第109話 クーノの秘密~中編~
~前回までのクーノ~
天上の国から天使として、フレン王国に召喚されたよ。
王女のフィアに懐かれて。
一緒に遊んで、暮らして。私もフィアが大好きになった。
◇登場人物◇
●クーノ:天使●サダキ:天使
〇フィアトリーヤ:フレン王国の王女。愛称は『フィア』
〇ハンネ:王女の護衛隊長、兼、世話係〇チゴマ:王宮の偉い人
〇レンバト:あるプロジェクトのリーダー
フィアトリーヤが亡くなった。
あっさりと。
私がやってきて11か月。
コア王国の残党による襲撃があった。
私は、ハンネと一緒に鎮圧する為に動いて。
結果、彼女を守る事が出来なかった。
こんな事なら、フィアの傍を離れるんじゃなかった。
後悔し続ける日々。
ハンネは、王女を守れなかった責任を取り王宮を去った。
私は。
いよいよ帰る時になって。
それでも、諦めきれなかった。
もう一度、彼女に会いたかった。
並行世界のフィアじゃない。
私と一緒に、流しそうめんを、スイカ割りを、肝試しを、納涼祭を、花火大会を、バーベキュー大会を、キノコ狩りを、紅葉狩りを、運動会を共にして。
「あなたを、助けに来たんだよ。」そう私が伝えて、笑顔を見せてくれた、フィアに会いたかった。
方法は、ある。
私達の世界の技術なら、可能なのだ。
柱に潰される直前のフィアの魂を抽出し、新しい肉体、入れ物にその魂を入れるなんて事が。
異世界における時間を超越し、転生なんて技術がある私達なら。
同一世界軸記憶保持転生。またの名を、死者の蘇生。
確立された技術であり、明確な違法行為。
ダメな理由は、過去の事例を含め、分厚い本にびっしり書かれている感じの。
実質、使う事の出来ない手だ。
しかし、抜け道はある。
法律の適応範囲は、あくまで、私達の世界の人間だから。
つまり、この世界の人が、独自にこの技術を編み出し使う分には、ペナルティがない。
まあ、協力したのがバレたなら、私の立場は不味い訳だけど。
それぐらいのリスクでは、私を止められない。
「私を研究対象として提供するよ。
天力を調査して、転生の技術と、限定的時間遡行の技術を確立してほしい。」
王女様と、偉い人達の前で、私は言った。
「フィアを、生き返らせたいんだよ。」
空気は重い。
それは、神に反逆するような行為で、到底、実現できるとは思えないものだから。
「いいじゃないですか。やってみましょうよ。」
一人の研究者が、そう言った。
名前は、レンバト。大陸東側からやってきた男。
素性は怪しいが、能力は高い。だから発言力も大きい。
そこから暫く、意見が飛び交った。賛成派と反対派に別れて。
でも最後は、女王様の一言で、私の意見が採用された。
女王様も、フィアに会いたかったから。
(これでいい。私は、フィアを助ける為に召喚されたんだから。)
私は滞在期間を、12年、延ばした。限界ギリギリのラインまで。
そして、研究が始まった。
4年、経った。コーホ結成の6年前だ。
研究は、行き詰る。
「新しいサンプルが必要です。」
レンバト博士に呼び出され、そう言われる。
「元々、この国にあった召喚システム。いえ、転移システムですか。
それと、あなたの天力を研究する事で、我々の技術力は各段に上がりました。」
呼び出された場所は、王宮の地下の研究室。
大きな機械が唸り声を出している。
まるで、巨大な魔物の巣にいるみたいで落ち着かない。
「ですが、限界です。これ以上あなたを調べた所で、何も分からない。」
「だから、新しい天上の国の住民が必要って事?」
「人でなくてもいいです。天力が扱えるなら、動物でも。それだけで、また研究が進みます。」
「…それで、フィアの転生は可能になるの?」
「やってみなければ分かりません。ですが、可能性はある、とだけ伝えましょう。」
