第111話 ホーメナは知ってる~前編~
クーノが過去を話してくれてから、だいたい一か月、経過した。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇ハナ先輩:職場の先輩
〇ニケド:コーホの主治医〇トーネイ:コーホの前の主治医
*ゼユウ視点*
コーホ結成から、五か月。フレン王国は、未だ健在。
「ホーメナ、昨日ビッケが帰って来なかったんだ。何か知ってるか?」
「秋の大食い大会に参加して、お腹を壊したそうよ。クーノがお見舞いに行ってるわ。」
何か事件かと思ったが、そんな事は無かった。
「賢者の森に、魔物が現れたそうなんだ。調査と、退治に行ってくる。」
「ハナから聞いたわ。サダキと二人で行くんでしょう?気を付けてね。」
「…カナミアの事なんだけど。」
「勇者試験に合格したって話?三期連続だってね。お祝いに旬のキノコを送っておいたわ。」
「東門近くの商店街で…。」
「お肉が安いのよね。今から買ってくるわ。」
そう言って、彼女は出て行った。
ホーメナは、何でも知ってる。
もちろん、知らない事だってある。預言の真相とか。
でも少なくとも、俺が知っている事は全部知ってるんじゃないかって思う。
(これが、賢者の実力か…。)
そんな事を考えながら、俺も家を後にした。
「たあ!!」
サダキが、振り上げた拳を叩きつける。
それで、獣型の魔物は霧散した。
「お疲れ、サダキ。もうバッチリだな。」
今のが最後の一匹。予定より、かなり早く片付いた。
「ゼユウが教えてくれたお陰ですよ。
それに、ゼユウだって凄いです!
敵の攻撃を素手で弾いてたじゃないですか!
怪我とかもしてないし、どんな秘密があるんですか!?」
こちらを確認するだけの余裕もある。
サダキを弟子にして、だいたい三か月。
早くも教えられる事は無いかもしれない。
「風鎧って魔法だよ。
魔力を纏って、防御力を上げるんだ。」
流石、ゼユウです!と、サダキは褒めてくれる。
ちょっと気まずい。
だってこの魔法は、ビッケの気竜の完全下位互換だから。
(結局、サダキ用の魔道具、買えてないんだよな…。王国内にいいのが無くて。
いっそ許可をもらって、アイーホルまで行ってみるか?)
そんな事を考えつつ。サダキと話しながら家へ帰った。
そして、今、俺は病院にいる。
別に怪我をした訳でも、ビッケのお見舞いでもない。
クーノ、ホーメナと一緒に、遅めのお昼ご飯を食べ終わった頃だった。
病院から来るように言われたのである。
都合のよろしい時に~とか言われたが、病院からの呼び出しである。
気が気じゃないじゃないか。
心配そうにするサダキと、ひそひそ話するホーメナとクーノを置いて、一人でやってきたという訳である。
待ち合わせ室ではボーっとしていた。
本とか、読む気になれなくて。
「やあゼユウさん、来てくれてありがとう。その後、左腕の調子はどうかな?」
呼ばれて案内された部屋に入ると、ニケド先生がいた。
「いいですね。前よりもよくなったかもしれません。」
軽く、肩を回してみせる。
「それはよかった。」
経過観察も仕事の内かもしれないが、呼び出された理由は他にあるはずだ。
「さて、ゼユウさん。」
雰囲気が変わる。本題だろう。
「申し訳ありませんでした。」
先生は頭を下げてきた。
「あなたの治療に関する件で、ミスがありました。」
戸惑う俺に、先生は説明してくれる。
二年前、ハンネに保護された俺は、この病院に入院した。
記憶を取り戻す為の治療を受けたんだ。
その時、使われた薬。
記憶を取り戻す為のものではなく、寧ろ、逆。
記憶を薄れさせるというか、忘れさせるようなものだったらしい。
新しく主治医となり、カルテを見直していたニケド先生はそれに気づき、こうして今、謝罪してくれている。
「そして、ゼユウさんが望むのなら、今度こそ、記憶を取り戻す治療をさせてほしい。
もちろん、無償で。」
それは、今の俺に、いや、俺達にとって、願ってもないことだ。
俺の記憶が戻れば、更に、新しく判明する事があるかもしれないから。
「それは、是非、お願いしたいです。でも…。」
記憶を取り戻す事によるリスク。ゼユウ犯人説は無くなった訳ではない。
「先に、仲間に相談していいですか?」
「それで、真っ先に僕に会いに来てくれるとは嬉しいね。」
「同じ建物にいたからな。」
ベッドに横になるビッケの横に座る。
逆が多かったから、新鮮だ。
「当然、僕は賛成さ。ゼユウさんの過去に興味を持って、もう五か月かな?
