 特殊なのか、普通なのかは分からないが、ある意味、分かりやすくはある。)


 暫くそうしていると、誰かがやってくる。


 俺はギョっとした。

 おそらく、同世代の女の子。


 しかしその顔には靄がかかっているのだ。


「も~、こんな所にいた。」


 声も聞きづらい、なんだか安物の通信機を使っているような感じ。


 (…でも、あの子は。)


 直感的に。

 蘇生岩リバイブロックの時に、思い出した、大事な人。なのだと思った。


 その子に、寝ている『俺』は起こされる。


「さあ、皆の所へ戻るわよ、」


 その子は、『俺』の手を引いて。


「トリド。」


『俺』の名を呼んだ。

中編、後編へと続きます。

前回と同様、三話構成。回想が続いています。

謎の答えは、過去にあるから…。

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