「…少し、考えさせて。」
そうして私は、フィアのお墓の前まで来た。
実際に、フィアの遺骨はこの下にある。
ぺちゃんこになって、修復は無理という話で。転生の時は、新しく肉体を用意するという話だから。
名前は彫られていない。
だって、生き返る予定だから。
「これはこれは、クーノ様。」
声を掛けられて、振り向く。そこにはチゴマさんがいた。
掃除道具と、お花を持って。
彼は執事長で、フィアとも仲がよかった。
私はチゴマさんと一緒にフィアのお墓を掃除した。
お花を供えて、手を合わせ、目を閉じる。
冥福を祈ったりはしない。誓う為だ。
「なぜ、あの場所にいたのか。
どれだけ考えても、真相は分かりません。」
ゆっくりとチゴマさんが口を開く。独り言のように。
「柱が倒れる少し前。
数名のメイド達が、あの中庭を通ったようです。逃げる為に。
そして不運にも、敵に見つかり襲われました。
大声で、助けを呼んだそうです。
フィア様に、その声が聞こえたのではないでしょうか?」
あの時。フィアは自室に隠れていたはずだ。フィアの部屋は頑丈だから。
「その後、駆けつけたハンネ様に族は倒され、メイド達は無事、逃げられました。
ですから、行く必要は全く無かった。
でも、あの子は。
助けに行ったんじゃないでしょうか。
何が出来るかは分からない、でも、出来る事があるかもしれない。
負傷して動けないメイドがいれば、肩を貸す事が出来るかもしれない、と。」
それは想像できる事で。
私が傍にいれば防げた事故で。
でも、皆を助けてほしいというフィアの願いを叶えたくて。
(…。)
「クーノ様。」
チゴマさんが私を見た。優しい顔で。
「あの子は、他人を思いやれる子なのです。
今のクーノ様の顔を見て、喜ぶはずがありません。」
優しい声色で、続ける。
「女王様も、薄々は思っているはず。
ここらが潮時。引いてもいいと、私は思います。
このお墓に名前を彫り、終わりにしませんか?」
「ごめんねチゴマさん。」
食い気味で、私は答える。
だって、彼の言葉を咀嚼したら、泣いてしまいそうだから。
まだ折れる訳にはいかない。私には、出来る事がある。
「私は、決意を固めにきたんだよ。」
改めて、彼女に誓う。今度こそ、あなたを助けると。
「…なら、私も、腹を括りましょう。」
チゴマさんの声は、変わらず優しい。
「何でも仰って下さい。全力であなたを支えますから。」
そして力強かった。
この4年間、私はただの研究対象として甘んじていた訳ではない。
勉強も、実験もした。
私は勉強が得意だから。天法レベル2+の実力だから。
完璧とは言えないし、限定的ではある、けれど。
今の私は、転生も転移も可能なのだ。
(…よし。)
王宮の地下実験場。レンバト博士他、数名が見守る中、私は転移を試みる。
天上の国から、動物を連れてくる。
もちろん、正規の手続きなんてしていない。
この行為は違法。バレると、色々とヤバイ。
それでも、やる。
もう一度、フィアに会う為に。
(バレないように…痕跡を残さないように…。)
知識を総動員して、全神経を集中して。
そして。
「!!」
瞬間、閃光が奔る。実験室が、揺れる。
私は倒れていた。一人の男の子を抱えるようにして。
「…あ。」
血の気が引くとは、この事。
大失敗だ。動物ではなく、人を転移させてしまった。
これではすぐにでもバレてしまう。私は捕まってしまう。
もう二度と、フィアには会えない。
背後で上がる歓声を聞き流しながら、私は絶望した。
不幸中の幸い。と言っていいかは分からないが。
男の子は、どうも孤児っぽかった。
野生の動物を連れてこようとして、野生の人間を連れてきたという訳。
…ごめん、最悪な言い方だった。
ともかく、発覚は遅くなる可能性がある。