僕も協力したし、ゼユウさんもちょっとずつ思い出したり。
感慨深いね。ようやく、全部、分かる訳だ。」
俺の記憶に関しては、ビッケが一番熱心になってくれていたと思う。
思わずお礼を言いそうになって、でも、恥ずかしいし止める。
今、伝えるのは別の事だ。
「なあビッケ、もしもの時は…。」
「大丈夫さ。」
不敵に、彼は笑う。
「もし君が敵になったら、魔王の真の実力を見せてあげるよ。」
「それは、頼もしいな。」
こういう時、ビッケがいてよかったと思う。
ホーメナやクーノには頼みづらいから。
俺は立ち上がる。
他のメンバーにも伝えないといけないから。
「そうだ、ビッケ。」
部屋の扉に手をかけて、振り向く。
「調子はどうだ?」
「それ、最初に聞くやつだよ。」
ビッケと笑って。それで別れた。
「頑張って、応援してるよ。」
日向ぼっこしながら、クーノが言った。
「ゼユウ!」
サダキに手を掴まれる。
「記憶があっても、なくても、ゼユウはゼユウです!」
力強い宣言だった。
なんてゆうか、温度差がすごい。
「一緒に、遊んで、修行して、これからもずっと、一緒ですよ!」
サダキの頭をぽんぽんした。
「ありがとう。頑張って来るよ。」
ビッケには言えなかったお礼が言える。
これだけ真っすぐこられたら、逆に言えない方が恥ずかしい。
もちろん、クーノに応援してもらえた事も嬉しかったよ?
「ホーメナにも伝えたいんだけど、何処に行ったか知らないか?」
それにはクーノが答えてくれる。
「ハンネの所。」
という事は、あそこか。
「ありがとう、ちょっと行ってくる。」
最後のメンバーに、報告する為に。
賢者の森。有料エリアの更に奥。
少し開けてて日当たりのよい場所に、ハンネの墓がある。
そこに、ホーメナはいた。
お墓の前に、座っている。
「俺は、当然、そうだと思ってた。」
彼女に近づいて。
「だから、ハンネにもホーメナにも、聞かなかった。」
言葉を続ける。
「でも今は、そうなんじゃないかって思ってる。だから、聞くよ。」
二年前、俺の主治医はトーネイ先生。今は外国へ行ってしまった先生。
今の主治医のニケド先生は、トーネイ先生の事を尊敬している。
腕のリハビリの時とか、嬉しそうに逸話やら自慢話を聞かせてくれた。
その先生が、薬を間違える?
ちょっとしっくりこない。
ニケド先生が嘘を言っているとも思えない。
別の薬は、使われていたのだろう。
間違いではなく、別の薬を使う理由?
例えばなんだけど、そう頼まれたとしたらどうだろう?
記憶喪失の男の、記憶を戻さないように頼む?
それは、記憶が戻ると困るからじゃないか?
という事はだ。
記憶が戻ると困る人物は、その戻ると困る記憶について、知っているのではないか?
あの時、そんな状況の人物がいるとしたら。
俺の近くにいた人物は。
「ホーメナ。俺の過去、知ってる?」
ハンネと、ホーメナだけだ。
「記憶はどう?」「何か思い出した?」
たくさん聞かれたと思う。二人に。
だから、二人は知らないと思っていた。
だから、俺が聞くことはなかった。
ホーメナは、立ち上がって振り返った。
心地よい、風が吹く。
「ええ、知ってるわ。」
その風に、言葉が乗った。
「俺の記憶は、取り戻すと不味いやつなのか?」
やはり、コア王国の残党なのか?
「ハンネは、取り戻さない方がいいって思ったみたい。」
彼女は淡々と話す。どういう感情なのかは、分からない。
「ホーメナは?」
「私は、…ゼユウが選んでいいと思う。思い出したいなら、思い出していいし。
思い出さなくていいと思うなら、それでいい。」
「どっちでもいいって事は、俺の事は、そんなに興味ないかな?」
そんな訳あるか、と思う。彼女の口で否定してほしかった。
…女々しい思考で、自分でも驚く。
「ねえゼユウ、覚えてる?」
そんな俺の考えを知ってか、知らずか。
話題が変わる。
「私が魔法の練習をしているのを、あなたはずっと見ていた時がある。」
あの時か?
二人と出会って間もない頃。
ハンネに、『楽しいを探すといい。』というアドバイスをもらった時。
確かに、ハンネが来る前から、ずっと見ていた。
…いや、あの頃は、連日ずっと見ていた気がする。
「あの頃の私は賢者の弟子で、だから期待もされていたし、ガッカリもされていた。」
期待は分かるけど、ガッカリ?
「魔法大会で、惨敗したのよ。
私は、ハンネほどの才能はなくて、どころか、私より凄い人なんてたくさんいた。
それでも、諦める訳にはいかなかった。私は賢者の弟子だったから。」
それは知らなかった。
「そんな時よ。いきなり現れたあなたは、私に期待をしなかった。
羨んだり、バカにしたりもしない。
ただ、私を見て。
私を知ろうとしてくれていた。」
深い意味なんてない。ただ、凄い人だなと。それだけだった。
「それが、私には嬉しかったのよ。
私が何者であろうと、私を見てくれたあなたが。
だから、私もあなたに興味が出たの。
あなたを知ろうとして、実際、色々と分かってきて。
仲良くなれたと思ってる。」
ホーメナが近づいて来て、俺の手を取った。
空のように、透き通った瞳だ。
「だから、今の記憶のないあなたが好き。大事な家族。
でもだからこそ、あなたの意思を尊重したい。
記憶があっても、なくても、あなたが何者でも、私達は家族。」
何というか、心が軽くなった気がする。
きっと、俺が聞きたかったセリフは、これだったんじゃないかと思う。
やっぱりホーメナは凄い。
俺の知らない、俺の事まで知っている。
「もう一度、言うわ。ゼユウが選んでいい。」
もう、迷う事なんてないよな。
「俺、記憶を取り戻してくるよ。」
「待ってるわ。だから安心して、行って来て。」
俺は病院に、ニケド先生に連絡した。
薬の手配とか、俺達の都合とか、日程調整をして、数週間後。
治療開始の日となった。
俺は、手術台に横になる。
「あの、投薬治療って聞いたんですけど?」
「投薬治療だよ。ゼユウさんは、寝ていればいい。」
ニケド先生はニコニコだ。
逆に、怖い。
「目を閉じて、ゆっくり息を吸って、吐いて。」
指示には従う。記憶は取り戻したいから。
「ゆっくり、ゆーっくり、意識が沈むように…。」
やがて、眠気に襲われた。
そこは、見晴らしのいい丘だった。
いい風が吹いている。
(…俺、だな。)
そこに寝ている人物がいた。
鏡を見ると、見かける顔だ。
いや、やや若いか?
(不思議な感覚だ。幽霊にでもなって、見下ろしているみたいな。)
過去の、記憶の映像を俯瞰で見ている、のだと思う。
つまり、このまま見続ければ、俺の正体が分かる?
(記憶を取り戻すってこういう感じか。
特殊なのか、普通なのかは分からないが、ある意味、分かりやすくはある。)
暫くそうしていると、誰かがやってくる。
俺はギョっとした。
おそらく、同世代の女の子。
しかしその顔には靄がかかっているのだ。
「も~、こんな所にいた。」
声も聞きづらい、なんだか安物の通信機を使っているような感じ。
(…でも、あの子は。)
直感的に。
蘇生岩の時に、思い出した、大事な人。なのだと思った。
その子に、寝ている『俺』は起こされる。
「さあ、皆の所へ戻るわよ、」
その子は、『俺』の手を引いて。
「トリド。」
『俺』の名を呼んだ。
中編、後編へと続きます。
前回と同様、三話構成。回想が続いています。
謎の答えは、過去にあるから…。