その間に、研究が進むかも知れない。
一目だけでも会えれば、いや、生きていてくれるだけで嬉しい。
自首は考えなかった。
罪は軽くなり、刑期は短くなるかもしれないけど、ここには戻ってこれないから。
「安心してください。研究は、サダキさんの身の安全が第一です。
あなたも、ピンピンしているでしょう?」
レンバト博士は、いかつい顔をしている。
だから、大変、邪悪な笑顔に見える訳だけど。
「よろしくお願いします。」
彼の言葉は信用する。4年間の付き合いだから。
サダキの召喚に成功した王宮は、少なからずざわついた。
だから、怪しんだ記者が探りを入れてきたらしい。
私の知らない所で、アンカバーズという雑誌が廃刊となったのもこの頃。
それから、更に4年後。コーホ結成の2年前。
実験室で、事故が起きた。
原因は、サダキの力。彼の天力の暴走。
機材は深刻なダメージを受け、怪我人も多数。
サダキに怪我が無かったのと、死人が出なかったのが救いだ。
しかし、再び研究は止まる。
機材を何とかしないとだし、データのサルベージもしないといけないから。
そしてこの頃から、私には不吉な未来が見えるようになったのだ。
天法の、転移と転生。
これらを行う場合、行先の世界を【閲覧】する工程が入る。
私は、この閲覧能力でフィアと再び会える世界を探した。
どうすれば辿り着けるか調べる為に。
どれくらいの数の異世界や並行世界を見られるか。
そしてどれくらい正確に中身の確認が出来るかは、使用者の能力によって決まる。
8年間の研鑽により、私の閲覧能力は上がった。
その私が閲覧する並行世界、その、ことごとくで。
フレン王国が滅亡する。
私の力だと、理由までは分からない。ある時、光に包まれて消えてしまうのだ。
当然、フレン王国が亡くなれば私は死ぬ。フィアに会えない。
私は、フレン王国の滅亡を防ぎたくて。
チゴマさんに、レンバト博士に、女王様に伝えた。
根拠がある訳じゃない。予測なんてものじゃない。
だから、預言という形で。
皆、話は聞いてくれたけど。
如何せん、フワッとした話だから、大々的に動けない。
だから私は、私の預言の精度の証明をする為、別の預言をする。
フレン王国の滅亡と同様に、他の並行世界で頻繁に起きる事を話したのだ。
レーグの魔王と、ゾトの魔王の陥落。
誰がどのように倒すのかは分からないが、9割当たるはず。
これを当てて、フレン王国の滅亡の信憑性を上げて、対策をする。
なんとしても、王国滅亡の預言は、外れさせないといけない。
ハンネが王宮にやってきたのは、そんな時。
私は8年ぶりの再会に喜んだが、彼女の表情は険しい。
殴りこみに来た。そんな表現がピッタリだった。
チゴマさんと一緒に応接室に入って行ったっきり、中々でてこない。
しかも、時々、怒鳴り声まで聞こえるのだ。
(ハンネがチゴマさんに怒鳴ってるの?)
そんな事、今まで見た事ない。
何が起きてるのか気になるし、怖い。心臓がバクバクする。
「おや、クーノさん。こんな所で何を?」
レンバト博士だ。
事故の後、右足が動かなくて、それから杖をついて歩いている。
「博士こそ、どうしたの?」
「呼ばれたんですよ、あそこに。」
博士は、ハンネとチゴマさんが籠る部屋を差した。
「気になるんなら、一緒に来ますか?」
「え?」
「寧ろ、クーノさんは来た方がいいかもしれませんよ?」
私は。
博士と一緒に部屋に入った。
このレンバト博士は、第二章に出てきた『マジュイメ』の総帥の並行世界の同一人物。
レンバト博士が声を上げないとプロジェクトは始まらなかったので、彼の有無で第三章は全く別の話になっていたはず。
レーラスのお父さんが、マジュイメを早期壊滅させた結果、遥か西の国の未来が変わった。そういう一面もあります。




